ほかほかケルトご飯
FGO時空の無自覚槍弓で弓をスカサハとフェルグスがロックオンする話、心の広い人向け/フェルエミとか影師弟で弓を愛でるのもすごくおいしいと思います
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食事の文化の違いとは厚いもので、その土地でどれほど美味とされるものでも別の国ではとても食べられないものだったりする。
料理も国を違えば、土地が違えば、時代が違えば、あらゆる方法に分かれ人類が積み上げてきた歴史として数え切れないものがある。
まさにカルデアにはあらゆる国のあらゆる時代の英霊と技術士が在籍しているため、気を使えばきりがないほどそれぞれの主としている食文化は違っていた。
正常な時ならば口別に配慮されていた食事も緊急時の今はそうはいかない、物資も人手も何もかもがギリギリの現状では統一するしかならないのだ。
しかし冒頭の通りどんな美味と所変われば違うもの、それが毎日取らざるを得ない食事に関わるとあって、これから増加するであろうカルデアのストレス値にドクターが頭を痛めていた時もあった。
しかしそれもとあるサーヴァントが召喚されるまでの話、今はそんなこともあったなぁと笑い話の域である。
そのとあるサーヴァントこと、英霊エミヤが作った本日のメニュー・オケアノスの魚を使った焼き魚定食をもっひもっひと食べていたランサーは顔をぐたぐたに緩ませ、ほぅ…と美味の息をついた。
「文化の違いってもんがあると思ったんだがなー…いやぁうまいわ」
「君やカルデアの職員の口にあってよかったよ。最初はどうなることかと思ったが、私のしがない特技が役に立ってなによりだ」
「なぁにがしがない特技だ、一発目で全員の胃袋掴んでおいて言うセリフとは思えねぇな。今じゃお前がキッチンを離れるっつったら暴動が起きるぜ」
茶碗の中には米という白い穀物を炊いたものがよそわれている。時代や分布地域を照らし合わせてもかなり世界に広く根付いた穀物の一種だが、ここで食べたのが初めてという者は確かにいた。クーフーリンもそのひとりなのだが、エミヤの米が輝くほどの炊く技術とつい米が欲しくなるうまいおかずのおかげで、最初はなんだこのベチャベチャしたのとバカにしていたのが嘘のように、すっかり気に入ってしまっている。
茶碗の米がなくなる度さりげなく新しい分をよそわれる幸せな食の無限機関、これが腹がいっぱいになってきた頃にはぴたりと止んでくれるのだからエミヤはきっと超能力者かなにかなのだろう。
何回目かのおかわりをよそって茶碗を返したアーチャーはエプロンをたたんでランサーの前に座ると、組んだ指の上に顎を載せて気持ちがいいほどの食いっぷりを眺めた。
「そう言ってくれるのは有難い限りだ。取り急ぎ最も自信のある日本の料理で誤魔化してしまっているが、ゆくゆくはそれぞれの好物が作れるようになりたい。こんな環境だ、少しでもストレスの緩和に役立ちたいのでね」
「そうか、じゃあ一番に俺の国の料理作ってくれや!」
「……アイルランド料理、か……善処しよう」
「んでそんな顔するんだよ!いいじゃねぇかアイルランド料理!!」
ニホンジンのゼンショしますが信用ならねぇのは知ってるぞ!と吠えるクーフーリンに、非常になんとも言えない顔で芋と芋と芋のアイルランド料理を思い浮かべていたエミヤはふとランサーの傍らに増えた影へ顔を上げた。
「騒がしいぞ、クーフーリン」
涼やかな声にぴしゃりと頭を打たれたランサーは肩をすくめて隣へ音もなく近づいた自身の師匠、スカサハを横目で伺った。
端正な顔にまるで宝石のように美しい赤い瞳が特徴的な美女、影の国の女王であり世界に轟く英雄クーフーリンを育て上げた師、スカサハ。
目を引く美貌、そしてぴったりと体にフィットした服はなよやかな体のラインを強調し見るものの視線を奪う。だが、1度彼女と関わった者なら誰もが知っている。そのミューズのごとき体は鍛え上げられた武の結晶であり、ベッドに誘いたければまず手始めにキメラ100匹切りは果たさないと話にならないことを。
「スカサハ氏にフェルグス卿、貴方たちも食事を取りに?」
おそらく2人に意図はなくとも、武を極めたケルトの戦士の気配のない来訪へエミヤは慌てて立ち上がりエプロンを広げる。
それを手で制したスカサハは、表情の読めない瞳で8割型腹に収められたクーフーリンの食卓へチラリと視線を投げた。
「違う、ただ覗きに来ただけだ。相も変わらず珍しきことを好むこやつをな」
珍しいと明け透けに言ったスカサハからは、エミヤの提供する日本料理へあまり良い印象を抱いていないことを教える。
同じくクーフーリンの手元を覗き込んだフェルグスは、好奇の視線を隠しもせずにいた。
ほっそりとしたスカサハとは対照的な筋肉の厚みでまるで頑強な巌を思わせる男、フェルグス・マックロイ。彼はクーフーリンの友や義父としても有名であり、豪快な性格をしているためスカサハとは別のベクトルで言葉を選んだり隠したりすることをしない。
「サーヴァントに食事は必要ないからな、供給される魔力で俺は特に不足は感じていない。食材も有限とあれば本来必要とすべき現世のものへ優先すべきだろう、口に合わぬものを無理に摂取するのも不思議な話であるし…おっと気を悪くされたかな」
「いいえ、仰ることに間違いはないので」
キッチンを任されるまで想像の範囲内であった意見にエミヤは苦笑をした。
生まれ持った食文化は変えられない、自身も生前他国を回った際何度醤油と味噌の味が恋しくなったことか。
役割はないと再度椅子にかけようとしたエミヤは、そんな否定派2人に対して負けじと声を上げるランサーへ頭を押さえた。
「あんたらはこいつの飯を食ったことねぇからそんなこと言えるんだぜ、俺にとっちゃあの時代の料理しか知らねぇのは可哀想ってもんだ」
「まったく、ケルトの舌を捨てたか?そんな飯、味がわからぬだろう」
「ランサー、私は構わないよ。先ほど言った通り、すぐに受け入れてくれた君たちが珍しいのだからな」
「いやいやいや!一度食ってみてくれよ!これがいけるんだって!」
クーフーリンの記憶ではスカサハとフェルグスの2人はこれまで一口もエミヤの料理を口にしたことがない、さらに食わず嫌いを発揮されているのに最初から反論する気もないエミヤに、彼の料理を大絶賛している身として負けん気を刺激されたランサーは残った味噌汁をフェルグスの方へぐいっと押し付けた。
同じ負けず嫌いとしてこうなっては応じねば終わらぬと知っているフェルグスは眉を潜めつつ、彼にとって濁った泥水にしか見えない味噌汁の器を手に取った。
「ぬぅ…しかしなぁ。1口だけだぞ」
それから数日後のカルデアの食堂、キッチンのカウンターを占領する新たな2人にエミヤは小さくため息をつく。
「エミヤ殿!この前の唐揚げというものが食べたいぞ!」
「エミヤ、ローストビーフというものを今一度振舞ってくれ」
その2人とは、つい先日まで食えたものではないとエミヤの料理を否定していたスカサハとフェルグスだった。
クーフーリンに進められた時のお試しの一口で味覚にビックバンが起こり、それからというもの食堂皆勤賞と暇さえあればこのように料理をせがむ困ったさん枠へ名を連ねるようになってしまった。
他の腹ペコ勢の対処だけでも忙しいのに余計な仕事を増やしてくれたランサーへ密かに文句を呟く。それでも求められることに対して悪い気はしないアーチャーは振り向いて、これまでの献立で特に琴線に触れたものをリクエストをする2人に眉を下げた。
「すみませんがどちらも材料がなくて作れないのです。申し訳ないがまた次の食材調達日まで待っていただけると助かります」
どちらも尊敬する大英霊のリクエストを断らなければならないエミヤの心苦しさを察して、スカサハとフェルグスはそれ以上口を開かずがくりと肩を落としてうずくまる。
あまりのへこみようにあわあわとカウンターから身を乗り出したアーチャーは、突然がばりと顔を上げた2人の視線に面食らう。
「では材料があれば作ってくれると?」
「構いませんがどちらか一方の希望のみになりますね、お2人のリクエストを叶えて差し上げたいが他のサーヴァントに知れてしまったらきりがなくなりますので」
カルデアには多くのものが暮らしており、献立のリクエストを聞くことも少なくはない。
しかし限りある食材とエミヤや他のキッチンを守るサーヴァントのレイシフト事情により無理のない範囲でしか答えられていないのだ。
リクエスト解禁と聞いて押し寄せる精神年齢の幼いものや食に関して妥協を許さない某騎士王の相手はできればしたくない。
アーチャーの最大限の譲歩を聞いたスカサハとフェルグスは、おもむろに立ち上がると手に己の武器を出現させ、目にぎらりと不穏な光を灯させた。
「…では、狩り勝負というわけかスカサハ殿」
「お前と武勇を競えるとはな、しかしこればかりは負けられぬ」
「ちょっ!?危険なことはやめてください!」
「なぁに心配するな、ただどちらが先に材料の獣を仕留められるかの勝負よ!」
突如ケルトの闘志に満ち始めた食堂に、エミヤが急いでキッチンから出て二人の前に行くと、フェルグスが声高に笑いがしがしと白髪の頭を撫で回す。
脳みそをシェイクするようなフェルグスの力に乱れた髪を整えたアーチャーは、無いならば奪えばいいのケルト戦士へまさかここまで即日実行の結論に至るとは想像出来ていなかった。
故に、まだ言っていなかったある根本的なことで申し訳なさそうに口を開く。
「しかし…すみません、言ってからでなんですがもう既に…」
「おぅアーチャー!戻ったぜ!」
エミヤが言い切る前に食堂のドアが開き、同時にクーフーリンの元気な声が響いた。
その声に食堂の3人の視線が入口に向き、意外なメンツに目を少し丸くしながら狩ってきた獲物、巨大な猪をランサーはでんとテーブルに乗せた。
「解体してから戻ってこいと何度言わせる気だランサー!血が垂れるじゃないか!ああ!テーブルの上に乗せるな!」
「細けぇことはいいじゃねぇか。じゃあ約束通り今日はトンカツってやつやってくれるんだよな!同じ豚だからいいだろ?」
つかつかつかと近づいたアーチャーのいつもの小言を聞き流しながらゲイボルグを軽く降って血を払ったランサーは、ニカッと満面の笑みを浮かべてつい数時間前まさに全く同様にカウンターで行われていたリクエスト戦線での約束を口にした。
アーチャーの言わんとしていたことをそれで察したスカサハとフェルグスは、同時にがくりと膝を折る。
なかなか頑固なところがある育ての親たちの見事な陥落ぶりにヒュウと口笛を鳴らし、台拭きを手にテーブルへついた血を落とし終えたエミヤに続いて猪を担いだランサーがキッチンに入る。
「馬鹿弟子に遅れをとるとは…!」
「ずるいぞセタンタ!」
「この2人の胃袋も掴んだのか?すっげぇな。で、今日のダシは?」
「アゴだ、玉藻からのご提供でね」
「いいねぇ」
カウンターに肉を置いて既にコトコトと湯気を立てている鍋の香りを嗅いだランサーが、早速肉の解体に移っているアーチャーの肩に腕を回し頬を寄せる。
敗北を知り悔しがっていた2人も音の増えたキッチンの方へ顔を上げ、自然と体を寄せてまな板でトントンと踊る包丁さばきを眺めるクーフーリンと、くっつかれて煩わしそうにしながらも押しのけはしないエミヤの見るからに親密そうな姿へ目を見張った。
「なんとエミヤ殿は既にセタンタのものであったか、ならば仕方ない伴侶の好みのものを作るのは嫁の楽しみであるからな。しかしいい嫁だ」
「まったく契ったのであれば私にも知らせろというのに水臭い。まぁ良い相手を見つけたものだな」
祝福を送るフェルグスにやれやれと肩をすくめるスカサハ、もしかしなくても完全に誤解されている様子へ弾かれたようにアーチャーから離れたランサーは、勢い余ってカウンターから飛び出してしまいそうになった。
「変な勘違いはやめてくれよ、俺とこいつはなんでもねぇ!想像するだけで気色悪いぜ!」
「なに?ではお前は契っていない相手にこんな世話をされていると?…セタンタ、お前というものはなんて甲斐性無しになったのだ」
「かいしょっ…ッいくら叔父貴でもそれは聞き捨てならねぇな!」
「では私のものになるがいい」
「は?」
「えっ」
ギャンギャンとフェルグスに噛みつくクーフーリンを尻目に、肉の解体を終えて水道で手を洗っていたエミヤの前に立ち、スラリとしたその指で濡れた手を取ったスカサハがなんてことは無い、まるで世間話の延長をするような声で発したことは食堂の時を止めた。
ぽかんと口を開けたエミヤの前で、撫でさするように冷水で冷えた手を掴んだスカサハは底の見えない宝石のような目を細めて鋼色の瞳を捉えるとふっと目尻を緩める。
「可愛い弟子のものならば私も遠慮したが、誰の手付でもないとわかれば話は別だ。私のものとなり影の国に来い、エミヤ。お前のようなものならば大歓迎だ」
「ほほぅ、そう来るとなれば俺も黙ってはいられん。私も是非名乗りを上げさせてもらおうエミヤ殿!貴殿のような器量よし、力よし、体つきも良いもの、このフェルグスの名において見過ごすのは無礼と見たり!」
スカサハに触発されてフェルグスもキッチンに足を踏み入れるともう片方の空いたアーチャーの手を取り、武器を握り慣れた無骨な手で包みさりげなく唇を触れさせる。
突然ケルトの大英霊2人から同時にされた求婚に、頭が真っ白になってしまったエミヤが固まる。
そして何やら雲行きが怪しくなってきた空間に遅れてクーフーリンも参入し、とても広いとは言えないキッチンはギュウギュウと人口密度が高まった。
「バッ!何をバカな事言ってんだよ師匠!叔父貴!」
「ほ、本気ですか?」
「この二人が言うことは本気も本気、大真面目だ。お前絶対冗談でも頷くんじゃ…ッ」
ははっ…と呆然と乾いた笑いをするエミヤに、まだ事の重大さが掴めていないのを察したクーフーリンが、冗談から程遠いところにいるケルト戦士の中でも厄介な2人の取り扱いを口にしようとしたところで瞬間息をつまらせる。
顎の下を冷たい空気とともに横切ったのはスカサハの槍、エミヤの手を握ったまま出現させた武器で無言の牽制を与えたスカサハはヒュンと槍を回して収めると、無作法な子供をたしなめるように肩をすくめた。
「口を閉ざせ馬鹿弟子、婚儀の邪魔立てをする無粋者に育てた覚えはないぞ。多少縁があるくらいで口出しするんじゃない」
師弟のやり取りに日頃のバイオレンスさを見てきていても何やら異質なものを感じたエミヤは、ようやく自分がとんでもない人物にロックオンされていることを知った。
手を引っ込めようとしても、両名はがっちりと力を込めて獲物を離そうとしない。仕方なくエミヤはそのまま口を開いて、猪突猛進な2人の目を覚まさせようと薄い笑みを引いて苦い顔を作った。
「お気持ちは嬉しいです。しかし私が言うのも恐縮ですが、おそらくお2人は食事の感動で正常な判断ができていないのでしょう」
「はっはっは、たとえそうでも問題はないぞエミヤ殿。人のどこを気に入るかなんて千差万別、容姿に惚れる者や心根に惚れる者もいるだろう、それが今回は貴殿の調理の手腕に惚れたというだけのこと!そう大差はあるまい!まぁそれだけが理由かと聞かれればそうではないがな、エミヤ殿の良さはあらゆるところから滲み出ている」
しかしエミヤの言葉はフェルグスの力強い声によって一笑にふされ、さらにカウンターとして裏表のない好意が返される。
一瞬上から下まで見つめられたフェルグスの視線の隠しもしない狩人の気配に、エミヤの体が反射的に跳ねた。ここまで全身から与えられる『お前が欲しい』という意思表示に照れが先行して、ついもじもじとエミヤの体が揺すられる。しかし身を引くことも許さない2人の楔に捕えられてしまった哀れな獲物は、だんだんと顔に集中してきた熱に判断力を奪われていく。
そしてもう1人、この場にいて忘れかけられているクーフーリンは自身の胸をもやもやと包む苛立ちのような、焦りのようなものにやきもきと顔を歪めた。
この赤いアーチャーとはただの腐れ縁だ。それは胸を張って言える、なのになんだこの面白くない気持ちは。スカサハとフェルグスが1人を取り合うなんて面白い状況、対象がよほどのものでなければ他人事でゲラゲラ笑いながら野次馬に興じるというのに。
親しいものが取られようとする嫉妬か?いや、たとえこの2人のどちらかのものになったところでたかが腐れ縁の関係は変化しやしない。
そう、どちらかのものになったエミヤが添い遂げるものの好物を作り、甲斐甲斐しく世話をして、与えられる好意にはにかもうと。
堅物で不器用でいけ好かないが嫌いではないこのアーチャーが、自分の知らない表情を世界のたった1人に向けることなんて、腐れ縁の自分にはなんの関係も…
「…っざけんなよ」
「ッランサー!?」
唸るような声に振り向きかけたその時、アーチャーはランサーに強引に肩を抱き寄せられる。
目を好戦的に爛々と輝かせたランサーは目の前の育ての親を睨みつけ、まさに今ようやく自覚した気持ちを手にときの声を上げた。
「後から出てきてゴタゴタと。いくらあんたらといえどもう我慢出来ねぇ!この際言っておく、こいつは誰がなんと言おうと俺のものだ!欲しけりゃケルトの流儀に従って俺の屍踏み倒してから求婚するんだな!」
「ほう、なるほど。してエミヤ、お前はどうなのだ?クーフーリンとは腐れ縁だと聞いたが、お前はそれをこやつのように否定するか?」
弟子の宣言を聞き終えて、それでも動揺一つ見せないスカサハは静かな瞳でエミヤへ水を向ける。振られたエミヤというと、エミヤ自身もクーフーリンのことは腐れ縁程度の認識でしかなかった。
それを突然このような形で告白され、スカサハとフェルグスの求婚に続いて衝撃に頭がクワンクワンと揺れている。
「私は…そんな…本来あのクーフーリンとは腐れ縁という名称でも口にすることははばかられる存在です。正直、今すぐに関係を定めることなんて出来ません」
考え、考えながら紡がれるエミヤの言葉はやはりというべきか、変わらない自己評価の低さを表している。
すぐに受け入れてくれるとは思ってはいなくとも、明らかな戸惑いの色が濃い様子にランサーが苦々しく顔を歪めたが、しかし…と続いたエミヤの声に顔を上げ、目の前でみるみる赤く色づいていく褐色の顔にきつく胸が締め付けられた。
「……しかし私は…、ランサーの望むものを作るのが、好きな…だけなので…。お2人のお気持ちにはやはり、応えられません」
今すぐには無理でも確実に脈はありそうな反応へ抱きしめたくなる欲をぐっとこらえたランサーは、遅れてついてきた気恥ずかしさに自身の体温も少し上がる。
この赤いアーチャーとカルデアで再会してから仲がいいの一言では表せないもう1歩向こう側を意識しつつ、それに気づかないふりをしていたのだ。もしかしたらそんならしくない自分を見て、スカサハとフェルグスは背中を押してくれたのかもしれない…。
師匠からの愛にじんと胸が痺れるクーフーリンは以前がっちりと掴まれて離されないエミヤの手に首を傾げ、次の瞬間腕の中にいた存在を引っぺがされてたたらを踏んだ。
「いや、そんなことはいい。無理か…では第2の夫が欲しくないか?一夫多妻制もあるのだ逆があってもおかしくあるまい、私が生きていた時代にはなかったがそれでも貴殿のためなら第2でも甘んじよう」
「うむ、その提案私も乗らせてもらおうか、お前にはそれだけの価値がある。ではクーフーリン共々影の国に来るがいい、奴を鍛えつつお前を愛でる。…おぉなんと素晴らしい生活なのだ」
「あんた達どれだけ腹ペコなんだよ!?」
そんな優しい世界がこの脳筋ケルトに通用するわけがなかった。少なからずエミヤの心の中にはクーフーリンがいると見るや、譲歩の姿勢を見せつつ虎視眈々と狙う誘いを矢継ぎ早にエミヤへ投げかける。
「ゲイボルグをもっとよく見てみたくはないか?私なら一本と言わずに二本でも見せてやるしさわらせてもやる。そして鍛えた後には分け与えるのもやぶさかではない。エミヤ、お前の可能性に私の勘がうずうずしているのだ」
「ゲイボルグ…」
「それを言うならばカラドボルグはどうだ?魔術で複製品を作り使用していたとの噂、私の耳にも入っておるぞ」
「カラドボルグ…」
「揺らいでんじゃねぇよ!アーチャー!」
目の前に出現させられた神代武器に、未だ理解が置いてきぼりであっても武器オタクが反応する。
戸惑ってばかりいた鋼色にキラキラとした光が灯るのを見て、計らずもきゅんときた飢えた獣たちがいよいよ本腰をいれ始めた。
「それに私ならば特に夜は不自由させないぞ、私以外では満足出来ないような極上の快楽を毎晩施してやろうじゃないか」
「む、あたかも夜の分野は私では役不足とも言いたげな物言い、心外だな。私も負けたものではない」
「いえ、流石にそれは」
フェルグス得意の夜方面のアプローチへすかさず名乗りを上げたスカサハに、エミヤが苦笑をして諌めようとする。
しかしふっと笑ったスカサハの瞳の色気に、男としてではない何か自覚しては色々プライドに関わる部分の胸がときめき、面食らった隙を突いたスカサハが空いた手で自分よりも背の高いエミヤの頬を花を愛でるように撫でた。
「ふふ…可愛い反応をする。悪いがお前の想像するようなことは無い、だがきっちりしっかり満足もさせてやるし妻として最高の悦びを与えてやろう」
瞬間その場にいた男衆は理解した。
この人はやる、方法はわからないが必ずやる。
捕まったが最後、スカサハ(♀)の妻にされると。
「黙って聞いてりゃ…!俺だってまだ手を出してねぇんだぞ!」
「では処女か、俄然ヤル気が湧いてくるというものよ!」
「しょっ!?」
「撫でるように花を散らせてやる、怖いことなんてない」
「はな…!?」
話が下分野に飛び出してからはケルトの勢いのつき方は凄まじく、とても公の場では言えないあんなことやこんなことのプレゼンテーションが繰り広げられる。
だんだん涙が滲んできたエミヤが解放されたのは、食堂から教育上よろしくない単語のオンパレードを聞きつけたサーヴァントがマスターを呼んできてくれた時だった。