初めまして、再会
実装前の今のうち、ということで、ぷらいべったーに投げた弓子のいるカルデアにお爺ちゃんがやってきたよの妄想転載。弓子なのは完全に趣味です。
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ちらりと小耳には挟んではいた。僅かでも縁が結ばれた以上は、カルデアにいずれ召喚されてもおかしくはないのは分かっていた。世にも名高い刀工、千子村正。徳川に仇なす妖刀としても知られている。まあ、私も少し楽しみにしていた、のは確かではある。
だが。その姿形が。
どうして、ああなのか。
剣という、その起源が重要視されたのか。あるいはその精神性の相似から来ているのか。由来は私が知るべくもない。ただ、はっきりしているのは千子村正という刀工がサーヴァントとして現界した際に、私が嫌になるほど知っている容で召喚された、ということだ。
いや、私自身も他人のことを言えた義理でないのは重々承知だ。カルデアの召喚システムの不調だか何らかのトラブルか分からないが、本来は男であるというのに、何故か逆の性別の体で召喚された。
――だから。向こうが、仮に器の人格を幾許か残していたところで、私のことが分かろう筈も無い。
このカルデアには、私が見知っている人間を依り代にした擬似サーヴァントが何人かいる。擬似サーヴァント達は、人間の方の意識は表層には出ていないことが多い。千子村正に至っては、人間の意識は皆無のようだ。それは別にいい。文句など持ちようがあるか。
問題は、そう。私の方にのみある。
あの、姿。
この召喚は人理を守るための戦いであり、かつてない程の規模でサーヴァント達が召喚されている。本来、サーヴァントとは英霊の座に至った英雄達の一側面をセイバーやアーチャー、といった本人に適性のあるクラスに当てはめた、分霊。戦いが終われば破棄され、その間の記憶は記録として座に蓄積される。サーヴァントは召喚される度に新しく生まれ直すようなものだが、この事象においては「人間関係」を多少は円滑にするためだろう、かつての召喚で出会ったサーヴァント同士がその時の記憶を持ち越していたりする。
しかし、あの千子村正に関しては違う、そうではない。記憶の持ち越しがあろうと無かろうと、私には、私にだけはあの体の持ち主が何者か、分かってしまう。
あれは、かつての、私。
その、人間だった頃の、私が成長した、姿だ。
どういう経緯で、かの刀工があの姿を得たのかなど、知ったところでどうしようもあるまい。千子村正はあの姿で召喚された、覆らない厳然とした事実の前では私の抵抗感など、無力だ。相手が私が分からないことなど、特に気休めにもならない。それにしても、私を知らないかつての私の姿を持つ者と、本来とは違う性別の私とは、何という捻れ具合か。
私にできることは、可能な限り彼と接触しないように心がけることくらいだ。カルデアにはサーヴァントが多数いる。その中で、特定の一人と会うことがないというのは、別に不自然なことでは無かろう。
なのに、何だ。私の幸運値の低さというのは全く、余計な仕事をしてくれるものだ。
ばったりと。避けていた相手と、廊下で出くわしてしまうとは。
さすがに無視するのは何なので、軽く会釈だけして隣をすり抜けようとした。
「おい」
それが何の興味を引いたのか、呼び止められた。
記憶にあるよりも、少し低い声。少年ではない、大人の声。
急いでいる、と行こうとしたら思ったよりも強い力で手を引かれた。
「……お前さん、儂のこと避けてるだろう」
疑惑ではなく、確信のこもった声音。舌打ちしたくなるのを、何とか堪えた。
「それが事実だとして、何か問題が? 全てのサーヴァント同士が仲良しでいねばならぬ、とでも言うのかね」
私の返答に少し面食らったのか、眉根が寄せられる。明らかに困惑している、と知れるその表情もどうしようもなく見覚えがあるが、中身は別人だ。
「そういうこっちゃねえが……ろくに口きいたことすらないってのに、一方的に避けられるってのは、何だ」
「戦闘にまで私情を持ち込むつもりはない、安心したまえ」
片手で私の手を掴んだまま、もう片手で髪をかき混ぜる仕草。それも知っている。知っているのに、違う。そんな相手に、私がどうやって接しろというのか。
「もういいか? 急いでいるのだが」
やんわりと手を解く。接点を持ってこようとしなかったものだから、私のことをろくに知らない相手も話をそれ以上は続けづらいようだ。
ああ、分かっているとも。これは、私自身の身勝手だ。
せめて、あの姿でさえなければ。漏れ聞いたところでは、下総にて守護者として召喚されたらしいので、あの体であることにも意味はあるのだろうが。
接触など、持つ必要は無い。私のことなど、知らないままでいい。
彼は、――違う、のだから。
それなのに。
どうして、胸の奥が重いのだろう。
実は女体化好きです。つまり弓子さん好きです。