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へたれなぼくの魔法使い/Novel by かない

へたれなぼくの魔法使い

13,270 character(s)26 mins

なんとか、二個目期限まで間に合った。空前絶後に鈍くてしょうがないキャスターとアルスター兄弟と仲良しで片思い中のアーチャーくんとじれったいなと見守る兄弟の話っぽい。
かっこいい人など、ここには、いないー!!

イメソンの歌詞のさびの所のセリフが好きなのです。バカな話なのにもったりと長いですが、少しでも楽しんでもらえればよいのだが……。
なお、末っ子プロトくんは「え? 別に、アニキの誰かと付き合えばアーチャーがオレのお兄ちゃんになるからそれだけで良い」ってケロリと言っちゃう系男子。でも、お兄ちゃん全員玉砕したら、オレじゃダメ?ってウルウル泣き落とす気満々。
誰とくっつこうがうちから離れないでいるならいいかなーって思ってそうな兄弟。って…なんか好きで……

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 俺の年下の幼馴染はハッキリ言ってしまえばダサい。

 子供のころからの付き合いで、根は良い奴なのは解っている。隔世遺伝ってやつのせいで、家族と違う色味を持って産まれてきたこと、そして美しい姉や母、自分で言っちゃなんだが幼馴染でもある俺の兄弟もみんないわゆる美形という、顔面偏差値の高い人間に囲まれてそんなに悪い顏じゃないのだが、散々比べられてきたせいか、外見についてコンプレックス……いや、劣等感……いやいやそれでもまだ足りない。兎に角自己否定が強くなりすぎてしまっていた。
 そのせいか、『自分なんかがこんな服を着ても似合わない。君達のが似合う』ときっとその服は似合うと思うに、全く関係ないとばかりに黒い服ばかり着ているのだが、顏の割りに暴れん坊とよく言われた俺やすぐ下の弟のランサー、そして普段のんびりのくせに暴れだすと止まらなくなるオルタに、彼の姉が選んだ服を交換してくれと言って遊んでいる間に交換させられたり(ランサーが嫌がったので主に俺やオルタにお願いを良くしてきた)、着れればいいと地味な服を選んでは親に嘆かれていた。
 服装については、まだ子供であり親の最大の意向には逆らえなかったので小学生時代はまだ明るい服を着ていた。しかし、中学になるとどうだろうか。制服という便利なもののせいで私服を見ることが少なくなり、なまじ存在する制服とジャージで済む時間は、ドンドンと長くなっているのだ。真面目なアーチャーは制服を着崩すこともなく中に着るTシャツも生徒指導の通りの白いシャツだ。そうなった結果、ごくわずかな白のTシャツと黒の服しかないクローゼットが完成しているのを見つけてしまった時に、言いようもない顏になったのは仕方ないだろう。もう少し,違う服とかを着てる姿を見てみたいという素直な欲求もあったが。
「キャスター、どうしたんだ?」
 そう、年上の幼馴染として『勉強を教えてやる』なんて実の弟にもしない事を口実にして部屋にやってきた俺は、問題のクローゼットを見てしまい勉強よりもお前は自分の似合う服を選ぶ方法を学べと言いそうになるのを抑えた。
「いや、それよりもたしかお前さんの志望校って俺のトコなのか?」
 てっきりランサーと同じ所に行くと思っていたがと首を傾げれば、同じようにこてんと首を傾げたアーチャーはゆったりとしたダークグレーのシャツとジーンズという相変わらずの黒系の服装に前髪を目まで隠すようにして下ろしている。本当に洒落っ気は無いが可愛いと思うこの幼馴染は、自分が相手にどう思われているかが全く解ってないやつだった。
「ああ、だってキャスターの通う学校は弓道部もあるし、なにより図書館が大きいのだろう?」
「でっかい図書館ならそれこそ2つ先の駅の近くにできた図書館のが品揃え良いぞ」
 あそこの、と場所を教えればそれはそれで興味があるから行きたいと言う答えが返ってくる。一緒に行くかと尋ねれば、うんと嬉しそうな返事が返る。懐かれているな、とこういう時に実感する。
「アーチャー」
 参考書を開き問題を解いて俯いているからか良く見えるつむじを眺めながら声を掛ければ、顔を上げずに生返事のような言葉が返る。
「うん、なんだ?」
 これがもう少しで解けそうなんだ、と呟く声に証明問題を解いている指先を見てああと答えを返すと頬杖を着きながらも相手のことに構わず言葉を投げる。
「最近、ランサーと一緒に居ないけどどうした? 学校も俺のいる所なんざランサーが逆立ちしたって来れない高校だ。そこを選んでまで何で離れたいと言うんだ?」
 ランサーとアーチャーは確かに競い合ったりケンカしたりも多いが、それは仲が良いから起こるようなものだった。お互いに相手が大好きだってのははたから見ていてよく解る。もしケンカなのだとしたら、その一時のケンカで学校まで離れて通うなどとわざわざ縁が切れそうな事をしないでも良いんじゃないかと思ってはいた。
「……別にケンカなんてしてない」
 少し拗ねたような口調で顔を上げずに呟くアーチャーに、やれやれと息を吐き出すと両手で頬を包んで顔を持ち上げ目線を合わせる。ぼっと赤くなる顔に、相変わらずこの顔に弱いんだなと笑いが漏れる。昔から、どうもこの顏が好きならしいアーチャーが俺達兄弟をぼーっとした顔で見つめて固まっていることも多々あった。そういえば、その中で誰が一番好きかなんて競い合いもしたものだと懐かしく思う。その際は、一番年下の弟の涙目で『おれが一番じゃなきゃだめー!」と幼い子供の我儘に負けて、一番好きなのはプロトだと返して決着したのも思い出す。
「アーチャー? 俺にそう言う嘘はつうじないぜ?」
 悔しい、いや、悲しいような目をして拗ねた顏になっている相手の頬をなで促せば、渋々と口を開いた。
「ランサーは、彼女ができたらしい。その彼女が『エミヤ君が幼馴染だからって、あんなダサい子と仲良くばかりしてないで』って言ってるのを聞いて……」
「アイツがそんな女の言う事なんて聞くわけねぇ。てか、むしろお前にそんな事言った時点でその女切るだろ」
 アレは素直にひねくれるから、アーチャーにはいじめっ子気分で言うかもしれないが、他人がアーチャーにその手のことを言ったらブチ切れるってやつだ。しかもからかいはしても、アレはアーチャーのことが基本的には好きだ。そんな意地悪言うから嫌いになるとかあったならば、もっと早々に二人はケンカして隣に住んでいてもまったくの他人になっていただろう。
「ああ、だから……彼女の言うことはもっともだし、ランサーは彼女を優先してあげるべきなのだから、私のようなものに構ってたらそれは彼女だって悪い気になるだろう?」
 友達より彼女を優先して然るべきではないかと尋ねるアーチャーに、一概にそうは言いきれないものの確かに女は拗ねるだろうなと答えにならない答えを返す。
「それに、実は最近少しランサーと遊ぶにしてもちょっと……辛いんだ」
 聞き捨てならないセリフに、無理やり参考書とノートを閉じると黙るアーチャーを話が終わるまでは開かせないと行動で示すと先を促す。
「辛いってのは聞き捨てならねぇな。アイツ、そんなに酷いのか?」
 仲良く出かけて行っていると思うし、遊んできて楽しかったという感想は聴いているが無理に何をしてきたんだと眉を寄せていると違うとアーチャーが慌てて手を振る。
「いや、ランサーは悪くないんだが、あの……隣に立っているとすごく、なんというか私のようなものが隣に居て申し訳ないというか視線が痛いというか……」
 あの彼女の話に帰結するのだろう。ダサい自分と仲良く遊んでいる引っ張っていくランサーというものを、他人の目線以上にアーチャーが神聖視でもしているのか、かなり分厚いフィルターを通して見ているんだろうなと予測する。だから、他人の視線が自分に対して好意的であるわけないと思っている為居心地が悪くしんどいとなるのだろう。
『アーチャーの事を見てなんかねぇよ、気にしすぎだ。みんなそこまで他人になんざ注目してねえよ』
 こう言ってしまえばおしまいな話だが、それが悪手なのは長い付き合いであるキャスターにはよくわかる。きっと、ランサーは不用意にそれを言って今現在に至っているだろう。ならば、ちょっと知的なお兄様である自分はどうするかと言ったら、ついでだからこのクローゼットの環境もガラッと変えてやろうと思い立つ。
「ならばアーチャー。ちょっと変わってみるか?」
 今まで自分なんてと言っていたこいつが少しでも変わるきっかけになったら嬉しいし、なにより自分達は解っている良さを見た目と固さから見ようとしないでいる人間に実は違うんだと見せつけてやりたい気持なのもある。現状を変えたいと思っている今だからできるだろうと誘いの水を掛ければ、しばらく考えた後こくりと頷いた。
「私にできることなら……あ、でも、キャスターと同じ学校に行きたいのは変わらないぞ? 環境が良いこともあるしそれに、君が先輩としているなら、心強いし嬉しい……」
 可愛いことを言う幼馴染の頭をぐりぐりと撫でると、髪が乱れると笑う幼い顏が可愛らしい。弟にはないこういう素直に反発せず反応を返すアーチャーは他には知られたくないが、せいぜいかっこ良さを見せつけられるようにしてやろうと、後でまた来ることを告げまずは自分の家に戻った。

 家に帰ればランサーは話に聞いた彼女と遊んでいるのかまだ戻ってはいなかった。代わりに迎えたのはゲームに向かうプロトとソファにわざわざ布団を持ってきてまで丸まっているオルタだ。
 声を掛けても唸るような声と生返事しか返さない弟達に、やっぱりアーチャーのがちゃんと受け答えして可愛いのではないかと認識を新たに持ちながらガサガサと必要なものを探す。新品のストックがあるのを確認して、まだ半分は残っている使いかけのワックスと、買ったものの色味が濃くて自分の趣味ではない臙脂のロングカーディガンをキープする。あとは、オルタの放り出していた最近着けていないシルバーの小物を幾つか。もう飽きているなら貰うぞ、と布団に声を掛ければ『金属アレルギーはどうした?』と声を掛けられる。いちおうお兄様の事情はちゃんと覚えているらしい。感心だ。
「アーチャーにやるんだよ。ちょっとは変わった方が良いと思い始めたらしいんでな」
 楽し気に返せば、マジか!? と弟二人が顔をこちらに向け驚いている。あのアーチャーの筋金入りの己の外見への興味の無さは気になっているらしい。まぁ、こちらを存分に誉めそやすくせに、自分については全く「無駄だ、似合わない」しか言わない奴だったから仕方ないだろう。
「……アーチャーになら、これにしろ。そっちはごつくて似合わん」
 放置していたものの中でも比較的落ち着いているものを選んだはずだが、オルタが起きだして自分の小物を入れている場所から取り出したフリーサイズのブレスレットと指輪は細めで細工もそこまでごてごてとしていない使いやすいシンプルなものだった。
「お前でもこんなシンプルなの持ってたのか」
「……重ねるからな」
 ちなみに、重ねてジャラジャラと着けているシルバーアクセについて、アーチャーと偶然帰り道で出会い一緒に並んで歩いた時には『随分殺傷能力というか、打撃が上がりそうなものを着けているな』とおしゃれではなく、ケンカの隠し武器扱いで見られケンカはダメだぞと窘められるという少し残念な思い出があった。
「なぁなぁ、アーチャーにやるならこれ! これも持ってって! ダチからもらったけど同じの持ってて被ってるからこっちアーチャーにやる!」
 プロトが渡してきたのは、キャスケットだ。貰ったものと自分で購入したものとが同じだったらしい。自分たちの持っているものを渡してそれを幼馴染が着て変わった姿が見られるならばそれは嬉しいかもしれない。その思想はどやら兄弟共通だし、日ごろ口うるさいが世話好きなアーチャーに何か返したい気持ちも一緒だ。
「おー、サンキュ。ならこれ持ってアーチャーんとこまた行って……」
「オレも行く! いつものかっこでないのオレも見たい! キャスターだけ入りびたるのズルいぞ」
「チッ…こっちに連れてくりゃ楽なのに、頭回んねぇな……」
 まとわりつく弟達にうるせぇと振りほどこうとするが多勢に無勢。そしてなにより、脳筋な一族めと言われるだけありコイツらは俺よりも力が強い為、アーチャー困らせるなよと言い置いて再びアーチャーの家を訪ねる。
「ああ、キャスターおかえり……? それに、プロトにオルタもどうしたんだ?」
 再び戻って来た俺が連れている弟達に目を瞬かせるが、アーチャーがとりあえずどうぞと家へ招く。
「アーチャー、ファッションショーだ! オレと兄貴達とどの服が一番気に入るかしょーぶだ!」
 アーチャーの部屋に入るなり、いきなりそんなことを言い出したプロトに一体何が起きているんだとアーチャーが助けを求めるようにキャスターを見やる。
「すまんな、アーチャーに似合いそうなもの選んで持ってきてたらこいつらまでしたいって言いだして…」
 お古で悪いがこいつは着てくれていいものだからな、と持ってきたロングカーデを合わせると、派手に見えるが髪色と肌の色と相まって黒い服の重さを取り払ってくれる。なによりこいつは赤が似合う。
「キャスターずるいぞ! ほらアーチャー、こっちのストールと帽子! 色違いだけどオレとおそろいなの!」
 黒ばっかだからたまにはこういうのもいいだろ? 大きめのキャスケットはプロトが被っているものは気に入っているバンドのバッチやら様々なものがついているが、アーチャーに渡したものはそれがついていないシンプルな、そしてアーチャーが選ばないだろう紺に近い青のキャスケットだった。白いTシャツにジーンズでこれとストールでも合うと思うぜ! とニコニコとして気に入ったかと尋ねる様は我が弟ながら犬のようだ。
「しかし、これは君のものだろう?」
「いいの! アーチャーとおそろいなら嬉しいし! 今度これで一緒に遊び行こうぜ!」
 懐いていますと全開に出してくるプロトに甘いアーチャーは受け取らないわけにはいかないのだろう。ありがとうと大事そうに帽子とストールを抱える。
「……俺からは、これだ。たくさんありすぎて最近着けてないものだ。たまにはこういうものを着けても良いだろ」
 細身のシルバーのブレスレットはシンプルな輪になっているものと、細いチェーンの巻かれたものと二連になっている。滅多につけないだろうアクセサリーにさすがに高価だから貰えないと拒否しようとすれば、アーチャーが貰った洋服を渡してきた過去の事を引き合いにだしてこれでチャラだと言えば、自分にもある負い目の為か、渋々頷きならば今度お礼に何か食べたいものを作るよ、等と甘やかすことを言っている。普段表情筋が仕事をしていない弟が機嫌よく顏が緩むのを見て、本当にこの幼馴染はうちの兄弟に好かれているなとしみじみと思う。
「さて、後は髪型変えてみるか。いつも前髪下ろしてるから一層大人しく見えるんだよな、アーチャーは」
「しかし、顔を出すのは余り好きでないんだが……」
 ワックスを両手に着けて馴染ませながら頭に手を伸ばすと、肩を縮こめ身構えながらアーチャーが躊躇いがちに待ったをかけるが、それを聞いてやるわけがない。
「いいから、おにーさまに任せなさいって。ほれ、不安なら代わりにプロトの髪いくらでもいじってていいぜ? 編み込みでもなんでも」
 俺やプロトの髪をいじるのが好きなアーチャーにそう言えば、ウゲッとプロトの悲鳴が聞こえるが、アーチャーが嬉しそうに触っても良いだろうか? と問いかければ、仕方ないと頷く当たりいじられるはまんざらでもないのだろう。プロトをいじって遊んでいる間にこちらはアーチャの頭をワシワシと撫でるように全体になじませ、おでこを出すように前髪を梳き上に持ち上げていく。すこし前髪を残せばランサーと同じ様な髪形になるが、完全に上げしまった方が良いだろう。目は良いものの、鋼のような色の瞳が直射日光が苦手だと言う理由で太いフレームのやぼったい眼鏡をしているが、もう少しデザイン性のある眼鏡にも変えた方が良い。普段は外していても良いと思うが、顔を隠したがるアーチャーにはまだ難しいかもしれないな、と思いながら完成したと髪を改めて一撫でして手を離せば、少し大人っぽい印象を与えるアーチャーがそこにはいた。ゆったりというよりはぴったりと体の線が解る赤いロングカーディガンがエロいなとしみじみと思う。
「……あの、やっぱりこういう格好は似合わないのではないだろうか、私には……」
 じっと無言で見ていたせいか、アルトリアと同じ髪形に結んだプロトの髪を手持ち無沙汰にアホ毛をなでるアーチャーに我に返ったように全員で似合う似合うの合唱となる。
「本当に、それで出歩いてみりゃきっとランサーと並んで居心地悪いとかそういうこともなくなるぜ?」
 ランサーと遊びに行くのに、気まずい思いをしていたのが解消されるだろうと示せば、きょとんとした顔から徐々に眉を寄せ困ったような泣きそうなような顏になる。
「あー、アーチャー?」
「いや……君、たちにそこまで心配かけるとは思ってなかったから……」
 ありがとう、と笑うアーチャーの不自然な笑顔に首を傾げるが、オルタとプロトが「あー」と納得したような声を漏らし頷くと、キャスターのことを白い目で見てくる。まずいことを言ったというので責めているのか。でも一番悪いのは彼女ができたとアーチャーをほったらかして遊んだり、苦手な場所に連れて行ってしかもフォローしなかっただろうアイツのが悪いだろうと責任転嫁をするが今ここにいるのはキャスターだ。
「なぁ、せっかくだからキャスターと出かけてきたらどうだ? そんでアーチャーの好みでも服一緒に見てきたらアーチャーももうちょっと使いやすいだろ?」
 末っ子の提案に、年下からのこういう言葉に弱いのか、キャスターが出かけるかと誘うよりもするりと心に入るのかアーチャーも良いだろうかとキャスターに滅多になくねだるのに気分よく頷いた。寧ろ、断るなんて考えられない。
「土産に駅前のケーキ屋のケーキ食いてぇ」
「オレ、アイスの奴がいい!」
 現金にお土産をねだる弟達に、キャスターではなくアーチャーの方がこんなに貰ってしまったからお礼もしなきゃいけないなと笑いながら頷いている。
「いってらっしゃーい」
「土産、忘れるなよ」
 にこやかに送り出す弟達……若干、違う意図を持って言われた言葉にやれやれと息を吐き出すと、本当に似合ってるだろうかと不安そうに袖を引くアーチャーに可愛い可愛いと思いながら背中を叩く。
「しっかり似合ってて男前が上がったぜ? だから堂々としてろよ、アーチャー?」
 やっぱりせっかくだから完璧に仕上げようと、眼鏡をそっと取ってハンカチに包んでしまってしまうとどうしてという顏のアーチャーににっこりと笑って見せる。
「せっかくだし今日は曇り空だから無くても外の景色や物見るときは大丈夫だろう? たまには眼鏡ナシもいいもんだろ」
 眼鏡が無いからキスしやすいなと一瞬過った想いを、何考えてるんだと打ち消して商店街の方へと向かう。時折すれ違う人の視線がアーチャーに向かっている。ちょっと呆けたような赤い顏だったり、その体つきの羨望だったりと隣にいる自分が誇らしくなるような視線が多いが、アーチャーは似合ってないだろうかとまた繰り返し聞いてくる。そのまま定位置のように掴まれた袖口がすこし熱い。
「お、キャスターじゃん、何してるんだ……って、アーチャー!? お前、どうしたんだ?」
 熱を感じる手をそのまま掴んで繋いでやろうかと考えているところに素っ頓狂な声が上がった。聞き覚えどころかもう自分の声と似通ったこれは、まごう事なく諸悪の根源だろうランサーだった。
「き、君には関係ないだろう? それよりも、君はデートは……」
「ん、ああ、別れた。あっちゃこっちゃ連れてっては文句しか言わねえし、アイツお前のこと悪く言いやがったし。俺は俺のダチの事に文句言われるのはいっちばん腹立つんだよ」
 フンフンと鼻息荒く怒りを表しているランサーに、女性に酷いことを言うのは感心しない等とアーチャーが小言を言っているが、全面的にランサーのが正しいだろう。自分の大事な幼馴染だ。大事な友達だとそういう存在を馬鹿にされて黙ってられるような男だったら、まずグーで殴っている。
「アーチャー、せっかくだからランサーと行くか?」
 前のリベンジしたいだろう? と問いかければ、瞬きを繰り返した目が不安なのか伏せられ袖を掴む手の力が強くなる。
「キャスターは、忙しいもんな。そんな私にそう付き合ってもらうのは迷惑だな」
「迷惑じゃねぇよ。でも、俺とはまた行けるだろう? せっかくだしちょっと見返してやれよ。ランサーよりもモテるんだぞって」
 頭をそっと撫でれば、まだ何か言い募ろうとしているアーチャーを遮ってランサーがぐいっとその手を引いていた。
「なんだか知らないが、行くぞアーチャー。キャスター、お前後で酷いからな」
 何故か好戦的に睨みつけてくる一番アーチャーと比べて可愛くない弟の態度にやる気か、と睨み返すとべーっと舌を出してアーチャーを引っ張っていくランサーの姿を見送った。
 同い年だからああやって並んで、手を引いても違和感もなく並べるのだろうな、と思うと忸怩たる想いが胸に詰まる。良く似合ってるあの垢ぬけない格好から変えたアーチャーと並んで自然と近しい友達の距離でいられるランサーがずるいと思う。あそこまで年上でお兄さんとしている自分にはできない距離感と態度で、アーチャーがランサーの何事かの言葉で笑った顔は、自分には見せないような顏だった。
「あそこまで変えたのは俺なのになぁ」
 思わず漏れた言葉にイヤイヤと首を振ると、弟たちのリクエストが有ったと思い出しケーキ屋へと向かう。オルタが好きなオーソドックスなショートケーキとプロトが好きなシューアイス。アーチャーはレアチーズが好きだったなと思ったら気付いたら三個お買い上げをして帰っていた。キャスター自身で食べるしかない。とは言っても自分も好きな部類なのでいいのだが。もっと洋酒の効いたレアチーズのが好みと言えば好みだが、そうそう売っているものではない。アーチャーが作ってくれたあれば美味かったなと、いつだかに作ってくれたのを思い出しながら一人家路を歩いていた。

「おかえー……あれ、アーチャーは?」
 帰れば、どたどたと土産を待っていたとばかりにケーキ屋の箱を向かえるついでに、迎えのあいさつを寄こした位の感じで箱を奪ったプロトがきょろきょろとアーチャーを探す。
「ああ、アイツはランサーと会ったから丁度いいし二人で行かせてきた。彼女と別れたっていうし、いいリベンジの機会だろう?」
 文句も言われない環境で、ランサーと並んでもおかしくないという自信につながるだろうと言えば、信じられないという顏をしたプロトと普段は表情筋が仕事をしない癖にこういう時だけは仕事をするのか心底バカにしたような顏をしているオルタという、お土産を買って帰って来た兄に対して大分酷い態度を取る弟達にしかめ面になる。アーチャーはあんなに可愛いと言うのに、コイツらときたら本当に可愛くない。
「なぁ、キャスター。このままだとアーチャー取られるけど良いのか?」
「ほっとけ、プロト。鈍いのに気づいてない激ニブが兄貴だったとあきらめろ。後でせいぜい残念がるので良いだろう。この鈍いのは」
 呆れたような言い様にカチンときて箱を奪い返そうとするが二対一は分が悪い。
「ったく、本当に可愛くねぇ弟達でお兄様は悲しいわ。アーチャーはあんなに可愛いのによぉ」
 ぼやくように呟けば、シューアイスにかぶりついていたプロトがまじまじと顔を見つめてくる。
「……なあ、アーチャーが可愛いのは、弟みたいだからか?」
 確認を始めたプロトに一体何だと首を傾げれば、オルタに何事かを囁き頷きあっている。
「アーチャーは昔から変わらず可愛いってお前らも懐いてたろうよ。実のアニキよりも良いって」
 良いからチーズケーキは寄こせと手を出せば乱暴に箱ごと投げられたせいでケーキが崩れている。
「てめっ、勿体ないことするんじゃねぇよ!」
 崩れたって食えるものは食えるが、やっぱり整った方が美味い気がするのは人の心理だ。反抗期ってやつかと叱ろうとすれば、何故だか泣きそうな顏で睨むプロトの顔に一体なんのへそを曲げたのかと言葉がでなくなる。
「キャスターはずるい。そんなんなら、オレがキャスターになりたかった」
 バーカ、バーカ! と子供のように捨て台詞を吐いて部屋を出ていくプロトに、オルタが息を吐き出すとキャスターをじっと座った目を向け睨んだ。
「中途半端に構うのは罪悪にもなると覚えとけ」
 そして、寝るから騒ぐなと言い捨ててまたごろりと転がったオルタにも、本当になんだというんだと深く息を吐き出した。弟の反抗期が重なってるというのだろうか。
 アーチャーに癒されたいな、と思ったのを深い深いため息を共に押しつぶした。
「んだよ、人が帰ってきて早々に辛気臭せぇな。それより、おい、プロトはどうしたんだよ? アイツとオルタにってなんかアーチャーから預かってるんだけどよぉ?」
 あいつはお前らに甘いからと笑うランサーに随分早い帰りだなとキャスターがまたアーチャーに何かあったのかと立ち上がる。弟達の手に先程自分が渡したのと同じケーキ屋箱がある。さすがに二個も食わないだろうと思いきや、オルタは嬉々としてフルーツタルトにかぶりついている。
「プロトー、冷蔵庫入れとくからなあ! つーか、俺とキャスターには買わない当たり、あの野郎徹底してやがるよな?」
 食べたいわけではないが、こういう差分はずるいとぼやくランサーが、そうそうと思い出したようにキャスターに指を突き立てる。
「アーチャーの奴、あの後やばかったんだからな? アイツいつもの通りお人好し発揮してバカみてえに親切にしやがるから、変な逆ナンとかおっさんとかに絡まれてるわ、クラスの奴に見つかって「衛宮くんなんでいつも顏出さないのぉ」とかって女子に絡まれて明日からあいつ大変だわ。気付かねえでモテてたのが肉食系にまで目えつけられて」
 どうやら功を奏しすぎたらしい結果を語るランサーに、キャスターがついに耐えきれず立ち上がる。ニヤニヤと笑ったランサーがスマホをいじると画面をこちらに向けてくる。そこには女子に囲まれ困っているアーチャーの姿がある。どうやら離れてその動揺っぷりを撮っていたらしい。
「まぁ、本当にヤバかったら俺が全部振り払って守ってやるけどよぉ、それで誰かさんがいいのかなぁとも思うわけだ」
 なぁ、と意味深にここまで煽られれば気付かないなんてぼんくらではない。さっきからのプロトの言葉も尋ねてきたのもそういうことだったのだろう。
「ちょっと行ってくる」
「おう、その上でだめだったときは後ろに詰まってるから安心して行ってこいや」
 ひらひらと言うよりもシッシと追い払うように振られた手に、いったい誰が詰まっているというのかと思うが、それを気にしていてもどうにもならないだろう。
 隣の家のインターフォンを押すと、しばらく経ってからカーディガンを脱いでスペアの眼鏡をしたアーチャーが扉を開けた。キャスターが立っていると思わなかったのか、現れたキャスターにどうしてと驚いた顔をしている。
「よぉ、アーチャー。ちょっと良いか?」
 そういえば奪ったままだった眼鏡を思い出しハンカチに包んでポケットに入れていたそれを取り出す。
「あ、眼鏡……そういえば取られたままだったな。わざわざすまない、キャスター。えっと……」
 きっと忘れものを届けに来たというだけだろうと思っているアーチャーを黙って見つめれば、一体どうしたのかと何も言わないで見つめられることに困惑したように視線が伏せられる。
「……あの、良ければ、上がるか?」
 何か話をするだろうかと促され玄関に上がり込むと、他の靴の無い玄関にまだ誰も帰ってきてないのだと確認をする。
「おじさんたちは?」
「ああ、二人は今日はデートするとかで…」
「相変わらず仲いいな、二人とも」
 今は一人だと言うのを確認してから上がり込めば、人がいないという事だが部屋にと通される。
「キャスター何かお茶でも淹れてこようか?」
 部屋の通してまた出て行こうとするアーチャーの腕を掴んで引き留めると、そのまま座らせる。床に並んで座れば、また躊躇うように視線が彷徨う。
「なぁ、ランサーと出かけて沢山人に会ったんだろう? どうだった?」
 ずっと、エミヤはランサーの隣にいるのが一番楽しそうで、恋愛感情でなくても一番強い感情を向けているのがランサーだと思っていたからあの時行ってくるように言ったのだ。
「……皆物珍しいんだろう。あ、でもキャスターがこっちのが良いというなら、少し続けてみるよ」
 すこし落ちてきた前髪を指で掬ってあげているその手をとっさに掴むと、弱ったように笑っている顔が何事かと驚くのも構わずにわしゃわしゃと撫でて髪を崩す。
「キャ、キャスター? なんだ、急に!」
 驚き躊躇うアーチャーの手を掴み直すと、じぃっと顔を見つめる。
「アーチャー、俺はなお前が好きなのは正直ランサーだと思っていた」
「はっ!? なんでそんな、ランサーは本当に、一番の親友で……っ」
 突然の言葉に慌てて否定するアーチャーが泣きそうな顔をしているのを見て、零れおちそうになるしずくがある目元を親指でつよくこすった。
「それでな、俺も大概鈍くてすまなかった。俺はな、アーチャーの事は隣に住んでいる可愛い奴だったよ、最初から」
 ランサーのことが好きで、きっとこいつら両想いだろうからと思って一歩引いて良いお兄ちゃんでいつでも一番の味方をして離れないでいてやろうと思っていた、この実の弟にはしたことのない世話焼きだったり愛情表現だったりがどんな感情から来るものかと明確には出していなかった。
「キャスター? 言っている意味が良く分からないんだが……」
「ああ、そうだよな。回りくどくて済まん。だからな結局は俺はオマエさんが好きなんだよアーチャー。弟なんかじゃない、俺のものにしたいって意味でずっと好きだし、そのままの恰好でもアーチャーが好きだ」
 優しく愛情を込めるように両手で手を包んで指先に口付ければ、零れ落ちそうな位目が見開かれ顔が褐色の肌でもわかるくらいに赤くなっていく。
「キャスターは、私に興味がないのだと思ったんだ……。いつも、ランサーにって一緒に居てもすぐにランサーに預けていくから」
「本当は俺だって独り占めしてたかったんだぜ? でも、いいお兄ちゃんが邪魔しちゃら悪いと思ってな」
「一緒の、高校に行きたいのも、キャスターが、いるから……だし、おれ、キャスターがあの姿でいれば少しでも気に入ってくれるならって思ったから、服も……」
「ああ、悪かったな、鈍くて。これからは俺と出かける時には、アーチャーが一緒に並んでいるのが気になるならば、お前に似合う服を選ぶから。しっかりその可愛い顏も体も隠しとけよ、俺のシンデレラ」
「何なんだ、それは?」
 くすりと笑ったアーチャーをぎゅっと抱っこするように抱き締めれば驚いたように見下ろしてくる。大分大きくなったからこうやって膝に乗せたら腕の中に納めるなんてことはもうできないけれど、その分顔は良く見える。
「私は姫ではないのだが……」
「黒い服ばかり着て家事も得意で、周りを優先して……なぁ、そっくり」
「ならば、王子さまは誰だ? 君というのか?」
「いや、俺は王子様というよりはお前を着飾ってやる魔法使いだな。ただし、舞踏会にはもういかせないけどな」
 その一度で群がられる前にしっかり閉じ込めておかなければいけないなと思考を巡らせる。
「そんなところに行くつもりもないのだが…?」
「まぁ簡単に言えば、独占欲ってやつだな。両想いなんだから、シンデレラは俺のモノだってことさ」
 王子様に会うために着飾らせたシンデレラを送り出すのではなく、着飾ったシンデレラを魔法使いがそのまま奪ってしまうだけの簡単な理屈だ。
「あ、でもキャスター、プロトと遊びに行くときも選んでもらってもいいか? 一緒に遊びに行く約束したんだから」
 ああ、そういえば約束していたな、と、確かにずるくて酷かったかもしれないと一番アーチャーに懐いているプロトの事を思い出して頷きかけるがやっぱり、服まできっちり似合うように整えたアーチャーを送り出すのは今更できないと危機感が生れる。
「そうだな。その時は俺もスポンサーってことで着いていくぜ。二人だけは許してやらん」
「キャスター、実は焼餅焼きなのか?」
「……まぁ、そうなのかもな」
 だって、どんなことになってもずっと一緒にいようと思っていたのはこちらなのだから。一番近くでずっと一緒に居るためにシャットダウンしていた感情を繋いでしまったら、見守るだけの魔法使いなんてこの世にはいなくなる。
 シンデレラを閉じ込める魔法使いなのだから。

U N I C O R N / シ ン デ レ ラ ア カ デ ミ ー より

Comments

  • わんわんお
    December 24, 2024
  • underthesea6
    July 16, 2018
  • そー
    July 15, 2018
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