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ふわふわであまいしあわせのかたち/Novel by 柴猫くらむ

ふわふわであまいしあわせのかたち

3,104 character(s)6 mins

食堂に来たミノタウロスくんが甘やかされるお話。こっそり弓剣です。

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 大きな影が、食堂の前をゆらゆら揺れていた。
 それに誰よりも早く気付いたのは、己の縄張りとも言えるそこへと目敏く視線を向けていたシェフ、基エミヤであり、――件の彼のことは、女神により丁寧にも「もし見掛けることがあれば面倒を見てあげなさい」としっかり頼まれていた。
 やれやれ、と一息吐きながらも――満更でもなさそうな雰囲気でキッチンを出て行く彼を見送り、ブーディカは「素直じゃないねぇ」と呟いた。
 
「何か用かね、ミノタウロス」
「ウ、ウゥ」
 声をかけられ、大きな影が更に揺れる。そこにはすっかり戸惑ったような、――エミヤもよく知る彼と似たような顔でおろおろとしているミノタウロスの姿があり、思わず貌が緩む。
 自分の反転した姿といい、やはりオルタや特殊召喚されたクラスの同一存在は結局のところその根は同じなのだと改めて認識させられる。
 決して他人事ではないそれに内心苦笑しながら、エミヤは改めて本題を投げかけた。
「もし何か食べたいなら対応しよう。食堂は君のような身体が大きな者でも食べれる席が用意されている」
「……オレ、ジャマニナラナイカ?」
「君を邪険にするような者がいれば、私が対応しよう。だから君は気にしなくて良い。――とはいえ、此処にいる者たちはなんだかんだとお人好しが多い。その心配はないがね」
 そう言われ、そのまま着いて来るように視線で促されるとミノタウロスは大人しくエミヤのあとに着いてきた。
 食堂には他にも数多くのサーヴァントたちの姿があった。ミノタウロスは知らなかったが、今は混む時間帯の合間だったが、それでも此処はいつだって誰かがいた。
 不思議と、彼らは誰もミノタウロスのことを気にしなかった。皆それぞれ自由に自分の時間を過ごしていて、ミノタウロスにはその光景がひどく眩しく見える。
 そうして食堂の奥へと案内され、確かに彼が座っても問題なさそうな大きな椅子とテーブルが並ぶ場所へと通された。彼は初めて来たのだが、そこは彼と同じように体格が大柄な者専用の席となっていて、なんだかんだと利用者が多い。――アステリオスは大概、他の誰かと食事に来るのであまり此方は利用しないが、今のミノタウロスには丁度良かった。
 席に大人しく座ると、エミヤが目の前にメニューを差し出す。二種類あるそれに首を傾げていると「君は文字は読めるか?」と聞かれた。――当然、ミノタウロスは読み書きなど習ったことがないので首を横に振る。
 するとそのままエミヤは彼の目の前で、メニューを広げ見せてくれた。写真まで添えられたそれを一つ一つ丁寧に説明され――ミノタウロスの知識ではそのほとんどが理解出来なかったので結局は余計混乱してしまったのだが、そんな彼にエミヤは最終的な結論として「ではお任せメニューとしておこうか」と笑った。
 
「あら、あなたも此処に来るのね」
 そうしていると彼の傍に、見慣れた少女がやってきた。「エウリュアレ」と口に出して少女の名前を呼ぶと彼女は穏やかに微笑み、そのまま彼の元に寄って来る。
「……エウリュアレガ、ショクドウニキテモイイ、ッテイッタ」
「ふふ、そうね。言ったわ。その通りにしたのね。偉いわ」
「ン……」
 彼女に褒められるのは妙に擽ったく、背筋がぞわぞわとしてしまう。けれどそれが決して不快ではなく、ミノタウロスはその大きな身体をもじもじとさせながら自分のボロボロの腕を優しく撫でる彼女に頷いた。
「下姉様――、おや。ミノタウロスも来ていたのですね」
 続いて、長身の女がやって来る。彼女の名前はまだ知らなかったが、どうやら彼女たちも丁度今、食事をしに此処に来たらしい。
「下姉様。此処で食べますか?」
「――いいえ、私は部屋に戻るわ。あの子が待ってるから」
「分かりました。ではまた後程」
 けれど、エウリュアレはミノタウロスに「良い子にね」と言い残して去って行ってしまう。それを少し寂しく見送って、彼が押し黙ると同じように残されたメドゥーサが小さく息を溢す。
「……あなたもやはり、下姉様が好きなのですね」
 優しい、穏やかな声で言われ、彼はその大きな瞳を、大きく瞬かせた。
「……スキ?」
 その言葉の、意味が分からない。やはり、と言われているのだからきっともう一人の自分が関わっていることは分かるけれど、それだけだ。
「下姉様と、一緒に居たいと思いますか?」
「オモ、ウ。モット、エウリュアレトハナシタイ」
「では、あなたは下姉様を好ましい、と思っているということです。――好き、はそれだけの感情ではありませんが、少なくとも今のあなたはあの人を、嫌いだとは思っていない、ということですよ」
 嫌い、の意味は彼にも理解出来る。嫌なものは沢山あった。それをどうすればいいのかも、――此処ではそれを許されてはいないけれど。
 メドゥーサの言葉を繰り返す。好き、という意味を彼は考える。
 そうして黙ってしまったミノタウロスに、メドゥーサは「少し余計なことでしたね」と呟いてその場を離れて行こうとした。
 だから「マッテ」と呼び止める。
「――何か?」
「ダッタラ、オレ。……オマエモ、スキ、ダトオモウ」
 それが、もっと一緒に居たい。もっと話したいということならば、と彼は思い、それを口にした。
 するとメドゥーサは少し驚いた顔で立ち止まり、
「ありがとうございます。私も、そうですね。であれば、あなたを好きだと思いますよ」
 そう、穏やかに微笑んで立ち去って行った。その優しく響く声が、ミノタウロスの耳にやけにこびり付く。――また、エウリュアレに褒められた時のようなむずむずとした感じに襲われ、彼が目をぎゅう、と閉じているとふわりと良い匂いがして来た。
「待たせたな。……おや、顔が赤いがどうかしたかね」
「ッナンデモ、ナイ!」
「? そうか。ならば良いが――さぁ、これが今日のお任せメニューだ」
 そしてやって来たエミヤは彼の前に大きな山が出来た皿を置いた。カラフルに色付けされた、茶色くて丸い何かの山を見て、ミノタウロスは首を傾げる。
「ドーナッツだ。丁度子どもたち用に大量に作っていたのでね。遠慮なく食べたまえ」
「ドーナッツ」
「甘くて美味しいぞ。我ながら自信作だ」
 初めて見るそれを不思議そうに眺めながらも、それが食べ物だと分かるとミノタウロスはその匂いにも釣られて大きく腹が鳴った。なので、少し不安はあったが――そっとその山のひとつに手を伸ばし、彼の手には小さなそれをまた眺め、大きく口を開く。
 ばくん、と一口でそれを食べ、黙って咀嚼する。
 途端に、口いっぱいに甘くて香ばしい味が広がった。
「――ウマイ!」
 そうとしか表現できない。そしてもっと食べたくなって、ミノタウロスは夢中でドーナッツを次々と口へと放り込んだ。
 それを傍で見ていたエミヤは何処か満足そうにしながらも「慌てて食べなくてもまだまだあるぞ」と急いで食べる彼を宥める。
「コレ、スゴイ! オレ、コンナノシラナイ。コンナ、コンナ――シアワセナモノ、シラナイ!」
 けれど、宥められても落ち着けないほど興奮してそう呟く彼にエミヤも思わず黙ってしまう。そして――彼にしては珍しく。「他にも甘いものは沢山あるぞ」なんて甘やかす言葉をかけながらメニューを開き、結局食堂で用意出来るすべての甘味を振舞うことになった。

「何故私にもそれぐらいの対応をしない。不公平だ」
「君の場合はもっと甘やかしているのだがね!」
 なんて、それを遠巻きに見ていた黒い騎士王に苦情を言われながら。

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