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ジャックちゃんの反抗期/Novel by 凍護@コメント嬉しい

ジャックちゃんの反抗期

4,011 character(s)8 mins

エミヤとジャックとランサーの話、ナーサリーと喧嘩したジャックがエミヤをおじさんと呼ぶようになりました/ジャックのおかあさんのエミヤ、とても萌えるのですが個人的補足を。おかあさんという呼び名、そして呼び名に秘められたジャックのほの暗い願望は無くなった訳では無いので、特定の呼び名をされるほど気にいられているエミヤは、これまでも幾度となくその腹をジャックに無邪気に狙われていると思います。突然一流の殺人鬼の手腕で腹を狙われて、エミヤもヒヤリとすることが何度もあったかと。それでもジャック自体に罪はないので見逃す甘々おかあさん、ちなみにもう1度呼んでもいいか聞いてる場面ではそんな物騒なことを聞いていたので、せっかく解放されるチャンスを捨てるエミヤの安定のお人好しっぷりに(馬鹿だな〜でも可愛い奴)くらいにちょいもやもやしてるランサーがいたりします/いつもブクマやコメントありがとうございます!!お蔭様でルーキーランク31位&9位をいただきました!!

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ジャックザリッパーがエミヤのことをおじさんと呼ぶようになった。
カルデアで有名なおかあさんとジャックの間に走る亀裂は瞬く間に広まり、それは当然紅き呪いの槍を扱う槍兵の耳にも入っていた。

「何かあったんだろ?」
皿を洗うアーチャーを前に、キッチンのカウンターへ体を預けたランサーが問いかける。
皆まで言わずとも言いたい事を察したアーチャーの手は一瞬止まったが、すぐに淀みない家事の動きを再開させた。
「君の耳に入れるようなことは無いさ。言っているだろう?私たちは元々おじさんだよ」
なんてことのないように肩を竦めてふっと笑う、人の神経を逆なでする皮肉げな笑顔はランサーも見慣れたものだ。
しかしこれは刃を交わした相手のランサーが見慣れているものであって、幼子へ向けられる優しさのとろけたものとは決して違う。
自分と話す時でさえ、世話をしている者達が話題に登れば可愛くて仕方が無いと言った様子で細まる鋼が今日は酷く硬い。
何かあったと言わんばかりの様子に、たわけが…と呟いたランサーは、キッチンの隅で一つだけ残ったラッピング袋を取ると無言でアーチャーに背を向けた。


しばらくカルデアを歩いていると、その小さな背中はすぐに見つかった。
普段ならナーサリーときゃあきゃあはしゃぎながらいるジャックが1人でいると、その背中は見た目よりもずっと小さく、そして心細く見える。
気配に振り向いた瞳が所在なさげに揺れるのを見て、ランサーは立ち込めた重苦しさを払うようにニッと笑顔を向けると手招きをした。
「おい、嬢ちゃん。ちょいとこっち来いよ」

ランサーは手近な休憩スペースへジャックを招いた。
小さな体がソファに座るのを待って、その前へしゃがんだランサーは真っ直ぐにジャックを見つめる。大英雄の鋭い赤い瞳を真正面から受けて、通常の幼子なら泣き出してしまうような場面だが、ジャックは体は子供でも頭の回転は並の大人に劣らないのだ。
ならば回りくどい真似をする必要は無い。
ランサー自身真っ向からぶつかるのを良しとするため、下手な挨拶を抜きにしてすぐ本題に入った。
「どうしたんだ?あいつ、もうおかあさんじゃなくなっちまったのか?」
「…………」
眉根を寄せて心を砕くランサーの声に、ジャックはふいっと顔を背けた。
頑なな様子だが時折こちらをちらっとうかがう瞳には、話したくても言葉を形にするのが難しい子供らしい葛藤が見て取れる。
微かに開いては閉じる、桜色の唇を見つめていたランサーは視線をそらして片手に持っていた小さなラッピング袋をジャックへ差し出す。
中にモザイク柄のクッキーを入れてリボンで封をされたそれに、ジャックははっと息を止めた。
用意をしたが相手が来なくて放置されていたクッキー、それをランサーが手に取ってもあの弓兵が何も言わない時点で、アーチャーの心情も察するに容易い。
物分りの良い体を装った底なしのお人好しに、ランサーは仕方が無いと言うように苦笑した。
「これ、預かってきたんだ。あいつ素直じゃねぇから、口には出さねぇがお前のこと気にしてたぞ」
「……違う」
「ん?」
不意にジャックの口から洩れた否定、ようやく硬い門が開いたのを感じて、ランサーは急かさずにただ聞き返した。
「…違うよ、おじさんは…おかあさんは、おかあさんだもん。でも、もうおかあさんは私のこと嫌いになっちゃったから…おかあさんじゃなくなっちゃったの」
「話してみろ」
大好きだったはずのおかあさんへ背を向けなければならない葛藤へ、ずっと暗い塊を飲んだままどうすることも出来なかったジャックの顔はくしゃりと歪む。
ランサーにそっと柔らかい銀髪を撫でられ、勇気を取り戻したジャックはぽつり、ぽつりと、エミヤの呼び名が変わった迄のことを口にした。
「ナーサリーが、私の分のおやつ、食べちゃって、モードレッドにやられたらやり返せって言われて、ナーサリーの絵本、解体しちゃった。そしたら、おかあさんがとっても怒ったの。ナーサリーに謝れ!って…。やり返すのは悪い事じゃないはずなのに、私ばっかり…っおかあさんは私が嫌いになっちゃったから、怒るんだ…」
断片的な様子を聞いて、経緯を把握したランサーはゆっくり頷いた。
聞いてみればなんてことない子供の喧嘩が拗れただけのこと、しかしそれも当事者にとっては大切なことなのだろう。にしてもまったく余計なことをしてくれた不良娘に、胸中で毒づく。
戦場ではナイフを握り縦横無尽に敵を解体していても、今はどこにでもいる子供と同じように膝の上でふるふると震えている手を握ったランサーは、とっくにやるべき事はわかっている賢い子の背中を押す。
「なるほどな、確かにやってきた向こうが悪い。けしかけてきた奴も悪い。だがな、あいつが嬢ちゃんに謝れって言ったのは、お前に仕返しって悪いことを覚えて欲しくなかったんだろうな。謝らなけりゃ嬢ちゃんがやったことは報復になる。でもな、ちゃんと謝ればそれはお互い様ってことだ。悪いことをしたら謝る、それはサーヴァントでも忘れちゃいけねぇ大切なことだとおじさんは思うぜ?」
戦果を収め栄華を極めた英雄というより、1人の人間としてランサーはジャックへ語りかける。
それを聞いてしばらく黙った末、こちらを見つめ返す決意を固めたジャックの瞳へランサーは満足そうに笑った。
「……ナーサリーに、謝る」


大量の食器を洗い終え、新しいレシピをノートに書いていたアーチャーはふと食堂の扉が開く音に顔を上げた。
そして青い槍兵に付き添われながらとことこと戸惑いがちに近づいてきた小さな姿、アーチャーは腰掛けていた椅子から立ち上がり目線を合わせるようにしゃがんだ。
「…おじさん」
「なんだ、ジャック?」
変わった呼び名にアーチャーが動揺を表すことは無い。おかあさんと呼んでいた時のように、優しく聞き返す鋼色の瞳へジャックはぎゅっと拳を握った。
「ナーサリーに、謝ったよ。ごめんなさいって。そうしたらナーサリーも謝ってくれた。私も、私も許したよ…?」
キッチンに来る前に終結した事の顛末を、ずっと気にかけていてくれたアーチャーへ話す。
ジャックが先に自分のやってしまったことを謝った時、ナーサリーもお人形さんのような可愛らしい瞳へいっぱいに涙をためて何度も謝ってくれた。
ナーサリーと仲違いしていた時間はそう長くないはずだが、仲直りをした時の温かさは何故かとても懐かしくて嬉しくて、周りの目を気にせず抱き合ってしまった。
おそるおそるこちらの反応を窺って見上げるジャックの瞳へ、ゆっくりとほころぶように微笑んだエミヤは柔らかい髪を優しく撫でる。
「ずっとナーサリーも君に謝りたがっていたんだ。よく頑張ったな、ジャック。モードレッドのことは気にするな、彼女はセイバーに言ってキツく叱ってもらえるよう頼んだから。君は間違っても復讐なんてことを覚えてはいけない」
わだかまりが消え、頭を撫でるエミヤの優しい手に目を細めて喜んでいたジャックは、不意にまた体を固くさせる。
反応の変わったジャックを訝しんで動きの止まったエミヤに、ジャックは頭を撫でていた腕を取りその小さな手のひらで握った。
「あの…おじさん。また、おかあさんって、呼んでも、いい…?」
遠慮がちにおずおずとこちらを見上げながら言われた事は、予想がついていた。
呼ばれたきっかけは無く、いつの間にかおかあさんとして定着していたが、改めて良いかと問われればはっきりさせなければいけない事がある。
「…ジャック、ずっと言い続けている事だが私は君のおかあさんではない。そもそも男だからな。私はひっくり返っても君らの悲しみを癒すことも出来ないんだ」
たかが呼び方だとOKするのは簡単だ。しかしエミヤはここで心を鬼にして、おかあさんと呼ぶジャックが心の底からかける望みを見透かしつつあえて突き放すように言った。
こちらをじっと見つめる大きな瞳、それがいくら可愛くてもこの子はただの少女ではない。血の温かさを、肉の硬さを知った世界にも名高いシリアルキラーなのだ。
ジャックに付いていたランサーは、意外に厳しいアーチャーをただ見つめる。
元々男に対しておかしい呼び名、このまま良い区切りとして断るだろうか?
いや、あるいはこのお人好しならば…
「しかし、君が呼んでくれるのなら、私はここでの君のおかあさんになろう。カルデアには君を愛する人がたくさんいる。おかあさんとして君を慈しみ、愛情を注いでくれる人がたくさんな。そのうちの1人として、私はこれからもあり続けよう」
一転、ジャックに続けた言葉はとても優しい。見上げた先の微笑みに、ジャックも笑顔を取り戻し広げたアーチャーの腕に飛び込んだ。
「うん!おかあさん!」

そのままジャックを抱き上げたアーチャーに、行く末を見るだけだったランサーは表情をやわらげた。
「これにて一件落着だな」
「協力感謝するよランサー」
「なに、ただ可愛い嬢ちゃんとお話しただけだ」
ひらひらと手を振るランサーに、アーチャーは小さく頭を下げる。
それに気づいたジャックは、アーチャーに抱っこされたままランサーへ手を伸ばし無邪気に笑顔を見せた。
「おじさん!…ううん、おとうさん!ありがとう!」
ジャックの口から出た新しい呼び名に、ランサーとアーチャーは思わず顔を見合わせた。
「おとう…さん」
「私をおかあさんと呼ぶ以上それは看過できないのだが…」
額を抑えて呻くエミヤに構わず、伸ばされたジャックの手と軽くタッチをしたランサーは、初めて得た可愛い娘へ緩い笑みを向けた。

Comments

  • p13
    May 30, 2022
  • 如月
    March 23, 2021
  • よし子
    November 5, 2018
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