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RESEARCH 教員・研究レポート

上野千鶴子氏「フェミニズムが変えてきたこと 変えられなかったこと そしてこれから変えること」と題した講演が行われました

▲講演をする上野千鶴子氏

上野千鶴子氏「フェミニズムが変えてきたこと 変えられなかったこと そしてこれから変えること」と題した講演が12月13日、国際文化研究所(竹沢泰子所長)の主催で、関西外国語大学ひらかた中宮キャンパス(枚方市)で行われ、約400人の聴衆を集めました。

上野氏は日本におけるジェンダー研究の第一人者で、社会学者です。冒頭、現在の日本の女性の地位について、「戦前の女性運動を知っている作家の駒沢喜美さんは『自分の目の黒いうちに(男女の」区別が差別に昇格するのを見るとはおもわなかった』と指摘しました。区別はあって当然の違い。差別はあってはならないという違いです」という話で始めました。

男女格差が「男女差別」の形になっているというわけです。上野氏はフェミニズムの歴史を戦前から説き起こしていきました。

女性参政権は政治を変えたか

 日本初の女性弁護士・裁判官を目指す猪爪寅子が法律を学び、困難を乗り越えながら道を切り開いていく姿を描いたNHK朝ドラ「虎に翼」(2024年)を例に引いて、「この時代、女性は弁護士にもなれなかった、選挙権もなかった。戦後は、その時代よりはましです。(1945年の)女性の参政権は市川房江さんたち先輩の努力があって獲得できました。

 では、女性参政権は政治を変えたでしょうか」と問いかけます。

 上野氏は「政治学者の答えはノーです。家族票といわれた女性票が本当の浮動票になったのが1989年のマドンナ旋風でした」と指摘しました。土井たか子委員長率いる社会党(当時)が参院選で自民党を過半数割れに追いこんだ選挙です。

2025年は日本のウーマンリブが始まって55年にあたり、この期間を振り返りました。日本のウーマンリブには誕生日があって1970年10月21日。この日、ウーマンリブの活動家がヘルメット姿で新宿でデモをしてビラをまいたといいます。

「フェミニズムが変えたこと」は概念の可視化

この間のフェミニズムが変えたこととして6点をあげました。

一つ目は、セクハラの不法行為化を挙げました。

とくに伊藤詩織さんが2017年に実名で告発したことが大きな流れになり、2023年の刑法改正につながりました。

アメリカの「♯me too運動」の1年前です。日本ではアメリカほど反セクハラの運動が盛り上がらなかったと指摘されることもあるといいます。この理由を「日本のマスコミがあまりとりあげなかったからです。でも運動(フラワーデモ)に参加していたある男性は、これは女性問題ではなく、男性の問題ですと言っていました。よく言ったと思いました」と振り返ります。

2つ目はDV防止対策。つい最近まで夫に暴力を振るわれて警察に駆け込んでも、「夫婦げんか程度にしか扱われなかったが、多くの女性の努力で改善されています」。

 3番目は痴漢の犯罪化。知人から聞いた話で中高一貫私立女子校の中学生だった頃、「痴漢に遭ったことがある人は手を挙げてください」と教師から尋ねられて、「ドキドキして手を挙げようかどうか迷った。自分が痴漢にあったことがないから女性として値打ちがないのではないか」と悩んだそうです。今は「あってはならない」ことに変わりました。

 4番目は家庭科の男女共修。5番目は男女混合名簿。6番目はお茶くみ廃止。と続いていきました。

▲約400人の参加者は熱心に聞き入っていた

 上野氏は「私たちがやってきたことは、見えないものを見える化して概念をつくったこと」だといいます。例えば、2018年に刊行された著書「ヤングケアラー」で広まった概念があります。ヤングケアラーは18歳未満の子どもが家族の世話や介護をしていることを指します。

「少し前なら親孝行の子どもだといわれていましたが、今ではあってはならない経験だと概念と実証で見える化したのです」

 例えば、セクハラでは、加害者は合意だといい、被害者は強制と主張する。これまでは司法も男性に有利だったが、フェミニズム運動でさまざまな意見書を出して裁判での勝訴率が上がってきたといいます。セクハラを定義を変えてきたのです。

「家事は不払い労働」と主張してバッシング受ける

上野氏は自身の功績として「家事は不払い労働」という概念を挙げます。家事は労働で不当に報酬が支払われない不払い労働と主張しました。

「これは世間の猛バッシングを受けました。経済学者からは経済に無知だ。女性から家事は神聖な愛の行動だとか。でも変わったなあと思ったのがテレビドラマでした」

大ヒットしたテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年TBS系)は主人公の夫婦が「雇用主と従業員」という契約結婚をしました。家事を仕事としての新しい結婚観を描いていました。

「家事は不払い労働といってから40年たってテレビ番組が出てきて感動しました。ところがフェミニズムが変えられなかったことがたくさんあります」

「労働と経済に切り込めなかったのは痛恨事」

労働と経済に切り込めなかったのは痛恨事だといいます。とくに男女間の賃金格差が諸外国と比べて大きい。就職率は日本43%、米国47%ですが、管理職率は日本13%、米国43.4%と指摘します。日本の女性の就業率は73%と高い。

「女性の10人に7人は働いているわけですから、働ける女性はほとんど働いていることになりますね。ところが、働いている女性の10人に6人は非正規雇用。この人たちには男女雇用機会均等法や育児休業なんて関係ありません」

非正規雇用だと生涯賃金は正規と比較して2億円の格差があるという実証研究もあるといいます。また、正規雇用でも賃金格差が少ないといわれている公務員でも女性の出世が遅れることで賃金の差が大きくなっているといいます。

「女性は出世できない。正規雇用も維持できない。これは政治の責任です」と断言します。

男女共同参画白書には、「税制、社会保障制度、企業の配偶者手当といった制度・慣行が女性を専業主婦または妻は働くとしても家計の補助というモデルの枠内にとどめている一因でないかと考えている」とありますが、上野さんは「書いた人は一因ではなく、主たる要因といいたかったのでは」いいます。

「この結果、BB問題(貧乏ばあさん)が生まれる。女はずっと貧乏、老後も年金貧乏、死ぬまで貧乏。政治の責任は大きい」と指摘しました。

1985年は女性の分断元年

とくに1985年は「女性の分断、貧困、女々格差の元年」といいます。この年は男女雇用機会均等法、派遣事業法、3号被保険者の法律が誕生しました。

「法律が守ってきたのは男性稼ぎ型モデル。男は仕事、女は家庭と仕事だった。男並みに使えるか、賃金の2流の労働、女性は介護・育児の担い手。女性の3極化を招きました」

 実際、学歴別の賃金カーブをみると、大卒女子と高卒男子はほぼ同じ。

「これは女性に教育費を投資しても、戻ってこないということです。法律もたくさんできたのに、私たちが40年かけてやってきたことはなんだったのかと情けない気持ちになります」 

このような状況を研究した橋本健二さんの「女性の階級」という本が刊行されました。「日本では階級がジェンダー化されており、ジェンダーが階級化されている」と書かれています。

上野氏も「日本ではジェンダーが他の社会における人種や階級の機能的等価物として作用しています。階級とジェンダーが21世紀によみがえったのです」

▲上野千鶴子氏のわかりやすい話し方は好評でした

女性の国会議員が少なすぎる

「これから税制・社会保障制度はかわりつつあります。法案もいわゆる103万円のカベ、不同意性交罪など刑法改正、同一労働同一賃金、選択的夫婦別姓など目白押しですが、いったい誰がやっていくのですか。政治です。でも女性政治家が少なすぎる。国会議員の比率は低迷しています」。2016年の調査では、日本は9.3%、スウェーデン43.6%、アメリカ19.4%、韓国17.0%と低い。 

ただし地方議会は進んでいます。東京の杉並区は女性区長が誕生し、区議の半数以上は女性になりました。上野氏が希望をもっているのは20代の女性たちです。女性の地方議員誕生を支援している20代女性のグループがあります。元気で変化を起こしつつあります。

傍観者になってほしくない

2021年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗委員長(元首相)が「女性が入る会議は時間がかかる」とセクハラ発言したとき、若い女性たちが中心になって15万の署名を集めた結果、森委員長は辞任しました。また、森委員長はこうも言ったそうです。「ここにいる女性はわきまえた女性だ」。これを機に「わきまえない女」のオンラインアクティビズムが起きました。

「こういう不当な差別を容認しない若い女性を育ててきたのは、上の世代の女性たちです。彼女たちもこのような状況は終わりにしたいと考えています。沈黙は同意、笑いは共犯です。そして男性も傍観者にならないように。私たちがやらなければならないのは差別に直面したとき、その時・その場で、ちょっと待ったと言うことです」

ある大学教授が学生を前に「女は子どもを産むとバカになる」と発言したとき、その場にいた男子学生は「先生、それはないでしょう」と言うと空気が変わりました。

「時代は変わってきたのではなく、少しずつ変えてきた人がいるのを忘れないでください。女性が嫌なこと困ったことを飲み込んで黙り込むと、次の人も同じことをする人を生んでします。加害者にも被害者にも傍観者にもなってほしくありません」

参加者との質疑応答(要旨)

質問 少子化は日本にとって問題か?何が原因か?

(上野氏)女性が子を産むか生まないかを自由に決められる時代になったことは良いことです。「子を生まない女性は欠陥品」という時代は終わりました。少子化が誰の問題というと、人口が減ると経済力が落ちるという財界・政界のおじさんの問題なんです。

人口を増やすのは「自然増」と「社会増」の二つ。「自然増」はこのままでは難しく、「社会増」は移民を受け入れるということ。アメリカを初め、全世界がこれをやっている。日本は移民がたったの3%。その少ない移民に対し、高市政権は門戸を閉じようとしている。

また「日本人ファースト」が大きな支持率を得ているのが日本の現状。このままいくと日本はジリ貧になる。排外主義が起こり、高市政権は門戸を閉じようとしています。このままいくと日本はじり貧になる。高市政権になってから円安傾向。これは、外国人にとって魅力のない市場となるということ。中国には将来、こう言われるでしょう。「日本って、20世紀にしばらくの間だけ栄えた極東にあった国ですよね」。こうなるかならないかは、次世代を担う皆さん次第です。

質問 女子への投資は還元が見込めないということであったが、それは女性の搾取になるか

(上野氏)女子の高学歴はフェミニズムというより、少子化の影響です。男女両方の子がいたら傾斜配分されるでしょう。今は一人っ子が多いので、娘しかいない場合、娘にも教育投資している傾向があります。社会にはさまざまなコストをしはらいながら頑張っている情勢がいますが、こんなことやってられない、下の世代のロールモデルにはなりません。とはいえ、過去から比べれば選択肢は広がっています。広げたのは、前を歩いて行った女性なのである。

質問 新たに家を探す際に、不動産屋さんから「部屋の写真をご両親に送る時に、こんなおじさんと一緒に写っていたら、付き合ってると思われてしまうから、写らないほうがいいね」など下品な冗談を言われた。こんなときにはどうしたらいいか。

(上野氏)下品なギャグに対しては、日本語がわからないふりをしたらどう?それはさておき、飲み込まない、ないことにしないことが大事です。NHK朝ドラ「虎に翼」では主人公がいちいち「はて?」と言って「今のは何ですか?」と異を唱えていました。いちいち異を立てる、「私には通じませんよ」ということをきちんと伝えることです。あなたは嫌な思いをしたかもしれないが、相手にわからせることで、「次回は気をつける必要がある」ということを男性にわからせることができます。

上野千鶴子(うえの・ちずこ)社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長・一般財団法人上野千鶴子基金理事長。WANでは、森崎和江「無名通信」、山崎朋子「アジア女性交流史」、石牟礼道子「高群逸枝雑誌」のデータのダウンロードを無料で提供している。https://wan.or.jp/

京都大学大学院社会学博士課程修了。社会学博士。専門は女性学、ジェンダー研究。高齢者の介護とケアも研究テーマとしている。『家父長と資本制』『こんな世の中にだれがした』『おひとりさまの老後』『ケアの社会学』『女ぎらい ニッポンのミソジニー』など著書多数。近刊に『女の子はどう生きるか、教えて!上野先生』『在宅ひとり死のススメ』『フェミニズムがひらいた道』『上野千鶴子がもっと文学を社会学する』。

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