にゃんパロ2
続きです。よく考えてみたらタイトル詐欺です。急ピッチなので誤字脱字、話の前後が繋がらない当のミスが多くみられるかもしれません。ごめんなさい。
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土曜日出勤が確定した金曜日の休憩時間。
真っ赤になって俯いている課長代理が目の前。ランサーは途方に暮れていたというよりも、目の前の現実に脳内処理が追い付かず茫然としていた。
別に何があったという訳でもない。今日出勤したら明らかに衛宮の様子が変だった。普段は部下の失敗による説教やら企画書の提出を促したりともはや日課のようにランサーに説教する衛宮課長代理が……。
今日はまるで借りてきた猫のようだった。ランサーの顔を見た途端に目を逸らし、報告書を提出すれば余所余所しく「ありがとう」と一言。それきり解放された。
あまりの衝撃に立ちすくんでいると、ネクタイを直しながらバツが悪そうに「机に戻りたまえ」と促されたので、いよいよおかしいと感じた。
休憩室で一緒になったのはたまたま。衛宮が煙草を吸っているのは見たことがないが、たまに珈琲を休憩室で飲んでいる姿を見たことがあった。
そういう時は決まって外の喫煙所まで移動するのだが、ランサーは今日の衛宮課長代理の態度について問い質さなければすっきり寝付けないとあえて休憩室に足を踏み入れた。
そうして、「調子でも悪いのか」と聞いただけ。そう、聞いただけであった。衛宮課長代理はそれっきり……顔を真っ赤にして俯いてだんまりを決め込んでしまったのだ。
最早どうしていいか分からないランサーは現実逃避をするように、昨日の夜のアーチャーのことを思い出していた。
* * * * *
「アーチャー、こっちだ」
お気に入りのソファに身を投げ出したまま、自堕落にニュース番組を見ていたランサーはポンポンと自分の膝を叩いた。
その仕草を見たアーチャーは、いそいそとランサーの膝の上に向かって歩いてきた。ドーヴァンを飼っていた時、絶対に一日の内の一時間は共に過ごす時間を設けていた。
犬と違い猫にその必要があるのかどうかは分からないが、ランサーはアーチャーにもドーヴァンと同じように接していた。そうして徐々に、どこを触ると嫌がるかを把握していくのだ。
ちなみに、アーチャーは爪切りを嫌がらない。それはこの一日一時間のコミュニケーションの間で知ったことだった。触れ合うことは大切だ、と改めてランサーは思う。
首根っこや喉元を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らして喜ぶが、腹を触られるのが嫌いらしく、触ろうとするとゆっくりと体勢を変えられてしまう。
ふと、ドーヴァンは腰のあたりから尻尾の付け根を撫でると喜んだことを思い出し、アーチャーにもやってみようと思い至った。
膝の上に座ったアーチャーの腰から尾を、最初は指先で優しく触れる。大丈夫そうだったので、徐々に尻尾の付け根を指先で掻くように撫でる。
すると、徐々にアーチャーの尻尾がピンと張っていき、次第にもっとと強請る様に尻が上がって来た。嫌がる素振りはなかったので、気持ちいいのだと判断し暫くくすぐる様に尻尾の付け根を指の腹で掻いたり、トントンと叩いたりしていた。
やがてアーチャーがぶるっと身体を震わせたので、ランサーは反射的に触れていた手を離した。アーチャーはランサーの膝の上から地面にゴロリと転がると、しきりに身体を床に擦り付け始めた。
「なぁーうぅ……」
そして普段よりも切な気な鳴き声を一声あげた。これは強請られているのだろうかと考えあぐねていると、膝の上に小さい透明の固まりが乗っているのに気づいた。
なんだろうかと触れてみると、ぺちゃりとした液体状で粘着性があった。ティッシュで拭うと、しっかりズボンに滲みていた。
「……よだれ?」
そう呟くと、怒られると思ったのかビクリとアーチャーがランサーの声に反応し、脱兎のごとく寝室の方へ逃げて行ってしまった。
結論からするとアーチャーは尻尾の付け根を撫でられると涎を垂らすほど気持ちがいいらしい。なんにせよ喜んでくれたなら良かった。今後も触らせてくれそうなら積極的に尻尾の付け根を撫でてやろう、とランサーはこの日は充分な収穫を得た。
ちなみに寝る時、アーチャーは何故かいつものようにベッドの上には来ず、ランサーが寝室の端っこに放った風呂上がりのタオルの上に丸まった。
* * * * *
「もしかして、ペットのことか…?出来る範囲でなら、力になるぜ」
ランサーはアーチャーのことを思い出し、少し心が落ち着いた。兎に角このままでは埒があかないので、そう切り出した。
すると、衛宮課長代理は顔を上げ、今日初めてランサーの顔をしっかりと視界に映した。その眼の色に、ランサーは一瞬ドキリとした。衛宮課長代理の瞳の色は薄い黒で、鍛え上げた四肢とその洗練された鉄のような瞳に、どうしてもアーチャーを思い出してしまう。
突拍子もない馬鹿げた勘繰りは捨てた筈だ。目の前の男は、甘えたで人懐こいアーチャーとは似ても似つかないというのに……ランサーはふとした瞬間に衛宮を見てアーチャーを思い出すことがあった。
「……たいしたことでは、ないんだ」
「…おう」
「ただ、そう。…発情期を迎えてしまって」
「何?まさか去勢反対派なのか?!」
都心部でペットを飼うということは、意外と己の倫理観との戦いであったりする。ペットを飼ったことのある人間ならば繁殖機能を奪ってしまうのを、一度は哀れに思う。
しかし、こうマンションやビルが密接していると周りの目もあり、加えて経済状況に不自由があったりすると「可哀想」などと言ってもいられない状況になる。
問えば、たちまち衛宮課長代理の顔が真っ青になった。
「き、君は飼い猫を去勢するのか……?」
「あ?…いや、俺のは預かりもんだから勝手に病院に連れていく訳にもいかねぇんだ」
「そ、…そうか」
ホッとしたように息を吐いた衛宮を、ランサーは複雑な気持ちで見つめた。
飼っている犬は大型だと言っていた。どういった環境で飼っているのかは分からないが、今時こんな都心部で去勢を施していないのも珍しい。
散歩中など少し油断した隙に、向かいから来た雌犬飛びついたりしそうなものだ。周りの迷惑を第一に考えそうなタイプだと思っていたが、意外と情が深いのだろうか。
なんにせよ。発情期を迎えたならば普段以上に気を付けなければ、ちょっと目を離したすきに家を飛び出してしまいかねない。ランサーもちょうど、そのことでアーチャーを心配していた。
どうも仕事に行っている最中、何時間か外出しているらしい。その間に家族を作ったりしていないとも限らないのである。
猫に荒らされたゴミは、基本、回収してもらえないのだ。
ペット可のマンションなど、あの辺りではランサーの住んでいるマンションだけだった。近所から苦情が来るかもしれない。
アーチャーが何かをしでかせば、それは監視できていない飼い主、ランサーの責任だ。そうなれば、あのマンションで預かっておくことも出来なくなるかもしれない。
ランサーのここ最近の悩みは、それであった。
「難しい問題だが……考えたほうがいいんじゃねぇか?」
「……何を?」
「何を、って……去勢の話さね。子供が欲しい訳じゃねぇんだろ?」
「こ、子供…?!いや、それは考えていないが」
「そりゃそうだよな。里親探しとか、色々と面倒だしな」
ふぅっと、そこで衛宮は大きく深呼吸した。
「出来れば去勢はなしの方向で……発情期を迎えたペットを、君ならどうする?」
「実家の方なら問題ねぇんだがな。この辺だと…犬なら可哀想だが去勢一択だ。猫は部屋で飼えるものだからな。絶対に外に出さないようにはすると思うが」
猫はまだいい。犬は野良だと保健所行きなのだ。飼い主の預かり知らぬ場所で子供を産んだとして……生まれた子犬が無事に生きていける確率は低い。
「そうか、ありがとう。参考にさせて貰おう」
衛宮は慌てた様子で立ち上がると、持っていた空き缶を中央のゴミ箱に捨て、休憩所をそそくさと立ち去った。
ランサーは彼の慌てた様子になんだか釈然としない気分だったが、とりあえず衛宮課長代理の低気圧の理由が知れた。おかげで朝から胸につっかえていた気持ちの悪さは消えた。
煙草を吸い終わり、携帯灰皿を尻ポケットから取り出そうとして、ふと思い返した。
「俺、課長に猫飼ってるなんて一言も話してねぇ筈だよな……?」
声に出して、記憶を手繰る。
しかし、すぐに思い当たった。そういえば、初めて会ったとき、綺礼の横にいた。猫を預かってほしいと言われた時、その場にいたのだ。
人形のように無表情で直立していたものだから、どうも印象にないが、確かにあの場にいた。ならば会話を聞いているはずで、ランサーが犬を飼っていたことも猫を預かったことも知っているだろう。
綺礼が話している可能性もある。一応部下という立場だし、口止めも特にしていないので聞かれたならばあの男は答えるだろう。
さて、人には偉そうにアドバイスをしたが、ランサーはランサーで預かりもののアーチャーのことを考えなければならない。
発情期が来たら、今までのように部屋から出ることを許しては置けない。例え雄猫であろうとも、対処を怠れば問題になった時に立場が不利になる。
ランサーは隣のマンションに住んでいるムカつく年増女を思い出した。ペット可のマンションからはペット特有のゴミが出るのだ。それを普通のゴミと一緒にするなだとか不衛生だとかガーガー喚きたてていた。
分別はしている筈だし、ゴミの出し方を間違えた覚えはない。少し早い時間に出すと、ゴミを出す時臭くて敵わんとか通りに獣の匂いが充満して迷惑だとか……ドーヴァンがお前に何をしたのだというほど目の敵にされていた。
都会は色々と面倒くさいのだった。
このシリーズ大好きです!