カルチャー

2023.04.10 18:30

追悼・坂本龍一。NHKを辞めた堀潤に託した「大切な言葉」

国内外の多くの人に慕われてきた坂本龍一さん(Getty Images)

国内外の多くの人に慕われてきた坂本龍一さん(Getty Images)

NHK職員時代、原発事故の現場を独自で取材し、局内では逆風が吹いていた。そんな時に声をかけてくれたのは、世界的な音楽家であり、アクティビストでもあった坂本龍一さんだった。

堀潤さんからForbes JAPANに寄せられた追悼の手紙。二人の交流の回想からは、晩年の坂本さんの世の中への向き合い方が垣間見えてくる。


坂本龍一さんへ

信藤三雄さんが亡くなり、大江健三郎さんが亡くなり、坂本龍一さんまで亡くなってしまい、本当にどうしてゆけば良いのか途方に暮れそうになる日々を過ごしています。

世界は分断の真っ只中にあり、急きたてられるようにして軍事力強化の話が進んでいく。安全保障政策には軍事力だけではなく外交、経済、民間交流など様々なチャンネルの充実が含まれていますが、いま日本国が掲げる安全保障戦略は「同盟国」と突如あたり前のように登場した文言「同志国」との関係強化が中心で、敵対する国家同士の緊張にアクセルを踏む内容であることに危機感を抱かざるを得ません。

本当に「この道」で良いのか、社会に投げかけ多くの人々と共に議論したいですが、日々の暮らしは切迫しており、世界情勢、国家百年の未来を語る余裕などないと目を閉じてしまう人も少なくありません。少しの余裕があっても「小難しい問題には心が震えるほどの興味が持てない」と薄々問題の所在に気がついていながら目を逸らす人が多いことも実感しているところです。

「一緒に考えて欲しい」と懇願しますが、それでも手を振り解かれ、去っていく後ろ姿を恨めしい思いで見つめ続けているのが僕の心象風景です。「その無関心はきっとブーメランのように我が身に降りかかってくるんだ」と俯いて砂を蹴る日々を過ごしています。絶望に苛まれることだってあります。

マスメディアでは、いま戦争といえばウクライナへのロシア侵攻の報道が中心ですが、シリアで、パレスチナで、ミャンマーで、スーダンで、ブルキナファソで、それ以上の世界のあちらこちらで、想像を絶する暴力が続いている。犠牲者の悲鳴は黙殺されています。

小さな声が「届かない」。報道の量もわずかです。人の生き死に関わる事象が市場原理で値付けされているように思えて歯軋りをしています。映画監督の紀里谷和明さんは自身の最終作「世界の終わりから」の中で 「こんな世界なら滅んでしまえばいい」と主人公に叫ばせていますが、苦労を背負った当事者にそう言わせてしまう孤独や孤立を創り上げているのは「誰か」という問いに、内臓の内側から抉り取るように私自身の無力さを痛感させられます。

諦めそうになる時に思い出す言葉

それでも、私はいま、手紙という形でこの原稿を書いています。どうしようもなく絶望的な気持ちですが、それでも、私はまだ発信を続けるんだと前を向いています。諦めそうになる時に、天に唾を吐きたくなる時に、いつも想い出す言葉があります。

「堀くん、応援しているからね。したたかに、しなやかにだよ」

今から12年前、坂本龍一さんから突然、Twitterにダイレクトメッセージが届きました。

当時の私は、原発事故後の報道をめぐって、局の方針と「伝えて欲しい」と現場で出会った被災者の方との想いの狭間にあって上司と喧嘩ばかりしていました。原発再稼働が日本経済に必要だと主張する国や財界の声は強く、キャスターとして担当していた番組でさえも伝えられる情報の幅はどんどん狭くなっていきました。
次ページ > 「いつでもSOSを」。勇ましい言葉は一つもなかった

文=堀潤 編集=督あかり

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カルチャー

2023.04.09 11:30

「僕と永遠のアイドル、坂本龍一」写真家・田島一成

2007年撮影(c)tajima kazunali

2007年撮影(c)tajima kazunali

3月28日、世界的音楽家の坂本龍一さんが亡くなりました。

坂本さんのさまざまな撮影を担当し、写真集や雑誌連載、芸術祭などでコラボレーションしてきた写真家の田島一成さんが、“永遠のアイドル”との30年を振り返ります。


小学生時代の代表的なアイドルはピンクレディーだった。僕は、歌って踊るスタイルのアイドルというものに馴染めなかった。

そんな時、友人の一人が遠足にラジカセを持って来た。ラジカセに入っていたのは、YMOのカセットテープ。初めて聞いて、稲妻のような衝撃を受けた。頭の中のOFFのスイッチが、カチッと音を立ててONになった感覚があった。

歌詞がなくてこんなにカッコイイ未来的な音楽があるのかと驚き、後日、急いで街のレコード店へ行き、ライブアルバムの「パブリックプレッシャー」を購入した。YMOのアルバムは既に3枚が店頭に並んでいたが、それが一番未来的でデジタルっぽかったからだ。ジャケ買いだった。

実家のステレオで爆音でかけ、擦り切れるほどLPを聞き、どんどんのめり込んでいった。テレビで放送されたYMO関連の番組はVHSテープに録画して繰り返し見た。

なかでも多くの影響を受けたのは、当時小学館から発売されたYMO本『OMIYAGE』だった。その本には3人の自宅の写真や趣味趣向、海外公演に同行したカメラマンの三浦賢治さんの写真、横尾忠則さんや糸井重里さんといったクリエイターとの関係など、当時の小学生には知る由もなかったクリエイティブ業界の裏が描かれていた。

グラフィックデザイナー、コピーライター、カメラマン、スタイリストなどという職業があることを知り、憧れた。今の自分があるのはこの『OMIYAGE』による影響が大きい。先日会ったコーネリアス=小山田圭吾くんも、この本に影響されたと言っていた。

当時、ルーズリーフというバインダー式のノートが流行していた。半透明のプラスティックの表紙に、皆お気に入りの女性アイドルの雑誌の切り抜きを入れていたが、僕は三浦賢治さんが撮影した坂本さんの白黒写真を『OMIYAGE』からコピーして入れていた。坂本さんは最初から最後まで僕のアイドルだった。

YMOのレコードジャケットやポスターのカッコよさに魅了されて、グラフィックデザイナーになりたいと思った。YMOや坂本さんのデザイン周りを数多く手がけていたのは奥村靫正さんや井上嗣也さん。スーパーデザイナーによる、最高のデザインだった。

坂本さんのFM番組を聴き、紹介された海外のニューウエーブのアーティストに興味を持つようになり、洋楽を聴き始めた。そうして海外のアーティストに付随するファッション、カルチャー、映像、写真に興味を持つようになっていった。
次ページ > カメラマンとしてNYで出会う

文=田島一成 編集=鈴木奈央

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宇宙

2023.03.31 13:30

土星の衛星エンケラドゥスが微生物を宇宙に放出している可能性

Getty Images

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土星の6番目に大きい衛星エンケラドゥスには秘密がある。この衛星の氷の地殻の約20km下には、温かく暗い塩水の海があり、地球の海にあるものと同じ種類の熱水噴出孔があると考えられている。地球の熱水噴出孔は微生物に富んでいる。

同じことがエンケラドゥスでも起きているのだろうか?

ここでいっているのは、目のない不気味な海洋生物のことではおそらくない。なぜなら、この衛星の地下海が維持できる総生物量はクジラ1頭分より少ないと考えられているからだ。

海底にあるシリカの微粒子が、最終的にエンケラドゥスの暖かい南極にある「タイガーストライプス」(トラの縞)と呼ばれる割れ目から宇宙に放出されていることがわかっている。それらの微粒子は土星の外側から2番目の輪であるEリングの形成に寄与している。

しかし、そこには生命存在指標(バイオシグネチャー)が含まれている可能性もある。もし存在すれば、地球以外で何らかの生命の存在を示す初めての証拠になる。

ただしこれまで惑星科学者たちは、そのシリカがどうやって、どれだけの時間をかけて宇宙に到達したのかわかっていなかった。

Communications Earth & Environmentに掲載された最新研究は、NASAの探査機カッシーニが収集したエンケラドゥスの軌道、海および地質学的データを使用してそのプロセスを明らかにした。

論文は、エンケラドゥスの岩石質の核で起きる潮汐加熱が流れを作り、深海にある熱水噴出孔からシリカを運び出すまでに数カ月しかかかっていないことを示している。

「私たちの研究は、その流れが海底から物質を拾い上げ、海と宇宙空間を隔てる氷の核まで持っていくのに十分な力を持っていることを示しています」と研究グループのリーダーで、UCLA(カリフォルニア大学バークレー校)で惑星科学を研究する大学院生アシュリー・ショーンフェルドは声明で述べた。

「氷の核を切り開いて地下の海へと達するタイガーストライプの割れ目は、流れが捕らえた物質を宇宙に送り出す直通路の役割を果たしていると考えられます。エンケラドゥスは海底深く隠れているものの無料サンプルを私たちに与えてくれます」

宇宙に噴出されているシリカを採取するミッションが、NASAによってすでに計画されている。

エンケラドゥス・オービランダー・ミッションでは、衛星の噴出物を採取することに特化した宇宙探査機が1年半ほど衛星を周回する。その後探査機は衛星に着陸して2年間ほど滞在し、地表に舞い戻ってきた(そしてエンケラドゥスをあれほど明るく反射させている)噴出物を採取する。

ミッションの打ち上げは2038年10月(予備日は2039年11月)、到着は2050年を予定している。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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ライフスタイル

2022.12.10 18:00

坂本龍一が紡ぐKRUGのサウンドをフルオーケストラが体現した夜

筆者撮影

筆者撮影

長年のKRUGラヴァーとして知られる坂本龍一が、3種のKRUGを音楽として紐解いた組曲『Suite for Krug in 2008』を制作。今年9月、KRUGの音楽プロジェクト『KRUG ECHOES』の一環として全世界に公開された。



11月初旬、その3種のKRUGと音楽のペアリングを体感するイベント『Seeing Sound, Hearing KRUG』が開催され、招待いただいた。

グランドピアノとフルオーケストラが入った会場で、KRUGの繊細な味わいと生音の組み合わせを味わえるという、文字通り「酔狂」を表現したような内容。9月のニューヨーク、10月のロンドンに続いて東京での開催となった。

残念ながら闘病中の坂本氏の来場は叶わなかったが、2019年に依頼されてこのプロジェクトが始まったこと、その間にスタッフをランスに派遣し、インスピレーション元となるイメージやサウンドをサンプリングして曲を作り上げたことなど、今回の制作への思いを語った映像が流された。

「私の音楽とスピリットは今日ここに皆さんと共にあります。私がこの場にいないことがこのパートナーシップに影を落とすことはありません」と、淡々とした口調ではあったものの、芯の強いメッセージがゲストたちに響いていた。



ホワイエから隣接した特設の演奏会場に移動すると、指揮者の高井優希氏、ピアニストの中野翔太氏とともに、東京フィルハーモニー交響楽団が登場。組曲の第1楽章は、クリュッグ クロ・デュ・メニル 2008にあわせて作られたピアノソロだった。

「純粋で、単一区画から造られたこのシャンパーニュのために、主旋律であるテーマのアレンジは最小限に抑えました。この最小フォルムは、クロ・デュ・メニル 2008の離散的、新鮮で想像をかき立てられる感覚を表すものです」と坂本氏はコメントしている。

オーケストラを囲むように着席するゲストにクロ・デュ・メニル 2008が供され、ピアノが奏でられる。単一区画のシンプルさの表現にピアノの音だけで臨むというアプローチになるほどと頷かされ、残りの2曲も愉しみになった。

第2楽章は、2008年のブドウでブレンドされ、「クラシック・ビューティ」と名付けられたクリュッグ 2008とのペアリング。シャンパーニュがグラスで供され、演奏が始まる。弦楽器、木管、パーカッションで構成された楽曲にはフレッシュな輝きが見事に表現されていた。
次ページ > 耳で味わうマリアージュ

文=山本憲資

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