ピンク、初めての古代遺跡
1.古代遺跡-雪原
もうね、主人公はサトゥ氏でいいんじゃねーの? そう思うね。ガチで。
いや例えばの話ね。俺は自分が主役張ってるくらいの気持ちで頑張ってんのね。それをさぁ……。
はぁ、変な汗出た。喉乾くわ。ぐびっ。俺は持参した麦を飲んだ。寒いからね。ロシアの人らは寒さ対策にウォッカ飲むって聞くし。ぐびっ。
ふひー。堪んね。あまりのヤバさに酒に逃げた俺はサトゥ氏の肩をばんばんと叩いた。なあ。サトゥ氏。なあ! 俺の話、聞いてる?
「聞いてる聞いてる。つーかどうした? なんかテンションおかしくね? それ、なに飲んでんの?」
何って水だよ。ほとんど水。ぐびっ。
いやぁ、サトゥ氏はすっかり立派になったねぇ。やっぱ俺なんかとは素材が違うわ。生きる世界が違うっつーかね。ちょっと寂しいけど、あっちに行っても達者でやれよ。俺はこっちで待ってるから。ぐびっ。
「いや、あっちってどっちよ。勝手に俺をどっかやるなよ。ちょっ、水?飲みすぎだろ。寒くねえの?」
おぅおぅ、死に損ないが俺の心配してくれてるぜ。余裕あるねぇ。
おっとカメラマンがこっち来る。俺はサトゥ氏の介抱に移った。痛いところありませんかー? よしよしとサトゥ氏の背中をさする。
カメラを抱えたキャメルがパシャパシャとフラッシュを焚く。
「ご覧ください。激戦を制した勇士たちをドラゴン戦隊が献身的に介抱しております。感動的な光景ですね〜。あ、こちらは勝利の立役者のサトゥ氏です。サトゥ氏っ、大活躍でしたね!」
マイクを向けられたサトゥ氏が途端にぐったりしてPR活動に入った。
「ええ。厳しい戦いでしたが、何とか……勝ちを拾いましたね。ほんの少しでも歯車が狂っていればどうなっていたことか……ぞっとします」
腕折れてんのによくやるわ。俺は感心した。
ポンコツとの最後の一戦。サトゥ氏は俺とタイミングを合わせるためにとっさにポチョの真似をした。しかし付け焼き刃もいいところだったので、反動で利き腕がオシャカになったのだ。
サトゥ氏はカメラを意識してぺらぺらと綺麗事を口にしている。随所で【敗残兵】のアピールも忘れない。クランマスターの鑑だ。
キャメルはふんふんと頷いてメモを取っている。
空気が読めていない感じになった俺たちドラゴン戦隊だが、キャメルさんの機転で事なきを得た。この敏腕記者が率先して取材を始めたお陰で、我らがドラゴン戦隊は負傷者の救護に駆けつけたという体裁を保ったのだ。
しかし、だ。サトゥ氏のPR活動が終わったのを見計らって、俺はキャメルに声を掛けた。
おい、キャミーさんよ。一つ聞かせて欲しいんだが、どうして俺が野郎とネカマ専門なんだよ。
「へ? だってバンシーさん一応男の人でしょ?」
いやいや、ちょっと待ってくれよ。なあ、考えてもみろって。逆だろ。俺なら女キャラに介抱されたほうが嬉しいぞ。だったら女どもだって男に介抱されたほうが嬉しいんじゃねえの? 割り振りがおかしいんだよ。いや、アットムは分かるよ? アットムはヒーラーだからさ、重症患者に優先して当たる。ここまではいいよ。でもさ、ウチの三人娘が女キャラを診て、俺が野郎全般ってのはどう考えても無理があるだろ。まぁ結果的には俺の仕事が早かったから、むしろ正しかったみたいになったけれども。それは飽くまでも結果論だからね?
「まぁその辺は計算の内なので。バンシーさんって本当に頭おかしいんじゃないかってくらいこの手の作業がお上手ですよね。群がる軽傷者を一瞥した、あの冷たい眼差し、シビれました」
勝手にシビれんな。他のゲームでヒーラーやったことあればあのくらいは自然と身に付くんだよ。見捨てる技術だ。このゲームなら更にもう一歩進めて死に損ないにとどめを刺して初めて一流たりうるんだぞ。
サトゥ氏が口を挟んできた。
「やめろやめろ。コタタマ氏、それ理想論だから。ライト層が真似したらどうする。やめろ」
だが、俺は知ってる。【敗残兵】では当たり前のように用いられてる技術だ。死に掛けるということは、モンスターに狙われたということ。ヘイトを稼いでいるということだ。状況次第ではあるが、例えば魔法使いが瀕死なら蘇生魔法を打つ前に殺してやってヘイトをリセットしたほうがいい。司祭は刃物を装備できないという【戒律】を持つが、鈍器で後頭部をブン殴ってやれば大抵一発で死ぬ。
「やめろぉ! それでサンキューって言える魔法使いは専門的な訓練を受けたヤツだけなんだよ!」
だからその専門的な訓練とやらを広めようぜって話だよ。お前ら廃人はたまに癒しを求めて野良パに混ざるようだが、俺TUEEEEも程々にしとけよ? 評判悪いぞ。
「えっ。マジかよ。な、なんで? 絶対に俺居たほうが効率いいのに……。みんな喜んでくれる……」
そりゃ表向きは喜ぶよ。お前は有名人だからな。でも実際に戦ってるの見たら内心ドン引きだよ。さっきの戦いで言えば、なんだ、あのラストシューティング。俺ですらドン引きしたわ。あれさ、なに? アイコンタクトで俺とビジョンを共有したの? キメェなぁ……。
「キモくないよ! お前が俺にビジョン送ったんじゃん! そして俺は応えた! 凄ぇ一体感あっただろ!」
いやぁ、ねーわ。そういうのはセブン辺りとやれよ。俺じゃなく。あれ、そういやセブンはどこだ?
「猟兵部隊は先行して女神像捜索に入ってる。俺らはメカドラの足止めをしてたんだよ」
なるほど。猟兵は矢に乗って飛べるからな。
あっ、先生。プレイヤーに大人気の先生が近寄ってきてサトゥ氏の利き腕を手に取った。
「……無茶をしたね、サトゥ。今回は仕方なかったとはいえ、君とポチョとでは方向性が違う。今後は控えたほうがいいよ」
先生。猟兵部隊が先行しているそうです。
俺が報告すると、先生はうんうんと頷いた。よし。
一方、サトゥ氏は面白くなさそうな顔をしている。俺とサトゥ氏は先生を巡るライバルなのだ。
「女神像の捜索を優先しました。各自、各方面に散って潰し込みを……」
サトゥ氏はちらっと先生を見た。
先生は悲しそうな瞳をしている。あーあ。サトゥ氏め、功を焦ったな。
「な、何かマズかったですかね?」
「……サトゥ。この星は丸い」
先生は地動説を唱えた。
「水平線を見れば分かる。丸い。惑星だ。惑星には地軸というものがある。これほどまでに急激に気候が変化することは通常であれば考えられない」
先生! 俺は挙手した。さっぱり分かりません!
「正直でよろしい」
正直者の俺は先生に褒められた。やったぁ。
サトゥ氏がギリっと奥歯を噛み鳴らす。ふふん。
先生は続けた。
「時間がないので手短に言う。このマップの気候は異常だ。おそらく人工的なものだろう。何かしらの施設がマップのどこかにある」
俺とサトゥ氏は顔を見合わせた。
先生の言っていることは、何も目新しいことではない。おそらくそうであろうとユーザーは予測していた。そして、マップの中央が一番怪しいと踏んでいた。
ならば先生が問題視しているのは別のことだ。それは一体?
先生はじっとサトゥを見つめている。
「サトゥ。セブンを行かせたね? 一人でかな?」
サトゥ氏はコクリと頷いた。
「セブンには誰もついて行けません。あいつは、俺が知る限り最高の弓取りだ。言い方は悪いが、他の人間は足手まといになる」
「サトゥ。セブンは優しい子だよ。本人は決して認めないだろうが、あの子には足を引っ張ってあげる誰かが必要なんだ」
先生はセブンの身を案じているようだった。
しかし俺は懐疑的だ。ええ? そうかなぁ? セブンの持ち味は単独行動ありきだと思うけどなぁ。一人で勝手に突っ走って勝手に死ねばいい。それを見て俺が安心する。つまりエコだ。
けど、まぁ先生は優しいからな。誰かを犠牲にして先に進むのが嫌なのだろう。俺は先生に同調を示して吹雪の向こうをじっと見据えた。
セブン……。ぐびっ。麦うめぇ。
2.セブン捜索隊
セブーン。セブンやーい。
一向に帰ってこないセブンが心配なので、動けるゴミを集めてセブン捜索隊を結成した。
現在、マップ中央に向けて行軍中である。見捨てて引き返すという案も出たが、再突入によるメカドラゴンとの再戦が予想されたので却下された。
いやだなぁ。正直、俺は帰りたい。途中参加だからテンション上がらないし、最前線に出ると決まって斥候を押し付けられるから面倒臭えんだよ。
とりあえず低体温症にだけは気を付けねえとな。ぐびぐびっ。
水分を補給しながら歩く俺に、赤カブトがちょこちょこと寄ってきた。
「ペタさん。もう結構歩いてるけど、これ方向合ってるの?」
んあ? 大丈夫、大丈夫。俺、渡り鳥並みの方向感覚してっから。雪の積もり方とかよー、大体の当たり付けながら歩いてっからそう大きくはコースを外れてねえ筈だぜ。ぐびっ。
「そっか。……喉、渇いてるの?」
んに? あんだって?
【状態異常】【酩酊】
「……ペタさん? なんか、変だよ?」
そう? んなこたねぇっすよ。普通、普通。
何やらアナウンスが走ったが、他の連中には見えていないようだ。レベルアップの時と同じだな。ぐびっ。
「ペタさん?」
おっと、こりゃいかん。赤カブトが俺を怪しんでいる。
ふふふ……。俺はとても優しい気持ちになってボトルのキャップを締め、大切に大切に懐に仕舞った。
セブンやーい。
あ、居た。俺はパタパタと雪原を駆けて、大きな氷柱の根っこにひしと抱きついた。上、上〜。追いついてきた他の連中に、俺は上を指差した。
リチェットが悲鳴を上げる。
「せ、セブン……!」
セブンは氷柱で串刺しになって死んでいた。リチェットと違い、俺に特に驚きはない。まぁ死んでるだろうなとは思っていた。
俺はわさわさと氷柱を登り、頃合いを見計らって氷柱の折れそうな部分にチョップを浴びせた。ちょいやさー!
本当に折れた。これには俺もびっくり。落ちてきたセブンをキャッチし、【スライドリード(遅い)】で軟着陸する。
サトゥ氏が目を丸くしている。どうした?
「いや、お前がどうした? いつになく俊敏な動きだ……」
俺は仲間が危なくなるとパワーアップするタイプなんだよ。飛影が一番嫌いなタイプなのね。かくいう飛影もしまいには丸くなって同じことしたけどな。仙水編ね。うははっ。
「こ、コイツおかしいぞ!? おい、リチェット! 取り押さえろ!」
俺はリチェットに取り押さえられた。
やだー! やだー!
俺はリチェットに懐をまさぐられてボトルちゃんをキープされた。
「あっ、酒だ! コイツ酒飲んでる!」
返して! 返して!
俺はリチェットの手から素早くボトルちゃんを取り返した。
ぐびっ。酒だぁ? 固ぇこと言うなよ。最近、アルコール入れっと調子いいんだよ。とりあえず飲んどけば間違いないんだよ。
サトゥ氏が吠えた。
「アル中じゃねーか!」
誰がアル中だ。量はセーブしてるから大丈夫だよ。だろ? ポチョよ!
俺はポチョの肩を抱き寄せて強く同意を求めた。ポチョはコクリと頷いた。よしよし、お前はいい子だなぁ。なでなで。
「ダメだ、こいつ……。早くなんとかしないと……」
おいおい、サトゥ氏。今は俺なんかよりセブンの心配だろ。まぁご覧の通りの有様だが。
セブンは安らかな寝顔をしている。しかし俺がセブンの立場なら……。
おぅ、セブンの幽体がセブンの枕元に立っている。堂々としてやがるな。俺たちが来るのを待ってたのか。
リチェット、魔力はどうだ? 蘇生魔法、使えそうか?
「……使おうと思えば使える」
なんだよ。含みのある言い方だな。
ははん? なるほどな。お前ら、また隠し事してんのか。何を隠してる? 言え。
しかしリチェットは頑として口を割ろうとしなかった。口の前で指を交差してばってんマークを作っている。
サトゥ氏〜。俺はサトゥ氏に標的を変えた。吐いちまえよ。な? 楽になるぜ? いや、待て! 当ててやろうか。
俺はにま〜と笑った。
前にセブンがよ〜、宰相ちゃん連れてきて複数人ぶんの働きができるみたいなこと言ってたんだよなぁ〜。俺、ホント言うとよ、ずっと疑ってたんだよ。ずばり、マナポーションだろ。作ったのは誰だ? アンパンの野郎か? いいや、違うな。どこで手に入れた? 貴重な品なんだろ。どうしてさっさと使おうとした? お前ら、処分したがってる。ヤバいブツなのかね?
ああ、そう。ネフィリアか。
リチェットがびくっとした。はいはい、なるほどね。なるほど、なるほど……。
お互い聞かなかったことにしよう。俺は保身に走った。
「そうしよう」
サトゥ氏も保身に走った。
くそっ、マジかよ。ちょっと酔いが覚めちまったよ。
コイツら、マナポーションを隠し持ってる。多分イベントの賞品だ。ネフィリアはウサギさんチームで優勝したことがある。あいつ、貰った賞品を【敗残兵】に横流ししやがったんだ。何のために? 決まってる。内部抗争を招くためだ。手に入れたマナポーションを研究して精製に成功したなら、そのクランは巨万の富を築ける。しかしサトゥ氏がマナポーションを手放そうとしてるってことは、何かヤバい事情がある。先生は……知ってるのかな?
俺はちらっと先生を見た。先生はセブンの亡骸を抱き締めて冥福を祈っている。天使だ。いや、神だ。
先生に抱き締めて貰えるのかよ。だったら俺も死にてえわ。くそっ、セブンめ。俺はやけ酒をあおった。ぐびっ。
ああっ、赤カブトが俺のボトルちゃんをブン取ったー。返せよー。返せよー。
「ダメ!」
ちぇっ、何だよ。まぁいいや。もうほとんど残ってねえし、今のダメ!はちょっと可愛かったからよしとしよう。
赤カブトはジト目で俺を見つめている。
「ペタさん、酔ってるの?」
俺ぁ麦じゃ酔わねえよ。そういう体質なんでな。俺は嘘を吐いた。酒に弱いなんてイメージは俺にそぐわねえ。酔ってませんよ。俺を酔わせたら大したもんですよ。
でも、おねむになってきたのでスズキの尻尾に掴まる。
「やんっ」
なんかハーレムみたいだな。俺、ご満悦。
セブンも見つかったし、さっさと帰って布団に潜りたい。
しかしセブンは是が非でも俺を殺したいらしい。志半ばにして散ったイベントキャラみたいに、すっと片腕を上げてマップの奥を指差した。ええいっ、悪霊退散! 悪霊退散!
バタバタと両手を振る俺の願いも虚しく、サトゥ氏が余計な推理を働かせる。
「セブン……。この先に、何かあるって言いたいのか?」
そんなことねえよ。な? セブン。あれだろ? 幽霊だってたまには運動くらいしねえとな。やっぱ身体が資本っつーか。まぁ死んでるけど。
セブン……。なんで死んだんだよ。寂しいじゃねえか。ああ、こんなに冷たくなっちまって……。俺はセブンの亡骸をおんぶした。
行こう。どこまでも一緒だ。
俺はふらふらと吹雪の中を歩き出した。
サトゥ氏が後ろで何か言ってる。
「あいつ、大丈夫か。言ってることメチャクチャだぞ」
メチャクチャではない。
セブンの仇を取るんだ。
そのために俺はここに来た……ような気がする。
……重いな。転がすか。
俺はセブンで雪だるまを作った。ごろごろごろごろ。
何か建物があったので、門の脇にセブン巻きの雪だるまを置く。
そして、寒いのでさっさと屋内に入る。
後ろで何かワーワー言ってる。
だが、俺は振り返らない。男は背中で語る。
待ってろ。俺がすぐに見つけ出してやるさ。そう、コタツをな。
コタツはどこだ。俺はコタツが恋しい。コタツに恋してる。
コタツを探して通路を歩く。
上を見る。天井だ。
後ろを見る。誰も居ない。
俺は少し考えてから、再び歩き始めた。前へ。
コタツを……求めて。
これは、とあるVRMMOの物語。
ピンク、はぐれる。
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