ある日、私とマスターと二人で他愛ない話をしていた時。なんとなしに、流れで色恋の話になったことがある
私は答えた
「色恋沙汰、ですか? うーん、私はそういうのには疎いみたいでなんとも…………」
決して嘘では無かった。本心であり、事実だった
…………でも今考えると、私はマスターに、結果的に嘘を言っていたかもしれない
だって、私は
~下総国のとある村外れにて~
沖田「…………終わりましたね、お怪我はありませんか?マスター」
沖田「…………え?あ、はい!身体の方は大丈夫ですとも!」
沖田「……………………うーん(ゴシゴシ)」
沖田「……………………え?」
沖田「いえ…………返り血を落としてるんです」
沖田「あの人に会いに行って、怖がられたら嫌ですからね」
沖田「…………あ、マスターはまだ会ったことありませんでしたっけ?」
沖田「今現在、私達が拠点として使ってる村に、唯一のお医者がいるじゃないですか」
沖田「そのお子さんに会いに行くんですよ。私と同じぐらいのお年らしいのですが。最近は毎日会いに行ってます」
沖田「その人、とても病弱でして…………。最近は寝込み気味らしいんです。そこがどこか放っておけなくてですね~。甘味も好きと仰るので、お団子を一緒に食べながらよくお話をするんですよ~。いやぁ、それが楽しくて楽しくて…………」
沖田「……………………?マスター、どうかされましたか?」
沖田「あ!マスターもご一緒にどうですか?まだお会いしたことも無いんでしょう?」
沖田「…………あ、そ、そうですか」
沖田「いえいえ、お気になさらず。マスターが多忙なのは承知してますからね!無理を言ってスミマセン!」
…………スタスタスタ
沖田「……………………(ゴシゴシ)」
沖田「……………………私が血塗れでも、普通に接して下さるのは、マスターだけなんですよね…………」
……………………
沖田「こんにちはー。沖田総司、村付近に出没する怪異討伐の任、終えてきました」
沖田「今日はお団子をお持ちしましたよ。さあ、ご一緒に食べましょう!」
沖田「(モグモグ)」
沖田「少しばかり肌寒い季節ですが、しっかり食べて療養すれば元気に立てるそうですね?良かったですー」
沖田「…………え?何でこんなに良くしてくれるか、ですか?」
沖田「いえいえ、そんな大それたことはしていませんよー」
沖田「でも、そうですねぇ。私もよく病床に伏していたので、お気持ちが分かるといいますか、是非お元気になってほしいんです」
沖田「……………………あとですね」
沖田「実は自分、婚約の話が上がったことがあるんですよー。自分がかかっていた町医者のお子さんとの間の話なのですが…………」
沖田「貴方はそのお相手にどことなく似ていまして…………。お顔もそうですが、雰囲気もですね。だからなんとなく他人の気がしないといいますかー」
ガタンッ!
沖田「ッ!?何奴ッ!?」
沖田「(家の外の音!怪異の残党ッ!?危険だ!)ガタッ!」
沖田「この場から決して動かないでくださいねっ!……………………動きたくても動けない?そ、そういうこと言ってる場合じゃありませんからねっ!(ダッ!)」
バタン!
沖田「…………ッ!…………あれ?マスター!?」
沖田「どうしたんです?家の外で倒れて…………ささっ、お手をどうぞ」
沖田「!そうですマスター、先程、何やら怪異らしき物音が聞こえたのですが、そのような類がいませんでしたか?」
沖田「…………そんな者はいなかった?気のせい?そ、そうですか?」
沖田「おかしいですね、二人で共に聞いたハズなんですが…………」
沖田「……………………マスター、顔色が悪いですけど、どうかされましたか?」
沖田「大丈夫ですか?やっぱり一緒に中で休んで…………あっ」
沖田「行っちゃった…………」
沖田「(気のせいかな)」
沖田「(マスター。声が震えていた、ような)」
……………………
土方「…………あ?沖田に結婚話だ?」
土方「……………………あぁ、そういやそんなことあったな。…………くくく」
土方「最終的に近藤さんが大反対をしてな、沖田と二人で話をしてたな…………」
土方「それで沖田が大激怒してな。芹沢を粛清しに行った時だって淡々としてたが、あそこまで怒ったのは初めてみたな」
土方「……………………アイツがキレたまま刀を持ったら、手の着けようがないってんだ。…………まず見えねえんだよ、剣が。あれは、剣じゃねえ、何か別のもんだ…………」
土方「……………………おい。聞いてるか?」
……………………
沖田「こんにちわー!」
沖田「いやー、今日も今日とて沖田さん大勝利でしたよー!はい、お土産のお饅頭です」
沖田「段々怪異の出現規模も少なくなってきてますし、もう少しで平和に生活出来そうですよ!」
沖田「…………あ、食べづらいですか?」
沖田「ふふふ、この沖田さんが食べさせてあげましょう」
沖田「はい、あーんしてください。あーん」
沖田「……………………はぁ」
沖田「え?…………はい」
沖田「…………実はですね、最近マスターがどこかよそよそしくて…………。私、何か怒らせることをやっちゃったんでしょうか…………」
沖田「あとついでにノッブ…………あ、あの黒髪の少女のことなんですが。『アクジョジャ…………オトコヲフリマワス、アクジョジャ…………』と謎の呪文をよく言っているんですよ」
沖田「………………………………はぁ」
沖田「……………………ああ、こないだの続き?聞きたいんですか?」
沖田「そうですね、一旦悩みは忘れましょうか」
沖田「えーっと、貴方にどことなく似ているお相手と、結婚話が出た、というところまで話しましたっけ?」
沖田「そのお相手とはお医者様に診てもらう関係で良くお話の機会がありまして。それで段々仲良くなっていきまして…………。まあ、いつの間にか婚約話が浮上してたわけですよ」
沖田「……………………なんですかその表情はー!」
沖田「いや、言いたいことはわかりますけどー!」
沖田「と、とにかく!」
沖田「それで周りが婚約の話で盛り上がる中、近藤さん…………私の家族のような人に、私は怒られたんです。二人の結婚なんて反対だ、と。もっと身分相応な相手を探せと。それも真剣な顔で。…………それで私、怒って近藤さんを畳に倒して引きずり回して…………」
沖田「……………………こふっ!こふっ!」
沖田「す、すみません。急に体調が…………」
沖田「え?お布団?一緒に?いいんですか?」
沖田「そ、それでは遠慮なく、失礼します…………」
沖田「あぁ~あったかい」
沖田「……………………全く、近藤さんったら、酷いものですよ、もう」
沖田「……………………まったく…………まったく…………くぅ…………」
……………………
沖田「マスター、足元に気を付けて下さいね。この辺りは地がボコボコしておりますので」
沖田「……………………」
沖田「(ノッブや土方さんに無理を言って、マスターと二人きりで見回りをさせて貰いましたけど…………)」
沖田「……………………」
沖田「(な、なんと声をかければいいのか…………)」
沖田「……………………は、はい?」
沖田「あの人?ええ、毎日お見舞いに行ってますよ?もうすぐ元気になるそうで」
沖田「え?この間帰るのが遅かった理由?」
沖田「いやぁ、実は一緒に寝ちゃってたみたいでして…………気付けば結構なお時間に…………すみません」
沖田「…………マスター?」
沖田「(……………………どうしてマスターは、悲しそうな表情をされているんだろう)」
沖田「(…………マスター、今日は歩くのが早いな)」
沖田「(…………やっぱり、私はこうなのだろうか)」
沖田「(人を斬るたびに周りは離れていって、知らず知らずに嫌われて)」
沖田「(それは、しょうがないことだと、当たり前だと、割り切っていたけど…………)」
沖田「(大好きなマスターにも…………嫌われてしまうのだろうか)」
沖田「(でも…………マスターは。マスターにだけは、嫌われたくない…………)」
沖田「……………………あの、マスター。私、もしかして、最近、何か失礼なことをしてしまっては……………………」
ガシャッ
沖田「!?」
沖田「(敵襲!…………三体!)」
目の前に突如現れた怪異。そのうちの一体が、こちらに目掛けて突進してくる
沖田「(…………マスターはまだ敵に気付いていない!)」
沖田「(…………これではマスターの反応が一足遅れる…………危ない!)」
沖田「(…………手を…………)」
沖田「マス…………!」
ズパッ
沖田「……………………つゥッ!」
沖田「(斬られた…………左腕…………マスターは…………?)」
沖田「(…………無事だ)」
沖田「(……………………良かった)」
安堵している間に、何も考えずに怪異の一体の首を片腕で斬った。あっさりと首と胴体が離れた
沖田「(片腕だろうとなんだろうと)」
仲間がやられて、動揺したのか、それとも何も考えていないのか、残りの怪異は身動き一つしなかった
沖田「(マスターの手前)」
だから、私は二体の間に飛び込んだ。飛び込んで、周りを一閃。あくまでそれは、斬る距離を測るため。距離感を計ったら、攻撃に移る
沖田「(格好の悪いところは見せられませんから)」
前方の相手にたいして下段構え、右下から左上に切り上げ。相手は後ろに下がって回避する。それでいい。空振る刀をそのままに、身体を反転させて、私を斬ろうとした後方の敵に、大振りのカウンターで打ち込む。刀を担ぎ上げるように、遠心力を利用した一撃は、首から鎖骨を叩き斬る
敵に向けた背中から気配を感じる。また私は、刀を横回転しつつ向き直る。今まさに私の脳天を割ろうと、上段から振り下ろされた刀があった。その横から、押し当てるように刀を合わせる
沖田「(だから、消えろ)」
両者共に弾かれるが、私だけはそのまま勢いに逆らわずに引き戻す。腰を軸に刀を回して、今度は逆側からの横薙ぎ。刀を弾かれて、体制が整っていない怪異は、抵抗する間もなく空いた腹部を斬られた
沖田「(…………残心、は、もういいか)」
沖田「…………あはは…………情けない。すみませんマスター。片腕、やられちゃいました」
沖田「ま、このぐらい、唾でも付けておけば何も問題はありません!」
沖田「それよりマスター、お怪我はありませんか?私、マスターのお役に立てましたよね!?」
沖田「…………マスター?」
沖田「ちょっ、駄目ですよ!返り血が着いちゃいますから!近寄っては…………あっ」
沖田「……………………もう。手が汚れちゃいましたね」
沖田「(……………………ああ、この手。いとおしいなぁ)」
沖田「(…………こんな人斬りを心配してくださるなんて、マスターだけですよ?)」
沖田「…………?」
沖田「……………………どうして謝るんですか?」
沖田「わっ!」
沖田「どどど、どうして抱き締めるんですか!?」
沖田「マスター…………ッ!?待って、待って、くださ…………あっ…………」
沖田「……………………怖かったんですか?違う?」
沖田「……………………そんなに謝らなくていいんですよ?マスターは何も悪いことはしていませんから」
沖田「(…………ああ、あったかい)」
沖田「……………………あの、マスター。いいでしょうか?」
沖田「最近、マスター…………どこかよそよそしい気がして…………」
沖田「私、その、寂しくて…………ですね…………。正直、辛くって…………」
沖田「…………私が何か悪いことしてしまっていたら、言ってください。気にくわないことがあったら、言ってください。お叱りもなんでも言ってください。だから…………」
沖田「私、マスターに、嫌われたくなくて、放っておかれたくなくて、構ってほしくて…………」
沖田「……………………み、見捨てられたくないんです」
沖田「布団の中で、動けないまま…………死ぬまで一人でいるのは…………見捨てられるのは、もう嫌で…………」
沖田「………………………ワガママ、ですね、すみません」
沖田「………………………はい?」
沖田「……………………はい、ありがとうございます」
沖田「………………………」
沖田「あっ、ま、待って下さい!」
沖田「も、もう少し、もう少しこのままで、お願いします」
沖田「……………………頑張ったんですから、このぐらい、良いですよね?」
沖田「……………………えへへ、マスター」
沖田「……………………大好きですよ?」
……………………
沖田「こんにちわー!お元気ですかー!?」
沖田「もうすっかりお元気になりましたね!はい、お土産です!」
沖田「もうほとんどの怪異は討伐出来た様子です。あとは、発生したとしても大した脅威にはならないらしく、村の人達の自衛で、どうにかなる程度だそうです。夜中に出回ったりは控えて下さいね?」
沖田「…………え?こないだのお話ですか?」
沖田「あー…………そうですね。私が、反対されて激怒したという所はお話しましたっけ?」
沖田「そりゃあ怒りますとも!」
沖田「だって…………だって…………」
沖田「だって相手娘さんですよ!?婚約もなにも女同士ですから!いや、同性同士で恋人になる、というのもわかりますけどね!?」
沖田「普段遊んでる近所の子供達なんか『沖田のにーちゃん嫁貰うの?おめでとう!』とか言ってきますし!人をなんだと思ってるんですかねーホント!」
沖田「いくら私に色恋沙汰の話が一切無いとはいえですね!れっきとした女なんですよ私はー!?周りが面白がって婚約の話を広げてたのも憤慨モノなのですがね…………!」
沖田「よりにもよって近藤さんが本気にしたのが納得いかないんですよ!だから真剣な顔で反対を告げられた時私怒りまして!何が「嫁を貰うなんて許さん!」ですか!それで畳に倒して引きずり回して!思わず三段突きを打ち込んでやろうかと木刀を探した所で土方さんが止めに来たんですけど、私構わず…………」
バターン!
沖田「な、何奴ッ!?(ダダダッ)」
沖田「マスター!?何故ここに!?ここは危険です!また何者かの敵襲かなにかが…………!」
沖田「え?またまた気のせい?」
沖田「おかしいですね…………まさか耳の調子まで悪くなるなんてことは…………」
沖田「あ、マスターもご一緒に和菓子、どうですか?娘さんも、マスターに会いたいと常々仰ってましたし。…………あ、私がマスターのお話をよくするので、興味を持たれたそうなんです。村を守ってくれた感謝の言葉も伝えたかったそうで」
沖田「は、はい!それではどうぞこちらに!」
沖田「……………………」
沖田「マスター、何か良いことありましたか?」
沖田「え、だって」
沖田「笑ってますので…………」
……………………
レイシフトを終えてカルデアに戻ってきた。最近はよくマスターに、お茶に誘われる
沖田「(モグモグ)」
沖田「マスター!お団子、美味しいですね!」
何故か、以前にも増して、マスターは私をお誘いして下さるようになった
おかげで、私がマスターから離れることは滅多にない。…………まぁ!沖田さんの大活躍によるものでしょうかね!あはははは!はは…………
沖田「…………え、どうしましたか?」
沖田「…………退屈か、ですか?」
沖田「いえいえ!そんなことありませんよ!お団子は美味しいですし!…………それに私は」
沖田「旦那様と一緒に居られて、それだけで私は幸せですよ?」
沖田「…………」
沖田「……………………」
沖田「…………………………………………」
沖田「いえ違うんですよ」
沖田「今のは「マスター」を日本風に言っちゃっただけでして」
沖田「なんか和菓子食べてて気分が日本風になったと申しますか、なんと言いますか」
沖田「別に既成事実を作ったとかそういうわけじゃなくてですね」
沖田「マスターの…………お、お嫁さんを…………気取りたかったとかそういうわけではなくてですね…………!」
沖田「な、な、なんで笑うんですか!?」
沖田「わ、わ、忘れて下さい!忘れて下さいよマスター!」
二人でお茶をする私達をノッブが横切った。何やら囁いていたような気がした
織田信長「悪女じゃ…………男を無意識に振り回す悪女じゃ…………」
おわり
あァ〜五臓六腑に染み渡るゥ〜良き〜