2026年3月9日(月)

【岸本加世子 我が道9】幸せな気持ちに…向田先生「台本は役者が書かせるのよ」

[ 2025年11月9日 07:00 ]

パリの岸惠子さんのお宅にお邪魔した思い出ショット。エッフェル塔が望める素敵なお部屋でした

 「源氏物語」に続いて「あ・うん」にも起用されてご縁が深まった向田邦子先生には「こんなに良くしてもらって…」と恐縮するくらい可愛がっていただきました。

 東京・赤坂に向田先生の妹の和子さんが開いた「ままや」という小料理屋さんがありました。「あ・うん」の収録終わりに、よく共演の皆さんや演出の深町幸男さんたちと伺ったものです。

 向田先生は必ず私を隣に座らせ、お刺し身を取ってくださったり、煮魚をほぐして「はい、これを食べなさい」「あれを食べなさい」と何かと世話を焼いてくださいました。

 取材旅行に出かけたアフリカから帰ってきた時は、くしゃくしゃの英字新聞をぐっと私の手に握らせました。開いてみると、オレンジ色のサンゴが付いた指輪が出てきました。お土産に買ってきてくださったんです。

 「あ・うん」の後にはTBS「幸福」というドラマにも呼んでいただきました。向田先生書き下ろしの連続ドラマで、1980年7月25日から10月17日まで放送。竹脇無我さんが主演で、年の離れた妹を私が演じました。

 鉄工所に勤める兄(竹脇さん)と2人の女性の恋模様。岸惠子さんと中田喜子さんの間で揺れる兄の姿が描かれました。結婚を前提にお付き合いが始まり、同居することになったのが中田さん。運ばれてきた荷物を見て、むかつく妹…。

 荷物の中に人間の形をしたマネキンがありました。仮縫いした洋服を着せるトルソーみたいなものです。「何で、この女がうちに入ってくるんだ」と文句を言いながら、そのトルソーのおっぱいの部分を包丁でえぐるシーンがありました。他にもチューインガムをかみながら逆立ちして、それをのみ込んじゃう場面も…。ドラマはしっとりとした男と女の愛憎劇なのに私だけに素(す)っ頓狂(とんきょう)なシーンが用意されている。

 ある時、向田先生に「あのー、どうして私だけ突飛(とっぴ)なシーンが多いんですか?」と尋ねてみました。すると先生は笑いながら「台本は役者が書かせるのよ」とおっしゃったんです。おっぱいをえぐったり、チューインガムをのみ込んだり…そんなことを私がやりそうだと、先生にはそう見えたのでしょう。先生の愛情のようなものを感じて、幸せな気持ちになりました。

 ドラマでご一緒した岸惠子さんにもとても良くしていただきました。言うまでもなく日本を代表する大女優ですが、こんな思い出があります。フランスのパリにお住まいだった岸さん。「パリに行きたい」と言うと「白米を持ってきてくれたら泊めてあげるわよ」とおっしゃる。

 パリまで5キロのお米を持って行くと、「本当に持ってきたの~!」と岸さんは笑ってらっしゃいましたが、重かった…。でも、窓からエッフェル塔が見える素敵なお部屋に泊めていただき、忘れられない楽しい時間を過ごしました。

 ◇岸本 加世子(きしもと・かよこ)1960年(昭35)12月29日生まれ、静岡県島田市出身の64歳。77年、テレビドラマ「ムー」で女優デビュー。以降、テレビ、舞台、映画、CMなどで幅広く活躍。ドラマ「あ・うん」、舞台「雪まろげ」、北野武監督の映画「HANA―BI」「菊次郎の夏」など代表作多数。著書に小説「出てった女」、エッセー「一途」など。

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