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【槍弓】おまえは頭がおかしい(軍パロ)/Novel by S野

【槍弓】おまえは頭がおかしい(軍パロ)

5,952 character(s)11 mins

趣味に走った軍パロ槍弓?です。狙撃手の弓と観測手の槍。明度低め。
ものすっごいふわっとした曖昧な設定と知識で書きたいところを書いた話です。そのうちぼちぼち続きをかけたらいいね…。
表紙はillust/51034251からお借りしました。

あっ誕生日が云々あたりは某骨学者とFBI捜査官のドラマのネタパロ?拝借?です。元軍人捜査官はいいぞ…

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 おまえは頭がおかしい。
 そう言われたことは一度や二度ではない。警官をやめ軍に入隊してからというもの、行く先々で言われ続けている言葉だ。正直なところ、なぜそう言われるのか私はいまだ理解していない。

 スコープを覗く。2km先で行われている祭典がよく見えた。その光景だけを切り取れば、平和な世界だ。晴れやかな空に祝砲が響いている。豪勢な食事と管楽器を吹き鳴らす楽団、派手に着飾った上層階級の人間たち。それらすべてを牛耳る男と、その息子。今日は息子の七歳の誕生日で、親子共々幸せそうに笑っている。今は、まだ。ボルトハンドルを後方に引く。観測手が距離と風速、それに風向きを告げた。頭を狙え、と囁かれる。隣の観測手の声ではない。それだけはわかっていた。引き金を引く瞬間、いつも誰かが私に囁く。頭を狙え。低く、柔らかな声。
 それは間違いなく愚策だった。本来狙撃手が狙うべきは上半身だ。重要な臓器は、ほとんどが上半身に収まっている。わざわざ的が小さい頭を狙わずとも、狙撃ライフルの弾が上半身のどこかに当たれば大抵は死ぬだろう。ましてや、この距離。武器は対物ライフルだ。確率の低い手段をとる必要はどこにもなかった。だというのに、声は変わらず聞こえてくる。頭を狙え。

 頭をふきとばせと? 頭を狙え。今日、七歳になったばかりの子供の前でか。頭を狙え。せめて、顔ぐらいは残してやるべきじゃないのか。頭を狙え。あの子が今後思い出すのは、顔のない父親になるんだぞ。頭を狙え。父親に罪はあるが、子供にはないだろうに。頭を狙え。頭を狙え。頭を狙え。頭を。

 耐えきれず引き金を引く。祝砲に紛れて、対物ライフルの発砲音が響いた。弾は一分の狂いもなく、目標の頭を打ち砕く。私は結局、声に従っていた。ああ。きっと、こういうところだ。こういうところが、頭がおかしいと言われる所以なのだろう。


「ヒット」
「さすがだな」
 観測手ーーランサーが口笛を吹く。さあ移動だと肩を叩かれるが、私はまだスコープの先を覗いていた。幸せな誕生日パーティーを過ごすはずだった子供が、頭を撃ち抜かれた父親に駆け寄る。悲鳴は聞こえない。この距離だ、聞こえるわけがない。けれどなぜか、子供の甲高い泣き声が耳に届いた気がした。

 父親は圧政を敷く独裁者だった。民族浄化などと口にして、女子供も関係なしに皆殺しにした男でもある。それも三度だ。四度目はあってはならなかった。軍の命令を間違いだとは思わない。これは取るべき手段だった。些細な情で流されれば、最悪の結果を招く。私はそれを知っている。
 だが、息子はそれを知らなかっただろう。そういう世界で育ったのだから。少年にとって独裁者は、たった一人の父親だった。それが今、私の手によって頭のない肉塊に成り下がっている。彼にとって世界で一番幸福だった場所は、一瞬で地獄に塗り替えられた。

 プルル。

 電子音が響く。父親からの電話だと気がついて、私はようやくスコープから顔を上げた。腹這いの状態から起き上がり、慌てて懐から携帯を取り出す。ふと、撤退の準備をしているランサーの視線を感じた。何かを言いたそうな顔でこちらを見ている。が、あえて気づかないふりをした。戦場で、しかも作戦中に身内の電話に出るなどありえないことだ。それはわかっている。けれど、私にはどうしてもこの電話を無視できない。携帯を耳に当てると、ランサーは肩をすくめて私の代わりに狙撃ライフルを解体し始めた。

「……もしもし。ああ、大丈夫だ。うまくやったよ」
 父親の電話は、いつも標的を撃ち終えた後にかかってくる。どこからか見ているのではないかと疑いたくなるほどのタイミングだ。故郷から遠く離れたこの地で、そんなことはありえないが。

 元気でやっているか。仲間とはうまくやれているか。人に小言を言いすぎていないか。頭を狙ったのか。食事は取れているか。たまには帰ってきたらどうだ。心配そうな彼の言葉に、相槌をうつ。彼と私に血の繋がりはないが、こういうやりとりは実の親子がするものときっと変わらない。

「おい、いい加減行くぞ」
 ランサーが肩を叩いて急かす。彼の足元には、すでにケースに収められた狙撃ライフルがあった。ランサーの判断は正しい。標的を仕留めるまでいつまでも待ち続けるのは狙撃手としてよくある話だが、仕留めた狙撃手が留まり続けるという話は聞いたことがない。標的を仕留めたのに捕まって殺されたのでは、任務成功とはいえないだろう。

「じゃあじいさん、また」
 適当に会話を区切り、電話を切る。携帯をしまおうとしたところで、ランサーが妙な顔をしていることに気がついた。
「なんだ」
「……おまえさんの携帯、随分古いのな。変えねぇの?」
「じいさんはこの携帯の番号しか知らないからな」
 手に持った携帯を眺める。ランサーの言う通り、携帯はずいぶんと古い。型式の問題だけではなかった。一度ひどく地面に叩きつけられてしまったために、フレームが欠けているわ液晶にヒビが入っているわで酷い有様だ。けれど今のところ、これといった不自由はなかった。どこにいても父親からの電話をきちんと受信してくれる。さすがにこの携帯でメールを打つのは困難だろうが、これは父親からの電話専用だ。今は任務中のため持ち歩いてはいないが、自分用の携帯は最新の型式にしてあった。回答に納得がいかないのか、ランサーはまだ携帯から視線を外さない。

「なんだね。私の私生活に興味があるのか?」
 不躾な視線から逃がすように、携帯を懐へしまい直す。皮肉を口にしてから、後悔する。そもそも任務中に私物を取り出す私が悪いのだ。あまつさえ、それを使用して身内とたわいもない会話をするなど。緊張感がないにもほどがある。今のは彼なりの警告だろう。

 ランサーが口を開く。が、何を言うでもなくそれを閉じた。かぶりを振って、彼は手にしたアサルトライフルを構え直す。
「……別に」
 ランサーは、ただそれだけを口にした。


Comments

  • January 7, 2023
  • 唯葉

    オチでゾッとしました…素晴らしい

    March 4, 2019
  • ツキ影
    May 20, 2018
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