【キャス弓】いじらしいじっぱり【オメガバパロ】
ネップリ折本用に書いてた現代オメガパロのキャス弓です。題字は身内に作って貰いました!
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「……無い」
無い、無い、無い。どこを探しても無い。服が無い。少なくとも一週間は毎日違う服を着られる程度にはあったはずの服が、四日のルーティンで着回さなければならない枚数になっていた。
まあそこまで困るわけでも無いんだが、無ければ無いで気にはなる。服を脱ぎ散らかしてどこかにやっていた時代ならまだしも、今それをやらかしたら「キャスター、君は綺麗さを保てるのは顔だけなのか?」と褒めているのか貶めているのかわからん小言を都度投げつけてくる番が一緒の生活だ。最近はせっせと洗濯物は洗濯機に、まだ着る物は畳む、アウターはハンガーにかけるを徹底している。何処かにやったとは考えられん。
まさか盗まれたとか? そんな気配はなかったが、ひとまず確認するか。
金庫がしまってあるクローゼットはアーチャーの部屋だ。今は買い出しで出かけているが、普段から出入りを許されているから問題ないだろう。部屋に入り、遠慮なくクローゼットの扉を開く。
「……あった」
金庫はちゃんとあった。中身はまだ確認してないが、おそらくその必要はないだろう。
盗まれたのではと思っていたオレの服が、その前にこんもりと山積みになっていたのだから。犯人はまさかの身内、番であるアーチャーだったのだ。
「そういや、そろそろヒートの時期だったなあ」
たしか、オメガはヒート時期にアルファの匂いに包まれたくなるんだったか? それでオレの匂いがついた服をコソコソ集めてたってわけか。何もそんなことしなくても、言ってくれりゃ渡したのによ。意地っ張りなんだかいじらしいんだか。嘆息して山積みの服の中からTシャツを一枚拾い上げる。と。
ドサドサと何かが落ちる音が背後からした。振り向けば部屋の入り口にアーチャーが立っている。足元にはたっぷりと食料が入った買い物袋が二つ。さっきの音はこれを落とした音だろう。
「キャ、キャスター」
「おう」
アーチャーから漂う甘い香りが鼻をくすぐる。
腹の奥底を燻るような匂いは、間違いなくヒート間近なオメガのフェロモンだ。
「……それはあとでおしゃれ着洗いしようと思っていたやつでな。だが専用の洗剤をちょうど切らしてしまっていて、量もそれなりにあるし放置していては邪魔だろうとひとまずそこに置いておいたんだ。洗剤は今日買ってきたから問題ないすまないな許可も取らずに勝手に溜め込んでしまってもしや着る服が無くなったのかね」
聞いてもいないことをベラベラとアーチャーが喋り出す。
あのな、アーチャー。語るに落ちるって言葉知ってるか? 知ってるよな、オレに日本の諺教えながら嫌味を言ったこともあるもんな。まずお前が洗濯物を溜め込むわけがないし、そうなるほどに洗剤を切らしておくわけもない。番になって日は浅いが、それぐらいオレだって自分の相手のことは理解している。
「……ほー。じゃあ当然今日の買い出しで洗剤買ってきたんだよな? もう洗えるわけだ」
素直に白状しない相手に意地の悪い気持ちになって問う。対してアーチャーは躊躇することなく頷いた。
「勿論だ」
「それとこれ、ただのTシャツに見えるんだが普通に洗っちゃダメなのか?」
「紛れ混んでいただけだな! 今すぐ洗う!」
強く言い切って、アーチャーはオレの手の中にあったTシャツをひったくる。そのままこんもりとしていた洗濯物の山も引っ掴んで、ずんずんと洗濯機のある洗面所へと向かってしまう。
「おい、アーチャー」
止める間もなくアーチャーはオレの服を洗濯機の中に放り込んだ。続けざまに洗濯機の電源を入れ、洗剤と柔軟剤を投下する。ゴウンゴウンと音を立てて洗濯機が回り始めるのに1分もかからなかった。
「お前な……」
専用の洗剤がどうのこうの言っていたくせに、全部普通に洗濯しちまうのかよ。
いや、建前だったのはわかっていたが、普段ならその建前もちゃんと最後までやり通すのがアーチャーだ。そうしないということは、ヒート前でよほど思考が覚束ないのだろう。ならそれはそれでオレに甘えりゃいいのによ。ホント面倒なやつ。
はあ、とわざとらしくため息をつくとびくりとアーチャーは身体を震わせた。
「なんだね」
「いや別に?」
巣作りぐらい好きにしろだとかこういう時ぐらい甘えろだとか、そういうことを言ったところで何一つこの男に響かないのもうわかりきっている。だとすればオレができることはひとつ。着ていたカーディガンをおもむろに脱いで、アーチャーの肩にかけてやる。
「なん……おい!」
オレのカーディガンで包んだアーチャーをズルズルとオレの寝室に引っ張っていく。ギャーギャーとアーチャーは喚いているが知るものか。ベッドにつがいを放り込むと、あとはオレの匂いが染み付いた布団でオレごとくるまった。
「キャスター!」
「なんかすげー眠い。お前さん枕になってくれ」
「はあ? 何を言って」
「ぐうぐう」
放っておけばこの男の口から無限に小言が湧いてくる。いちいちそんなの聞いてられるか。狸寝入りを決め込むと、アーチャーは深々とため息をついた。
「本当になんなんだ……」
呆れ果てた声でアーチャーは呟く。が、呆れ果てているのはこちらの方だ。この強情ばりめ。こういう時ぐらい番に甘えればいいものを、タチが悪い。でもまあオレも、こういう時ですら甘えられない番が可愛くて仕方がないんだよなと思っているのだからタチが悪い。