エミヤは己の名誉の為にも宣言するが、別に自身は甘い人間ではないと思っている。
子どもたちに主に甘味類を提供するのも、あの精神年齢の彼らであればそれぐらいの娯楽はあっていい。それを楽しみにミッションに挑めるならばマスターの役にも立つ。例え食事など不要である身であっても、そうと考えて一切食事をとらないで動いている良く知った男に似ているアサシンクラスの男の世話を甲斐甲斐しく焼いているのも、いつの間にか増えに増えた彼の騎士王と同系列の彼女たちの胃袋を満たす為に尽力しているのも、すべてはその方が都合がいいからである。
そう、効率的に考えて自分が手を掛けただけでサーヴァントやカルデアで働く数少ない職員たちのメンタル維持が出来るのであればそれが一番である、と判断しただけだ。
断じて彼らが喜んで食にあり付く姿を見て満足などしてはいない。昔からの名残でついうっかり手をかけているなど、そんなことは断じて、断じてない。
ない、と本人は思っている。そう、本人だけは。
「エミヤ、芋を潰すなら任せて下さい。自分も食べますので手伝いますよ」
「それでしたら、私も。勿論お邪魔にならないのであれば、ですが」
「――そうだな。今日も良ければ頼もう。あれの下拵えはやはり時間がかかる。奥でキャットがやっているが、手伝いに入ってくれるか?」
「勿論喜んで!」
今朝は朝一で鍛錬でもしていたらしい、円卓の騎士の二人。――ガウェインとパーシヴァルがそんな風にキッチンを訪ねてきたので、エミヤは遠慮なく彼らの力を借りることにした。
毎日野菜の下拵え。特に一部に熱烈なファンがいる芋の加工についてはキッチンに入っているサーヴァントたちだけでは少し手が足りない。それほどまでに大量に食べる者がいて、その代表格でもある彼らが手伝いをする、と自ら提案して来ているのであれば頼るべきだろう。
彼らは直ぐに軽装となると、慣れた様子で手洗いと消毒を丁寧に済ませて奥へと入って行った。「よく来たワン! 本日も励むが良い!」なんて明るく出迎えるキャットの声が響く。
「ふむ、――あれであればポテトサラダでも用意しようか」
予定よりも多く用意出来ると分かった材料で一つメニューを決める。それを他のメンバーにも告げると快く承諾して貰って、一先ずエミヤは他の料理の準備に取り掛かった。
「ついでだ。このトウモロコシも存分に捌くが良い。お前たちが頑張れば美味しい美味しいコーンスープが出来上がるぞ」
「では玉ねぎもやってしまいましょうか。私はオニオンスープの方が好みです」
「ふふふふ自ら修羅の道へと進むか……良いぞ。であればキャットもこの爪を以て協力してやろう!」
そんな会話が奥から聞こえて来る。であれば南瓜の加工も頼もうか、と思い立ってエミヤは盛り上がっている彼らの元に向かった。
そしてその日。スープの種類が増えてすべて売り切れた。
「お前は奴らを使うのが巧いな」
昼過ぎの来客に、珍しい姿があった。ランサークラスの、更に言えばオルタ化した騎士王がひとり、カウンターへと腰を落ち着けエミヤを見て笑う。
皮肉っぽい呟きに本来の己のことを嘲笑う意味があったことにエミヤは気が付いたが「別にそんな大したことはない」と彼女の前にもメニューを広げる。
「それで君は何を所望する? オルタであればやはりカロリーの暴力かね」
「……セイバーの私か。それともサンタか、メイドか。それは。一体どんなものを食べているんだ」
「正直作るには悪性付与でもしてもらいたいぐらいの代物だな」
思い出すと流石のエミヤも溜息が出る。作ること自体に手間があるわけではないが、それでも栄養バランス等を気にする彼としてはあまりにも作るのは罪深いと感じる彼女の要求するジャンクフードや、甘味に至っても最早砂糖を直接摂った方がいいのでは、と言いたくもなってしまうごてごてメニューが脳裏に浮かぶと、頭が痛む。
「……であれば、このパンケーキというものを頼む。量はその、一番多いもので」
「一番であれば、アステリオスのような者の為の量もあるが」
「ならばそれで。……何か言いたげだな。なんだ?」
「いや別に。やはり君だな、と思っただけだ」
思わずとそう呟き、笑ってエミヤは「飲み物は?」と確認する。すると彼女は何処か居心地が悪そうにしながらも「紅茶で」と答えたので、
「コーラでなくていいのかね?」
なんて少しからかうように問い掛けると「不要だ」と少し拗ねたような声が返って来た。それにまた笑って彼はキッチンの奥へと戻っていく。
「らぶらぶなのだな!」
「そんなものではない」
そしてそんなエミヤを出迎えたキャットに今度はからかわれて、エミヤは緩んでいた顔を引き締めた。
「えみや、えみや、……その、ぼくも、あれたべる……!」
それから、次の来客には丁度アステリオスがやってきて、やはりカウンターで山積みのパンケーキを、それはもう幸せそうに食べるオルタのランサー・アルトリアの姿を見て、瞳を輝かせた。
彼はもう何度もあれを食べているが、まだまだ飽きた様子がないらしい。特に今回はそのパンケーキにちょっとしたおまけもしたので、余計彼の興味を引いたようだった。
「ああ、分かった。では直ぐに用意しよう。――今日は一人かね? 彼女は一緒ではないのか?」
「えうりゅあれ、も、すぐにくる、から。えっと、その、……いつものふるーつのもりあわせを、おねがい!」
「心得た。ではいつもの席で待っていたまえ」
アルトリアの為に用意されたパンケーキにも、今日はフルーツがたっぷりと盛り付けられている。元々アステリオスとエウリュアレの分をある程度用意してあったのでそれをアルトリアにも使い回したのだが、エミヤの予想通りになった。
「フルーツ盛り合わせのパンケーキ。これも新しいメニューに入れちゃう? 人気出そうだけど」
「いや、これは特別メニュー扱いの方がいいだろう。――その方が特別感があるというものだ」
ふわふわのパンケーキを焼きながらそんな会話をするエミヤを見てキャットはぽつり。
「あれで甘やかしてなどいないというのだから、全く以て素直じゃない男なのだな」
と呟いて、パンケーキ用の生クリームを倍速で泡立てた。