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【キャス弓】ベルスーズをきみに/Novel by S野

【キャス弓】ベルスーズをきみに

10,382 character(s)20 mins

ついったで書いてたキャスニキ×後天性ショタ弓の話を手直ししてまとめました。表紙画像はillust/79197085よりお借りしました。

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「うーん、これはシステム異常のせいだね!|
 軽快に(本当に軽快に)言ってのけたのは天才芸術家だった。なるほど。そうか、システム異常か。ならば仕方がない。実はメディカルルームに駆け込む前から薄々思ってはいた。このカルデアにおいて英霊が霊基に異常を感じる原因は、大体がシステム異常か微小特異点のせいだ。
 とはいえ。
 
「何故若返る!?」
 ダ・ヴィンチ嬢を見上げて叫ぶ自分の声は甲高い。頭を抱えているこちらに対して、彼……彼女? はケラケラと笑った。
「いや本当だよねぇ。でも中身はいつものエミヤくんだろう? 若返ったというよりは、霊基の外見が幼く再構築されたようだね。君の幼少期はそういう見た目だったのかい?」
 ‪「……いや」‬
 
 ‪彼女の指摘に、自分の手を見つめる。随分と小さく、剣だこひとつないふくよかな手のひらだ。‬
 ‪ナーサリー・ライムたちと同じくらいか、下手をすればもっと幼いかもしれない。‬
 ‪生前の記憶など摩耗していくばかりの身、そうでなくても自分の幼少期の見た目を覚えている者などそういないだろう。部屋の鏡に映る幼子が過去の自分そのままなのかは判断がつかない。はずだった。‬
 
 ‪「おそらく、違う」‬
 ‪鏡の中の少年は燃え尽きた色合いをしていた。灰色の髪に褐色の肌。つまり、いつもの私と変わらぬ色合いだ。本当なら、橙色の目が私を見返しているはずだった。生前の記憶などほとんど摩耗しているはずなのに、なぜかそれだけは確信できる。‬
 
 ‪「ふむふむ。ということはアレだ。魔力の消耗に合わせてシステムが霊基をコンパクトに設定し直したのかな。君、ここのところ働き詰めだっただろう?」‬
 ‪困った顔で告げられるが、返答に迷う。そうとは思っていなかったが、実際にこうした不具合に見舞われたのだ。仕事にかまけて体調管理が行き届かなかったのだろう。己の‬不甲斐なさに頭が痛くなる。

「ほら、魔力残量が随分少ないじゃないか。これを機に休むといい。ある程度魔力が戻ったらいつもの君の姿に戻るさ」
「いや、待ってくれ。新たに微小特異点が見つかったと聞いたぞ、休んでなど……」
 ‪「レイシフト先はランサークラスのエネミーが中心の場所だ。適任はセイバークラス、そうだろう?」‬
 ‪「そう、だが」‬
 ‪「システムも早いところ直すけれど、そうだねぇ、早く戻りたいならよく食べてよく寝て。あとは~誰かに魔力を融通してもらうとかかな? ようは早く魔力を満たせばいいんだから」‬
 
 




 ‪魔力を融通してもらう。‬

 ダ・ヴィンチ嬢の言葉が、メディカルルームを出た後もぐるぐると頭を回っていた。
 カルデアの電力は有限だ。特に微小特異点が発生している今、このような些末事のために魔力として消費させるわけにはいかない。

 まったく当てがない、というわけではない。というか、当てはある。
 人理修復が始まってばかりの頃、魔力不足に陥った私に魔力供給を施した男。その一度きりだと思っていたのに、どういうわけか今でも時折それが続いている。カルデアの裏方として動く分にも魔力は多い方がいいだろうと言われ、たしかにそうだと頷いたのが悪かった。
 いや、実際カルデアスタッフに頼まれた物資の投影に魔力を消費し続ける日々は続いていたから、やはり魔力の供給は多い方がいいのだが。
 


「……さて」
 徒然と考えながら、『当て』の扉の前で立ち止まる。‪頼めば魔力供給をしてもらえるのは間違いない。心配事はその先にあった。‬
 
「……入るの、か?」‬
「入れば? 鍵かけてねぇし」
 すぐ背後から声がして、思わず飛び上がる。
 振り向けば『当て』の男、キャスターが眉間に皺を寄せてこちらを見下ろしていた。修練場にでもいっていたのか髪は乱れ、瞳は鮮血のように深い赤を放っている。ともすれば殺気すら放ってそうなその雰囲気に、唾を飲み込んだ。
 
 ‪「……キャス、」‬
 ‪「おっと、本当にガキの姿なんだなぁ!」‬
 ‪軽快に笑いキャスターは私の頭をもみくちゃに撫でた。先程までキャスターが纏っていた不穏な空気は吹き飛んで、むしろ上機嫌にすら見える。‬
 ‪しつこく撫でる手を振り払うと、「ケチケチすんなや」とキャスターは唇を尖らせた。が、それだけだ。‬
 直前までの空気との違いは一体なんだったのか。気にはなったが、今はそれより優先しなければいけない事情がある。
 
「システム異常の件は聞いているようだな。なら、何故私が君のところに来たか察しがつくだろう」
「まあ、そうだわな。とりあえず部屋に入れや。立ち話もなんだろ?」
 たしかに廊下で話すような内容でもない。キャスターの言葉に従い、部屋へと入る。ごく普通の、ともすればスタッフのものと変わり映えしない部屋だ。

 いや、それより少々汚いか。起きた形のままの布団に食いかけのスナックが放置されたテーブル。キャビネットには空の酒瓶が放置されている。あの酒瓶は随分前に私が持ってきたものだったかな。横に置かれているカードの束は、恐らく賭け事用のトランプか何かだろう。
 
 初めて彼の部屋を訪れた時、森の賢者はどのような魔術工房を形成しているのだろうかと期待していたのを懐かしく思う。現実はこれだ。まあ、工房に篭って魔術師らしく振る舞うよりも、酒を飲みながら賭け事をしている彼の姿の方がしっくりくるが。
 
「見ての通りこうなってしまった私だが、魔力が満たされればシステム復旧を待たずとも元の姿に戻れるそうだ。……不本意な話だろうが、頼るあてが君ぐらいしかなくてね」
「そいつぁ光栄だ。で、今からでいいのか?」
「ああ」
「そうかい。ならホレ、寝床に行きな」
 軽く言って、キャスターは背中を押す。見た目通りの力しかない私はなすがままベッドへと倒れ込んだ。
 
 ……しまった、私としたことが何の準備もしないで来てしまった。何故今からでもいいと答えてしまったんだオレは。元の身体の時でさえ、念入りに準備してやっと受け入れられたんだぞ? こんな子供の身体で、準備も無しにできるわけがない。
 というか、物理的に絶対に入らない。
 
「キャ、キャスター」
 発した声が裏返っていることに舌打ちをしたくなる。これではまるで私が怯えているようではないか。‪私は何も恐れてなどいない。ただ魔力を融通してくれる相手に手間を取らせたくないだけだ。うぶな乙女ではあるまいし、断じて恐れてはいない。‬
 
 ‪「なんだ?」‬
 ‪だというのに、背中に感じるキャスターの存在に小さく息を飲む。ここまで来て「この話はなかったことに」などと言えるわけがなかった。‬
 ぎしりと二人分の体重を受けてベッドが軋む。自分のちっぽけな背中にキャスターの体温を感じた。第二再臨姿のまま幼くなったため、剥き出しの腕が回されたキャスターのそれと触れ合ってしまう。びくりと大袈裟に震えた自分の身体が情けない。

 ええい、ままよ。
 祈るような気持ちで、きつく目を閉じる。
 
「おっと、靴を履いたままだったな」
 キャスターが笑って、私の足から靴を脱がせる。靴下もつま先部分を引っ張って脱がされ、そのまま素足をするりと撫でられた。
「ヒッ」
「ンだよ、ビビった猫みたいな声だして。別にとって食おうってわけじゃねぇんだからよ」
 
 いや、とって食われるところだし、まさにネコなんだが。などと魔力供給を頼む身で言えるわけもない。口をつぐんで、キャスターの手の中から足を引っ込めた。くつくつと笑う声が頭上から聞こえる。
 これは完全にからかっているな、くそ。
 
「そんじゃま、ちゃんと魔力をやろうな」
 そう言ってキャスターは私の頭をあやすように撫でた。なんだ、今のは。思わず目を開いて振り向く。が、キャスターは気にするでもなく何度も私の頭を撫でた。
「な、何をしている?」
「何って、だから魔力供給だろうが」
 
 ほれ、しっかりくっつけや。そう言って私の頭を撫でていない方の手で、私の身体を自分へと引き寄せた。隙間なく背中にキャスターの熱を感じて、心地が良い。微弱ながら、キャスターの魔力が伝わってくる。けれど。
 
「これが、魔力供給?」
「まあちと時間がかかる方法だがな。……ははぁ」
 私の問いに、キャスターはにまりと意地の悪い笑みを浮かべる。
 
「ナニ考えてたんだよ、スケベ」
「っ!誰が……!」
「いていて、蹴んなよ!」
 ナニをと言うが、今までそのナニで魔力供給をしてきたのはどこのどいつだ! 今までそうだったのだから、今回だってそうだと思うだろうが! まるで私が期待していたかのように言われるのは心底腹が立つ。
 思いつく限りの皮肉と嫌み、ようは罵詈雑言を口にするが、キャスターは肩を竦めるだけだった。
 
「いやな、お前がいつも通りの姿だったらそっちの方法でいいんだけどよ。流石にそのナリじゃなあ。どこからどう見てもマジでガキだろ」
 勃つもんも勃たねえわ、とキャスターは口にする。言っていることは至極真っ当で古代の英雄のわりに現代の倫理に適ったことなのだが、今ひとつ説得力がないのは何故だろう。多分日頃の行いのせいだな。
 
「普段の私の姿には勃つのが理解できないのだが」
「ああ~、それな。なんでだと思う?」
 うーんと私を抱きしめたまま、キャスターは思案する。
 そんなことを私に聞かれたって困る。というか、聞いているのはこっちだ。質問を質問で返すな。毎度毎度、よくもまあ飽きずにあんな魔力供給を行えるものだと呆れていたんだぞ、こっちは。おかげでこちらは魔力に困らなくはなったが、代わりにその晩の体力を限界値まで削り取られているんだ。
 ‪私相手にあれほど行為を行えるんだ、てっきりどんな相手でも光の御子の御子は戦えるのだとばかり。‬
 
 ‪「あのなぁ、オレだって相手は選んどるわ」‬
 ‪おっと、どうやら思考が口に出ていたらしい。キャスターの声はやや不機嫌そうだった。‬
 ‪「私を選んでいるあたり、そうとも思えんが」‬
 ‪「だから、お前だからヤってんだっつうの」‬
 ‪拗ねた口調で答える男を鼻で笑う。‬
 ‪そんな風に言われたところで可愛くもない。整った顔が見えればまた違った感想を持っただろうが、生憎と相手は背後から私に抱きついている状態だ。‬

 ‪それに本当に私を選んでいるのだとしたら、ケルトの大英雄もとんだ悪食だという話になる。もしや、あれか? ‬普段の私は屈強な男だから、好きに抱き潰しても心配がないと思っているのか。
 だと言うのならば少々腹は立つがこちらは魔力を融通してもらっている身、文句は口の中に押し留めておこう。
 
「しかし、この方法では時間がかかりすぎるのでは?」
「いつもと比べりゃ効率は悪いかもな」
 多少の時間がかかってもそこは我慢してくれや、と頭を撫でられる。こちらは魔力供給をしてもらう側、文句を言える立場ではない。それよりも今の見た目が子供でも元はむくついた男と添い寝しなければならないキャスターの方が、我慢をしているのではないか。
 それはそれとして、頭を撫でるのはよしてほしい。何度も頭の上を往復する手をぱしりと払う。
 
 一度拒否すればそれ以降キャスターは頭を撫でようとはしなかった。その代わりこちらの腹に腕を回し、さらに自分の方へと私を引き寄せようとする。それ以上引き寄せられても、すでに限界だ。
 
「……眠れん」
「なんだ? 人肌は嫌いか」
「そういう、わけでもないが」

 ‪こんなに穏やかに人の肌を感じるのはずいぶんと久しい。‬
 ‪キャスターとの魔力供給で肌を重ねることはあったが、あれは肌を重ねるというより貪られたと言ったほうが正しかった。‬魔力を分け与えてもらっている身では文句も言えやしないが。
 
「そうさね、じゃあ寝物語でも語ってやろうか」
「そうしてくれ」
「えっ?」
 戸惑ったような声が頭上から聞こえる。なんだ、冗談のつもりだったのか。だがこちらとしては有難い提案だ。眠れもせず、ただ黙ったままくっついているというのも気まずい。それなら相手の話を聞くに徹したほうが幾分か気が楽だった。
 
「なんだ、槍のないドルイド様には語るべき物語などないと?」
「っテメェ……」
 背後で怒気が膨れ上がる。嫌気がさしてもうやめだと言われるのは覚悟の上だった。ともかく、この状況が気まずくて仕方がない。‪勝手の違う子供の姿のままでいるよりはと思っていたが、この気まずさの中で魔力供給を受けるくらいなら他の手を探したほうがマシに思える。‬

 ‪こんな、温かくて甘ったるいものに私が浸かっていいはずがない。誰かが私にそう告げる。それは事実だ。これは、私に与えられてはいけないものだった。‬
 
 だがキャスターは私を放り出しはしなかった。私を捉える腕はそのままに、大袈裟なため息をつく。
「わーったよ。じゃあお望み通り語ってやろうじゃねえか」
「……なに?」
「是非聞かせてくれと言ったのはお前だぞ」
 
 是非とは言ってはいない。寝物語を語りたいならそうしてくれと言っただけだ。同じ意味だったとしても、そこまで積極的に乞うた覚えはない。
「いや、私は……」
「キャスタークラスのオレだし、師匠からルーンを教わったところから始めっか?」
「……」
 
 クー・フーリンの物語といえばゲイボルグにまつわる逸話が中心だ。
 ルーン文字を扱う彼を中心とした逸話はひょっとすると貴重なのではないか?それも影法師とはいえ当人の口から語られるのだ。こんな機会は滅多にない。
 此度の現界は特殊で、今は協力関係にあるが次もそうとは限らない。この記録を持ち越せるかはわからないが、相手の情報は次の戦で役に立つ。
 それに、本音を言えば単純に興味があった。
 
「そんじゃま、むかーしむかしあるところに」
「おい待て、なんだその出だしは」
「御伽話ときたら、この出だしって決まってんだろ?」
 本の嬢ちゃんが言ってたぜとキャスターは笑う。
 ‪たしかに御伽話では一般的な出だしだが、そもそもこの男の生涯が『御伽話』などという可愛らしい響きを持つだろうか。幼少期は城中の戦車を破壊し番犬を絞め殺し、最期ははらわたを川で洗うような英雄だぞ。昔々から始まって、自身を岩に括り付け立ったまま死にました、なんて血生臭すぎる御伽話だ。‬
 
 けれどまあ御伽話なんてものはそういうものなのかもしれない。グリム童話は血生臭く、彼の少年作家が綴る物語も悲劇が多い。などと私がつらつら考える間に、キャスターは己の物語を語り出す。

 話す、というよりは吟遊詩人が聴かせる唄のようだ。そういえばケルトは本来文字を持たないのだったか。武勇を語り継ぐのは文字ではなく唄。現代よりも唄と密接な関係にある彼らは、吟遊詩人でなくともこんな風に美しく物語を語れるのかもしれない。それともキャスタークラスがそうさせるのか、クー・フーリン自身の才能か。
 苛烈に生きた英雄が叡智に触れた物語。
 
 ‪ケルトの大英雄の唄は、寝床でとっておきの絵本を一頁ずつ指でめくるようだった。早くめくって先を知りたいような、もっと今の頁を隅々と眺めていたいような。耳に心地よい彼の声は、聴くものを捉えて離さない。‬
 再びキャスターが私の頭を撫で始めるが、もう一度拒否する気にはなれなかった。‪神性を含んだ魔力が、ゆるやかに身体に伝わった。いつもの過剰なほどに注がれるものとは違うやわらかな感覚に、うつらうつらとしてくる。‬

 ‪これは魔力供給のためだ。今の私に必要なことなんだと我ながら言い訳じみたことを思いながら、瞼を閉じた。‬
 ‪おやすみ、と囁く声が聞こえたような気がした。‬


Comments

  • わんわんお
    August 3, 2025
  • わんわんお
    December 22, 2024
  • August 4, 2023
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