多分、おおよそ、きっと、希望的観測としては・・・
ただ告白だけして満足してるちょっと自己完結の弓と、言われて動揺してぐるぐるなって自分も好きだと気付いたのに返事とか関係ナシでいるのにブチ切れキャスニキの話。
幣カルデアと世界線が0.04くらいずれている感じの二人。
カルデアで一緒に過ごして穏やかにいれて、違う存在としてお互いに好きってなってたんだけど、自分で無いだろとも思ったりした面倒な人たち。
同一存在とか多いと、そこどうしようかって悩むけど楽しいですね。
まぁ、槍ニキ出てこないんですけど!
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「どうやら私は、君のことが好きならしい」
明日の天気は晴れて、お洗濯日和になるらしい、というくらい簡単さで手元の薬草をより分ける手を止めることなくしれっとした態度で嘯いた男に、逆に告白を受けた方があんぐりと口を開き動きを止めて相手の顔をただ見つめるという動揺しきりな反応を返していた。
カルデアの午後2時の柔らかい眠くなりそうな時間のことである。
「おい、手が止まってるぞ。今日中に仕分けてしまうんじゃなかったのか?」
その為に手伝っているのに何をしている、といつもの口調と片眉を上げ軽くしかめ面をして見せる常の状態に、さっきのは幻聴か何かかと瞬きをしながら草を分けるその手を掴んでクー・フーリンは改めて相手の顔をじっと見つめた。
「おい、今さっきの言葉はなんだ? オレにはお前さんが告白してきたように聞こえたんだが・・・?」
いっそ聞き間違えであれば、納得の話だという相手の態度を改めて感じながら、何を言っているんだと呆れたような顔で赤い瞳と目を合わせた鋼色が真摯に見つめ返してきた。
「先程の言葉どおりだが? 自問自答もしてみたが、どうやら私は君が好きならしい。ちゃんと聞こえたか、キャスターのクー・フーリン?」
恥じらうこともなく、好意というよりも検証結果を話すという態度は変わらずにそう言ったエミヤに、とりあえず言葉の意味は耳に入ったものと間違いなかったようだと頷き、そこから「好き」の意味について、こいつが言いたいのは友愛ということか、と納得する。
「まぁ、オレとお前はここのカルデアで初期からいるし、そりゃあ友愛くらいは芽生えるわな」
冬木ではもう一人の泥に汚染されたお前を一緒に相手取って倒したりもしたしな、とうんうんと納得したように頷き返すが、そういわれた相手にはて、と首を傾げて不思議そうに見つめ返した。
「私が言っているのは、そういう意味ではなく恋愛という意味での好きだが?」
あっさりと爆弾を落としてきた方は、言われた相手が固まっていることなど関係なしに手元の草を分け終え籠に入れていくと、軽く手を叩き立ち上がった。
「では、そろそろ食堂で仕込みもしなければならないし私は失礼しよう。ああ、臭み取りの香草は分けてもらうぞ」
恥じらうことも愛をさらに囁くでもなく赤くなりもしない平素と変わらない涼しい表情でさっそうと出ていったのに対し、クー・フーリンは逆に困惑と告白を受けて忙しなくなった胸を押さえて混乱の極みのまま草の上にばったりと伏した。
「な、なんなんだ、アイツは・・・。オレは、告白されたんだよな?」
恋愛という意味で好きだと言われて、確かにオレはイケメンだしな等と軽く返せば良かったのに、朝日が東から上っていくというのと同じくらい当然の出来事だというような態度で「好き」と言う相手の真剣な目は嘘を言っているようには思えなくて言葉につまっていた。情欲の欠片も何もない穏やかな目で、涼しい顔に僅に浮かんだ笑みという、もうちょっと情緒とか色々足りてないんじゃないのかと問い詰めたい。いや、クー・フーリンとしてはどういうことだとしっかり言わなくてはいけないような気分になっていた。
(本当にあいつはオレのことが好きなの? 好きなんだよな? 言ったからには、恋愛的に! しかし、なぜそこで返事も聞かず、言うだけ言っていなくなってるんだ? ああ、仕込みとかなんとか言ってたな。しかし、普通は返事とか気にならないのか? いや、オレが断ると思って返事を聞く前に逃げたとか・・・なんて、可愛いことあいつがするか? いや、したなら可愛いかもしれない、というか槍持ってるオレや若いオレと比べて、オレとアイツは最初からいた分ここでの生活もずっと長いし、よく話してつるんでいることも多いし、突っかかるような物言いも「オレ」という存在がいつもと違うと解ったらあっさりと止めて、割と穏やかに笑顔でいたし、一人でなんでもしていた奴がオレには頼るし、なんだかんだ空き時間一緒にいるとか仲良しか! いや、仲は良いだろうしあいつは気配りできるからオレも楽だし、気を許しきって酒を飲んで居眠りした時なんて割と童顔で可愛い・・・って、結構オレもアイツ好きじゃないか?)
ずらずらと考えること5分。あっさりとした物言いの告白か、自分も振り返って考えれば割と好きじゃないか、どころかもしかして深みにはまっている? なんて恐ろしく気付くのが遅い事態に、クー・フーリンはもう一度めり込むように床に伏して頭をぐりぐりと床に押し付けた。巻き込まれつぶされた草の匂いが漂う。
「あー、とりあえず、こっちの返事まずしなきゃだな」
最悪なことを考えれば、「君のことが好きならしい」というこの「君」が自分ではなく「クー・フーリン」という英雄について但し書きされている可能性も否めないが、告白してきたのは向こう。好きだと言ったのを反故するのかと詰って責めて、こちらの良いように言質を取ってしまえばいいだろう。その時には、他の「クー・フーリン」ではなく、自分一人だとしっかり言い聞かせておかないと後で面倒にもなる。
よし、と気合を入れると、クー・フーリンは先程告白をしてきたエミヤを探して部屋を後にした。
「・・・食堂、にいるかと思ったが・・・・・・・」
仕込みをするという話だったが、それは自分が煩悶している間に終わってしまったのか、キッチンを覗き込むがそこには誰もいなかった。あれが嘘を言うわけないのだがと奥の食材庫を覗きに行っていると、どうやらレイシフト先の食材を受け取りにいっていたらしいエミヤとブーディカが籠いっぱいの野菜を持ちながら楽し気に会話をしている。この二人・・・食堂の二大守護者は料理番という固い絆で結ばれ気安い仲間となっているのだろう。エミヤの顔も穏やかに笑顔を相手に向けている。
「おい、えみ・・・」
「それよりもさぁ、エミヤ君はあれからその「好きな人」とやらにちゃんと告白はできたの?」
いきなりタイムリーな話題に声をかけようとしたのを止め相手が気付いていないことをいいことに、クー・フーリンはすっと霊体化し気配を消す、と気付かれないように念を入れて気配遮断のルーンも切って二人の会話を見守ることにした。
「いちおう告げることはしてきたが、返事は貰わなかったな」
ふむ、と素直に返事を返すエミヤに、まぁ、と眉を顰め叱るようにブーディカが睨む。母性の強い彼女からすれば、戦闘や料理などの生活においては頼れる存在であると解っているものの、一度そこを離れて見るとどこか危うい所があるエミヤは庇護対象にもなりえるのだろう。
「そんな、返事も聞かないでくるなんて、ダメじゃないのよ! ちゃんと聞いてきなさい」
「いや、ブーディカ、いいんだよ。言われるように告白はしたが、私は別に相手と付き合いたいとかそういうわけじゃないんだから」
困ったように叱るブーディカに両手を降参と言うように上げて眉を寄せて困り顔になっているエミヤがどうしようかと息を吐き出した。
「付き合いたいわけじゃないなら、告白もなんでしたの?」
さっきから叫びだしそうになるのを堪えているのも、キャスタークラスという衝動を抑えるだけの知力と忍耐と、このどうしようもない男との付き合いが長く内面を知りそこの融通の利かない頑固さと反吐が出る自己評価の低さも可愛いと思ってしまえるとクー・フーリンが気付いたせいでもある。その為、最も突きたかった疑問を代わりに尋ねるブーディカにその通り!と現実には贈れない拍手喝さいを心で浴びせていた。
「・・・ただ、知っていて欲しかっただけなのかもしれないな。もう二度と会えないかもしれない、その存在だから好きだと思った事を。私の中ではきっと、擦り切れてすぐに消えてしまうから、相手の記録の中に存在したんだというこの気持ちを残させて貰ったんだ」
見返した時に、ちょっと変なことがあったという程度で思い返す程度の、板に少しだけ傷がつき小さなささくれができている違和感程度のもので良いから、残してみたかったんだと笑う顔は穏やかで、これ以上を望むことができない、考えもつかないという様子に、さすがのブーディカも怒ることができずにポンっと背中を叩いた。
「でもね、エミヤ君。もしもそれで相手がその気になっちゃった時は、ちゃんと向き合いなさいね? 好きな人から逃げるとか更に辛いことしたらダメよ?」
「いや、それはないだろう・・・。もしそうなったとしても、アレが見ているのはきっと別の私だ」
「・・・? うちにはオルタのアーチャーエミヤはいないでしょう?」
「いや、そうではなく・・・・・・まぁ、昔読んだことが本の中で見た言葉あるんだ『一人でも恋はできるのだから』ってね。それで十分なんだよ」
「まぁ! そんなこと言って!」
本当に仕方ないんだから、と言いながらもそれ以上は無理だろうと見切りをつけたのか作業に戻る二人に見えないのを良いことにクー・フーリンはその場にしゃがみこんで床を凹ませない程度の力で思い切り叩いた。
ランサークラスだったら楽々開くだろう穴はキャスタークラスでは開くわけもなく、それどことか音すら出すことができずただ布に覆われた手が床を滑っただけだった。
「あい、つは・・・、どこまで勝手に自己完結してやがんだ・・・」
ここで一つはっきりしたことは、エミヤはキャスターのクー・フーリンだから好きになったということ。そして、キャスターのクー・フーリンが別の存在を思っていると思い込んでいること。
この勘違いは、きっと何のせいかというのはすぐにわかる。出会いの場所になった冬木の地。マスター側の最初に呼ばれたちゃんとしたサーヴァントであるエミヤ。冬木で現界したキャスターのクー・フーリンが相手取っていた、それこそランサーもクー・フーリンがどこに行っても出会う”運命の相手”として泥に飲まれシャドウサーヴァントになった同じ存在。
エミヤはできない事をしてのけたあのシャドウサーヴァントはキャスターのクー・フーリンがとどめを刺した。己が出会ったこの聖杯戦争の宿敵の相手として。槍のクー・フーリンが冗談でも”運命”などと使ったりするからエミヤが誤解するのだ、と現在絶賛潜伏中のキャスターのクー・フーリンは己の同位体に呪いの念を飛ばしていた。
ああなる前に倒してやれたら良かった、可哀想なことをしたと思うのは簡単だが、だから同じ存在でも彼の英霊は哀れと思いこそすれ、カルデアで過ごしたこのエミヤと同じ想いを抱けるかといえば否となる。
ここにきて知った面、あの穏やかな話口調、そしてこちらに信頼を寄せてくるあの甘え、それを持っている今の存在だから好きになったと気付かされたと言うのに。自分はキャスターとランサーとを別と分けで考える癖になぜ他に者が同じようにすると思わないのか。
それに『一人でも恋はできる』などと嘯く顔にアンザスと炎を投げつけなかったのを誰かほめても良いとクー・フーリンは切実に思った。このバカは絶対言われるまで気付かないし言っても中々理解はできない頑固者だ。
「覚悟しやがれよ・・・」
小さく呟くと、落ちて逃げられなくする為の罠を仕掛けるべくその場を立ち去りエミヤの部屋へと向かっていった。
食堂でのブーディカとの会話、そしてそのまますぐに始まった調理。それらを全部終えたエミヤが部屋に戻りついたのは夜遅くとまではいかないものの、もう就寝の早い子供のサーヴァントなら寝ているだろう時間であった。起きている大人は酒を飲んだり一日の終わりにちょっとしたものを仕上げたり、と思い思いに過ごしているだろう時間。一体いつから待っているのか、エミヤの部屋の前に大きな青い塊が落ちていた。
「おい、こんなところで寝ていると・・・まぁ、風邪は引かないだろうが部屋に入る者の邪魔になる、それにここは廊下だ。人の通行の邪魔になる。起きたまえ!」
無視して入りたいだろうに、こんなところで寝ている男のせいでエミヤはさすがに今日はもう話すつもりのなかった相手にゆるゆると手を伸ばした。
「・・・逃げんなよ、エミヤ」
エミヤの手が相手の肩に届くよりも先に相手の手が先にエミヤの腕を掴んで引き寄せてきた。ぐいっと引っ張るとつんのめる体ごとがっしりと掴みそのまま倒れるようにドアを開けて、二人揃って部屋の中に転がり込んだ。
「おいっ! 急になんなんだ、君は・・・。先程の意趣返しにしてもやりすぎではないかね?」
床に転がったままできつく抱きしめたまま離さないクー・フーリンに、エミヤは大きいため息を吐き出した。
「意趣返しでもねえし、少しお前は黙っとけ。堪能させろ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめるとあきらめたように大人しくなるのに満足して頷くと、クー・フーリンはうつむいた相手の顔をひょいっと手で掬いあげそのまま顔を寄せていった。
「・・・っ、なんなんだ・・・本当に!」
赤い目を閉じることなくそのまま唇を重ねると、怒っているように睨む顔にわずかに朱が指している事に気づきにんまりとした笑みを深める。一人で恋はできるが、二人でしてはいけないということではない。相手がいれば恋は愛に変わるのだから。
「返事を聞かずにさっさと出ていく、薄情な恋人を構いに来たに決まってるだろう?」
告白は相手から先にしてきた。返事は貰わずに逃げた。それならば、こちらが返事を考えどういう形にしたいか勝手に決めてもいいだろう。頬や顎に愛おしむように唇を落とし髪をなでるついでに耳をくすぐるように撫でれば、フリーズしたままになっていた体が震え再起動する。
「こ、恋人ってなんでそんなことになってるんだ!?」
「そりゃあ、お前はオレが好きだろう? オレもお前が好きだと気付いた。そうなりゃ両想いで恋人同士で決まりってことでシャンシャンシャン、だ」
お前が逃げるから悪いと囁けば、逃げてなどないと不服そうな呟きが返る。逃げてる自覚があるのか、いささか不貞腐れたような顔になっている。
「・・・貴様は、あの冬木の時の私が・・・いいんじゃないのか?」
不服気でさらに言えば睨んでくる瞳の奥が、勘違いであるのだと非難する目になっている。間違いで自分に手を出してきてきっと後で違うと後悔するんだと言わんばかりに、瞳の奥にある不安で揺れる光を見つけた。
「エミヤ、お前が”オレ”だから好きだと言うのと同じように、カルデアでこうやって一緒にいるお前がオレは好きだってことに気付けよ、たわけが」
はっきりと自覚させたのだから、責任は取ってもらうからな。
最後通告のようなその言葉に、まだ理解しきれていない自分勝手な自己完結と与えられたものを受け取り慣れていないエミヤが真っ赤になっているが、クー・フーリンがそれに構うことはなく、よいしょっと声を上げ体を抱き上げベッドへ落とした。
「まぁ、お前が理解できなくても・・・まず先に落とせるところから落とさせてもらおうか。マーキングにもなるしな。他のオレ避けだから安心して愛されとけ」
一人で恋はできても、二人でないと愛し合えないんだから、と耳元に囁きかけ「どうしてそれを」と固まったエミヤににやりと笑うと、クー・フーリンはキャスターとしての英知をかけて、せっかく自分を選んだんだのだから霊基にまで染み込む位の忘れられない痕を残すべく覆いかぶさっていった。
エミヤの告白から数日。告白のお返しから散々に鳴いて泣かされて、さすが半神半人の英雄ともなると強い魔力を持っていると嫌味な位笑顔で言われるのも全く意に介さず照れるな、などと笑う男は今日も今日とて逃げようとするエミヤを捕まえ愛していると抱きしめている。
「今日もちゃんと、オレに愛されろよエミヤ?」
好きではなく愛しているとそれに素直に返すことはできないエミヤもとっくに、相手からの想いを正しく受け取っているが黙ってその愛を享受していた。
「多分、きっと、おおよそ私も君を愛しているんだろうな・・・」
飾る言葉が多いものの、やっと告げられた言葉にクー・フーリンは一瞬きょとんとした顔になるが、とろりと溶けるような笑みで更にきつく抱きしめた。