未成年者への性加害という重大な人権侵害であったにもかかわらず、コンプライアンス(法令順守)意識を著しく欠いていた。小学館は経緯を徹底的に究明すべきだ。
性加害で罰金刑を受けた男性漫画家を巡る対応である。漫画アプリ「マンガワン」での連載をいったん中止したが、別のペンネームで新連載の原作者として起用していた。
被害女性との和解交渉に担当編集者が関わり、事件の口外禁止などの条件を提案していた。
被害者の心情を無視するような振る舞いだ。人権感覚を疑わざるをえない。
問題は先月、女性が男性漫画家らを訴えた訴訟の判決で発覚した。被害当時、女性は高校生で、教員だった男性漫画家からたびたび性被害を受けた。判決は不法行為を認定し、損害賠償を命じた。
これを受け、小学館は「管理監督責任を問われる重大な事案」との認識を示した。企業としてガバナンス(統治)を問われる問題だ。
だが、対応は鈍かった。週刊誌から別の漫画原作者の性加害を指摘された後になって、ようやく第三者委員会を設置することを発表した。
どのような経緯で起用の意思決定がなされたのか。社内でどこまで情報が共有されていたのか。説明責任を果たす必要がある。
漫画家がマンガワンでの配信を停止するなど、抗議の動きが広がる。日本漫画家協会も「業界全体の信頼に関わる重要な問題」と調査と結果の公表を求めた。
漫画は世界的に人気のある日本発のコンテンツだ。成長著しいのがネット分野である。小学館は「ドラえもん」や「名探偵コナン」といった人気コンテンツを抱えている。一連の対応は、ファンの信頼を裏切るものだ。
旧ジャニーズ事務所やフジテレビで明らかになった性加害の事案では、企業価値を大きく損なう事態となった。浮き彫りになったのは、メディアやエンターテインメント業界の認識の甘さである。
人権より収益を優先する行為は、書籍などを通して人生に豊かさを提供する出版社の本分にもとる。小学館は自らの存在意義に関わる問題との自覚を持たなければならない。