合コン疑惑
1.クランハウス-居間
死にたくねえ。
死んで堪るかよ。生きるんだ。
俺はこれまで、時として命を投げ捨て、時として生にしがみついてきた。
だが、それらは俺の中では矛盾しない。結局のところ、俺は俺に納得したいんだ。
もうこれ以上は無理だろって時、ここが限界だろって時によ。あと一歩。あと一歩踏ん張れば、俺は納得できるかもしれねえ。だから足掻くんだ。どんなに見苦しかろうとな。諦めが良いふりして、カッコつけたって何も手に入らねえからな。
要はあれだ。
俺に合コン疑惑が掛かってる。
居間のソファに腰掛ける俺の両サイドを劣化ティナンと赤カブトがガッチリと固め、俺のすぐ手前にちょこんと体育座りした金髪がじっと俺を見上げている。
……まぁ分かるよ。俺だってウチの子たちに近付こうとするゴミが居たらひとまず殺そうとするだろう。気に入らねえだろうし、何を企んでやがるって思うさ。
俺は人の感情を失ったモンスターだのと言われるが、そんなことはねえんだ。万が一、ウチの子たちがヨソで彼氏なんざ作ったとしてよ、そいつは俺よりも上なのか?って思うのは当然のことだと思うぜ。潜入工作員っつー可能性もあるわな。だったら軽くリスキルなんぞしてやってよ、俺に忠実な駒になるよう人格改造してやればみんながハッピーになれるじゃねえか。そう思うんだよね。
しかし何でかな。ウチの子たちの場合、俺に近付こうとする輩が居ると、まず俺を始末しようとする困った習性があるようで……。
半端ロリが調書を読み上げていく。
「えー。コタタマくんは、山岳都市のパーティー募集広場にてー。人力自動マッチングを主導しー。男女二名ずつ、計五人となるパーティーを結成後ー。居酒屋にてアルコール類を含む飲食をしー。そのまま解散したと。間違いありませんか?」
……ねえな。
だがよ、ちょっと聞いてくれ。合コンってのは違うんだよ。
そりゃあ結果的にはそんな感じになっちまったが、飽くまでも当初の目的は野良パであってだな。
スズキはニコッと笑った。
「私は信じてるから大丈夫だよ。ポチョとジャムがね、コタタマがクランハウスに居ない時に何してるのか気になるって言ってるから付き合ってあげてるだけ」
だ、だよな。
「うん。でも、こうして改めて見ると私も結構気になって来ちゃった。コタタマ、どうしてお酒飲んだの?」
あー。それはだな。ちょっと臨時収入があったもんだから気が大きくなって。
「臨時収入? 私があげたお金のこと? じゃないよね。すぐに返して来たもんね」
もるぁっ。そうね。スズキさんから前借りしたお金は関係ないっすよ。
「そうなの? でも競馬場に居たって聞いてるけど。女の人たちと一緒に」
ああ、関係なくもないか。誤解を招く発言だったもるよ。
……くそっ、スズキシリーズの情報網を舐めていた。一体どこまで掴まれてる?
スズキシリーズは、サトウシリーズ、ヤマダシリーズに続く三大氏族の一つだ。
まぁ色んな要素が絡み合ってそうなった。キャラクターメイキングの初っ端に名前聞かれるもんだから普通に実名を打ったやつも居れば、漢字使えないからって逆にあえて日本の苗字にしたやつも居る。ネトゲーには昔から安直な名前は早い者勝ちだからひとまず確保しとくっつー習慣もあるしな。
で、ある一定以上の偏向が進むと、それ自体が意味を持つようになっていく。早い話が似たような名前を持った連中が集まって徒党を組み始める。例えば、サトゥーとでも名前を付ければサトウシリーズに仲間入りできる訳だ。それだけだったらここまで偏らなかったんだろうが、佐藤って苗字のやつは実際に多いからな。自分の名前ってのはやっぱ特別だわな。
サトウシリーズは第二席のサトゥ氏が有名だ。ヤマダシリーズはひねりすぎて面白い名前のやつが多い。ヤマディアとかな。もう山田っていうか山寺に近いし、一周して完全に異世界に適応してる感じが何とも言えない味を出してる。
ではスズキシリーズはどうか。戦国武将で言うところの徳川家康に近い。のらりくらりとやっていたら周りが勝手に潰れて行ったという感じだ。盟主不在の時期が長かったのが逆に良かったのかもな。釘が出なかったので打たれなかったという訳だ。
……正直、ウチのスズキとスズキシリーズの関係性ってよく分からないんだよな。一緒に居るの見たことないし。ただ、時々こうやって俺の首を真綿で締めてきやがる。
どこに潜んでてもおかしくない連中だ。もっと警戒するべきだったか? いや、そんなもん警戒してたら何もできねえ。やはり最後に頼りになるのは自分自身ってことか。口先三寸で乗り切るしかねえ。
俺はぺらぺらと口を回して危機回避を試みる。
いや、違うんだよ。実はネフィリアに無口キャラに転向してみたらどうだって勧められてな。
「ネフィリアさんに」
そうね。もるぁっ。くそっ、言ってから気付いたが、俺ってやつはどこを切っても女の影がちらつきやがる。ええい、ままよ。このまま押し切るしかねえ。
おうよ。何かと事件に巻き込まれるもんだからよ、原因は何だって話になってな。ネフィリアに言わせてみれば、俺の口数の多さが元凶らしいんだよ。俺は違うんじゃねえかと思ったんだが、ネフィリアは先生と同じβ組だからな。一考の余地はあるのかなって思ったのさ。
「それで野良パを」
うんうん。俺は従順に頷いた。
スズキが調書をめくる。
「コタタマがメンバーを選んで、パーティー構成は戦士が二人、司祭と魔法使いが一人ずつ」
そうだな。男女比率が半々になったのに深い意味はねえよ。ただ、まぁ野郎が俺一人とか女キャラが一人しか居ねえってのはやっぱり避けるだろ。順当な線じゃねえかな。
俺はぺらぺらと口を回しながら密かに脱出経路を探った。抜けるとすれば赤カブトが陣取る右サイドからの展開だ。今日の赤カブトは妙にポチョを気にしている。二人の間に何があったのかは知らないが、これはチャンスだ。注意力が散漫で精彩を欠く。
2.ポポロンの森
だが、この時。脅威は確実に俺たちへと迫っていた。
居間の壁を一枚挟んだ向こう側。森に潜んだ無数の人影が不気味に蠢く……。
それは、まるで一つの目的に向かって走るイケメンホスト集団のようだった。
ヤマダシリーズ……!
その中の一人。ウチの丸太小屋を見つめるヤマダが不敵に笑う。
「【ふれあい牧場】。先生が作ったチームか。さすがに個性派揃いだな」
別のヤマダが応じる。
「しかしゲームじゃない。彼らのやっていることは、いや彼らに限った話ではないが。ゲームではない」
群れなすヤマダの目には強い自信が宿っていた。
それは、彼らを率いる司令塔に対する絶対の信頼によるものだろう。
「その通りだ。自信を持て。お前たちならやれる」
ヤマダシリーズの盟主。純ヤマダは……。
「Goat。ひよっこめ。まだ若い」
着ぐるみ部隊の一人だ。
猟犬を率いるお犬様がべろりと舌を出してハッハッと浅く呼吸した。
犬種、マルチーズ……!
赤カブトに刺殺されて幽体離脱した俺は、じっとそれを見ていた……!
カッと雷鳴が轟く。
事態は風雲急を告げようとしていた……!
これは、とあるVRMMOの物語。
事態が風雲急を告げる前に死者が出た。
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