マリーオルタと現代で暮らしたい
気を失って少ししたらこんなものが出来上がってました。
マリーオルタ解釈まだこねくり回してる最中です。
(2024年3月23日追加:実装前に書いたssなので解釈違いになる部分が多々あるかと思います。今後新しい解釈で書くので今作はお目溢しください)
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ひゅうと風が鳴ったと思えば、舗装された道の上を落ち葉がからからと転がってくる。
自分の足元通り過ぎ、後方へ転がっていくその様子を目で追っていたところで、一緒に吹き付けてきた冷たい風をその身に受け、寒さに思わず身体が強張った。
手をポケットに入れたままにぎにぎと動かし、わずかに発生した熱で暖を取るが、それでも身体全体を温めるには至らない。寒さに耐えかね、逃げるように足の動きを速めた。
日本に帰って来てからしばらく経つ。
街のところどころで見かけるサイネージや、巨大なLEDビジョン、またそこに流れる様々な企業の広告は、カルデアにいた時には見かけなかったものだ。
しばらく日本で過ごす中でだいぶ慣れたと思っていたものの、日々変わる広告の数々に新鮮さを忘れることはない。なんなら広告を眺めるだけで一日潰せてしまいそうだ。
しかしこの寒い季節に屋外にずっといるのは身体が耐え切れない。本来の目的であった買い物は既に済ませているので、後は家に帰るだけである。
帰りたーい。帰りたーい。あったかい我が家が待っているー。と、いつかの住宅のコマーシャルを口ずさみ、靴でアスファルトを鳴らしながら歩いていく。
このコマーシャルがいつのものだったか、最近か随分昔のものなのか、長らく日本を離れていた自分としては分かりかねるが、寒さなど関係なく、帰りたくなったらついこのフレーズを思い出してしまう。帰れない状況になった時は、帰りたくて帰りたくて震えるに曲調が変化するまででワンセットだ。
そんなことを考えながらしばらく歩いていると、いつの間にやら我が家の玄関までたどり着いていた。
震える身体を擦りながら家に入り、扉を閉めたところでようやく一息付けた。
「おー、あったか……」
じんわりと頬を撫でていた室内の温かさは、コートを脱ぐと身体全体に染みわたった。
あったかい我が家に感謝して、トートバックに入れていた荷物を出していく。
ちゃんと買うもの全部買っていたかなと、中身を整理していると、家の奥から声がかかった。
「あら、帰ってきたの。もっとゆっくりしてきてよかったのに」
「ん? ……ああ、思ったより外が寒くてね。耐え切れなくて買うもの買ったらさっさと帰ってきちゃったよ」
荷物の整理をしているため、目線はバックに向けたままで、声のした方を振り向かずに声を返した。
「そこはもっと別の理由を言ってほしいのだけど」
「君を待たせていると思ったら早く帰りたくなっちゃって」
「五点」
「点数低くない?」
「真剣さが足りないから、加点するだけでもありがたく思って」
「急に話をふられた割にはそれらしいこと言えたつもりなんだけど」
「やっぱり二点にしようかしら」
「さらに下がっちゃった」
荷物の整理を続けながら彼女の小言に付き合っているが、話の節々からどこか不機嫌そうな様子を察する。
今度はしっかり声のした方を振り向き、すぐ近くまで来てこちらを見下ろしていた黒いドレスの女性と視線を合わせる。
目が合った彼女は少し黙り込むと。
「……帰ってきたら先に言うことがあるでしょう?」
眉間に皺を寄せたままそう言った。
その様子を見て、内心少しだけ苦笑してしまう。
しかしそれを表に出すと後が怖いので、努めて真剣な面持ちのまま言葉を返した。
「ただいま、マリー」
「……ええ、おかえりなさい。マスター」
黒いドレスに身を包んだ女性。アヴェンジャーのマリー・アントワネットは満足した様子でふんと鼻を鳴らした。
アヴェンジャー、マリー・アントワネット。
本来は存在せず、英霊として召喚されるには至れないはずだった彼女だが、ある特異点での事件から正規の英霊であるライダークラスのマリー・アントワネットにもう一つの側面として認識された。
それをきっかけに『悲惨な最期を迎えた彼女が復讐を考えていないわけがない』という、本人とは無関係な民衆の想いのもと、彼女の知名度により反英霊の器を得て現界するに至ったのだ。
その姿はライダークラスよりも一回り成長した大人の姿で、胸元を大胆に開けた扇情的な黒いドレスに身を包んでいる。正直目のやり場に困る。
そんな彼女だが、なんやかんやあってカルデアで人理を守る英霊として加わり、日常に戻ってきた自分の家に押しかけてきて、今こうして目の前で不機嫌そうに腕組みをしながらこちらを見下ろしているのだ。
なんだかんだってなんだろうね。
「それで、お願いしていたものは買ってきてくれたのかしら」
「ああ、うん、これだね」
回想に思いを巡らせていたところで、彼女の言葉に意識を戻す。
言われたものをしっかり買っていることを確認して、中身の入ったバックを彼女に手渡した。
「ネギに、ショウガに……、頼んできたものは全部買ってきたみたいね」
「まあメモもあったし」
「ただ……、頼んできてないものも買ってきているみたいだけど」
「あ、あー……」
半目でこちらを睨みつけてくる彼女の視線に耐え兼ね、思わず目を背ける。その手にあるのはメモに書いてあったものとは別で、自分が勝手に買ってきたものだ。
こちらに構うことなく、彼女はバック中をまさぐりながら、一つずつ物を出していく。
「このみかんはなに」
「炬燵で食べたら美味しいかなって」
「勝手に買わないでほしいのだけど」
「カルデアでやってなかった? 炬燵でみかん食べるの」
「記憶にないわ」
「代わりに皮を剥いてあげた記憶あるんだけど」
「私の記憶には無いわ」
「その時君が美味しそうに食べていたから買ってきたんだけども」
「……そう、でも知らないわ」
むすっとしながらみかんを傍らに置く。確かに美味しそうに食べていたの覚えているんだけどなあ。最初剥いてあげたらそれからずっとみかん食べる時頼まれるようになっちゃったからなおさら。
「お肉は頼んでいたけれど……、このお肉、高いものよね」
「割引されていたから、せっかくなら美味しいもの食べさせたいなって」
「殊勝な心掛けだけれど、今日はお肉がメインのものじゃないからこだわらなくてよかったのに」
「え、そうだったんだ……」
「……まぁこれはいいでしょう」
再び傍らにそれを置く。
商品名とか書いてはあるものの、よくすぐに高いやつだって分かったよなあ。
一緒に食べている時に話したほうがサプライズ感あると思ってたんだけど、隠しきれなかった。
「アイスなんて頼んだ覚えはないのだけど」
「美味しいよ。雪〇だいふく」
「商品名は聞いてないわよ」
「期間限定でいちご味出ているんだよね」
「種類も聞いてないわよ」
「でもこれ二人で分け合うのに丁度良いんだよね」
「買った理由も聞いてないわ」
美味しいよね。雪〇だいふく。一口頂戴に対応するにはすごく分けにくくて面倒だけど、最初から二人で食べるのを想定してればすごい分けやすい。
マリーさんいちご味好きだったから。喜ぶと思ったんだけどなあ。
「余計なものはこんなところかしら」
「そこまで変なものは買ってきてないと思うけど」
「総評」
「え、評価されてたのこれ」
彼女はすくっとその場で立ち上がり、肘を支えながら指折り数え始めた。
「夕飯の材料買う目的で出かけたのに、それとは関係ないものを買ってきたから、マイナス十点。お肉は許容範囲としても、他は許容できないから、二つで合計マイナス二十点」
「マイナスけっこう大きいっすね」
「あとどうせならチョコレート味のほうが良かったからマイナス五点」
「あれ、いちご味好きじゃなかったっけ」
「今はチョコレートの気分なのよ」
「そっかあ……」
それは気づかなかったなあ、次からは気を付けて二つ買ってくるね。多分余計に買うもの増やしたってことでさらにマイナスされる。大丈夫。無理ゲーとか思ってない。
反省と共に次回の対策を立てていると、目の前のマリーさんはこちらをじっと見つめた後、すっと視線を外す。
その表情は、先ほどよりもどこか和らいでいて……。
「でも……」
「でも?」
「……全部私のために買ってきていたので三十点追加で、総評としてプラス五点差し上げます」
こちらとは目を合わさぬまま、そう言った。
その様子を見て、我慢していたがつい頬が緩んでしまう。
「なにかしら、こっちを見てニヤニヤして」
「いやマリーさん可愛いなって」
「馬鹿にしているのかしら」
「してないしてない」
「このアイスは私一人で食べますから」
「え、二人で分けるって言ったばかりなのに!」
取り出した食材を淡々とまとめながら彼女はそう言い放つ。あなたのために買ってきたからいいんですけど……。というかチョコレートがいいと言っていた割にはちゃんと食べるのね。
しかしまあ、カルデアを離れてこうして彼女と何気ない話をしている様子など、昔を思えば想像もできなかっただろう。
召喚に応じ、戦いを共にした、あくまでもカルデアのサーヴァントであったマリー・アントワネット。
他のサーヴァントと最低限の会話はしていたようだが、その頃の彼女は特定の誰かに心を開くような様子は見られなかった。
そんな彼女と今ここまで何気ないやり取りを行えるようになったのだ。
「カルデアにいる時はずっとマイナスされていたけど、プラスがちょっとずつ増えてきたからだいぶ心開いてくれたのかなって」
「心を開くも何も、あなたが一方的に話しかけてきたんでしょう。みかんだって私が頼んでもないのに自分で剥いて渡してきたじゃない」
「そうだったかも」
「あの時はただ鬱陶しかったからマイナスにしていたけれど、私からのお願いをきいたときにはちゃんと評価して差し上げた。ただそれだけでしょう」
「ふーん」
「それに心を開くも何も今更何を言っているのかしら……」
「マリーさんマリーさん」
「……何でしょう」
遮るようにこちらが話しかけると、彼女は怪訝な顔のまま視線を移す。
視線が合ったところで気づいたことを口にした。
「カルデアでのこと、やっぱり覚えていてくれたんだね」
「っ……!」
聞くや否や、彼女の白い肌が温かみを帯びたように見えた。
「そうそう、あの時はみかんの剥き方わからないのかなと思って、代わりに剥いてあげたんだよね」
「マイナス十点」
「結局マイナスになっちゃった」
顔を背けながらそう告げるマリーさん。さっきプラス五点だったから今のでマイナス五点ですね。全然プラスにならないや……。
でも純粋なマイナスは直すよう努めるけど、今のは照れ隠しのマイナスなので個人的には対象外です。へへっ、こればっかりはやめられねえ。
「……ちなみに剝かなかったのは爪の間にゴミが入るのがいやだったからよ」
「思ったよりだいぶちゃんと覚えてますね」
「別にいいでしょ。……そもそもだけど」
そう言いかけたところで、腕組みを解き、こちらの腕を取る。突然のボディータッチに驚いていると、彼女は頭をこちらの肩に乗せ、一拍置いてから呟きだした。
「……そもそも、あなたと出会ってからの出来事をそう簡単に忘れないわ。……一緒にいるんだから、そんなことわざわざ言わなくても察してほしいのだけど」
こちらと目を合わさぬまま淡々と漏れ出す言葉。ある人から見れば我儘のようにも思えるその言葉も、そんな我儘も含めた彼女の魅力に惹かれた自分には、とても愛おしく聞こえた。
「うん、こっちが無粋だったね」
「分かったなら今回だけは許してあげます」
「ありがたき幸せ」
一連のやり取りで顔は熱くなっているが、それでも半身を温める彼女の温もりはとても心地よく感じた。
アヴェンジャー、マリー・アントワネット。
本来は存在せず、英霊として召喚されるには至れないはずだった彼女。
なんやかんやあってカルデアで人理を守る英霊として加わり、日常に戻ってきた自分の家に押しかけてきて、今こうして自分の隣に身を寄せてくれる彼女。
今、自分はそんな彼女と暮らしている。
「――じゃあ、自分は部屋で少しやることがあるけど、手伝えることがあったら言ってね」
「ちょっと待ちなさい、その小脇に抱えている紙袋は何かしら」
しばらくして部屋に戻ろうとしたところで、ぴしゃりといい放たれた言葉に身体が硬直する。
すかさず小脇から見えないように隠したものの、時はすでに遅い。
「……ナンデモナイヨ?」
「なんでもなくはないでしょう、実際にそこにあるのだから」
「……」
「私に対して嘘がつけないのはある意味好ましく思っているところだけど。それはそれ、これはこれです」
片手で持っているものを差し出すよう促され、観念して隠していた紙袋を出す。
開けるまでもなく、袋には大きく石焼き芋と書かれており……。
「……この焼き芋は何?」
「最後の一個で美味しそうだったからつい」
「……」
「……」
彼女はその場で大きなため息をつく。
そして袋を見せびらかすようにこちらに向けると。
「あなたの夕飯はこれだけでいいかしら?」
「ごめんなさい」
……夕飯の時間になるまで、必死に謝り倒すことしかできなかった。
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- zelDecember 12, 2022