キスがしたい【術弓】
カルデア付き合っている術弓。
疚しいこと考えているおじさんズなのに初心忘れるべからずだからいつまで経ってもなにも出来なさそうでかわいいですよね。このやり取りもきっと何度もやっている。
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薄暗い廊下を出来るだけ音を立てず、するりするりと夜行性の蛇のようにキャスターは進む。
深夜に出歩くときはなるべく静かに。カルデアではそれが規則だった。電力を大幅に使うここでは、夜の二三時以降は消灯が義務である。緊急事態を除いて。だからスタッフの人間はもちろん、マスターも召喚されたサーヴァントもこの時間になればほとんどが寝ている。
唯一起きているのは随一のワーカホリックか壁の隅にせっせと巣を作る蜘蛛か、俺みたいな夜中に疚しいこと考えているやつだけさね。
壁の肌を撫で、目的の扉の前で立ち止まったキャスターは認証コードを入力する。普段は自動で開くのだが夜になると食堂に鍵がかかるようになったのはつい最近のこと。なんでも朝になると物資が減るとか。ここに物取りがいるとは治安が悪くなったなと笑ってやりとりしたことを思いだしながら、キャスターは中へ入っていった。
普段の賑やかさとは反対に無機物の声にならぬ声だけが響く食堂に一人立つキャスターはまるで別世界だなと思った。椅子とテーブルの波をかき分けながらいつもは入ることのない厨房内へ足を運んだ。
「さぁて、お目当てのモンはあるかな」
真っ先に手を伸ばしたのは冷蔵庫だ。扉を開けて右、左、上、下、手前、奥。まるで横断歩道を初めて渡る子どもみたいに隅々まで確認したが、キャスターの求めていたものは一つも無かった。
「あー……参ったな。ありゃ蔵か…」
失敗した、途中で寄ってくれば良かった。眉間の皺を深めたキャスターだったが、あ、と口から声を出る。頭上に浮かんだ電球の電気が煌々と辺りを照らす。思い点いたアイデアだけを取り除き電気の紐を引っ張って消したキャスターは冷蔵庫の隣の戸棚や引き戸を片っ端から開け始めた。
「……っと確かここに、お?あんじゃねぇか」
引き戸の中から出てきた瓶を揺らし、中身を確認する。ちゃぽちゃぽと音を立てるそれは瓶の半分ほどあった。通常、特別な日でも禁止されている行為だがここに無いのが悪いとキャスターは責任転嫁する。んじゃあとは…。
コップと皿、ナイフを持ち出し、冷蔵庫からは固形物を取り出した。灰皿を換気扇の下にセット。ここで吸うなと口を酸っぱくして言われているキャスターだったがきちんと換気をすれば問題ないだろうとスイッチを入れる。カラカラ、ゆっくり廻り始めた羽根を少し眺め、コップに瓶の中身を注ぐ。固形物は適当にナイフで削り、皿へ口に入れたい分だけ落とす。あとは煙草にお決まりの文字をゆっくりと指でなぞり火を点けた。
「……随分と小賢しい鼠みたいなことをするんだな、君は」
ビクリ、キャスターの身体が揺れる。火とともに現れた、薄暗い中でも眉間の皺がよく分かる人物。
「ようアーチャー、お前さんも眠れねぇのか?」
「世間話は後だ。今は貴様が犯した罪三点について、私から言わせてもらおう」
そう言ってアーチャーは一番近くにあった瓶を手に取る。キャスターは何も言わず壁に背を預け、コップを斜めに傾けた。喉を鳴らして嚥下するキャスターにアーチャーは少し睨みを利かせる。
「最近どうも減りが速いと思っていたんだが…キャスター、今君が飲んだ代物は料理酒だ。別に飲めないわけではないがそれは調理に使いたい。君らが飲む分は別にある。出来ればそちらを飲んで頂きたい」
次にアーチャーは固形物を手に取った。同じようにキャスターは皿から数枚、削がれたそれを手に取って口に含む。
「これは君専用のチーズではない。ガリガリと少しずつ削ればバレないと思ったのか?」
やれやれ、呆れたと言いたげな顔をするアーチャーにキャスターは煙草を手に取り、煙を肺に流すよう吸い込む。ゆっくりと吐き出した煙を換気扇が巻き取っていく。
「あと最後に、」
言葉と同時に飛んできたナイフは綺麗に一直線、ずれることなくキャスターの横を堂々と通る煙を裂いた。壁に、顔の横に刺さるそれを一瞥したキャスターはどこか愉しげに口元を弛めた。
「悪りぃ、気をつけるわ」
「そうしてもらうと助かる」
それと。キャスターに近づいたアーチャーはそのまま煙草を取り上げ、そのまま握り潰した。ぐしゃり、じう、手の中から生まれる音。
「片付けてから部屋に戻るように」
もう一度キャスターを睨んだアーチャーは踵を返して食堂から出ていった。残されたキャスターは壁からナイフを引き抜き、コップと皿とともに洗う。料理酒もチーズも元の場所に戻し、最後は換気扇を止める。
そうしてまた一人になった食堂でもう吸っていない煙草の煙を吐き出すようにため息をゆっくりと吐き出した。
「…………、……はーーーーーーー、ったく、言えよ」
アイツも、俺も。
廊下を歩いて自室へ戻る最中、ついいつもの癖で、無意識で。手のなかにあるものを口へ持っていく。唇で咥えて、火を点ける、なんてことは絶対にしないが舌先に当たるフィルターから彼の味を嗜みながらアーチャーは物足りなさを感じた。
2020.0131
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- p13February 10, 2022