翌朝アーチャーは産まれたての子鹿になってた
マスターとアーチャーさんの赤ちゃんプレイを心配7割下心3割で止めようとするランサーさんの話です。
全編でマスターがオギャッているのでほんとうになんでも許すよ♡な方向けです。
- 425
- 407
- 6,668
「もうダメだぁ……彼女なんか一生出来ないんだぁ……、目を離した隙にくっついてはイチャイチャしたり、ワンチャンあるかと思いきや既婚者だったりするサーヴァントたちに精神を抉られながら、俺だけ彼女を作れず死ぬんだぁ……」
そう言ってめそめそと泣いた、そろそろ明け方になろうかという深夜にだ。
合同宴会だったのでさっきまで皆でどんちゃん騒ぎだったのに、気づけば誰もいないし。皆寝たし。わざわざ部屋戻って寝たし。
誰か1人くらい残ってくれてもいいじゃん。寂しいじゃん。こっちもめそめそしたくなるじゃん。
「マスター、そろそろ飲みすぎじゃないか。風邪を引いても知らんぞ」
宴会場の隅で膝を抱え、ぐすぐすと泣きながらまた一つ缶を転がした俺の顔に、誰かの影がかかった。声から推察するに十中八九アーチャーである。
1人で惨めな思いをしてるときにわざわざ会いに来てくれて、ちょっと好きになっちゃいそうだけどいやそんなんじゃ騙されないからね。この男は『私は君の味方だよ』感を出してきてはいるものの、地味に老若男女様々な分野からおモテになるタイプなのだ。しかも本人にはその自覚がないと来た。ラノベかよ。バカ。バーカ。
まあでもおモテにならないタイプのサーヴァントはいないんですけどね。ラノベかよ。バーカ。
「もう……嫌……もういや……自棄モンスターするんだ俺は……決めたんだ……」
カブトムシの幼虫みたいに丸まって、床に転がった栄養ドリンクの缶を精一杯抱き抱えた。冷たいし固い。
これがおっぱいだったら温かくて柔らかいんだろうな。ぬくぬくふわふわで、顔を埋めたら女の子の匂いがするんだろうな。
今ここにはね、モンスターの匂いしかありません。現実って何?
「ほらほら……元よりそんなものでは酔えないのだから、そろそろ現実に返ってきたまえ」
「いやだぁ……女の子にぎゅってされて『おはよう♡世界で一番大好きなマスターくん♡お〜きて♡』って言われないと起きたくない……」
欲を言えば柔らかい茶髪をポニーテールに結んで、紺のエプロンから仄かに味噌汁の匂いとかしててほしい。笑い声はくふくふと描写されてほしい。
「起きなくていいからベッドに行け」
「いやだぁ……女の子にぎゅってされて『マスターくん♡ベッド、……いこ?♡』って言われないと行きたくない……」
欲を言えば俺にかけてくれる用のブランケットを持ってきてて、眠くて動きたがらない俺に笑って優しく掛けてほしい。ほっぺはふわふわがいい。
そんで私も一緒に寝ちゃお〜♡って悪戯っぽく笑って潜り込んできて、柔らかいおっぱいが俺の腕を包むんだけどドキドキするよりも人肌の温かさに安心感の方が勝って、俺は孤独じゃないんだな〜って実感しながら眠りたい。あっあともこもこの靴下に包まれてる足を絡められたりもした、
「仕方が無いな……マスター♡」
誰も幸せにならないタイプの妄想に浸っていた俺は思わず抱えていた缶をアーチャーに投げつけた。なになになに。いきなり何すんの。やめて。死人が出るよ。ハートマークつけていいのは俺の彼女だけなんですけど。存在しないけど。死にてえ〜!
「やめて殺すよ俺は可愛い女の子って言ってんの、ゴツい男って言ってないのハートマーク付けんのやめてマジでマジでマジで」
「目は覚めたか?」
「ぴえん……」
「まったく、もう誰もいないじゃないか。君もせめて誰かと泣き言を言い合っていればいいものを」
「ぴえんまる……」
仕方なく立ち上がった俺は何気なく隣を見て、そして暫時固まった。
……アレッ……気の所為でなければアーチャーさん……エプロンしてない?……ブランケット持って……るね? んっ? あれっ?
隣にいらっしゃるアーチャーさんがですね、なんか、紺色のエプロンとかしてんですけど。え? ちょっと。さっきまで不貞腐れてたからよく見てなかったけど、エプロンしてんじゃん。しかもちょっと味噌汁の匂いすんだけど。ウケる。
しかもブランケット持参してるし。俺にくれようとしたやつじゃんそれ。横になるならせめてこれかけなさいってことじゃん。何だかんだここで寝ちゃってもいいように用意してくれたやつじゃん。
……や、ヤバ〜!! 眉の下がった表情、ヤバ〜〜!! 愛なんですけど〜〜! これ、俺の理想の彼女じゃ〜〜ん!!! ウケる〜〜!!! ウケねえよバカ。
「……どうした、マスター?」
「んやっ……」
マジマジと見すぎたのか、怪訝そうな声でアーチャーに問われた。何って……ただ理想の彼女とアーチャーを重ね合わせて妄想と現実の区別がつかなくなりつつあるだけだが? とかは絶対言えないので、へらっと笑った。とりあえずお茶濁しとくか。
「アーチャーなんか、いい匂いしない?」
「匂い……ああ、どうせそろそろ何人か起き出す頃だろうと思ってしじみ汁を作っていた。それかもしれないな。君は酒を飲んでいないが、用意はある。好きなタイミングで飲みたまえ」
えっええ〜〜〜!!!
それそれそれ〜〜〜!!! それ女の子にやってほしかったやつ〜〜!! 朝ごはん用意してほしかったやつ〜〜!! ヤッベ〜〜全然茶髪のポニテじゃないしほっぺ硬そうだし間違いなくくふくふ笑わないけど、それ以外完璧に俺が結婚する予定の女の子じゃん!!
娶りてえ〜〜!! と勢いで思いかけて、いや別に娶りたくないなと気が付いた。いや別に……いいな、娶らなくて……。
どちらかというとこの感情、あえて分類分けするならもっと、こう、
「なんださっきから、ぼけっとした顔で……どうした? 水を用意しようか」
そして眉を下げて微笑むアーチャー。
わかったこれ、母だ〜〜〜〜!!!!! 母性〜〜〜〜〜!!!!!!
いやわかる。待ってね。なんでもないよね。別に普通のことだよね。多分よくあるシチュエーションだよね。
いやどうかな? よくあることは無いんじゃない? 俺もしかしてめちゃくちゃ恵まれた環境にいるくないこれ? もうよくわかんなくなっちゃったよ〜〜。
あのね、今何時だと思う? なんと夜の3時。よく考えて。こんなとこで栄養ドリンクキメて不貞腐れるような時間じゃないわけ。普通に殴られてもおかしくないくらい完全に馬鹿だしクソなわけ。
そこにこう、現れるアーチャー。優しいアーチャー。母性を感じさせるアーチャー。愛。愛。愛。
「おっ……お母さ〜ん!!!」
俺は気が狂ったのだ。
アーチャーから溢れ出る、濁流のような母性に、俺の頭はバグった。そういうことでしょ。言い訳させろ。いい年こいてもオギャってバブりたくなることもあるんだよ。それが人間なんだよ。
「おか……? 私は君の母ではないが……」
「そっそれ〜〜!! それそれそれ〜〜!! その完全に否定しきれない感じの、ちょっと優しさ滲んじゃってる感じの返答が完全に母〜〜!! あ〜愛。これが愛か。暖かい。もしかしたらアーチャーのおっぱいならふわふわでいい匂いするかも。俺この歳男でもいいかも。人の愛は感じられるもん。俺が真に求めていたもの、此処に在りって感じなんだけど」
「医者を呼ぼうか」
「黄色い救急車呼ばないでお母さん、待ってママの方がいい?」
「……」
「同情するような笑みやめて〜〜!! いいけど……勝手にママって呼ぶからいいんだけど……はァ〜〜まさかここまでとはな〜〜、俺ここまで来ちゃってたか〜〜」
まさか自分より歳もタッパも人としての徳も遥か上におられる男に、母性を見出しておっぱいに埋もれたくなる日が来るとはな〜〜マジでつれえ。やっぱつれえわ。言えたじゃねーかじゃないんだよ殺すぞマジで。
「母……なってほし〜〜……アーチャーお願い、俺の母になって〜〜俺のこと赤ちゃん扱いして〜〜、愛をくれ愛を〜〜」
さてこっから本題なんですけど、あのね、忘れてたんだよね。なんとここまで前座。みんな覚えてたかな? アーチャーがどういう人物なのかっていうのをさぁ。
アーチャーはさ、ほら、ちょっと、アレなとこあるじゃん?
お願い〜って言われたらさ、このお方の自論にそぐわないものでない限りさ、全部受け入れてくれちゃうじゃん?
そんでもってこんなさ、雇用主にさ、オギャられバブられ母になることを強請られるケースなんてさ、想定されてるわけなくてさ、別にさ、アーチャーにとってそれってどうでもいいことでさ、さ、さ、つまりさあ、
少し固まって視線を横に流したアーチャーは、すぐに俺を視界のど真ん中におさめて、真っ直ぐ言うんだよ。
「よく分からないが、君は君が思うようにすれば良い」
こうなっちゃうよね?
まじでどうかと思うよそういうとこ、変な人に利用されないように気をつけなね、とマスターとして、これまで一緒にやってきたパートナーとしての真面目な心配が一瞬俺の目を覚ました。一瞬。
これはせめてここで断るべきじゃん? って。気付き。
いやごめんめっちゃ冗談でしたすみませんって、今からでも言うべきじゃん? でもさ、なんていうか、へへ。
俺はこのとき優しく笑いかけてくれるアーチャーの母性に酔いしれていて、つまりその、だから最初から言ってるじゃん、気が狂ってんだって。そういうことだよね。はいここまで前置きです、わかってくれた?
という訳で、昨日……今日?からアーチャーが俺のお母さんになった。
長い回想シーンだった。俺の中から漏れに漏れる臨場感溢れる感想たちに、今まさに体感しているような気すらしていた。
改めて考え直してみてもなんでかな、ちょっと意味わかんないんだけど、でもなってくれたんだよね……俺別に彼女が欲しかっただけで母が欲しい訳ではない筈だったんだけど……。
「でもそれはそれとしてオギャッちゃお!
アーチャーお願い、お腹貸して」
アーチャーは優し……いのかはよくわかんないけど、とりあえず真剣にお願いすればわりと許容範囲広めに頷いてくれちゃうので、俺はちゃっかりアーチャーのお腹に顔を埋めて鼓動とか感じちゃいま〜〜〜す!!!
「アーチャー……母……愛……うう……」
「構わないが、お腹を貸す、というのはどういう状況だろうか?」
「うう…………まま……ニュアンス……」
誰かマジで止めて〜〜〜!!!
あたまおかしくなっちゃう、堕ちちゃう〜〜!! 人として堕ちちゃうよ〜〜!!!
睡眠不足と、単純に栄養ドリンクの飲みすぎで気持ち悪くなった俺の見舞いに来てくれるサーヴァントはアーチャーひとりだったけど、別に寂しくないよ。ほんとほんと。皆多分心配してるし。ツンデレなだけだし。
伏せていたベッドからよたよたと上半身を起こして、隣の椅子に座って見ててくれてるアーチャーの太ももに頭を乗せた。う〜んめちゃくちゃ硬い。なにこれ合金? 母って多分こんなかってえ身体はしてないんだけど、俺が一体何をしているのか何も理解していなさそうな顔で、だけど心臓の方に頭を寄せてなんとか人の愛情を得ようと奮闘している俺を否定もしないので、プラマイ最高というのは自明なのだ。なのだ、じゃないが。
「これは興味本位の行為なので嫌だったら拒否してほしいんですが、ここにお急ぎ便で買ったガラガラがあるので、俺に向かって振ってみてくれない?」
「振ればいいのか?」
「オギャ〜〜!!
あっいやうるさっ騒音っ待ってアーチャーそこまででは」
そこまでガチで振られるとは。90デシベルぐらいあったよ今。
それだとなんか違うから、ストイックすぎてそういう競技みたいになっちゃってんのよ。そういうことじゃないのよ。
「もうちょっとこう、優しく、言うなれば30デシベルくらいの感じで振ってもらえると助かるんだけど」
「ほら」
「オギャ〜〜〜〜〜〜!!!!!! これこれ〜〜〜〜〜!!!!!」
俺はそっと涙を拭った。神か。一瞬雲行きが怪しかったものの、なんとかオギャれそうです。
合わせて買ったはいいもののさすがに使わないか、と思って枕元に収納してたおしゃぶりを思わず装着したもん。アーチャーは特に引いた様子は無い。なんで? すごい。
目の前でマスターがおしゃぶりしてんだぞ。なんで無反応なんだよ。包み込まれ過ぎてもはや怖い。底が無い。足取られたら死ぬタイプのやつ。沼。
俺はアーチャーにオギャりながら漠然と、それはそれとしてやっぱ、ドア開いてくれないかな〜と夢想した。いやそうでしょ。なんで自業自得とはいえ見舞いが誰もいないんだよ。寂しすぎんだよ。何がツンデレだよ。
なんか色っぽいおねーちゃんに来ていただいて、「あら可愛いぼうや、代わりにお姉さんがいいことしてあげようか?」とか言ってほしい。
このシチュエーションの場合色っぽいおねーちゃんと俺の面識は無く、それは普通に不審者なので超まずいんだけど、そんなの現実では起こりえないから妄想くらいしてもいいだろクソが。弊カルデアにおわします色っぽいおねーちゃんたちは全員誰かとデキてんだよ。もしくは未亡人だよ。手出せねえよクソが。
俺はアーチャーに抱かれながら呪詛を唱え続けた。けどさ、それがダメだったのかな、いや全部ダメなんだけどさ、ここまでの俺の行動に逆にダメじゃなかったことはないんだけどもさ。
虚ろな目でアーチャーの乳でも吸おうかなと考えていた俺の目の前で、ドアが開いた。あっ綺麗なおねーちゃん来ちゃう? とド低脳浮かれポンチをぶちかましていた俺の前に、現実は現れたのだ。
つまりその、そこにいたのはランサーであった。
「……えっ…………」
「あっ……あえ……」
やっ………………ヤバ〜〜〜〜〜〜!!!!!
喃語しか喋れなくなっちゃった〜〜〜〜〜!!!!!
おしゃぶりがころっと口からこぼれる。
えっマジ!? マジ・ノ・ランサー!? え〜!?!? 俺ガチャ下手すぎ〜〜!! なんで何十といるサーヴァントの中から大当たり引いちゃうかな〜!? ここでその運使うならもっといい礼装引き当てた〜〜〜〜い!!!! カレスコほし〜〜い!!!!
ランサーちょっと、可哀想だもん、ガチの困惑しちゃってるもん、俺ランサーが目泳がせながら真顔で口抑えてるとこ初めて見たもん!!!! 可哀想〜〜!! 原因は俺で〜〜す!! なんと今もアーチャーのお腹に抱きつきながら涎を垂らしていました〜〜〜!!
ここで説明パート入りますけど、ランサーはなんかアーチャーを狙ってるっぽいサーヴァントの筆頭なんだよね〜〜!!
日々人の愛に飢えている俺は通販で少女漫画を買い漁ってんだけど、ちょっと天然で気の強いJKと、そのJKにじゃれつきながら時々本気のアプローチをするけどタイミングとか察しとかが悪くてなかなか上手くいかない幼馴染のDK、という関係性の漫画は大体アーチャーとランサーに収束しま〜〜す!! はい俺死んだ!!
ランサーはアーチャーにあやされている俺と、あやしているアーチャーをマジマジと上から下まで見渡して、ごくりと生唾を飲んだ。
「お前とうとう……そこまで……」
そうで〜〜す!! 本当にごめん!! 申し訳ない!! でも思春期なんだよこっちは巨乳の女の子がスク水パツパツになってるとこ超見たいし、長髪の上級生が体育してるとこに居合わせてその魅惑のうなじが汗ばんでるのを凝視したいんだよ、わかる? わかってくれる? だからオギャッてんの。これはジェネリック医薬品なの。わかる? ねえ。
心なしかズンズンとこっちに向かって歩いてきてるランサー。ちょっと待って。わかんなくていいから殺さないでお願い。
「まだ死にたくないよ〜〜!!」
なんかもう辛い、俺が全部悪いんだけど。俺はそっと目を瞑った。せめてジェネリック母に抱かれながら死にたい。
だけど思っていたような深い衝撃は訪れなくて、代わりにアーチャーが「は?」とキレる声がして、は?と思った俺は目を開けて上を見上げた。アーチャーには抱きついたままだった。怖いもん。
「お前、そこまで行ったら終わりだぞアーチャー!」
「何がだ」
そのとき俺の目の前に広がっていたのは、アーチャーの胸ぐらを掴んで詰め寄るランサーの必死の形相と、突然のそれに軽くキレているアーチャーの涼しい尊顔であった。
いや本当に何が?
「えっらんさー……あえ……なんで……」
なんでアーチャーにキレてんの、こっちでしょ、という思いと、あわよくばこっちにもキレないでくれ死にたくないから、という思いがぶつかり合っている俺は喃語混じりにランサーに呼びかけた。当たり前みたいに無視された。惨すぎ。
「いくらマスターがチビのガキだからっつったって本当の赤子じゃねえからな、そりゃここのメンツの中ではダントツでガキだけど。わかってんのかお前」
なんで2回もガキであることを強調したの? そのガキっていうのは精神年齢的な話ですよねきっと。
ていうか当たり前だろ弊カルデアに俺より若い人間がいてたまるかよ。労基駆け込むよ。この世の全ての哀れを俺に集結させよ、ここまで来たら。人柱になっちゃおって感じ。辛すぎ。
「君こそ突然胸ぐらを掴んだりして、礼儀を知らないのか?
そもそも部屋に入る前にノックをしろ、いつも言っているだろうが」
ふーん、一応ふたりって部屋の行き来する程度には仲良いんだ〜……。
あっ違う、俺普通にスルーしかけてたのに、ランサーめちゃくちゃ焦った顔でこっち振り返ってきたもん!! 言い訳する前にこっちの表情確認しにかかってきたんですけど!!! これランサー側は完全に下心あるやつだ!!! 多分風呂上がりとか狙っちゃってんじゃないの、アーチャーの濡れ髪見るためにノックもせず乗り込んじゃってんじゃないのこれ!!! 思わず何も見てないふりしちゃった〜ついでに聞いてなかったふりしよ〜〜。
俺はアーチャーの膝からそっと下り、ベットの端の方に逃げた。視界の端で捉えたランサーはあからさまにほっとした表情で、「その話は後でしような」と言っている。はいはいはい。わかったわかった。2人でしてください。
「そもそもなんだその……マラカスみてーなやつ」
「ガラガラと言うらしい。これを振るとマスターが喜ぶ、最近の子はこういうのが好きなんだろう」
「なんでコレはお前に抱きついてんの」
「落ち着くらしい。あと乳を吸いたいな、という顔もしていた」
なんですか? この会話。
ていうかランサー俺のことナチュラルにコレ呼ばわりしてない? イジメ? アーチャーに至っては俺が乳を吸いたがってること気付いてるし。それでいて尚拒否しなかったのかよ。もう何なんだよ。逆に怖い。ほんとごめん。
なんか冷静になってきちゃった、ヤバいことしてたな俺、今後は心入れ替えて真っ当な人間として、
「見ていろ。ほらマスター、ガラガラだぞ」
「オギャ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
ママ大好き〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
俺はベッドの端からアーチャーの膝の上まで、音速で移動した。心入れ替えろよ、とお思いの俺さん、無理。無理でした。アーチャーがママなんだもん仕方なくない?
むしろこれは応えない方が悪でしょ。ガラガラされたら喜ぶのが人間としての人情でしょ。
ランサーの顔は怖くて見れないけど。ワハハ。
「……マスター、ちょっとそこ退いてろ」
ほら来たランサーさんのご指名だもん、槍が炸裂して俺の心臓は貫かれそしてカルデアは壊滅、今までありがとう、こんなことで幕を引いてしまって本当にすみません。
でも本能に逆らうのは良くないと思ったんだよね、へへ、へ……頭に走馬灯、走らせちゃおっかな……。
マスターになりたての頃はまだやることなすこと必死で女の子の尻を追ってる暇もなかった俺、慣れてきたと同時に将来に漠然とした不安を抱き始めた俺、文字通り桁違いに年齢の違う女の子たちに性欲を向けてもいいかどうかを真剣に悩んだ俺……形容しがたい寂しさに耐えかねて、眠れない夜もあったな……。ふふっ……。
「アーチャーお前、いや……本気か?」
「私はいつでも本気で生きているが」
「そうだよな、だよな、……だよな…………」
死ぬ気満々で走馬灯パカパカさせていた俺は、やっぱり当たり前のように無視された。
えっ、何? さっきからなんでランサーはアーチャーに矛先をお向けになってんの? 俺は許されてんの?? それとも既に死んでんの??
巻き込まれてるだけなのに今1番深刻そうな顔してるランサー、よくわかんないけど可哀想。
暫時頭を抱え、再びアーチャーに視線を戻したランサーは鋭い眼光を灯していた。どしたの。なんなの。
「わかった、オレにしろ」
「いきなりなんだ、気色悪いな」
「いやなんでお前がそんなデカい態度取れる?
犯罪者の自覚あるか?
お前にその気がなくてもな、こういうのは立派な犯罪になるから、相手が未成年だと特に危ねえから、このご時世……オレがちゃんと面倒見てやるから、ガラガラもおしゃぶりも受け入れるから、マスターのことは諦めとけ。な?」
そっと肩に手を置き、長文で説得にかかるランサーに(は?意味がわからないし馴れ馴れしく触れてくるな死ね)みたいな顔をしているアーチャーとは裏腹に、俺はすっかりしっかり理解しちゃったのであった。あっ、これ完全に、アーチャーの性癖だと思ってるな〜〜〜〜!!!!
いや確かにアーチャーちょっと世話焼きなとこあるけど、時々お母さん通り越してもはやババアと呼びたくなるくらいの世話を焼いてくることあるけど、でもごめ〜〜〜ん俺で〜〜〜〜〜す!!!! まさか自分を従えてるマスターがこんなクソみたいな性癖を抱えているとはつゆ知らないランサーごめ〜〜〜〜〜ん!!!!!!
「は?意味がわからないし馴れ馴れしく触れてくるな死ね」
そんでアーチャーは自分の気持ちに素直すぎ〜〜〜〜!!!! 思ったまんまを伝えすぎだから、ランサー泣いちゃうよそんなこと言われたら、いやいつもの事だから泣かないとは思いますけど……冷静に考えていつもこんな仕打ちを受けてるランサー可哀想……もっと優しくしよ今度から、モンブランの上に乗ってる栗とかあげよ……。
全ッ然、死ぬほど自分の真意が伝わってないランサーはなおも説得を続けるつもりのようで、ちげぇよボケ、と続けた。こっちもこっちで口悪いな。
「ッだから!」
え? 声デカ……。
ランサーの、それ宝具使うときよりもガチでしょってくらい焦燥感とか苛立ちとか全部乗っかった大声はカルデア中に響き渡り、なんかその辺にいたサーヴァントさんたちが咄嗟に様子を見に来てくれるレベルだったらしく、一瞬の静寂のあと扉が開いた。……えっ?
気配を認知できる限りのサーヴァントたち、およそ20人弱が皆こっちを見たのを感じる。いや待って待って待って。
今? お見舞い来て誰かって神に祈ったこともあったけど、確かに思ったけど、いや、今???
咄嗟に俺はランサーを止めようとした、したんだよ、だってランサー、ちょっと、今から何言おうとしてんのって話じゃん!!
「マスターじゃなくたって別にいいだろ、」
「いやちょまらんさ、」
「オレだって赤ちゃんプレイくらい出来る!」
「待ってってばぁ〜!!!!」
ドアを開けた状態で呆気に取られるサーヴァントたち、あまりの声のデカさに敵襲ですか!?と武器を構えるサーヴァントたち、敵襲というワードに反応して身を乗り出す血に飢えたサーヴァントたち、5秒で半壊状態に至った俺の部屋、そして怪訝そうな顔をするアーチャー、一世一代の覚悟を決めたランサー、思わずベッド上で土下座しながら泣く俺。
もうほんとごめん。ごめん。殺して。
敵襲じゃないです。全部俺が悪いんです。
その後どうなったかと言うと、まず俺は色んな方向から色んな正論で殴られて再び泣いた。アーチャーもちょっと怒られてた。マスターに付き合ってくだらない事をするんじゃない、アレの言うことは8割流せ、みたいなこと言われてた。アレってなに? もしかして俺みんなに影ではアレって呼ばれてんの? なんかランサーにもコレとか言われてたんだけどそんな感じ? イジメ?
アーチャーは俺と違って泣かなかったし、反省もしてなかったし、何で怒られたのかもよくわかっていなかった。
俺が言うのもなんだけど誰かもっと根本から情操教育を施してあげてよ、心のノートとか買って道徳の授業開講しようかな。
あのあと、騒動が落ち着いてから俺とランサーとアーチャー3人で、改めて話し合う機会を設けた。話し合いっていうか、俺からの一方的な懺悔っていうか、とにかく事の顛末を共有しないことには誤解が一生解けないので。俺と、ランサーとアーチャーの2人で、向かい合って正座する。
彼女が出来ない苦しみから頭がおかしくなった俺がアーチャーに母性を見出し、強請って母になってもらったという話をしているときはランサーが信じられないものを見るような目でこちらを凝視していたし、アーチャーは俺に付き合ってくれてただけに過ぎないんだけど、普段のお節介な様子を知ってたランサーはついにそれが性癖にまで発展してしまったのだと勘違いしたんだよねという話をしているときはアーチャーがランサーから1歩分距離を取って座り直していた。
2人とも今回の件は俺が全面的に悪いので、なんか多分色々な誤解があったと思うので、だからランサーが赤ちゃんプレイに手を染める必要は無いので、すみません、ほんと、という話をしているときは、2人して苦笑いでアイコンタクトしていた。やめて?
「マスター、君の言い分はよく分かった。説明を受けてもやはり理解はしてあげられないが……」
「別にそこの注釈いらないから……やめて……」
「ただ、疑問がひとつある。君にだ、ランサー」
あァ?とランサー。なんでそんなチンピラみたいな返し方しちゃうのランサー。好きな子には意地悪しちゃうの。さっき座る位置変えられたときちょっとショック受けてたの俺見てたからね。
「今回の件は幸いそうではなかったが、例え私が本当に特殊性癖を持ち合わせていて、マスターと度々プレイングしていたとしても、君には関係が無いだろう。何故あんな、必死に叫んだりしたんだ。かなりうるさかったぞ」
最後の一文に関しては完全に苦情なのでランサーも怒るかと思いきや、項垂れて黙り込んでしまった。いやそうだよね。事実だしね。それを差し置いても今1番聞かれたくなかった事だもんね。わかるよ。
お前が好きだからマスターに取られるのが嫌だった、赤ちゃんプレイでお前とコミュニケーションが取れるならめちゃくちゃ嫌だけど頑張ろうと思ったみたいな、そういうことなんでしょ? どうせ。言えないもんね? わかるよ? 一切の経験はないけれども、何百冊少女漫画読んできたと思ってんの? そういうシチュエーション完全にパターン化出来るんだよこっちは。
「いやァ……まあ」
「まあ、じゃなくて何故かを聞いてるんだ。部屋の修繕費も馬鹿にならないんだぞ」
いやそれは本当にそう。
そうなんだけど許してあげて、ランサー顔赤くて青くてなんかもう紫になっちゃってるから、ここで暴れられると俺もう家具どころか屋根も壁も無くなっちゃうから、部屋とワイシャツと俺って感じになっちゃうから。被害が。
──さて、と。
「良いから。言え。言え」
「怒んねえ? 絶対怒んねえ? 下らないなカス、くたばれとか言わねえ?」
「大丈夫だ怒らない。怒ったとしてもそこまでは言わないから」
小学生男子ふたりがイチャついているところ大変恐縮なんですけど、俺はね、ちょっと、これ以上ここにいると色々まずいことが起こりそうなので……主に自分の精神に……。
退散しよっかなって、思います……ハア〜〜……。
手早く立ち上がり、部屋のドアに手をかけた。
最後に俺の目に映りこんだのは、この状況においては滑稽なくらい真面目な顔で正座するアーチャーの手を、大事そうにそっと、持ち上げるランサーの姿だった。別に割れ物じゃないよ、それめちゃくちゃゴツい男の手だよって思うくらい、優しく掴むのは、俺には理解出来ない。だってアーチャーの身体は全体的に合金だったもん。だけどそれでも優しく扱ってしまうくらい、たぶん、ランサーは、アーチャーのこと好きなんでしょ。ごめんね邪魔して、ごめんね。
カチャ、と閉まり切った扉の向こうで、アーチャーがどんな顔してるのかは知らないけど、結局そういう事なんでしょ?
何百冊少女漫画読んできたと思ってんの? 死にてえ〜。
「……赤ちゃんプレイ、向いてないだろうなあのふたり……」
ランサー絶対無理だもんな……どっちも……。
一応朝まで外で待った方がいいかなこれ、誰か泊めてくれるひといるかな……裏ではアレって呼んでるようなマスターを……。
ていうかまた1組のカップルを成立させてしまったんだけど、どんどん俺が孤独になってくんだけど。助けてくれ誰か、裏ではアレって呼んでいるマスターを助けてくれ。
けどまあとりあえずね、今のを見てた感じアーチャーのケツかランサーの顔面がどっちかが流血沙汰になる予定なので、どっちでも対応可能なオロナインをね、買ってこようかなって……あはっ……。
センスが怒涛の勢いで火を噴いてますね……めちゃくちゃ好きです…🥰🥰🥰