(フロントライン 政治)派閥瓦解、党主体で研修会 悩める新人教育 自民執行部、SNSにピリピリ=訂正・おわびあり
春は新人の季節。衆院選の歴史的大勝で、一足早く新人議員を迎えた自民党が、その教育に悩んでいる。これまでは派閥に委ねていたが、裏金問題でほとんどが瓦解(がかい)。党が一元的に担うが、その人数から行き届いた指導は難しい。自民は新人教育とどう向き合うのか。
特別国会の召集が翌日に迫る2月17日午後、東京・永田町の自民党本部。新人議員の研修会で、ある党幹部は語気を強めた。「その態度はちょっと失礼じゃないか」
とがめられたのは、比例選出の男性議員だった。研修会の終盤に行われた質疑応答の場面で、男性議員は着座のまま名乗らずに発言。党幹部はこの振る舞いを見逃さなかった。出席者の一人は「一気に場が凍った」と振り返った。
先の衆院選で自民は、高市早苗首相(党総裁)の人気をてこに316議席を獲得。このうちの2割を占める66人が新人議員だ。
新人議員が初登院した18日。永田町では「国会に声を届けるパイプのような役割を果たしたい」(永田磨梨奈氏、神奈川4区)など、やる気に満ちあふれた言葉が飛び交った。
ただ、党執行部としては温かく見守るだけではいられない。不用意な言動は世論の反感を買い、ひいては政権運営を直撃しかねないことを知るためで、新人議員が不慣れな今は「非常に危ない状態」(党幹部)というわけだ。
これまで、自民の大量当選に伴って誕生した新人議員による舌禍、不祥事は枚挙にいとまがない。
「郵政解散」による2005年衆院選では、取材に応じた新人議員が「料亭に行きたい」と明け透けに語って批判を浴びた。政権奪還を果たした12年衆院選では、当選した議員による不倫、パワハラなどが相次いで発覚。その後、当選を重ねても言動が不安視され、「魔の2回生」「魔の3回生」と言われた。
特に執行部が神経をとがらせるのが、SNSによる発信だ。高市首相を始め、トランプ米大統領らがSNSで随時胸中を投稿するなど、政治家の主要な発信ツールとして浸透している。新人議員にとっても、SNSは日々の政治活動を地元支援者にアピールし、知名度向上につなげるツールといえる。
だが、国会内には独自の規則がある。本会議場内では「品位保持」の観点から写真撮影は禁じられている。24年衆院選後には、2人の新人議員がスマートフォンによる撮影を行い、党幹部から注意を受けた経緯がある。党幹部は「国会内でも、日常のように撮影しようとする若手が多い」とため息をつく。
最大の懸念は、SNSにおける軽はずみな言動だ。瞬時に拡散すれば、党としても手の施しようがない。内容次第では本人の責任にとどまらず、時の政権そのものに打撃を与える。研修会で鈴木俊一幹事長は「思い切り言うのはスカッとして気持ちのいいものだが、どういう影響を及ぼすのか気をつけて」と訴えた。
今回の研修会はおよそ1時間半。新人議員に実りあるものとなったのか。尋ねようと複数の新人議員に取材を試みたが、「広報を通じてください」と口を閉ざした。研修会で学んだ「報道機関への取材対応」を早速実践したようだ。(森岡航平)
■生き残りへ、大樹求める新人
新人教育に思い悩む党執行部。対する新人議員も今、手探りの状態にあるようだ。
特別国会が召集された18日午前、東京・永田町の衆院議員会館。議員として初めて臨む午後の衆院本会議よりも前に、新人議員の一人が一室に駆け込む姿があった。
その部屋の主は、当選を重ねた閣僚経験者。この新人議員は「役所の後輩にあたります」などとあいさつ。自己紹介に時間をかけた。退室と入れ替わる形で、ほかの新人議員が入っていった。
かつての派閥全盛時。自民の多くの新人議員は、地縁などを頼りに、また勧誘を受ける形で各派閥の一員となった。そこでは「派閥の日」とされる毎週木曜日の昼に会合を開き、食事をともにしながら情報共有や意見交換を重ねた。
それにとどまらず、各派閥の実力者が呼びかける格好で夜に懇親会が開かれることも珍しくなかった。実力者からすれば、派内の地位をより固めるものであったが、新人議員からすれば国会議員としての振る舞いなどを学ぶ機会という側面もあった。
だが、自民内にある派閥は今や、麻生太郎副総裁が率いる麻生派のみ。派閥の政治資金パーティーを舞台とする裏金問題の発覚により、最大派閥だった安倍派など5派が解散に追い込まれた。行き場をなくした新人議員。つてを頼りに実力者のもとを訪ねているが、頼りは派閥なのか。
「ぜひ飲み会をセットしていただけませんか」。麻生派に所属する衆院中堅のもとには、新人議員からこんな問い合わせが相次いでいるという。結局、新人議員66人のうち11人が麻生派に入会。19日の派閥の日の会合で、麻生氏は「新たな仲間が加わった。会長として歓迎申し上げる」と語りかけた。
大半の派閥は解消したとはいえ、党内では依然として、旧派閥単位で議員が会合を開くなどの動きが目立つ。旧安倍派は、24年衆院選での落選者の国政復帰を祝う「お帰りなさい会」を開催。旧岸田派も個別に会合を開いており、閣僚経験者は「みんな行き場がないんだ。新人のリクルート活動が活発になり、派閥に代わるグループができるだろう」と語る。
派閥がポスト配分に深く関わってきたこともあり、経験を積みたい新人たちも党内の動きは無視できない。そこを見透かすかのように、かつて派閥を率いた党内実力者たちは新人の勧誘に力を入れる。岸田派を率いていた岸田文雄元首相、二階派幹部だった武田良太元総務相らが、党内で新人議員に会食を持ちかけるなど接触を図っているという。
党内外では、今回の新人議員について、その一部は首相人気の後押しで当選を果たしたとみなす向きもある。この先は、大量の同期を相手に限られたポストを奪い合う「生き残りをかけた仁義なき戦い」(衆院中堅)に直面する。自民は野党に転落した09年衆院選で多くの落選者を生み、初めて国会に議席を得たのは小泉進次郎防衛相ら4人のみだった。今回の新人議員は環境が大きく異なる。
誰もが通る新人時代。自民は新人教育を確立できるのか。または、政治不信の震源地とみなされた派閥回帰を強めるのか。単なる不祥事を避けるためだけでなく、有為な人材の育成をどう果たすのか。こうした面からも、政権党の真価をはかることができる。(笹山大志)
■<考論>若手の価値観、時代生き抜く好機に リクルートマネジメントソリューションズ主任研究員・桑原正義氏
SNSの発展など急激な社会の変化に伴い、価値観が大きく異なる人たちが、一つの組織で一緒に過ごす状況が増えている。新人と若手、そして上司の世代では、明治維新の前と後にも近しいほどの価値観のギャップがある。
民間企業は新人に対し、これまでの常識や経験が通用しないこと、モチベーションをどう保つかに悩んでいる。政界は、民間企業に比べれば議員の平均年齢が高く、政界特有の上下関係が根付いている。
だからこそ、いわゆる「Z世代」に近い新人議員からすれば、民間企業以上に組織内でのギャップが大きいのではないか。これまで当たり前とされてきた政治の「しきたり」に違和感を抱き、「政治に変化を」と考える人も増えるだろう。
民間企業は、上司が部下に助言を求める「リバースメンター制度」を取り入れるなど、むしろ若者の価値観を生かそうとする動きもある。新人・若手は時代の鏡。政党においても、新しい価値観を単に排除せず、新人議員を生かすことで、新しい時代を生き抜くチャンスにつなげてほしい。(聞き手・森岡航平)
<訂正して、おわびします>
▼1日付総合4面「悩める新人教育 自民執行部、SNSにピリピリ」の記事で、「萩生田光一幹事長代行は語気を強めた。『その態度はちょっと失礼じゃないか』」とあるのは、他の党幹部の発言でした。また「萩生田氏はこの振る舞いを見逃さなかった」とあるのも、同じ党幹部の対応でした。新人議員の研修会は非公開のため、複数の出席者に取材する中で取り違えました。