わんこと守護者さん〜カボチャの夜〜
プロトランサー×弓のお話、ハロウィンにちなんだつもりがハロウィン最終的に関係なくなった/ケルトのハロウィンの被り物妙に怖いので一応検索注意ですw/ちょっぴり総受け風味?プロト×弓の表記がわからないため一応槍弓タグつけてます/ブクマや評価、コメントありがとうございます!!返信させていただきました!!
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カボチャとコウモリ、オレンジ色の風船と紫色のテープで飾り付けられたカルデアの廊下を落ちた装飾を補修しながら歩くエミヤ。
時は10月下旬、もはや世界共通の行事になりつつあるまさにハロウィンの真っ只中だ。カルデアでは仮装をしたサーヴァントが本番までの日にちを盛り上げ、エミヤもノリノリな一部のサーヴァントにねだられてカボチャをふんだんに使用した特別ハロウィンプレートを食事に出している。
人理修復を使命としている最後の希望の機関が何をしているのか…という呆れも今は野暮、普段命をかけているからこそこんな時だけでも心ゆくまで楽しんでもらいたいのだ。
今日はどんなテーマの料理にしてやろうかと頭の中で夕食の構想を立てていたエミヤは、不意に立ち止まった。
「………………」
なにか、いる。
目の前の数メートル先、カルデアの廊下に佇んでいるのは黒いぼろ布を服としているおそらく男性と見えるもの、そこまでは簡易的な仮装としてよく見られるが決定的な違いは、その者の頭部にしている被りもの。
それはカボチャのお化けや少しリアルな怪物…ではなく、巨大な人間の頭部を模していて目は黒く塗りつぶされていて、表情の読めないそれはエミヤといえど理解不能なものへ対するなんともいえない恐怖をざわりと煽る代物だった。
血みどろや凶悪な牙もなくただ人間の顔を無機質に作った被り物がこんなに恐ろしいとは、年齢が幼いものやマスターが見たら泣きかねない代物を前に固まったエミヤは、踵を返すのもおかしいため仕方なく歩みを再開させる。
ただの仮装、そして敵のいないカルデアで何をここまでと呆れるほど警戒心を発揮してしまうエミヤ、しかし相手からは何をするかわからないような得体の知れない恐怖があるのだから仕方ない。
襲いかかってきたりしないだろうな…と、注意しながら横を通り抜けようとしたその時突如それはぐるんとこちらを向き、瞬間反射的に武器を投影して構えたエミヤをしばらく見つめていたと思いきや、不意にぶるぶると肩を揺らす。
「あんた、ビビりすぎ!」
「…プロトか…?」
ゲラゲラ笑いながら被り物を取ったしたから現れたのは、鮮やかな青い髪にハツラツとした若々しい表情、嫌味の含まれない爽やかな声にエミヤは武器を消して目を丸くする。
被り物をしていたのはエミヤとも縁の深いランサー・クーフーリンの若き頃の姿、いわゆるプロトランサーだった。
警戒を解いてからもゲラゲラと腹を抱えて笑うプロトに、今まで過剰に警戒してしまった自分をバツの悪そうに頬をかいたエミヤは、ほっと息をついた。
「あー笑った。でもビビるのはあんただけじゃなかったぜ!っかしーな、俺の実家ではこんなもんなんだがなー、まぁ俺もガキの頃被り物した師匠に追いかけ回されて泣きそうになったが」
食堂までついてきたプロトは、エミヤに出されたお茶をすすりながらテーブルに置いた被り物をぺしぺしと叩く。外された今も妙な存在感を放つそれを被ったスカサハに追いかけ回される図を想像したエミヤは、今夜悪夢に出かねない光景を頭を振って払い、自分もプロトの前に座った。
成長した彼とはもう勘弁してくれと言いたくなるほどの縁を刻んでいるが、考えてみればプロトとこのように顔を合わせてゆっくりと時間を過ごしたことは無かった。
幾度となく刃を交わし合い、時には仲間になり、神話の相手と自分のようなものが不釣り合いにも言葉を交わし理解を深めることが出来た。そんな相手の若い時が同時に召喚されるとはつくづく今回の召喚場所は面白い。
曇のない瞳はキラキラとしていて裏表がない、経験が足りないといえばそれまでだが見る方からすればこの実直さはかけがえのない一瞬の輝きであり、羨ましく感じることすらすれ愚かだと笑われるものではない。
これまで通ってきたものの反応を自慢げに語り、今度はマスターの部屋で待機してやろうか!とこれからの計画まで語っていたプロトは不意に黙り、今度は一転唇を尖らせた。
「…なにが可笑しいんだよ」
「おや、笑っていたか。不快だったかな?すまない」
クスクス笑っていたエミヤは、プロトに言われて初めて自分が笑っていたことに気づき少し驚く。詫びたエミヤを犬ならば唸っているだろう険悪な顔で見ていたプロトは、自分の話で笑っていたのではないエミヤの雰囲気にプイっと顔をそらせイライラと足を揺らした。
「槍の俺とかと話す時もそうだ。俺がてめぇの若い頃だからって揃って下に見やがって!」
突然急降下した機嫌の理由を理解したエミヤは、また笑いそうになる顔に注意してプロト以外にも英霊の若き頃が多数存在するカルデアを思い浮かべて微笑みを浮かべた。
「私はもちろん、おそらくランサーも君を見下している訳では無い、プロトやその他若い頃の英霊の姿は私たちにとって眩しいのだよ。未発達なところでさえ可能性の塊であり、将来を垣間見てはひとりの人間として笑みを浮かべてしまうんだ。その点では下に見るだなんてとんでもない、君は素晴らしい英霊だ。未来だけでなく、もちろん今現在も」
まさかカルデア内でも有数の強者であるエミヤにここまで褒められると思わなかったプロトは、虚を取られて目を丸くするもすぐに満更でもなさそうにそわそわと体を揺らした。
わかりやすい様子にまたクックと笑ってしまったエミヤは、プロトの何気ない次の言葉により雰囲気が一瞬のうちに変わった。
「ま、まぁそんなんで騙されねぇぞ!じゃあ、あんたの若い頃はどうだったんだ?」
「…私のかつての姿なんてとても君らと同列には扱えまい。あれは未熟者の悪いところを煮詰めてそこに馬鹿者を埋め込んでも、ああは酷くなるまい。私は理想ばかりを追い求め、その中身を見なかった。未熟者は分相応に野垂れ死にすればいいものを、手の届かないものへ浅ましく手を伸ばし、果ては自滅だ。…これが馬鹿だと醜いと言わずして何を言う」
同じカルデアの仲間として少なからずエミヤがどういう英霊なのかを知っているプロトは、彼が明確な武勇によって召し上げられた英雄ではなく、代行者というものであることを知っている。
特異なタイプではあるが、それでも人類を守るための存在はエミヤが言うような蔑まれるものではないはずだ。
想像していなかった反応にきょとんとした顔を見せるプロトに苦笑したエミヤは、あらゆる戦場を経てようやく知った信じる正義の正体に苦々しい表情を浮かべる。
「でもエミヤは守護者なんだろ?立派じゃねぇか」
「立派なものか、私はただの掃除屋だ。悪を執行する正義、私の手は正義を生みながら無数の悪を刻んでいる。…難しかったかな?」
「んー…ッ良いことしてるなら悪いことのはずがないだろ!変な事言ってんじゃねぇ!」
「君にはまだわかるまい、世界には割り切れきれない汚れた正義というものがある。正義であれ許容されてはならない、…むしろ正義を求めるなら選んではいけないものがな」
正しいことを正しくないと言い切るエミヤは、今のプロトにとって理解できるものではない。プロトがどれほど言おうとエミヤの皮肉気な様子は変わらず、願いの行き着いた先を相手には理解出来ないとわかりながら語りそれで自分の話は終わりだと言わんばかりに席を立とうとする。
その様子にむっとしたプロトは、言いようのない説得力を感じつつもエミヤの言うことを否定してみせた。
「俺は、お前のやってきたことを悪いとは思わねぇ!俺は、俺だけはお前を正しいって、すげぇと思うからな!だからそんな悲しいこと言うなよ」
プロトのあまりに青く駄々をこねる子供のような言葉に目を瞬かせたエミヤは、今のランサーからは聞くことの出来ない、しかしどこかひどく似ている姿に、ランサーの彼が時折見せる情熱をプロトと重ねてふっと笑う。
そして堂々と汚れた行いを肯定する眩しさで不意にエミヤは吹き出し、とうとう笑顔へと変わった。
誰にでも言える安っぽい慰めがこの若き戦士に言われるだけでなぜこうも光を放つのだろう、一瞬でも許されたような錯覚を感じてしまったエミヤは滅多に見せない嫌味も何も無い、本当の笑顔を見せた。
「ふ、ふふふ…ありがとう、いい男だな、君は」
エミヤの飾り気のない笑顔を直に見たプロトは、瞬間電撃を受けたように体が跳ねる。
エミヤと関わったものの中でも見たことがあるのは片手で足りる表情、普段の様子からは想像出来ないほどどこか幼く可愛らしいと感じるほどの笑顔に、プロトはあっという間に心を奪われる。
鼻歌を歌わんばかりのエミヤは、足取りも軽やかに夕食の準備へ入ってしまったがプロトは以前固まっていた。
「おーい、おーーーい、プロト?大丈夫か?お前」
マスターに与えられた部屋で集合していた4人のクーフーリン、その中でひとり大人しく部屋に戻ってきてからもずっと机に突っ伏しているプロトへランサーが無遠慮に頭を叩く。
「そっとしておいてやれよ。対人宝具『エミヤスマイル』の直撃くらったんだってな、お前みたいな若い奴にはあれは毒だぜ」
「なるほどな、若いっていいねぇ〜」
何があったかを聞いてプロトの理由を察したキャスターがランサーを止めてやる、プロトよりも年齢が近い2人はエミヤと関わった記憶もプロトよりは詳しく知っている。
その中で思い当たるエミヤの笑顔の破壊力を思い浮かべて、今ここに新たな被害者が生まれたことをほんのり同情を込めた瞳で迎えた。
「エミヤ…」
ぼそりと名を呟いたプロトの顔は赤く色づき、ここにまたひとつの自覚という花が咲きそうである。
対人宝具『エミヤスマイル』www