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エミヤがアルトリアに御呼ばれして第四次にお邪魔しました/Novel by 【土気色堂】デンスケ

エミヤがアルトリアに御呼ばれして第四次にお邪魔しました

15,399 character(s)30 mins

第五次経験後のセイバーが第四次聖杯戦争当時の平行世界で再び衛宮切嗣に召還され、やってられるかとエクスかリバーの鞘を触媒にエミヤを召還する。そんなお話です。
・被お気に入り登録700人目の方から頂いたリクエスト、アルトリアがエミヤを召還です。大体3話~4話くらいで完結すると思いますが、お付き合いください。・タグ弄りありがとうございます。このSSはすっとセイバーのターンだと思うw
・5/31 小説デイリーランキングで2位を頂きました! ありがとうございますっ!
・6/4 小説ウィークリーランキングで11位を頂きました! 6/5 同ランキングでなんと1位を頂きました! 6/6 同ランキングで6位を頂きました。重ね重ね本当にありがとうございます!
・遅くなりましたがタグ弄りありがとうございます! 新説で歴史が変わる!? 彼は皆に愉悦を与えてくれる存在です

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 何が失敗だったのかと聞かれれば、不意に聞えた懐かしい声に気がついてしまった事だろう。
「……なんでさ」
 召喚に応え現界したエミヤの第一声は、お決まりの「君が私のマスターか?」ではなく、生前の口癖だった。
 何故なら……。
「サーヴァントがサーヴァントを召喚だって?」
 唖然とした表情をした彼の記憶とは幾分若い印象の養父、衛宮切嗣。
「キャスターならあり得る話だけど、でもセイバークラスで現界したアーサー王が召喚なんて……っ!」
 驚いている様子の、イリヤに似た印象の女性。その特徴から、アインツベルンのホムンクルスだと一目で解る。
「ああシロウっ! 良くぞ私の召喚に応えてくれましたっ! それでこそ正義の味方です!」
 そして何より瞳を歓喜と安堵に輝かせているセイバー、アルトリア・ペンドラゴン。しかもその手には何の間違いか、令呪が刻まれている。
 シロウに理解できたのは自分がセイバーに召喚された事と彼女が第五次聖杯戦争の記憶を持っている事、ここが第五次聖杯戦争時の十年前に行われたという、第四次聖杯戦争当時の平行世界である事だけだった。
「とりあえずセイバー、君が私のマスターである事には納得しよう。だから説明してくれないな?」
 それで制約が結ばれたのか、エミヤの回線がセイバーに繋がる。
 その後、契約だけ済ませたらサーヴァントをアイリに任せてその場を辞そうと思っていた衛宮切嗣も説明を欲していたのは同じだったので、急遽説明会が行われる事になったのだった。


 アイリスフィールが紅茶を淹れてくれるの待つ間、セイバーを除いた男二人にとって、アインツベルン城の一室は優美な内装や装飾でも払拭できないほど息苦しい空間と化していた。
 エミヤからしてみれば、聖杯を望んでもいないのに召喚に答えてしまった事自体が失敗なのに、彼を召喚したセイバーは第五次の記憶を持ち、しかも自分をシロウシロウと呼んで今も彼の隣に座っている。彼女に「私は君の知るシロウでは無い」と言いたい所だが、あの口癖を言ってしまった上にエミヤには何故かあの未熟者の記憶もあった。
 あの未熟者が聖杯戦争の後エミヤとは違う成り立ちの仕方で英霊に至ったためか、それともエミヤが平行世界に召喚されたためか、複数の世界の衛宮士郎の記憶がエミヤの中には存在している。それで尚セイバーとは何の関係も無いと言い切れるほど、エミヤの面の皮は厚くなかった。
 そして先程からずっと、養父で憧れのヒーローだった衛宮切嗣がエミヤを胡散臭い者を見る目でじっと見ている。しかも彼の正面に据わる事をセイバーが嫌がったため、必然的にエミヤは切嗣の正面に腰掛けているので……あからさまに顔を逸らさないと、嫌でも彼のハイライトの無い目が視界に映る。
 だが、息苦しいのは衛宮切嗣にとっても同じ事だった。
 彼にしてみれば、セイバーが少女の姿で現界した事自体がイレギュラーだった。しかし、年端も行かない少女を王に祭り上げたセイバーの周囲の人間と、それを良しとした彼女自身に対する苛立ちや怒り。そこから彼女を理解しようとする事を諦めてしまえば済むだけの問題だ。ただでさえ英霊を嫌悪していた彼は、セイバーと長々と話をするつもりは無く大まかな方針を伝えた後はアイリに任せるつもりだったのだから。
 しかし、エミヤの存在は完全なイレギュラーである。魔術師でもないセイバーの、召喚の呪文を唱えただけの儀式で召喚された正体不明の英霊。
 触媒にはそのままエクスカリバーの鞘が使われたようだし、アーサー王由来の英霊と考えるべきだろうが……シロウなんて名前の円卓の騎士はもちろんいない。名前からして日本人だろうが、日本出身でアーサー王に縁のある英霊に切嗣は思い至らなかった。
 しかも、見ている限り二人の関係は王と騎士のそれではない。もっと親密な……男女の仲だと切嗣は見て取った。
『アーサー王と男女の仲だとすると……まさかあれがギネヴィア王妃か!? アーサー王が少女だったのだから、ギネヴィア王妃が白髪に浅黒い肌の青年だったとしても不思議は……いや、それだとランスロットは彼と不義密通をした事に成るな。まさかランスロットもアーサー王と同じで性別を偽っていたのか? かの騎士は変装が得意だったと聞くから、実は男装した女性だったとしても……それに、あのシロウと言う英霊のセイバーに対する態度には、躊躇いや躊躇が見られる。それがセイバーを一度裏切った事への後ろめたさから来たものだとしたら……』
 っと、衛宮切嗣の中ではエミヤ=ギネヴィア説と言うとんでもない仮説が真面目に検討されていた。彼がエミヤにギネヴィア王妃らしさを探そうとする視線の意味を正確に察しなかった事は、エミヤに残された最後の幸運だったかもしれない。
 そしてセイバーは、今回は彼女も衛宮切嗣と会話するつもりが無い上にエミヤしか見ていないのでこの重苦しい空気を変えるどころか、気がついても居ない様子だった。
「お茶が入ったわ。セイバーとそちらの……シロウさん? 砂糖やレモンは居るかしら?」
 そこにお茶を淹れたアイリスフィールがやってきてくれた。空気が変わる気配に、魔術師殺しと錬鉄の英霊がほっと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございますアイリ。また貴女のお茶を飲む事が出来るとは、感激です」
「そ、そう?」
 初めて淹れたはずだけどと目を瞬かせるアイリから嬉しそうにティーカップを受け取ったセイバーは、「そうですとも」と今にも彼女の手を取ってハグでもしそうな様子だ。
『どうやら爺さんは兎も角、彼女との関係は良好だったようだな』
『何故まだ会ったばかりなのにセイバーはアイリにそんな好意的に? まさか僕の奥さんを僕の前で口説いているのか!?』
 男共の様々な思いを他所に、セイバーは紅茶の香りを楽しんだ後おもむろに「では、順序だって説明しましょう」と口を開いた。
「セイバー、まず彼は何者なのか――」
「シロウ、聖杯を手にする事を諦めた私が何故ここに居るのかと言うとですね……」
 早速エミヤについてセイバーを問いただそうとした切嗣の声をガン無視して、セイバーはエミヤに対しての説明を始めた。目に見えて苛立った様子の養父にエミヤのこめかみから汗が一筋流れるが、セイバーは意地でも彼と話したくないらしい。
「ちょっとした勘違いが原因なのです。座で眠っていたら、聞き覚えのある声がしてつい……そしたら聞き覚えがあるどころか切嗣が立っていて……ううっ、よりにもよってこの男のサーヴァントにまたなってしまったんです!」
「セイバー、君が不本意なのは解るがもう少し抑えてくれないか?」
「抑えられませんっ! どうせ今回も元から英霊の在り方を嫌悪していて、しかも私が女だった事に『少女を王に担ぎ上げた当時の人々と、それで良しとした私』に苛立ちや怒りを感じて、理解する事を諦めているに違いありませんっ!」
 控えめにエミヤが宥めようとするが、切嗣と再会した事でぶり返したセイバーの鬱憤を晴らすには力不足だったようだ。
 セイバーに指を付き付けられた切嗣は、細部は異なっても大体自分の心情を言い当てられた事で心を読まれたかと驚いた。しかし、同時に「どうせ今回も」と言うセイバーの奇妙な言動を聞き逃してはいなかった。
 まるで既に経験したかのようなセイバーの言葉を、どういう意味だと訝しく感じる切嗣の肩にアイリがそっと手を添えた。
「アイリ?」
 君も気が付いたのかと切嗣がアイリを見ると、彼の妻は頷いた。
「大丈夫よ切嗣。セイバーだけじゃなくて、私もあなたの事を分かっているから。貴方が英霊を嫌いな理由、ちゃんと分かってる」
「……ありがとうアイリ」
 私だって切嗣の事分かってるもん。そんなアイリの言葉は嬉しいし頼もしいけれど、この謎の答えにはならない。
 そんな夫婦の一幕を他所に、セイバーのエミヤに対する説明は続いていた。
「衛宮切嗣は卑怯にも茫然自失になっていた私が我に帰る前に制約を済ませてしまったのです。これではもう聖杯戦争から逃れる事は出来ません。しかも契約が成立した以上、『我が傀儡に』とか令呪使用時でもこの人に攻撃されるのは最早確定事項も同然!」
「……あんた、女の子には優しくしろって言ってなかったか?」
 思わず生前の口調で胡乱気な視線を切嗣に走らせるエミヤだったが、向けられた方は「何の話をしているんだ」としか言えない。「確かに我ながら言いそうだ」とは思っても、彼にとっては未来の出来事なのだから。
「私だけではもうあの地獄のように辛い聖杯戦争に耐える事はできませんっ! シロウのご飯も無いのにっ、シロウのご飯も無いのにっ、大事な事なので二回言いましたっ!」
「まさか君は食事目当てで私を召喚したのか!?」
「それもありますが、このコミュ障マスターと聖杯戦争にもう一度挑むなんて真っ平ゴメンと思ったとき私は閃きました! 味方が居ないのなら呼べば良いのだと!
 幸いもう召喚陣は描かれていましたし、何よりここには私のエクスカリバーの鞘があります。後は呪文を唱えれば、きっと貴方は来てくれると信じていました!」
「……それで私はまんまと召喚された訳か」
 エクスカリバーの鞘はエミヤの体内に十年以上存在したのだから、セイバーだけでは無くエミヤの聖遺物としても使える。何より、召喚者が彼女なら応えないわけにはいかない。
 こうしてエミヤは現界したのだった。
「まあ、こうして召喚に応えた以上君に協力する事に異論は無いが――」
「シロウ、先程から気にはなっていたのですが貴方の言動が妙に他人行儀な気がするのですが?」
「……私をシロウと呼ぶのを止めてくれないかセイバー」
「なっ、何故ですかっ!? まさか『君の知るシロウと私は別人だ』なんて言い出すつもりですかっ?」
「その通りだ。分かってくれて嬉しい。以後、私の事はクラス名で――」
「そんな!? 貴方はあの夜の事を忘れたというのですか!? 私を過去の女だとでも言うつもりですかっ!?」
「だからその夜を君と過ごした私と今いる私は別人だと言っているのだっ!」
 記憶はあるけど。しかし、彼の主観としてセイバーにシロウと同じように接するのにはかなりの抵抗があるのだった。
 それには色々と複雑なような単純なような、一言では言えない事情が在るのだが……悲しいかな端から見ている限り、ただの痴話喧嘩でしかなかった。
「大事なお話の途中だけど、私達にも説明してもらえると助かるのだけど良いかしら?」
「っ、もちろんですアイリ」
 エミヤを筋力Bを無意識に活かして揺すぶっていたセイバーは、「何故かは分からないけどセイバーは切嗣が嫌いみたいだから私が」と口を挟んだアイリによって我に返った。
『助かった』
 奇しくもこの瞬間、義理の親子が同じ事を考えたのは言うまでも無い。
「それで彼は……?」
「私はセイバーに召喚されたサーヴァントだ」
 視線を向けられたエミヤは、揺すぶられて乱れた衣服と髪をさっと整えて応えた。
「クラスはキャスター。サーヴァントのサーヴァントと言う立場だが、その事には不満は無い」
「キャスターっ!? では今回はあの私を聖処女呼ばわりする男は不参加なのですね! ああシロウ、貴方は私の召喚に応えたばかりで無く、既に私を助けてくれていたんですねっ!」
「……セイバー、君が喜んでくれて私も嬉しいが話の腰を折らないでくれないか」
 また「今回」か。そう胸中で呟きつつ、切嗣はエミヤに向って話しかけた。セイバーには何を言っても返事をしてくれないので、作戦を変える事にしたのだ。
「それで、君の真名は? アーサー王と縁のある魔術師といえばマーリンぐらいしか僕には思いつかないが……彼がアーサー王と男女の仲だったとは思えないからね。
 それに、君がギネヴィア王妃やアーサー王お抱えのコックだったとも思えない」
「私はそんな偉大な魔術師では無いし、見ての通り男だ。彼女に料理を振舞った事までは否定しないがね、衛宮切嗣」
 反射的に何か言い返そうとしたセイバーの口を押さえて、エミヤは答えた。
「私はアーサー王の伝説には登場していない。それに、私の真名を聞く事に意味は無い」
「それはどう言う事だ?」
「私は未来の英――」
「ぷはっ! 彼の真名は衛宮士郎、あなたの息子です切嗣」
 未来の英霊だから真名を聞く意味は無いと言おうとしたエミヤの手を掻い潜って、セイバーは彼が伏せようとしたエミヤの真名を暴露してしまった。
「な、何故このタイミングで暴露するっ!?」
 今の切嗣にいきなり真実を伝えた所で、信用してはもらえないだろう。そう思ってとりあえず伏せておこうと思った真実をいきなりセイバーに暴露されたエミヤが食って掛かるが、逆にセイバーはエミヤに食って掛かり返す。
「このタイミングしか無いからに決まってるじゃないですかっ! 良いですかシロウっ、切嗣は冬木市に入った後は私達の事をアイリスフィールに任せて、自分は殆ど単独行動する腹積もりなんですよっ! この男は私達と信頼関係を築くつもりなんて毛頭無いんですっ!」
「なに!? 確かに以前直接言葉を交わしたのは三度だけだと言っていたがそこまでか……しかし、信用されなければ幾ら真実を話したところで無駄になるだろう!」
「それは大丈夫ですっ、有無を言わせぬ証拠を見せれば済むだけの話ですから」
「君達は、さっきから何を馬鹿な事を言っているんだ?」
 エミヤとセイバーの口論を、置いてきぼりにたまりかねた切嗣が語気に力を込めて遮る。その切嗣の目をみたエミヤは確信を抱かざる負えなかった。
 ダメだこの男、私達を信じるとか信用するとかそんなつもりが毛頭無い。自分とセイバーを見る彼の眼は、完全に駒や道具を見る物のそれだった。
 あの養父とはまるっきり別人のように見える。本当に別人だったらどれ程良かったか。一体彼の過去に何があってこうなったのか、そしてこうなった彼が聖杯戦争でどんな悲劇を経てあの養父になったのか。
「キャスター、君が未来の英霊である事は納得しよう。聖杯のシステム上、未来の英霊も召喚可能なのは君達が怒鳴りあっている間にアイリに確認した」
 余程驚いたのか心なしか青ざめた顔のアイリが切嗣に頷く。
「だが、君が僕の息子だとは思えない。それにセイバー、君のまるで僕の心情やこれから取る行動を決め付けるのはどう言う訳かな?」
 「大体当たっているし、いかにも僕がやりそうな事だとは思うが」とは言わない切嗣。セイバーの言動を注意深く観察していた彼は、彼女がまるで既に一度自分のサーヴァントとして聖杯戦争を経験したかのような物言いをしている事に気がついていた。
 だが衛宮切嗣それを額面通りに信じるような男ではなかった。セイバーが彼の事を知っているように話せるのは、神がかり的な洞察力や直観力のお陰。エミヤの言動は、恐らくアイリがお茶を淹れるのを待っている間に念話で口裏を合わせただけ。そしてセイバーとキャスターが知り合いなのは、恐らく過去の聖杯戦争で知り合っただけ。彼はそう断じていた。
 セイバーに未来を予知するようなスキルや逸話が在れば、彼ももう少し信じるつもりになったかもしれないが。
 しかし切嗣の言葉にもセイバーは動じない。エミヤに「まあ見ていてください」と微笑みかけると、堂々と彼に向かい合う。
「切嗣、私はあなたの行動や心情を決め付けている訳ではありません。私は知っているのです、あなたが私を第四次聖杯戦争でどう扱うのかを。
 私は既に一度第四次聖杯戦争を戦っていますので」
「何を馬鹿な事を――」
「更に言うなら、十年後に起きる第五次聖杯戦争も既に経験しています。マスターはこのシロウです」
「信じがたいとは思うが、そう言う事だ」
 観念してセイバーを援護する側にエミヤも回るが、切嗣が二人に向ける疑いのまなざしは薄くなるどころか濃くなるばかりだ。
「では切嗣、私が第四次と第五次の聖杯戦争を既に経験したという証拠を見せましょう」
 本当に大丈夫かと案じるエミヤと、証拠があるなら見せてみろと言わんばかりの切嗣の前でセイバーはそれを精製した。
「宝具だってっ?」
「セイバー、何をするつもりなの?」
 声に緊迫感がこもる切嗣とアイリとは違い、エミヤはなるほどと納得していた。確かに、あれは動かぬ証拠になり得る。
「これが証拠です、切嗣」
 【風王結界(インヴィジブル・エア)】を解いた【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】。しかし、その刀身を切嗣達は見る事が出来なかった。何故なら、本来ならあるはずの無い物が聖剣の刀身を収めていたからだ。
「……【全て遠き理想郷(アヴァロン)】だとっ!?」
 そこには、セイバーたるアルトリアが生前最後の戦いの前に失い、そして遙かな時を経てアハト老の手の者が発見しアインツベルンに齎された聖剣の鞘があった。
 そんな馬鹿なとアイリを振り返る切嗣。セイバーの鞘は概念武装にしてアイリの体内にあるはずだ。視線を受けたアイリも、困惑した様子で自身の身体を抱いている。
「なるほど、最初は切嗣では無くアイリが持っていたのですか。確かに、思い返せばそれらしい出来事もありました。少し見直しましたよ、切嗣」
「そんな事はいい。何故、【全て遠き理想郷】が二つあるんだ!?」
 視線の意味を読まれた事の動揺を飲み込んで、セイバーの聖剣を納める鞘を睨み付けた。
 宝具は、基本的に唯一無二。特に【全て遠き理想郷】のようなアーサー王固有の宝具なら尚更だ。それが二つ、それも伝説では鞘を失ったはずのセイバーの手にある。
「第五次聖杯戦争において、私がセイバーに返還した。その後彼女が再び君に召喚されたのなら、彼女の手に鞘があるのは当然だ」
「あなたが? じゃあ、あなたは本当に切嗣の……」
 アイリが何か納得するように頷いて、エミヤを見つめる。切嗣もこの動かぬ証拠に、セイバー達の言葉を否定しきる事はできない様子だった。
「なるほど……確かに、君達が第四次と第五次の聖敗戦争を経験した事は事実のようだ。
 だが、それはこことは違う平行世界での聖杯戦争に過ぎない」
 しかしと言うべきか、やはりと言うべきか、切嗣に自分達を信用させるには至らなかった。
「二つと無いはずの宝具が同時に二つ存在している事がその証拠だ。セイバー、君は未来から召喚された英霊じゃない。君とキャスターは平行世界から召喚された英霊だ。
 確かに第四次聖杯戦争を経験したと言う君の経験や知識は有用だが、それはあくまでも平行世界の出来事だ。君の言葉だけを頼りにする訳には行かないな」
 切嗣の言葉になるほどそう言う解釈の仕方も在るかと納得しつつも、十年前の義父の面倒さにエミヤは眉間を押さえて首を振った。見ると、セイバーもため息を付いている。
 そして二人は念話で言葉を交わすまでも無く、同じ事を考えた。「現時点で聖杯が汚染されている事を話しても、アイリは兎も角切嗣は『それは平行世界での話しだ』と聞く耳を持たない」と。
 セイバー、ここは私と君の案の折衷案で行こう。分かりましたシロウ。二人の英霊は一秒にも満たないアイコンタクトで今後の方針を決めた。
「僕としては複数のサーヴァントを持つ事は、歓迎できる。特に穴熊を決め込まれると厄介なキャスターが味方になってくれるのなら尚更ね」
 一方切嗣は自身の中にある英霊への嫌悪感と諸々の事情を図りにかけ、若干後者を取る事にした。セイバーとエミヤの言動から、平行世界の自分が限りなく自分に近い存在だと察したからだ。それはつまり、「所詮は他人」と平行世界の自分を軽んじれば、自分も同じ失敗を……聖杯を手に入れ理想を叶えるどころか次の聖杯戦争の開始を許すはめになると言う事だ。
「だが、僕達が考えていた作戦にとって君は想定外の要素だ。まずは君をどうすれば活かせるか作戦を練り直す必要がある」
 第五次聖杯戦争の開始。それはつまり切嗣がアイリを喪い、その上イリヤを聖杯の器にしてしまうと言う事を意味する。キャスターが切嗣の息子なら、彼自身の命は少なくとも第四次聖杯戦争終了後もあるだろう。だが、そんな事は何の慰めにも成らない。
「だから君の得意な魔術や戦い方、宝具、そして平行世界の第四次聖杯戦争について知っている情報を全て僕に話してくれないか?」
 だから、セイバー達が知る平行世界の情報を知る必要がある。その上で既に集めてある情報との共通点や差異を分析して、必ず第四次聖杯戦争を勝ち抜く作戦を考えなければならない。
 そのためには、当初の作戦通りセイバーとキャスターをアイリに任せるだけじゃダメだ。僕からも歩み寄っているように見せ、彼女達の口を開かせなければ成らない。令呪で強制的に話させるような暴挙に出れば、キャスターは兎も角セイバーは必ず僕を裏切る。それにここで三角しかない令呪を浪費する訳には行かないのだから。
 だからまずは確実に僕を嫌っているセイバーでは無く、キャスターだ、まずは彼から懐柔しなくては成らない。
 冷徹な打算によって動く切嗣の笑顔は、皮肉な事にエミヤの知る養父の笑顔と同じ物を浮かべていた。

Comments

  • M

    一見二人が受難かと思いきや全然強かで笑ってしまいました。ゼロは感想や二次創作を見てただけで履修していなかったですが切嗣頑固な上に中々に酷い態度だな。2回目の2人のお陰で最早ギャグにしか見えませんけどwww

    March 30, 2024
  • 【土気色堂】デンスケAuthor

    修正しました。誤字報告ありがとうございます。>BadWolfさん

    June 2, 2012
  • JohnDoe

    「だからその夜を君と過ごした私と今いる私は別人だと言っているだっ!」 → 「だからその夜を君と過ごした私と今いる私は別人だと言っているのだっ!」

    June 2, 2012
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