女子枠の前に、考えるべきことがあるのではないか
進路に関する記事は10日に1度くらいのペースで考えていましたが、国立大学の二次試験を目前に女子枠の話題でSNSが盛り上がっていたため、思うことをいくらか書きます。
先に結論を書きます。
私は女子枠の賛否そのものよりも、その前にやるべきことがあるのではないかと感じています。
女子を優遇する制度を作る前に、
· 現状のロールモデルをどう提示するのか
· 研究者の待遇をどう改善するのか
· 理系に興味を持つ女子(男子も)をどう増やすのか
そこを考える必要があるのではないでしょうか。
推薦と学力について
私は大学入試に関しては、推薦制度をあまりよしとはしていません。
理由は単純で、高校教科書レベルの基礎があってこそ、大学で次のステージの学習や研究が可能になると考えているからです。
学力が不足していても単位は取れるかもしれません。
しかし、その後論文を出したり学位を取得したりするところまで到達できるかは別問題です。
東京大学が推薦入試で入学した学生の良い成果は個別に紹介する一方で、全体の進路を明確に示していないことも、私は一つの材料として見ています。
女子枠の目的
女子枠が設けられた理由は、理系分野におけるジェンダー偏在を是正し、多様性によるイノベーションを生み出すためとされています。
京都大学では今年から工学部と理学部に女子枠を設けました。
背景には、
· 固定観念によって優秀な女子層が理系を選択しにくい現状
· 国際競争力向上への危機感
があるとされています。
課題として指摘されている点
一方で、
· 成績上位男子が不利益を被るのではないか
· 実力低下を招くのではないか
· 形式的な是正に終わるのではないか
という懸念もあります。
ここで私が思うのは、理系に女性が少ない理由は複合的であり、1つの制度で解決するものではないということです。
しかし、何もしなければ変わりません。女子枠を「一手」と考えることはできるかもしれません。
ただし、「将来的な女性研究者やリーダー層の育成」と言うのであれば、10年後にその成果を検証する必要があります。
博士課程進学率はどうか。研究職に就いているか。分野横断的に活躍しているか。
成功事例があれば、ロールモデルとして可視化すべきです。
進路指導の現場から
私は担任や部活の顧問として進路指導をしてきました。その中で女子生徒が理系を志望したのは、およそ7割程度でした。詳しくは後述します。
しかし、なんとなくで「研究者」という言葉が出た場合は、男女問わず再考を促します。
そして、大手メーカーなどと繋がりのある大学、あるいは一定以上の学力がある場合は医学部を勧めることもあります。
理由は単純で、日本のアカデミアの待遇が厳しすぎると感じているからです。
私の知り合いの優秀な研究者でも、30代後半まで非正規、2〜3年ごとの引越し、不安定な雇用という状況でした。
パートナーの理解がなければ家庭生活も難しいのが現実です。
それであれば、まず経済的に安定する選択肢を取り、その後、職場の制度を利用して社会人博士などで研究を考える方が現実的だと助言しています。
実力と制度
私は、実力不足の学生が女子枠で入学することは、男子だけでなく本人にも不利益がある可能性があると考えています。
それは、高校の進路指導が制度を“進学実績向上の道具”として利用してしまう可能性があるからです。
現に、東京大学の推薦制度に関して、私は現場で経験しました。
学生の実力や関心から見て、東大や京大が本当に適しているとは思えない場合でも、「制度の規定に当てはまるから」という理由で背中を押され、出願に至るケースです。
本人の特性や将来像よりも、「出願可能かどうか」が優先されることがあります。
これは制度が存在する以上、起こり得る構造だと思います。
京大の女子枠は今年からですが、東大の推薦制度については、私の知る限りでも制度の趣旨通りに機能しているとは言い難い事例がいくつかあります。
もちろん成功例もあるでしょう。
しかし、制度の目的が「将来的な女性研究者の育成」であるならば、
· どの分野に進んだのか
· 博士課程へ進学した割合はどうか
· 研究職として定着しているのか
こうしたデータは検証され、社会に示されるべきです。
もし制度が、高校の実績づくりと大学の多様性アピールの双方に利用される一方で、本人の適性や長期的成長を置き去りにしているとすれば、それは結果的に「将来的な女性研究者」の芽を摘んでいることにならないでしょうか。
設備と環境の問題
私は女子高生や大学生を連れて採集調査を行うことがあります。
その際、大学施設を利用するのですが、未だに
· 風呂とトイレが共同
· 着替える場所がない
といった状況に直面します。
これは単に設備を増やせば解決する問題ではありません。
制度や施設が、長年男性中心で設計されてきた結果でもあります。
現在は改善が進んでいるとはいえ、細部ではまだ過ごしにくさが残っているのが現実です。
女子枠を作る前に、今在籍している女子学生の声を丁寧に拾うことも必要ではないでしょうか。
理系志望の差はどこから生まれるか
女子枠問題の背景の一つに、「理系に興味を持つ女子が少ない」という指摘があります。
ただし、これは一律の話ではありません。
実際、進学校では女子の理系志望は決して珍しくありません。私のもとに進路相談に来る女子生徒も、多くが理系志望です(理系志望だから私のところに来るのかもしれません)。
また、共通テストを前提に国公立大学を目指す学校では、女子でも理系進学は一定数見られます。
女子校トップクラスの桜蔭中学校・高等学校でも、公表されている進学実績を基に推測すると理系進学者は半数を超えると考えられます。
一方で、私が以前勤務していた学校では理系はそもそも選択肢にありませんでした。
その学校のトップクラスの生徒であっても、理科の話をすると強い拒否反応を示しました。
「中学の理科でつまずいた」「点が取れなかったから苦手意識がある」と。
この差は何でしょうか。
私は、中学までの環境の影響は非常に大きいと感じています。
理系への入り口は、日常の中にある
私は男性ですが、理系に興味を持ったきっかけは父の影響でした。
父は高校で生物(化学)の教員をしており、教材用にNHKの理科番組を録画していました。
私は、母が用意してくれた英語教材には目もくれず、その番組を繰り返し見ていました。
周囲の理系の知人(女性を含む)を振り返っても、似た傾向があります。
· 小学生の頃に親とキャンプに行き、魚を捕まえていた
· 父親と一緒にガンプラを作っていた
· 天体観測や昆虫採集をしていた
共通しているのは、親と一緒に体験したことがあるという点です。
ただし、それだけでは理系志望にはなりません。
重要なのは、その体験が「学習」と結びつくことです。
例えば、
· キャンプで捕まえた魚が中学受験の理科テキストに載っている
· 授業で先生がガンダムを例に物理を説明する
体験と学習が接続した瞬間、「理科は面白い」に変わります。
一方で、家庭の事情でそうした体験の機会が少なく、学校でも理科の面白さを伝えてくれる教師(大人)に出会えなかった生徒は、理科を「よくわからない」「点が取れない教科」として避ける傾向がありました。
これは女子に限りません。男子でも同じです。
まとめ
理系進学の男女差は、大学入試の段階で突然生まれるものではありません。
· 家庭環境
· 中学までの学習経験
· 出会った教師(大人)
· 体験と学習の接続
その積み重ねの結果です。
女子枠を大学に設けることが一つの政策であるとしても、理系への入り口はもっと手前にあります。
大学が「女子を増やす」ことに力を入れるのであれば、
· 小中学生向けの理系体験の場を広げる
· ロールモデルを可視化する
· 研究者の待遇を改善する
といった長期的な土壌づくりが同時に必要ではないでしょうか。
ただし、大学教員の業務はすでに限界に近いのも事実です。
これには、個々の大学の努力だけでなく、組織的な取り組みが求められるのだと思います。
制度を作ることは比較的容易です。しかし、その制度が本当に誰のために機能しているのかを問い続けることの方が、はるかに難しいのではないでしょうか。



入口でいくら「いらっしゃい♥️」しても、出口の社会の採用での差別や、勤続上の不利がそのままだと……と思います。決定権側に圧倒的に偏りが有りますよね~🤔
コメントありがとうございます。 おそらく、履歴書にはxxx大学(女子枠)とか書かないので、大学名で採用される場合は心配ないかと。あと、サンデー毎日のデータによれば、京大理学部の倍率はかなり高かったです。かなり実力のある学生が合格しているのではないでしょうか? ただ、東大の推薦のよう…