竜を倒せ!約束の刻……!
1.マールマール鉱山-女神像
難易度ってさ、高ければいいってもんじゃないと思うんだよね。
ドラゴンはいいよ。だってドラゴンだし。モンスターの王様みたいなもんだからな。あんなもんかなって思う。
でも、あの寒さはヤバい。山一つ越えただけで気候ってあんなに激変するもんなの?
いやぁ、びっくりしたなぁ。人間って寒さに弱いんだな。まぁ確かに地球のみんなは基本的に毛むくじゃらだからな。寒さが如何に生物にとってヤバいかっつー話よ。身を以て痛感したわ。もうね、人格変わるわ。人格を保てない。人は寒くなると別人格に乗っ取られる。そりゃあ原始人はマンモス狩るわ。マンモス狩らないとやってられないよ、あんなの。
でもマンモスはもう居ない……。絶滅してしまった……。絶滅したんだ、マンモスは。戻って来ないんだよ、もう。
だったら、マンモスの分まで頑張らなきゃな?
まぁ……マンモスの分まで頑張るのは次回以降でいいか。
あの寒さはヤバい。でも、それだけだ。だろ? サトゥ氏。
俺の隣に腰掛けたサトゥ氏がニッと笑った。
「ああ。ドラゴン。思ったより大したことないな。しょせんは眷属ってことか。ワッフルほどじゃない……」
そう、新マップに突撃して全滅するなんて当たり前のことだ。俺たちは慣れている。
ましてサトゥ氏はβ組で、かつ初日組である。地獄のチュートリアルはこんなもんじゃなかった。俺も動画を見て知っている。
今なお語り草になっている地獄のチュートリアル。その内訳はポポロン、ワッフルの二連戦だ。
ポポロンとの乱打戦を制し、チュートリアル空間を出た初日組は直後に全滅した。ワッフルの襲撃によるものだ。
ワッフルの本名はBurn-Hail。暗示は……火の雨……!
ワッフルは最強のレイド級だと言われている。それは、ヤツが飛行能力を持ち、かつ回復魔法を使うボスモンスターだからだ。本気を出したワッフルに俺たちは決して勝てない。簡単に言えば、普通にベホマを使うボスだからだ。それは、ゲームにおける最悪のタブー。どう考えても人間より高い魔力を持つボスキャラが全快魔法を使わないという矛盾を解消してどうにもならなくなった存在。それがワッフルだ。
ヤツは持ってる。回復魔法どころではない。蘇生魔法を使えるボスモンスターだ。しかもこのゲームの蘇生魔法、【心身燃焼】はロマサガで言うところのリヴァイブの性質を兼ね備えている。死んで、蘇る……!
無理ゲーってやつだ……!
本気を出したワッフルに人間は勝てない。だからワッフルはチュートリアルの際に手抜きをした。手抜きはしたが……。
火の雨。【心身燃焼】を攻撃に転用する程度のお遊びは見せてくれた。
つまりマホイミだ。チュートリアル空間を出た初日組は、ブドウ糖を1リットル注入された虫ケラのように破裂して死んだ。
そういうことだ。人間が使う魔法はレイド級のそれを写し取ったもの、劣化版でしかない。ゴミのような魔力しか持たない人間では、生ゴミをかろうじて食える程度に再生することしかできない。しかし本家本元、オリジナルの魔法はそんなものではない。おそらくは人間とは桁外れのエネルギーを保有するレイド級を全快しうる。そして、そうした莫大なエネルギーを注ぎ込まれたゴミは風船のように破裂する。ポポロンの【全身強打】のように、鎧を着ていれば数秒は耐えられるとかそういう次元の問題ではない。生命力が溢れて器がブッ壊れるのだ。むしろ瀕死の方が耐えられる。ワッフルと戦うということは、そういうことだ。如何にして瀕死を保つかという戦いなのだ。
まぁチュートリアルの時はワッフルが手抜きをしたので倒せたのだが。人間がゴミすぎて途中から飛ぶのやめたからな。いや、初日組は頑張ったよ。翼を狙ったりとか色々やってた。でも、どう考えてもワッフルはゴミの攻撃が届く範囲まで近付いて来てたからな。このままじゃ永遠に巣に帰れないと思ったんだろう。
ともあれ、チュートリアル空間を出ると同時に即死したワッフル戦に比べれば、新マップのドラゴンはあまりに手ぬるいと言わざるを得ない。正直、拍子抜けだ。あの程度でゴキブリみたいな生命力を持つ俺たちを止められるとでも思っているのか? やれやれ、舐められたもんだな。
サトゥ氏?
「ああ」
一つ頷いたサトゥ氏が顎をさすってニヤニヤと笑った。
「俺に考えがある」
サトゥ氏の作戦はこうだ。
新マップに足を踏み入れたと同時に、プレイヤーは散開。女神像の探索に入る。とにかく、ひたすら走る。女神像を見つけたプレイヤーは掲示板で報告。
単純な作戦だ。しかし、それゆえに確実。バラバラに動くプレイヤーをドラゴンは捕捉しきれないだろう。
だが、蘇生魔法は使わないのか? 予め蘇生魔法を使っておけば成功率は更に上がると思うが。
「使うまでもないな。いや、それは舐めすぎか。言い直そう。手の内を見せたくない。コタタマ氏。敵はメカ、機械だ。機械と生物の違いは何だと思う? 決定的な違いだ」
ん? そうだな。心じゃないか。俺たちには心がある。この熱い魂がな。
「いや、そういうファジーなやつじゃなく」
むっ、百点満点の回答だと思ったんだが。ダメか。
じゃあ、あれだ。身体を構成する最低単位の違いだな。生物には細胞がある。細胞と同じくらい小さな部品で出来た機械は、もう生物だ。そう見なしていい。ぶっちゃけた話、技術力が極限の域に達したなら機械は生物と変わらないだろう。むしろ生物よりも上等な生き物たりうる。どうだ?
「どうだじゃないよ。夢も希望もねえな。そうじゃねーって。その話を今俺がしてどうなる?」
確かにな。生物と機械の違いか。うーん。何だろう。お、リチェットだ。リチェットさんが微妙に気まずそうな表情で俺を見ている。よう、リチェット隊長。隊長はどう思う? 生物と機械の違いだとよ。
「……えっ。な、何だろうな。私、大喜利とかあんまり得意じゃないんだが」
別に笑いは求めてないよ。
「そうか? じゃあ、えっと……勝手には動かないことかな?」
なるほど。サトゥ氏?
「惜しい。方向性は悪くない」
惜しいのか。よし、リチェットには俺お手製の藁人形を一つ進呈しよう。五寸釘も付けるぞ。
「全然嬉しくない……。というか何で普通に持ち歩いてるんだ」
俺は手抜きが嫌いなんでね。人事を尽くして天命を待つ。呪いは当然の嗜みさ。
お、セブンじゃねえか。セブン、お前はどう思う? なんか俺、MCみたいなことやってんなぁ。ただでさえパンク気味なのに、この上更に司会業まで押し付けられるのかよ。まぁいいや。セブン、ラッキーチャンスだぞ。今なら何と正解者には藁人形を二つ進呈だ。二つだぞ。こんな機会はそうそうねえ。張り切って回答してくれ。
「藁人形は要らんが、時間が惜しい。機械は作られるものだ」
おっと、これは!? サトゥ氏!
「正解!」
ちゃっちゃらー! ひゅー! セブン、ひゅー!
「やかましい! さっさと話を先に進めろ!」
何だよ、ノリ悪ぃなぁ。
分かったよ。分かりました。要は製作者が居るから手の内は隠したいってことだな?
サトゥ氏は頷いた。
「ああ。あのドラゴンはロボだ。視界が悪くてよく見えなかったが、ひょっとしたら操縦者が居るかもな。そして眷属だ。レイド級じゃない。レイド級もおそらくはロボだろう。それは推測だが、これまでの傾向から言ってほぼ間違いない。しかし眷属にしては強すぎる。俺はこう考えている。新マップのレイド級は……メカドラゴンの開発者だ」
なるほどな。ロックマンのDr.ワイリーみたいなもんか。眷属ほどの頑健さはないかもしれない。おいおい、いよいよ手ぬるくなってきたな? まぁこんなもんか。しょせんはヌルゲーだな。
サトゥ氏は苦笑した。
「難しければいいってもんじゃないさ。よし、休憩は終わりだ。さくっと終わらせよう」
サトゥ氏の号令を元に、プレイヤーたちは戦闘準備を進めていく。
出発前にサトゥ氏は俺の肩に腕を回してぼそりと呟いた。
「コタタマ氏。余裕があればでいい。メカドラゴンの操縦席を探してくれ」
余裕があればでいいんだな? わざわざ内緒話するってことは、他言は無用……。
……厳しいのか?
「ああ。他のプレイヤーの手前、ああ言ったが。俺たちはゲーマーだ。ゲーマーは……クソ寒い中わざわざ外に出たりしない。コタツに潜ってミカンを食いながらゲーム三昧だ。コタツを出て、そこから先は、まったく未知の領域になる……」
いや、それはお前だけだろ。コンビニくらいは普通に行くわ。
しかし、まぁ確かに鼻水が凍るレベルの寒さってのは日本じゃそうそう体験できない。北海道くらいか?
サトゥ氏の言うことは、あながち的外れってこともないかもな。
俺は気を引き締めた。油断せずに行こう。万難を排して勝つべくして勝つ。戦うってのはそういうことだ。
2.古代遺跡-雪原
寒いもる。
新マップに足を踏み入れるなり、俺たちはペンギンのように身を寄せ合った。
人肌は偉大なりぃ。
あ、サトゥ氏! メカドラゴンさんだよ! メカドラゴンさんがこっちに来る!
「救援信号を送るもる! このままじゃ寒すぎて死んじゃうもるよ!」
もるるぅ! もるるぅ!
ハッ。サトゥ氏、正気に戻るもる! あれは敵もるよ! 助けてくれる訳ないもる!
「ハッ。しまったもる! あまりの寒さに我を忘れたもる!」
もるぁっ。ダメだ! 間に合わないもる! 作戦は失敗もる! バラバラになって走るとかあり得ないもる!
メカドラゴンの群れが一斉にかぱっと口を開いてチャージを始めた。
しかし、その時である! 一条の光が地上より射出され、ぐんぐんドラゴンに迫る!
あ、あれは!?
「セブン!」
デカい矢に乗ったセブンがドラゴンに迫る。標的を見据え、ニッと笑った。
そ、そうか。敵はドラゴンといえど、しょせんは眷属。見た目ほど強くはないかもしれない。ましてメカだ。どんなに大きくとも打撃を加えれば内部でショートとか起こして勝手に壊れるかもしれない!
セブンが猛スピードでドラゴンに迫る! ドラゴンが前足を振りっ……! ぺんってやられたセブンの肉片が辺り一帯に降り注いだ……。
……使えねえ。あのさぁ、セブンって優秀なんだけどさぁ。優秀ってことは分かってるんだけどさぁ。なんつーか……。ネカマ六人衆の血を濃く受け継いでるなって感じだわ。
「せ、セブンー!」
非業の死を遂げたセブンにリチェットが堪らず駆け出した。蘇生魔法を使うつもりのようだが、セブンの散布範囲が広すぎてどこへ行けばいいのか迷っているようだ。あ、転んだ。
俺は不意に思った。リチェットって可愛いよな。人気あるのも頷けるわ。最初は単なる戦闘狂だと思ったけど、修道服に入れてる豪快なスリットがわざとらしくなくていい。そうなんだよ。リチェットのパンチラには媚びたところがないんだ。長いスカートは動きにくいからスリット入れてるんだなっていうのが伝わってくる。でも激しく動くとパンチラしちゃうよっていう。そういうところがグッと来るんだよな。
まぁ……パンチラ談義してる場合じゃねえか。
メガドラゴンが一斉にレーザー砲みたいなのをブッ放した。
じゅんっ
俺たちは蒸発して死んだ。
3.マールマール鉱山-女神像
結論から言うと、だ。
防寒着だな。
まず防寒具を揃えないことにはどうにもならねえ。
いやぁ、舐めてたわ。寒さを舐めてた。漫画とかだと、雪原で遭難した主人公がひとまず倒れるけど現地住民に助けられて、モコモコした服ゲットするじゃん? で、モコモコした服を着たあとは割と普通に行動したりするからさ、気合いで何とかなるのかなって思ってたんだけど。もはやそういう次元の問題じゃねえな。だって立ってるだけで死ぬんだぜ? その状況下で正気なんざ保てる訳がねえよなっつー。
寒さのヤバさを身を以て体感したプレイヤーたちは、適当にバラけて解散した。とにかく防寒着だ。防寒着を揃えにゃ話にならん。
防寒着かー……。
俺が地面に座り込んでうんうんと唸っていると、サトゥ氏が近寄ってきて俺の肩をぽんと叩いた。
「時に、コタタマ氏」
あ? なんだよ。
おぅ、リチェットも一緒か。なんかそわそわしてるな。どうした?
サトゥ氏は腕を組んで遠い目をした。
「生放送は見た。お前のことだ。言うまでもないだろうけど、ジャムを責めないでやってくれな」
ああ、やっぱあの場をセッティングしたのはジャムジェムだったのか。あいつ、ネカマ六人衆と仲良いからな。多分そうじゃないかとは思ってたんだが。
まぁお前の言いたいことは分かってるつもりだよ。あの生放送ってさ、俺を公開処刑して他の連中の不満を和らげるためなんだろ? 本気で俺を殺したがってる訳じゃないよな? な?
「それは置いておくとして」
おぅ、置いておくとして。
「……いや、置いとけねえか。リチェットが心配してる。お前、大丈夫か? ちょっと、なんていうか、想像を絶してるぞ」
想像を絶してるなんていう日本語を生で耳にする機会があるとは思わなかったぜ。
ふん。大丈夫か、だと? 舐めるなよ、サトゥ氏。俺は泣き言を言わねえ。と言いたいところだが、助けてくれ。俺の手には負えねえ。この通りです。
俺はぺこりと頭を下げた。
意味が分からないんです。ウチの子たちは一体何がどうしてああなってしまったんですか?
「だよな。俺にも分からない。先生はなんて言ってる?」
いや、普段は仲良くやってるんだよ。先生はメシ時とかに俺らの観察をしてるみたいだけど、特に問題はないんじゃないか。たまに俺のカウンセリングをしてくれるくらいだ。
そう、先生は俺の心理的な負担を気にしているようだ。だが、俺は別にトラウマとかは一切ない。まぁゲームだしな。身内に殺されるのはちょっとアレだけど、終われば復活するし、殺されたからってそのことを引きずるのはアホらしい。他に考えるべきことは山ほどあるのだ。例えば赤カブトの外ももカバーは本当に邪魔臭えなぁ、とかな。どうやって外させっかなぁ。マジで悩んでる。むしろそっちの方が深刻だ。
なあ、リチェット。お前はどう思う? 隊長としてよ、女の服を脱がすためにはどうしたらいいんだ? 何か妙案はねえか?
「なんというデリカシーのない質問だろうか。女の服の脱がし方を聞いてくる男を心配した私はとても可哀想だと思う……」
リチェットは涙を堪えた。
「なあ、コタタマ。いや、ペタタマ? コタタマ……。いや、ペタタマ」
リチェットは混乱している。
ペタタマだよ、ペタタマ。俺はまだ諦めてないんだ。まだ誤魔化せる。たとえ八割方バレてるとしても、残り二割は騙せる訳だからな。諦める理由がない。
「そ、そうだな。掲示板とかだと、お前は復活していないことになってる」
おお、マジかよ。やっぱゲーマーってアホなんだな。もう全力でコタタマって呼ばれてるし、八割のラインは崩せねえと思ってたぜ。
リチェットは悲しそうな目をした。
「……ニジゲンだ」
あ?
「ニジゲンが火消しに動いてる。あいつは生粋の掲示板戦士だから。巧みに話題を誘導して、お前の復活を見ないふりするよう働き掛けを……」
…………。
そうなのですか。
そう。JKくんが。なるほど。
「愛されてるな」
そうですね。
俺はどうしたらいいんですかね。
「会ってやれ。あいつは、誰よりもお前のことを……し、真剣に考えている。もはや……無償の愛の域に……」
こ、今度ね。
今度。うん。会いに行きます。
さ、さすがに放置はできねえ。マジか、あいつ。誰よりも役に立ってやがる。きゅんとしてぞっとしたぜ……。
はうぅ。
リチェットは優しい目をしている。
「ペタタマ。私はな、ポチョんたちの気持ちも分からないでもないんだ」
ポチョん? 今、ポチョのことをポチョんって言った?
あーあ、始まったよ。また始まった。これ俺の知らないところで勝手に人間関係が育まれてるパターンだわ。まぁね、そういうこともあるだろうさ。不思議じゃねえよな。でもさぁ、俺の知らないトコで勝手に俺について話を進めてる感じが堪らなく不気味なんだよな。むしろ俺だけ蚊帳の外っていうかさぁ。そんなことってある? お前ら俺の知らないトコで口裏合わせてるだろ。何を知ってる? 言え!
リチェットは無視して続けた。
「たまにはお前から殺されてやれ。きっと喜ぶと思う」
俺はイカれた提案をされた。
あまりにもイカれていたので、俺は逆に冷静になった。
なんだろうな。殺すっていう単語だけが浮いてるっつーか。なんか殺されることがとても恥ずかしい行いであるかのような気がしてきた。
でも、俺はもっと真っ当にセクハラしたいんだ。生きたい……。そう願うのはイケナイことなのでしょうか?
俺とリチェットの遣り取りを黙って聞いていたサトゥ氏が、新マップの方角をじっと見つめている。ぼそりと呟いた。
「もう分かんねえな」
だな。つれぇよ。つれぇ。
世界は残酷だ。時折、ふと異世界のような貌を見せる。しかしそれは、きっと誰にとっても他人事ではないのだ。
全員死ねばいいのに。道連れにしたいぜ。
4.クランハウス-居間
さて、次の段階へ進むか。
俺は頭を切り替えた。ウチの子たちは取り返しがつかない段階へ進んでしまったようだが、取り返しがつかないものにいつまでも拘っても仕方ない。
俺は切り替えができる男。立ち止まって足掻くより、未来に希望を託すのさ。あとは時間が解決してくれる。そう願おう。
今はとにかく防寒着だ。防寒着を何とかせねばならない。
そこで問題が一つ。
劣化ティナンことスズキだ。あのちんちくりんはマジで服のセンスがヤバい。今まで何をしてきたんだと思うくらいヤバい。まぁ俺は他人の個人情報にはノータッチだから、あまり口出しはしないつもりなんだが。
さすがにあの元無口キャラを放って置く訳には行かないのだ。
しかし、これは逆に考えればチャンスかもしれない。そうだ。逆に考えるんだ。とてもチャンスとは思えねえが、そういう時こそがむしろチャンスなんだ。ポジティブに行こう。
俺は居間でスズキを待ち受けた。
フレンドリストをじっと見つめ、その時を待つ。
ウチの小せえのは割とログインが不定期だが、夜には大体ログインして来る。
待つことしばし。小せえのんのログインを知らせるマーカーがぴこりと点灯した。
おいでなすったな……。
俺は、待っている間にログインしてきたポチョにミカンを食わせながら舌なめずりをした。
ずるり……
何かを引きずる音がした。
何だ? 俺は警戒した。
ずる……ずる……
それは、尻尾を引きずる音であった。
怪獣の着ぐるみを身に纏った小せえのが、俺たちを見つけて両腕を上げて威嚇してきた。
「どーらごーん!」
強敵だぜ、こいつは……。
俺はかつてない苦戦の予感に身を震わせた。どうしたらいい。俺は。コイツを。一体?
「どーらごーん!」
ポチョがシンクロした。
やむなし。
「どーらごーん!」
俺もシンクロした。
そう、ひとまずは警戒を解く。そこからだ。
いつだったか、スズキとは一緒に服を買いに行く約束をした。それとなく誘ったから断られてはいない。
だが、俺だったら服を見てやるなんて言われたら舐めてんのかコイツは、となる。お前は俺の母ちゃんかと。
警戒されてはならない。目的を悟られたら終わりだ。
しかし、予想以上だ。この劣化ティナンは俺の想定を遥かに上回る難敵……!
見た目は中学生と言っても通用するが、スズキの語彙や話題の引き出しは十年ちょっと生きたくらいで身につくものではない。少なくとも見た目ほどガキンチョではないのだ。個人で利用できるネット環境を持ち、裕福な家で生まれ育った大学生もしくはニート。その線だろうと俺は睨んでいる。
つまりいい歳をした女が、怪獣の着ぐるみを身につけて他人の目に己を晒している。
難敵……!
俺の手には余るかもしれねえ……。援軍が欲しい。アットム、居ないのか? 俺は素早くフレンドリストに目を走らせた。
居る……! アットム。やっぱりお前は頼りになるヤツだぜ!
俺はアットムにささやきを送った。んぅ……!
『アットムくん。今どこ? 会いたい』
アットムの返信は早い。いつも。
『今? そうだな……。そろそろ……佳境ってトコかな。すぐに追いつくよ。コタタマ。君にね』
くそっ。テンションがおかしい。現在地を聞いたのにステージの答えが返ってきやがった。アットムはダメだ。おそらくは戦闘中。あいつはいつもそうだ。ここぞって時に俺の傍に居てくれない。
俺がやるしかない……!
俺はテーブルをばんと叩いて席を立った。
「行くぞっ!」
バザーへ……!
これは、とあるVRMMOの物語。
ヒモ、戦場へ。
GunS Guilds Online