月イチ士弓企画作品集
版権元:Fate/stay night,Fate/hollow ataraxia
注意:腐向け(士弓) ネタバレ含む ねつ造含む
Twitterタグ企画 #月イチ士弓 で書かせていただいたものの詰め合わせです。
企画詳細はのちこさん(@nochiko_fate)のプライベッター記事をご参照ください。
http://privatter.net/p/2594853
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エンタルピー
8月 足/脚
ふと目が覚めた。辺りは慣れた目でもなお暗い。まだ夜だ。
はて、特に危険も感じないし相変わらず車通りも人の気配も街灯もない田舎道だ。車を走らせる度に赤土が舞い上がるような見るからに乾燥した不毛の地で、車内にまで押し入れるような大型の獣も生息していない。
なんで目が覚めちゃったかなあと寝ぼけ眼で思いつつ、あくびを一つこぼして寝直すために目を閉じる。
「――ん……」
と、自分以外の人の声。
吐息と寝息の間くらいの意味のない音がものすごく近くで聞こえてきたが、別に今更こんな程度で驚いたり慌てたりはしない。元々そう広くもない車内は、俺の成長に伴い近頃余計に狭くなっていた。この中古車にはシートを倒して繋げるとマットレスもどきにできる機能もあったが、端にはあれこれ荷物をかためて置かなければならないので精々ダブルベッドに二人寝するくらいの窮屈さだ。はっきり言えば狭いが、呼吸のリズムも脈動も体温も全く同じ他人との添い寝はほとんどストレスにならないらしいことを俺は学んだ。
ということなので今更驚いたわけじゃない。わけじゃないのに閉じた目をパッチリと開きなおしたのは、どうして俺が突然目覚めたかの理由がわかったからだ。
重たいテント生地を二人分け合って掛け布団とした、その見えない下半身の方。男の脚がもぞもぞと絡みついてきていた。どれが自分の脚だかちょっと自信がなくなるくらいにがっつり交差している。逆にここまでされるまで気づかない自分もどうかと思うが、アーチャーはナマケモノもかくやという動きの遅さで拘束を完成させていた。眉間にシワのない寝顔なのでこれは本当に寝入っていて無意識なのだろう。「……む」とまだ何やら不服そうな声がもれている。落ち着く位置を探しているようだ。
気づいてみてからわかったが、この脛の外側に触れている冷たいのはアーチャーの足先なんだろう。そうとわかって更に見てみると、こちらを向いて横向きに眠る大きな体は三分の一ほどテント生地の布団からはみ出ていた。その三分の一の過剰のおかげで外気から完璧に守られた俺は、多少の動きにも気づかないほどの快眠を得られていたようだ。
眉を寄せる。おやすみの挨拶を交わしたときはちゃんと等分で収まっていたはずなのに、どうしてこうなっているのか。無意識の産物だとわかっているが、やっぱり少々気にくわない。
アーチャーの動きの緩慢さを見習って、俺もできる限りゆっくりとした動作で少しずつ掛け布をアーチャーの方に戻していく。
「――よし」
およそ数分に及ぶ戦いの末、勢力図を最初の状態に戻すことに成功した。向かい合って省スペースで眠っていれば等分でもお互い寒くないのだ。体格ももう同じくらいなのだし、何事も半分こに限る。
満足して再び目を閉じる。一仕事を終えたが外はまだまだ宵闇だ。朝になるころにはまだ冷たい彼のつま先にも熱が移っているだろうと期待して、絡んだ窮屈な脚をそのままに俺は夢の海へと飛び込んだ。
ああもう…ちくわぶさんの士弓ほんと…ほんと…!!!(ぷるぷる)