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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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ドラゴンダイブ……!

 1.クランハウス-居間


 俺さ、別にファッションリーダーを気取ってる訳じゃないのよ。自分のセンスが特別優れるとも思わんし。

 スズキの気持ちも分かる。服なんてどうでもいいじゃんっつー時期が俺にもあった。持ってる服が全部黒みたいな時期もあったし、迷走してビジュアル系バンドですか?っつー時期もあったよ。

 でも、だからかな? 放っとけないんだよな。勿体ないって感じるんだよ。服なんてどうでいいって? じゃあ制服モノはどう説明するんだよ。ナースものは? スチュワーデスものはどうなんだよ?

 そういうことなのさ。人間はな、他人が着てる服には興味津々なんだ。なのに、どうして自分が着る服はどうでもいいなんて思うんだ? それは自分に興味がねえからだ。そんなの勿体ないじゃねえか。母ちゃんが腹を痛めて産んでくれんたんだぜ? そりゃあ多少見た目はアレかもしれねえよ。イケメンに生まれてたら人生違ったって? その通りだろうよ。でもよ、残りの人生を恨み言だけ撒き散らして終わるのか? そりゃあ勿体ないぜ。

 俺が断言してやるよ。来世なんてもんはねえ。死んだらそこで終わりだ。たまに漫画で転生モノなんて見掛けるがな、じゃあ逆に聞きたいぜ。生まれ変わった瞬間に脳みそにシワが生えるのか? そのエネルギーはどっから来るんだ? あり得ねえよ。転生なんてのはあり得ねえんだ。

 生まれついて平等なんてことは絶対にない。特に人間はな。神なんてものが居るとしたら、そいつがサイコロを振って俺らのステータスを適当に決めてる。ステータスの総合値が二桁にすら乗らねえなんてことも普通にあるだろうよ。でもな、ウィザードリィなんかじゃ、あえてダイスの振り直しをしない一発勝負のプレイスタイルなんてものもあるんだぜ。それが結構面白いんだよ。もちろん相応に苦労はするがな。要はキャラクターに愛着を持てるかどうかよ。

 人間も同じなんじゃねえか。見た目も才能も自分じゃ選べねえ。生まれついての縛りプレイだ。でもな、遊び人四人でゾーマを倒してもいいんだぜ。厳しい旅になる。そりゃそうだ。でもすぐに気付くんだ。薬草大事だなってよ。宝箱から薬草が出てきて喜べるのは、回復呪文持ってるパーティーじゃ味わえないんだ。人生ってのはそういうもんだと思うぜ。

 だったら、ちょっとくらい自分を愛してやってもいいんじゃねえかな。俺はそう思うぜ。

 つまり俺が何を言いたいのっつーと、服装くらいちゃんとしようぜってことだ。

 なぁ、スズキよ。それパジャマじゃん。これからバザー行こうぜって話してるのに、どうしてパジャマに着替えて来るんだよ。寝るの?


「パジャマじゃないよ!」


 いや、パジャマだろ。

 もうね、なんて言ったらいいのかな。ハッキリ言うわ。俺、パジャマは嫌いじゃない。正直に言う。俺はパジャマ萌えの属性を持ってる。

 その俺から言わせてみれば、パジャマってのは他人が見れないもんだからイイんだよ。俺だけのパジャマってトコがグッと来るんだよ。それなのにパジャマ着て外出されたら台無しだろ。

 ポチョを見ろ。完璧にパジャマだぞ。パジャマだと? おい、どうしてパジャマを着てきた?


「宿題があるから今日は寝るナリ」


 なに? ログインしたばかりじゃねえか。買い物くらい付き合えよ。


「コタタマとお喋りしてると深夜になるまで離してくれない。だから寝るの」


 じゃあ制限時間を決めよう。リアルで九時まで。九時になったら俺は話すのをやめる。それならいいだろ?


「良くない。絶対にキミは話すのをやめない」


 やめるって。待てよ。行くなって。俺の傍に居ろよ。九時まで起きてたら絵本を読んでやるぞ。俺に絵本を読ませたらちょっとしたもんだぞ。桃太郎とかツッコミどころ多すぎて朝までコースだぞ。今夜は寝かせねえから。な?


「生き残ったのは私だ」


 あ? 生き残ったって……あっ。俺には心当たりがあった。さ、サバイバル王様ゲームのことか?


「何でも言うこと聞くって言った。二回分溜まった」


 に、二回分って。

 くそっ。俺は内心で毒吐いた。ナウシカ事件の時のことだ。コイツ、やっぱりティナンに身をやつしていた俺の正体を看破してやがったのか。アホのふりしてやがったな。元騎士キャラの分際でこの俺を出し抜いたつもりか。だが……。

 二回分が何だってんだよ。俺は強気に出た。

 ポチョが立ち上がった。そそくさと居間を出て行き、廊下からそっと顔だけ覗かせてじっと俺を見る。


「三回溜まったら全部言うこと聞いて貰う。全部。三回で全部になるから。コタタマ。あと一回だよ。うふふふ……。楽しみ」


 そう言い残してポチョはフェードアウトして行った。

 ……一体俺は何を要求されるんだ。怖い。何でも言うこと聞くって言ってるのに三回溜まるまで何も言ってこないポチョさんが怖い。何でも言うこと聞くなんて言わなきゃ良かった。俺は激しく後悔した。

 い、いや。大丈夫だ。要は三回にしなければいいだけの話だ。そうさ。むしろあと一回猶予があると考えよう。しょせんはポチョの浅知恵だ。浅い浅い。あと一回って分かってるのに、何でも言うこと聞くなんて言う訳ないじゃん。わざわざ宣言までして俺にプレッシャーを掛けたつもりか? 甘いんだよ。

 ……甘いのは俺だ。あと一回猶予があるだと? そんな考え方じゃダメだ。俺はポチョを舐めていた。アホだと思っていた。でも、そうじゃない。ポチョの言動は読めない。ヤツは海を渡って国内サーバーに侵入した外来種だ。文化が違う。価値観が異なる。だから俺の経験則が通用しない。強敵だ。そう思え。俺は自分に言って聞かせた。もう一度たりとてミスは許されない。俺は追い詰められたんだ。

 そう、二度とミスはしない……。

 よし、いいだろう。肝に命じた。ひとまず今はスズキだ。ポチョは寝た。先生はしばらくログインして来ないだろう。アットムには頼れない。頼れるのは自分だけ。問題ない。いつも通りだ。【ふれあい牧場】に所属するまで、俺はいつも一人だった。なら、以前の俺に戻ればいい。冷酷で、楽しそうにゲームをやってる連中を見下していた頃の俺に……。

 あの頃の冷たい感覚が戻ってきた。いいぞ。そうだ。俺はチャラチャラしてる他の連中とは違う。俺は特別な存在だ。

 崖っぷち。上等じゃねえか。人間、いつかは死ぬ。早いか遅いかの違いだ。人間の価値は何を遺すかで決まる。焦れ。日常なんてものは簡単に壊れる。決定権を握ってるのは他人だ。焦れ、焦れ。夏休みの宿題は後回しにするもんじゃねえ。やってる場合じゃねえんだと自分を追い込め。走り出せ。生きてたら、人生なんてあっと言う間だぞ!


「スズキぃ!」


 俺は吠えた。


「な、なに?」


 お前は俺の好きな服を着ろ! 俺好みの女に仕立ててやる! 悔しいが、俺にはそれくらいしかできねえ……。だから俺がお前を引き上げる。そっから先は……お前がお前自身の力で俺を超えろ!

 スズキは何やらそわそわとしている。どうした。返事をしろ。

 スズキはコクリと頷いた。


「は、はい」


 よぉし! い〜い返事だ。

 俺は歯列をギラつかせてスズキのつま先から頭のてっぺんまでざっと見た。

 さしもの俺もスズキのタンスを漁ったことはない。では合格コーデだった時の服を着せるか? いいや、それは舐められる。まずはスズキの本気を出せば自分も案外やれるじゃんという幻想をブチ壊す。

 俺は、俺の服をスズキに着せることにした。サイズの違いはどうしようもねえが、ダメージ加工よろしくブッタ切れば何とかなる。テーマはボーイッシュだ。どんなに男らしい格好をしようが、男と女じゃ骨格からして違う。

 するとどうだ? スズキはストリートダンサーみたいになった。失敗だ! 俺がスズキに合う服を持ってる訳ねえ。持ってたら逆におかしいだろ。くそがっ、知ったことかよ!

 バザーだ! バザーへ行くぞ! おい、スズキ。覚悟しとけよ。俺の買い物は長ぇぞ。ウィンドウショッピングが女の特権だと思うな。女物の下着売り場に二、三時間居座って店長直々にお引き取り願う自信すらある。じゃあ逆に聞くが、いざって時にテメェの女の下着すら褒められねえで男が務まるのかっつー話よ。学ぶべきことは多いぜ!


「それは変態だよ!」


 うるせえ! 黙って付いてこい!

 俺はスズキの手を引っ掴んでクランハウスを飛び出した。



 2.山岳都市ニャンダム-露店バザー


 ゴミ多すぎぃ!

 バザーに着くなり俺は悲鳴を上げた。

 顔面を両手で覆って項垂れる俺の頭をスズキがよしよしと撫でる。


「新マップの影響じゃない? 寒すぎて攻略どころじゃなかったって掲示板で話題になってたよ」


 そうか。そうだよな。コイツら全員、防寒着をお求めか。

 ……マズいぞ。俺は内心で呻いた。完全に出遅れた。

 服屋は鍛冶師の派生だ。データ上、服ってのは布で出来た防具という扱いになる。ただし運営側としては女の服を剥ぎ取るゲームにされると都合が悪いらしく、下着と布の服はPKしてもドロップの対象外に指定されている。所有権の特別ルールだ。

 種族人間が服に求めるのは防御力ではなくデザイン性であり、需要が絶えないから服屋は生産職の中で一大勢力を築き上げている。服屋の数は決して少なくない。しかし、ゴミどもが一斉に防寒着を求めて走り出したなら、供給が追いつかなくなるのは目に見えている。

 くそっ、どうする。ひとまず何か温かい物でも食おう。栗だな。焼き栗を食べたい。俺は焼き栗を買ってきて、パキパキと皮を剥いてスズキに手渡した。

 遠慮するな。お前の金だ。さ、たんと召し上がれ。

 さて、どうすっかね。ゴミの流れを眺めつつ、俺は思い悩んだ。スズキはパクパクと栗を食べている。リスみてえだな。俺にも一つくれ。適当に摘みながら思い悩む。

 喉乾きそうだな。ちょっと歩いたところにフルーツパーラーがある。メロン食べよう、メロン。スズキ、お前ジョジョリオン読んでる?


「うん」


 お前、何気に漫画読んでるよな。俺も漫画に関しては相当なもんだと自負してるが。ジョジョリオンにさぁ、フルーツパーラー出てくるじゃん? メロン美味そうだよな。水分補給にカットフルーツっていう選択肢もあるのかなって俺、新境地を開いたんだよね。

 新境地を開いた俺はカットメロンを買ってスズキに手渡した。三切れ俺にくれ。三切れだ。多すぎても少なすぎてもダメなんだ。三という数字が大切なんだ。いいな?


「凄い具体的な指令が来たっ」


 こういうのは曖昧にするべきじゃないんだよ。二、三切れとか言っておいて三切れ食ったら何だコイツってなるだろ。


「ならないよ。半分こしよ」


 半分こっていう表現は好き。可愛いと思う。けど俺は三切れって心に決めたから。心に決めたことを覆すのは男じゃない。男らしくない。ナルトだって火影になっただろ。正直、俺はナルトに火影の適正があるとは思わないけど、自分の言葉を曲げないってのは大事なことだ。かと言ってダンゾウには華がねえからな。やっぱ何だかんだで三代目のじっちゃんが一番火影に向いてたと思うわ。


「私はナルト、向いてると思うよ」


 そうか。スズキ、お前はそう思うか。そうだな。色んな感じ方がある。

 だが、俺はそうは思わねえんだ。暗殺任務とかどうしてるんだろうなって思うよ。


「ナルト強いもん。捕まえて説得してるんだよ。多分」


 スズキは道端にしゃがみ込んでカットメロンをパクついている。ふっ……。俺は小さく笑った。

 カットメロンを見ていると否応なくサボテンの果肉を連想してしまう。

 俺の可愛いサボテンさんはすっかり変わってしまったが、無理に無口キャラを演じるよりはマシだろう。そして何より、この半端ロリは俺にとって都合のいい女だ。黙ってても毎週生活費をくれるし、俺を肯定してくれる。さすがにティナンと比べれば身体の線にメリハリがあるしな。

 スズキがひょいと顔を上げて俺を見る。ばちっと目が合った。


「な、なに?」


 いや? 俺はとっさにでっち上げた。初めて会った時のことを思い出してた。お前、無関心そのものだったよな。バチバチやってる俺とアットムに、やらせておけば、なんて言ってさ。


「それは、だって、初対面だし。いきなり仲良くなんてなれないよ」


 そんなことねえだろ。男には下ネタ振れば大抵どうにでもなるし、女は褒めちぎっておけば間違いねえよ。お前は一人で居るのが好きだから、真っ先に他人を弾こうとするんだ。でも、変わったな。ポチョやジャムと一緒に居る時、お前は楽しそうだ。良かったよ。少し肩の荷が降りた。偉そうなこと言うけどよ、先生はお前のこと気にしてたしな。ドロップアウトでもしねえ限り、他人との関わりってのは絶てねえからな。そりゃそうだ。パチプロじゃあるまいし、誰から給料貰って暮らすんだよって話だぜ。


「コタタマって社会人なの?」


 おいおい、スズキ。お互い素人じゃないんだ。この俺が個人情報を晒す訳ねえだろ。親しい親しくないっつー問題じゃねえぞ。マナーだよ、マナー。スタンド能力と同じさ。家族だからって……いや、家族だから話せないこともある。切り札だからな。切り札には人間性が出る。「何」に対する切り札なのか? 「いつ」? 「誰が」? 「どこで」? 「何の為に」? 「どうやって」危機を乗り切るのか? 5W1Hってやつだな……。

 切り札には人間性が出る。俺にも切り札はある……。「敵の形」は人それぞれだが……。俺の場合は「時間」ってことになるんだろうな。自己分析だが……。


「敵……」


 スズキは爪楊枝をカットメロンに突き刺した。……利き腕を空けた? 心理的に利き腕を空けるってのは何かへの備えを表す。まぁ、しょせんは一般論ではあるが。

 スズキは俺から顔を背け、ぽつりと呟いた。


「……コタタマは、さ。やっぱりポチョに殺されたほうが嬉しい?」


 え……?

 今、何か狂った質問をされたような気がした。

 俺の中で「殺される」ことと「嬉しい」ことは決して同列に並ぶものではない。だが、こうまで連日のように言って聞かされると間違っているのは俺なのかという気もしてくる。俺が理解に手間取っている内に、スズキは訥々と話を進めていく。


「ポチョって綺麗だし。スタイルもいいし。子供みたいに笑うんだよ。可愛いよね。私、ひねくれてるし、あんまり背が高くないし……」


 そんなことはないと俺は言ってやりたかった。あんまり背が高くないは言い過ぎだ。自己評価高すぎだろ……。ろくにマゴットと変わらねえじゃねえか。いや、そうじゃない。俺が言いたいことはそうじゃなくて、スズキにはスズキの良さがあるっつーか。くそっ、頭が追いつかねえ。殺されるってのが引っ掛かってる。しかしこれ以上、スズキの口から自分を卑下するような言葉を聞くのは嫌だった。俺はろくに考えも纏まらないまま、思い付いたことを口にした。


「スズキ。俺のこと殺してもいいって言ったら嬉しいか?」


 俺は一体何を言ってるんだろう。あっ、リチェットだ。リチェットが俺に余計な入れ知恵をした所為で……!


「えっ」


 スズキはパッと振り返って俺を見た。

 いや、違うんだ。今のは……。


「そ、それって、どういうこと?」


 むしろ俺が聞きたいよ。一体どういうことなんだよ。何でお前は顔を真っ赤にしてるんだ。


「えー!?」


 スズキは素っ頓狂な声を上げて自分の頬を両手で挟んだ。自由落下に身を委ねたカットメロンの容器を俺は素早くキャッチした。そしてメロンを食った。メロン美味え。

 体育座りに移行した劣化ティナンが膝に顔を埋めて何かぼそぼそと言っている。


「こ、コタタマくん。背の小さな女の子が好みのタイプだったりしますか……?」


 まさかのロリコン疑惑である。

 どうしてそうなる? この会話は一体何なんだ? え? 俺が告ったみたいな流れなの? 結婚イベントなんて実装してたか? いや、記憶にねえな……。さすがに見落としたってことはないと思うんだが。

 つーか俺はロリコンじゃねえ。俺はひとまず否定した。お前も別にロリじゃねえだろ。おい、聞いてんのか。もうハッキリ言うわ。お前らは何で俺を殺そうとする? 言え。


「ほ、保留で。保留でお願いします。ぽ、ポチョに相談しないと。こんなの予想外だよ。不意打ちだよ。ずるい。コタタマはずるい」


 待て。保留? ポチョと相談? 何を言ってる? いよいよ俺を計画的に殺害するつもりか? 言っとくが、計画的な犯行は罪が重いぞ。さしもの俺も怒るぞ。だからさ、ちょっと考え直そうよ。身内に計画的に殺されるとか、もはや逃げ道がねえじゃん。どん詰まりもいいトコだよ。

 なあ、聞けって。俺は生きたいんだよ。死にたくねえんだ。殺さないでくれよ。

 もはや服など買っている場合ではなかった。いきなり立ち上がって早足で歩き始めたちんちくりんに、俺は繰り返し何度も俺の助命を嘆願した。

 ねえねえ。聞いてる? 聞いてよ、俺の話。お前らはどうしてそうなっちゃったの? 俺さ、今まであえてこの話題を避けて来たんだよ? それはさ、答えを聞くのが怖かったからなんだよね。特に理由のない犯行だったら魔が差したってこともあるじゃん? そうであって欲しいなって俺はぼんやりと思ってたんだよ。でも、これ以下はねえなってトコまで行き着きそうだから聞かしてよ。ねえ、どうしてなの? 俺が悪いの? ねえったら。

 おぅ、いきなり立ち止まって振り返るなよ。危ねえな。危ないのはむしろ俺の方だぞ。お前の方がパワーあるんだからな。

 で、どうした? 答えてくれる気になったのか?

 スズキは引き結んだ口をもにょもにょと動かしている。

 むっ、これは小せえのが気まずさを感じている時に出る癖だ。何か言いたいことがあるけど我慢している時にも見られる。

 言えっ。ほら、がんばれっ。言えば楽になるぞっ。言っちまえっ。

 しかしスズキは強情だった。口を割ることなく、また早足で歩き始める。くそっ、だったら振り返るなよ。

 しかし今の反応……。薄々は勘付いてたけど、やっぱり原因は俺なのか? 一体俺が何したってんだ……。そりゃあ日課のようにセクハラはしてるけどよ。そんなの今に始まった話じゃねえだろ……。

 とほほ。俺はしょんぼりと肩を落としてスズキの後を追った。



 3.クランハウス-居間


 丸太小屋に戻るなり、小せえのは声を張り上げた。


「ポチョー! 戻ったよー!」


 あ? ポチョはリアルの事情で今日は戻らないって話じゃなかったか?

 いや、違う。いつの間にかログインしてやがる。どういうことだ? 罠か?

 ちっ、さっきの今で俺を殺すつもりか。早まりやがって。

 俺は、いつでも目を使えるよう警戒態勢に入った。斧を握る手に力を込め、全身に隈なく緊張を命じる。


「おかえりっ」


 ポチョが弾むような足取りで姿を現した。何か持ってる。何だ? ピンク色の布の塊のように見える。

 かつての凛キャラが今や見る影もなくウキウキしたご様子だ。……凶器の類は持ってねえな。だが油断するな。俺は自分に言って聞かせた。ポチョはやろうと思えば素手で俺を殺せる。国外サーバーで身に付けた技の数々は異端にして異質。言ってみれば一人だけシグルイの登場人物みたいになってる。虎子、ポチョ……! 戯れゆえとか言い出して俺を撲殺してもまったく違和感がない。いや、それは虎眼先生か。いずれにせよ、俺は抜き差しならぬ状態にあると見るべきだ。

 俺はじりじりと目に力を込めていく。研ぎ澄ませ。俺の目は相手の生理的嫌悪感に訴えて嵌めるタイプの幻術だ。女キャラに逃れるすべはない。

 一つとして動きを見逃すまいとする俺に、ポチョは両手に抱えた布の塊を広げてみせた。


「じゃーん」


 それは、ピンク色した怪獣の着ぐるみであった。

 スズキがニコニコと笑っている。


「えへへ。驚いた? みんなの分を用意して貰ったんだよ」


 ……?

 俺は混乱した。何の話だ?

 裁断してカーテンにでもしようってことか? ピンク色って俺は個人的には嫌いじゃねえが、カーテンにするのはどうかと思うぜ。完全にヤラシイ部屋じゃねえか。

 意を掴みかねている俺にポチョが歩み寄ってきて、俺に着ぐるみを被せた。俺はピンク色の怪獣になった。


 スズキさんがニコッと笑った。


「これで新マップに行けるね!」


 アッー!

 俺は雷にでも打たれたかのように仰け反った。

 この時、俺は遂に理解したのだ。

 俺は半端ロリのセンスを正そうとしたが、逆に飲み込まれようとしている。

 サプライズだ。


 俺は防寒着を手に入れた。それは目に優しくない感じのピンク色をしていて、更に付け加えるならば怪獣の形をしていた。


 俺はかろうじて言った。


「せ、先生のぶんも、あるのか……?」


「先生はやっぱり白だよね!」


 小せえのは指折り数えていった。


「ジャムはレッド。ポチョはブルー。アットムはブラックでしょ。私はグリーン。基本ってコトで。えへへ」


 そ、そうか……。

 俺は、抱きついてきたポチョを引きずってずるずると居間に移動した。

 そして、両腕を上げて吠えた。


 どーらごーん!



 これは、とあるVRMMOの物語。

 どーらごーん!



 GunS Guilds Online



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どーらごーん!
いや、もうなんか意味がわからどーらごーん!
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