天覧正妻戦争 in恋愛脳曼荼羅ノウム・カルデア Ⅰ
本作を見る前に以下の注意事項をお読みください。
・この物語は、第六異聞帯攻略後の物語であり、登場するキャラクター・サーヴァントはそれまでに登場した者に限る。
・聖杯はこれまでに一度も使用していない。
・マスターは男であり、性別変更はない
・この物語は”正妻戦争 in恋慕輪廻基地カルデア”シリーズの続編である。
・若干のキャラ崩壊。
・誤字脱字あり。
感想等のコメントはどしどしお書きください。毎度全て読ませていただいております。
しばらくウマ娘二次創作を書いていませんが、ご要望があればそれもお書きください。
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人理修復機関ノウム・カルデア。南極に位置するカルデア基地はアナスタシア率いる軍隊により壊滅、その後ストーム・ボーダーでの虚数潜航により辛くも生き延び、異聞帯後略の折、汎人類史の味方になる者を求めて、隔絶された魔術機関、彷徨海を訪れる。そこにいたのはアトラス院最後の一人、シオン・エルトラム・ソカリスと、彼女のサーヴァントネモであった。
彷徨海にトリスメギトスⅡを建造し、カルデアの面々を迎え、クリプター陣営に対抗する新組織、ノウム・カルデアとして協力関係を結び、以降カルデアのマスターとその仲間たちはここを拠点として人理修復、白紙化地球の救済に取り組むこととなる。
アナスタシア、ゲッテルデメルング、シン、ユグ・クシュートラ、アトランティス、オリュンポス、平安京、そしてアヴァロン・ル・フェという七つの異聞帯と異常特異点の攻略を終え、いよいよ異星の神がいる南米異聞帯の攻略に臨もうという頃。それまでに縁を結んだ共に戦った、あるいはかつて敵だったサーヴァントが次々に召喚されていた。マスターとともに人理修復をする仲間として。
しかし中には、仲間になった後もどうしても嫌われてしまう者もいて………。
「何の用だ。貴様とはなるべく、というか一生話したくない」
「失せなさい」
「マスターの危害を加える……いや、気分を損ねることがあっても殺す」
「なんだ、僕は君と関わってる時間はないんだが?」
英霊として再び仮初の生を受け、生前の因縁でもなければ普通なら大抵のサーヴァント同士が仲良くやっているにも関わらず、この男だけは未だに忌避され、嫌悪され、不信がられていた。
「ンン、拙僧今はカルデアのマスターの忠実なサーヴァントなれば、裏切るはずもないというもの。しかしながらこの有様。はてさて如何いたしましょうか」
蘆屋道満。クラスはアルターエゴ。下総国ではキャスターリンボ、引いては安倍晴明を名乗ったが、その正体は異星の神の使徒の三人のうちの一人であった。異常特異点地獄界曼荼羅平安京においてカルデアと本格的に対峙し、紆余曲折の果てにその悪念は切除された。異星の神の使徒でありながら、その裏で自身の野望、ビーストになるために平安京にて様々な工作を行ったが、結局人類悪にはなれず討伐される。
しかし問題なのはその目的でも行動でもなく、それに至る彼の性格。彼にとって悪事は呼吸や代謝と同じ。むしろ悪事失くして蘆屋道満あらず。先の下総然り、インド異聞帯然り、オリュンポス然り、その全てで悪辣悪質悪逆の限りを尽くした。しかしそれは全て自発的、彼の性によって行われた所業。
「それにしても、」
蘆屋道満、今現在いるのはノウム・カルデアの図書館……アーカイブ室である。ここではカルデアがこれまでに行ってきた様々な功績が記録されており、ホームズやカルデア職員たちは日夜ここを利用している。またマスターやサーヴァントにもここは解放されており、基本的にはほぼすべての情報を閲覧できる。
「カルデアが、まさかまさかこのような偉業、奇跡の数々を成してきたとは、いやいや拙僧感服いたしました。なるほどたとえ拙僧が獣に至ったとしても、マスターならばよもや同じ結末になっていたのかもしれません。特に先日の妖精國、あれこそまさしく奇跡でありましょうなぁ」
そのアーカイブには、個人にとってはあまり触れてほしくもない情報も記録されている。実のところこれは暇つぶしでも汎人類史の知識を獲得するでもなく、そういうタブーをかき集めるために、道満はここにきているのである。
「ンンンン、日ごろ外道だの屑だの仰る割に、皆さま拙僧と変わらぬ醜悪さを秘めておられる。否、清廉潔白など人の世にはあり得ず。つまりは皆同じ穴の狢、と!」
愉悦のほくそ笑む道満。幸いここには今誰もいないため、その悪意ある笑みを見るものはいない。
「ん?」
ふと、ある題目に目が留まる。それはカルデアで起きた諸々の事案の一つ、中でも最も規模の大きかった『正妻戦争』の題目であった。
「………………はは」
数々の特異点、数々の異聞帯、数々のサーヴァント、数々の魔獣、数々の人類悪と戦い生き抜き、そして文字通り世界を救った少年が、その機関が、このような下らない諍いをしていた、という事実に蘆屋道満はつい乾いた笑いが溢れた。
多くの犠牲の上に勝利がある。大きな覚悟の上に目的がある。様々な経験の上に成長がある。それはどれも楽しいことばかりではない。犠牲は死、覚悟は狂気、経験はトラウマであることも少なくない。そういうものを想像していた道満にとって、カルデアのまるで平和的な出来事に、件のリンボはこんな陽気な連中に負けたのかと、自嘲する。
「はは、いやいやこれはこれは予想外。英霊となったものが、人類最後のマスターとはいえあの少年に恋心を抱くとは。否!嫉妬や痴情での争いなど宮中でも珍しくない!であればこのカルデアでも同じことが起きても致し方無し。ですがまあ、確かに思えばそのような気色はありましたねぇ」
道満はここ最近のマスターの生活を思い出す。
『我が夫』
『ん?ああモルガン。どうしたの?』
『どうしたもこうしたもありません。以前私以外のバーサーカーは解雇するようにいったはずですが』
『いやいや、みんな一緒に戦う仲間なんだから、解雇とかそういうのはしないよ』
『全く……私一人いれば残りの異聞帯の一つくらい────────────』
『マスター、いらっしゃいますか?』
『はい、どうぞ―』
『失礼します……ん、モルガン陛下もいらしたのですね』
『バーゲストか』
『どうしたの?』
『ああ、ええと、そのマスター、そろそろ昼食の時間ですので一緒に──────』
『マスター!!』
『メリジューヌ!』
『あれ、陛下とバーゲストもいたんだね。もしかして、お邪魔だったかな?』
『いや、今来たところだ』
『私もだ』
『そっか。それよりマスター、一緒に食堂に行こうよ!そろそろ昼ご飯だよ!』
『!』
『!』
『そうだね……じゃあモルガンとバーゲストも一緒に行こうか』
『………そうか』
『なるほど………』
『そういうことか……』
『あれ?3人ともどうしたの?』
『何でもありませんよ。ところでマスター』
『何?』
『一緒に食事をするなら、頼れる女王が良いですよね?』
『え?』
『マスター、それなら忠実な騎士がよろしいかと』
『ちょっ』
『マスターなら、可愛いドラゴン少女を選んでくれるよね?』
『ええと、その……』
『入るぞマスター。ん?何やってんの……ってお母様にバーゲストにメリジューヌもいるの?』
『パーヴァンシー。いいところに来ましたね』
『え?』
『貴女はマスターとともに食事をするなら誰が最もふさわしいと思う?』
『陛下!』
『それはずるい!』
『…………ああなるほど。そうね、バーゲストやメリジューヌだと、ちょっと務まらないかも』
『そうでしょうそうでしょう』
『くっ……』
『でもお母さまほどのお人が、この雑魚と食事なんてそれも釣り合わないわ』
『何?』
『ここは……そうね。仕方ないから私が相手してやるよ。行くぞマスター』
『え、ちょっ、そんなに引っ張らないでよ痛てててて』
『…………漁夫の利、ですか』
『ううぅ……おのれパーヴァンシー』
『次こそは必ず………』
『これで………よし』
『何をやっているのですか?コルデー』
『ふぁああああ!?ば、バーソロミューさん!?』
『マスターの部屋に入っていく姿が見えたので。ところでそれは……』
『ええと……これは……』
『手紙、ですか?』
『はい………』
『なるほど。これは大変失礼しました。いやいやたとえサーヴァントになったとしても、誰かを好きになるのは全く悪いことではございません』
『うう……誰にも気づかれずに置くつもりだったのに……。お願いします!このことはどうか、他言無用で!』
『勿論。言いふらすような非道な真似はしませんよ。ああでも一つアドバイスを』
『え?』
『私の見聞では競争相手は多くいます。取られないように気を付けてくださいね。ああそれから、片眼が隠れるように目を隠すとより可愛いですよ』
『棟梁!』
『どうしました?金時。英霊にもなって騒々しい』
『あんたそれ、いいや俺の間違いならいいんだがそれは──────』
『はい。”子どもの服”です。私が縫いました』
『その子どもってのは、あれか?ジャックとか、ナーサリーライムとか……』
『いいえ。これは私と…………マスターの…………』
『』
『ふふふ。金時、貴方も弟や妹が欲しいでしょう?家族が多いことは良いことです』
『…………いや、いいや!考え直せ!考え直してくれ母上!あっ──────』
『まあ!母上、と言いましたね!?久しぶりですね、ここに召喚されてから全然呼んでくれないので母はとても寂しかったのですよ?』
『今のはその、間違いだ!いや間違いじゃねぇんだが……とにかく棟梁!またマスターとの結婚を企んでるなら、考え直してくれ』
『何故です?』
『ええと、それはだな……マスターと結婚されちまうとその……』
『何ですか、はっきり言いなさい』
『…………マスターが、俺の義父になっちまう』
『…………………………』
『…………………………』
『そうですか。問題ありませんね』
『母上!?』
『婚姻の後は、マスターを父上と呼ぶのですよ?』
『やめてくれ!気まずいったらこの上ない!どうか考え直してくれ!』
『あら?』
『げっ』
『こんにちは!こんなところで会うなんて奇遇ですね!』
『最悪。よりによって”私”に会うとか』
『ああでもオルタであるとはいえ、貴女は私なのですから、ここで会うのは必然ですね』
『ええそうね。分かってたら来なかったのに……』
『あれ?ジャンヌ?と、邪ンヌ?』
『マスター』
『はい』
『どうしたの?何か用?』
『ええ。ああでも、お先にどうぞ?』
『は?いいやあんたから言いなさいよ』
『いえいえ。こういう時に譲れるのができる姉なので!』
『はっ……まあいいわ。別に大した用じゃないわ。暇だから顔でもみてやろうと思っただけよ』
『そう?まあ俺は全然いいよ。ゆっくりしてって』
『ふん…………』
『それで、ジャンヌは?』
『はい!マスター、デートしましょう!』
『え?』
『はぁ!?』
『最近忙しくて中々二人の時間がとれなかったですから………ね?』
『ちょちょちょ待ちなさいよ!あんたたちそこまでいってるの!?』
『いや、俺はそんなこと………』
『さあマスター。こっちの私は置いておいて、さあ』
『待ちなさい!それは許さないわ』
『あら、どうしてですか?』
『そ、それは……えっと……』
『邪ンヌ?』
『無いなら、私たちはこれで──────』
『……………くわ』
『え?』
『私も行くわ!!!』
『ええっ!?』
『まあ!』
『こいつが行くなら半分私が行くのも同じでしょ!なんか文句ある!?マスター!!』
『い、いやないよ。じゃあ、三人で行こうか…………』
『はい!』
『ええ』
「ンンンンこれは拙僧の忠誠を見せる好機!であればええ、今すぐにでも始めましょう。善は急げとはまさにこのこと!」
そうして道満は嬉々としてマスターの元へと向かった。
強烈かつ独特な感覚に襲われる。ハッと目が覚め、その見慣れない光景にマスターは反射的に理解する。
「強制レイシフト!」
「流石はマスター。実に良い推理ではございますが、今回は違います」
「!?」
目の前にいたのはアルターエゴ蘆屋道満。穏やかな笑みを浮かべている。とはいっても一度戦ったマスターには、その内の悪意が滲み出ているように感じた。
「リンボ……じゃなくて道満。これはどういうこと?」
「突然のことに混乱しておられるのですね。しかしそれも仕方ないこと。ろくに説明もせずにかような場所に招いたこと、どうかお許しください」
「………ここは、平安京!?」
マスターはあたりを見渡すと、それはいつぞや訪れた平安京の内裏であった。木製の床、紅色の柱、蔀、独特の建築様式、以前のそれとまるっきり同じである。しかしあの異常特異点は既に消滅しており、特異点発生のリバウンドがあるにしてもここまで変わらないわけがない。
「いいえ。ここはノウム・カルデアでございます」
「カルデア?」
「はい。これなるは戦闘用シミュレーターなるものを拙僧の術にて一時的に都に歪めた姿。現代でいうところの、仮想現実にございます」
「仮想現実…………。そういえば、人がいない」
「流石に意思を持つ人を生み出すのは拙僧でも難しく、それならば、いっそ住人は写さないようにしようと」
「…………どうしてこんなことを?」
「そう!それこそ拙僧が聞いていただきたいこと!」
道満は目を見開いて楽しそうに話す。
「マスター。最近女性の相手をなさるのに疲れてはいませんか?」
「なっ、なんだよいきなり」
「御身の元に召喚された後、他の様々なサーヴァントの方々を見てきました。中でも女性サーヴァントは特にマスターと主従関係以外の特別な関係を求めて、半ば強引に御身に迫っている様子」
「そ、そんなことは………」
「ありますとも。数々の異聞帯攻略を経て、御身の魅力に引かれる者は多く、スキンシップ、と呼ぶのでしたか?執拗にマスターをつけ狙っているとお見受けしました。マスターも自覚されているはず」
「……まあ確かに、ちょっと最近そういうのは多い気がする、けど」
「慕うものが多いのは大変結構!しかしそれも過ぎれば女難であれば、この蘆屋道満、マスターの負担を少しでも取り除こうと思いまして!」
「それが今回の事とどう関係が?」
「マスター、これを」
「!?」
「聖杯、にございます」
「ど、どうして!?ダヴィンチちゃんが作った特殊ケースに入っていたはず!」
「ああ、あの絡繰りですか。拙僧の技術をもってすれば、そのようなものは藁で作った鳥籠も同じ。というわけで、一つ拝借致しました。ああしかし一つ先に申し上げておきたいことなのですが、この聖杯は、”リンボなる蘆屋道満”が用いたもの。他はともかくこれの使い方は心得ております故、うっかり特異点発生などはあり得ません」
「な、なんでこんなことを?」
「正妻戦争」
「!!」
「興味深い事件でございます。一人の殿方をめぐり麗しき女性が命を懸けて戦う。受肉した後は別にして、マスターと結ばれるという願いはまさに聖杯を以てすれば叶うでしょう!しかし惜しむらくはこの戦争が”なかったことになってしまった”ことです」
「まさか、正妻戦争を再開させる気か!?」
「はい。やはり従えるサーヴァントが多くなり、カルデア内の秩序も乱れております。ともすればここはケジメとして、つまりはマスターの正妻として優位性を持ったサーヴァントを定めるべきかと」
「そんなことしなくていい!前に何が起きたか分かるだろう!?」
「もちろん承知しております。ですがその結果、何か変わりましたか?」
「ッ──────!」
「無かったことにしたから、問題を先延ばしにした。だから今のカルデアはこのような状態になった。拙僧はそのように評価しております」
「…………………そうかも、しれないが……………………」
「それに、もはや正妻戦争は始まっております」
「え!?」
「この平安の都に女性サーヴァントをお招きいたしました。マスター、感じませんか?」
「…………………………!?み、みんなとのリンクがっ!?」
「然り!マシュ殿を除いた全ての女性サーヴァントとの魔力のパス、召喚の繋がりを一時的にではありますが断ち切らせていただきました!」
「な、なんてことを……」
「もっとも、この”糸”は知らせ無しで切ったので、皆さまにとっては”マスターが死んだ”ように感じたことでしょう」
「道満!」
「既に次々と都にお越しいただいている様子。平安京での新たなる正妻戦争、”天覧正妻戦争”開幕でございます!」
笑いながら、高らかに宣言する蘆屋道満。マスターとしては令呪を以て無理矢理彼を止めることもできるが、内裏に向かい確実に進み始めた重いどす黒い気配に、すっかりそのことを忘れてしまっていた。彼女たちの目標は内裏、そこにいるマスターと、この外道が守る聖杯。
マスターをめぐった戦争が、ここに再び始まった………………。
マスターは助かるのだろうか…