超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
なんてひどい原作タイトルのもじりなんだ。
翌日の朝、すっきりとした顔でコウ・ウラキはアルビオンへと復帰していった。
原作と違い、復帰に要した時間は2日程度だ。
酔っぱらってチンピラに殴られ、その傷を癒していたという言い訳でも通る程度の日数である。
ガンダム試作1号機の改修にも余裕をもって間に合っているはずだし、特に問題にはならないだろう。
アルビオンに戻る際、部屋代や食事代を払おうとコウは言い出したが、俺は受け取らなかった。
諸費用も込めて全部アナハイム持ちなので、俺の懐は別に痛んでいないというのもあるが、連邦の新米少尉が払おうとすると月収の半分が飛んでしまう額なのだ。
後で払うと言い出されても、デラーズ紛争が終わった時には俺はもうここを引き払っているだろうし、面倒なだけだ。
それを告げると、コウは苦い顔をしながらこちらに礼を言い、去っていった。
あの様子だと、俺のことはアルビオンの連中には言わないだろう。
原作でもデラーズ・フリートであると判明したケリィ・レズナーのことを黙っていたような人間だ。そんなにおしゃべりな男ではない。
まあそもそも、原作のケリィと違って、奴の視点では俺はあくまでも『富裕層の子どもの旅行客』でしかない。
少々意味深なアドバイスをしたとしても、その程度で俺が軍の関係者であると断定するのは、論理の飛躍が過ぎる。
精々が「民間の旅行者に介抱されていた」程度にしか伝わらないだろう。
そんなわけで、降ってわいたような『0083』主人公との遭遇イベントはこれでおしまいだ。
それから俺は、ジオン共和国からやってきた連絡員と情報を交換したり、オサリバン常務と雑多な交渉や打ち合わせをして数日を過ごしていた。
アナハイムとの交渉の際に確証が得られたのだが、やはりこの世界でもアナハイムとデラーズ・フリートは裏で取引をしているらしい。
ちょうど、俺がコウ・ウラキを拾っている最中に交渉が行われていたようだ。
そのタイミングで資源搬出口から出航していく、デラーズ・フリートの艦も記録映像から確認できた。
原作通りなら、月面からのエネルギー供給用レーザーの照射が、星の屑作戦の重要なギミックになっていたはずだ。
そう考えると、シーマ艦隊がいなくても、デラーズ・フリートがアナハイムとの裏取引を重視する意向は変わっていないのかもしれない。
そして、元ガンダム試作4号機こと、ガーベラ・テトラもデラーズ・フリートに譲渡されたらしい。
しかし、あれを乗りこなせるとなると、エリック・マンスフィールド大佐ぐらいじゃないと無理じゃないだろうか?
アクト・ザクに振り回されているマレット・サンギーヌ大尉では扱いきれないだろう。
マンスフィールド大佐にはちょうどいい乗り換え先の機体になるだろうが、そうなるとアクシズ先遣艦隊が仮にノイエ・ジールとかを持ち込んでいたら、機体が宙に浮いてしまう。
デラーズ・フリートにとっては頭が痛いだろうが、マンスフィールド大佐をガーベラ・テトラに乗せるか、それともノイエ・ジールに乗せるかの2択になってしまうだろう。
原作ではガトーですらノイエ・ジールを持て余していたので、個人的にはガーベラ・テトラの方が合っているような気はする。
そんなことを考えながらも、アナハイムとの交渉は進んでいく。
俺にとっては都合のいいことにウォン・リーやメラニー・ヒュー・カーバインといった、後のエゥーゴの有力な後援者たちとの知己も得ることができていた。
これだけでも、フォン・ブラウンに来たのは大成功と言ってもいいだろう。
おそらくだが、本来ならこれは全部、クワトロ・バジーナ大尉ことシャアの仕事だったと思う。
だがここまで前提条件が違ってくると、奴がクワトロ大尉になるのかすら分からない。
延々とアクシズで、夫婦生活を送っている未来も普通にあり得る。
土壇場でそれが判明したらリカバリーが利かないだろう。
なので、エゥーゴの設立のための準備というべきパイプの構築を、今のところは俺が代行しているわけである。
そして、アナハイムとの関係の構築や、問題点の共有もある程度終わった。
後は、俺の視点ではあるが『ティターンズが設立されてからでないと話が進まない』というような段階になり、この会合で今回の交渉はひとまず終了といったタイミングになった時――。
アナハイムの会議室に血相を変えた社員が飛び込んできた。
同時に、俺の襟元に付けていた通信機も振動で着信を知らせてくる。
この会議室には俺とメラニー氏、ウォン氏の3人しかいない。
ここまで上の面々との会談になってくると、フォン・ブラウン支社の常務でしかないオサリバンでは参加できないのである。
「交渉中に失礼します!
こ、コンペイトウの観艦式が、ガンダム2号機によって襲撃されました!」
アナハイムの社員が報告してくる。
驚愕しているメラニー氏とウォン氏をよそに、俺だけが落ち着いている構図になっている。
驚きを表情に出さないよう、俺が訓練してきたというのもあるが、当然ながらこの展開は予想済のうちの1つでしかなかったからだ。
万にひとつぐらいは核攻撃が成功しない展開もあり得るかなとは思っていたのだが……。
結局、マンスフィールドの核攻撃は防げなかったわけか。
俺は通信機のスイッチを入れる。
「ヴァルツァーだ。
コンペイトウへの核攻撃の件か?」
通信機を通して、フォン・ブラウンに滞在しているジオン共和国の連絡員の声が聞こえてきた。
「コンペイトウ――ソロモンへの攻撃もそうですが、デラーズの艦隊がサイド1と月の中間でコロニーを2基奪取しました!」
通信機の音声は、当然会議室の2人にも聞こえている。
連絡員に礼を言って通信を切った俺は、硬直している2人に話しかけた。
「まあギレン・ザビの亡霊が考えることです。
結局のところ、コロニー落としかコロニーレーザーの2択だとは思っていましたが、どうやら前者のようでしたね」
会談の終わりがかなり慌ただしかった気がするが、「また状況が変化した時にお会いしましょう」という約束は取り付けられたので、俺の月での仕事もほぼ終わったと見ていいだろう。
メラニー氏もウォン氏も結構慌てていた。
コロニーへのレーザー供給の話が通っているのはオサリバンの周辺までで、デラーズ・フリートとの密約に関しては、フォン・ブラウン支社上層部の独自判断なのかもしれないな。
月にコロニーを落とすか、レーザーを供給するかの2択を突きつけられるわけだから、オサリバンが本社に報告しても、黙っていても、アナハイムがやることは変わりないだろうし。
さて――これで俺が地球圏で予定していた仕事は、ほとんど完遂できた。
後は、状況の変化したタイミングでしかできない類の仕事を片付けてから、アクシズ先遣艦隊に便乗させてもらい、アクシズに帰還するだけである。
先遣艦隊の責任者に事前の挨拶をしておくべく、共和国の手配してくれた宇宙船で、俺はアクシズ先遣艦隊へと一度赴くことにした。
それだけのはずだったのだが……。
「それで、これはどういう状況ですか?」
顔が引きつっていることを自覚しながら、俺は先遣艦隊司令であるユーリー・ハスラー少将に聞いた。
ここはアクシズ先遣艦隊の旗艦グワンザンのブリッジだ。
俺の目の前には、俺に向かって必死で頭を下げる十数人の兵士たちがいる。
あまり見覚えのない顔ぶれなので、おそらくはデラーズ・フリートの兵士たちだ。
彼らが一斉に俺に頼み込んでくる。
「なにとぞ、なにとぞ!
エルンスト大佐のご助力を賜りたく!」
俺は心底、先遣艦隊に来なければよかったと、この選択を後悔していた。
彼らには悪意などはまったくない。ただ、単純に俺にすがっているだけだ。
悪意や敵意以外の感情などわざわざ感知していなかったため、ここに到着するまでは、こうなるとはまったく思っていなかった。
「……ハスラー少将、説明していただいても構いませんか?」
「……うむ」
ハスラー少将が俺に説明を始める。
要約してしまえば、『星の屑作戦』における助力の嘆願だった。
連邦の戦力のうち、コロニーの後方側の戦力の足止め、ならびにすべてが終わった際の兵の回収の援護を頼みたいと。
「俺、コロニー落としには消極的だって言いましたよね?」
「うむ。
なので、コロニー前方に展開中の、連邦の対コロニー部隊はデラーズ・フリートが責任をもって相手するそうだ。
大佐にはあくまで、後背を突かれないための足止めをお願いしたい」
それ詭弁って言うんですよ。
実質的に連邦の後方戦力の撃滅や無効化と何も違わないでしょう。
そう言いたいのだが、デラーズ・フリートにわずかながらでも助力するために来たというだけあって、アクシズ先遣艦隊の大多数はデラーズに親近感を抱いている連中だ。
この空気の中、直球で否定できるのであれば、社会人は苦労しないだろう。
俺は何とか妥協案を引き出そうと、質問を重ねていく。
「この艦隊にある機動兵器を、デラーズ・フリートに譲渡すればいいのでは?」
「生憎と、この艦に搭載している兵器を乗りこなせるパイロットがデラーズ・フリートにいないのだ。
ほら、大佐がテストパイロットを務めたノイエ・ジールだ」
原作通りノイエ・ジール持ってきたのかよ。
たしかに他に戦力になりそうな機体――ガーベラ・テトラを越えるような機体に、あまり心当たりなかったけどさぁ。
「マンスフィールド大佐なら操縦できるのでは?」
ノイエ・ジールにマンスフィールド大佐が乗れば俺が乗る必要もないだろうに。
「残念ながらマンスフィールド大佐ほどのパイロットですら、試乗して間もなく音をあげたのだ。
またマンスフィールド大佐は、アナハイムとの裏取引で得た新型機に搭乗して連邦の対コロニー部隊を相手にするため、後方にまでは手が回らない。
その後方からは、連邦の新型モビルアーマーらしきものが猛追してきており、友軍にも多数の被害が出ているそうだ。
これを止めて欲しい」
ガーベラ・テトラにはマンスフィールド大佐が乗るということか。
そして、ガンダム試作3号機、アルビオンは受領することになったのか。
これで悲しいが、エイパー・シナプス艦長の銃殺刑は避けられないだろうなぁ。
と、そんなことを言っている場合ではない。
「ですが――」
なおも食い下がろうとした俺をハスラー少将は手で制した。
そして――ゆっくりと俺に頭を下げる。
「すまない。貴君の矜持に泥を塗ることも、これが恥知らずな頼みごとであることも、百も承知している。
だが頼む。この一時だけでも、デラーズへの助力をお願いしたい」
感じられる思念は、デラーズへの友情だ。
そういえばハスラー少将、デラーズとは旧知の仲だったか。
しかし、これはどうしろというのだ。
前提として、軍隊においては階級は絶対である。
これが命令だったのなら、ドズル中将を通してくれと跳ねのけられただろう。
ハスラー少将よりはドズル中将の方が階級も立場も上なので、その直属の俺への命令にはドズル中将の許可が必要だという理屈で返せる。
だが、階級が上の人間から頭を下げられて、「頼む」と言われては断れる方便がない。
上官が頭を下げるということの意味はかなり重い。
これを断ってしまえば、アクシズの兵卒の間で、俺が血も涙もない人間であるとしか映らない。
あのハゲに助力なんかしたくもないのだが、どのみち星の屑が成功しようがしまいが、ティターンズが結成されるのはほぼ確定だ。
なら、俺が後方で多少暴れたところで大筋に影響はない。
原作のシーマ艦隊同様の獅子身中の虫がいなければ、ソーラ・システムは展開されずにコロニーは落ちるだろうしなぁ。
とはいえ、デラーズの演説でキシリア派の誰かあたりが、獅子身中の虫になる可能性も捨てきれないのではあるが。
数秒考えた末、俺は絞り出すように声を出した。
物凄く不服ではあるが、というニュアンスだけは表しておく。
「……分かりました」
瞬間、頭を下げていた兵士たち全員が歓声を上げた。
ちくしょう、なんて明るい顔をしてやがる。
「ですが、いくつか条件があります」
「なんだね?」
「まず、機体を白銀色に塗るのは止めてください。
連邦を刺激したくない」
ここで『白銀』が明確に大暴れしたと判明したら、ティターンズにかかる予算が倍増とかしかねない。
バスクあたりなら現場からの証言の「白銀かもしれない」程度の情報でも、聞いたらいきり立つだろうが、連邦政府に伝わる明確な映像証拠として残したくはない。
「分かった。
直ちに塗り替えさせよう」
もう塗ってんのかよ。
油断も隙もありゃしねぇ。
「それと、俺はデラーズ・フリートではありません。
独立した行動権を認めていただきたい」
原作のガトーのように、最後まで残り、敵艦に特攻して爆散するとかごめん被る。
「大佐の要求は当然だな。
それも了承しよう」
とりあえず、最低限の言質は得られた。
危なくなったら、さっさととんずらをこくとしよう。
事前に用意されていた、俺専用にカラーリングされたノーマルスーツに着替えて、俺はグワンザンの格納庫でノイエ・ジールを見上げていた。
ノイエ・ジールはほとんどが通常カラーに塗装されているが、なんで左上から右下にかけて白銀のラインが一本走ってるんだよ。
整備員に問い合わせてみたら、塗料が切れたとか言っているが、絶対嘘だ。
問い詰めたところでどうしようもないし、機体の全部が白銀でなかっただけ、マシと考えることにしよう。
半ばあきらめの境地に至りながら、ノイエ・ジールのコックピットへと移動する。
機体の設定を、俺に合わせて変更するために、ノイエ・ジールのコンソールを操作する。
マンスフィールド大佐が搭乗していた以上、彼に合わせて設定が変更されているはず……なのだが。
妙だ。
俺は通信機のスイッチを入れて、ブリッジのハスラー少将に繋いだ。
嫌な予感がする。
「こちらヴァルツァー。
ハスラー少将、こいつってアクシズから持ち出すとき、B仕様にしましたよね?」
B仕様とは、ハッキリと言ってしまえば原作のノイエ・ジールである。
反応速度が多少マイルドに抑えられ、制御系の補佐にサイコミュも入っていない仕様だ。
当然ながら、オールドタイプでもなんとか扱える。
ただ、有線クローアームにビームサーベルを仕込んだ4本の隠し腕、そして多数の内蔵火器を、ある程度は手動で操作しなくてはならない。
そのためパイロットへの負担はそこそこ高い。*1
だが、ハスラー少将からの返答は――。
「いや、アクシズにあったときのまま、A仕様だ」
A仕様とは補助システムにサイコミュを使用して、反応速度を極限まで高めた仕様である。
マンスフィールドが乗りこなせるわけねぇじゃねぇか。
俺やシャアが乗る時の仕様だぞ、これ。
こいつ、本当に最初から俺をこれに乗せる気満々だったんじゃないか。
今度から、脳内でずっとタヌキ親父って呼んでやる。
「――貸しは高くつきますよ、少将?」
半眼で告げた俺に、ハスラー少将は笑いながら返してきた。
「心得ておこう」
皮肉すら軽くかわされてしまう。
悔しいが年季が違った。
正直、完敗である。
相手側に悪意のない状態での交渉もあるということか。
感情を読み取ることに頼りすぎるのはよくないと思い知らされた。
通信を切った俺は、諦めの吐息を一つ漏らす。
そのまま深呼吸して、意識を入れ替える。
腐ったままで戦場に出るような、馬鹿なことはしない。
任務内容を脳内で反芻した俺は、操縦レバーを握りしめた。
「全ステータスチェック完了。
エルンスト・ヴァルツァー、ノイエ・ジール出るぞ!」
地球落着まであと14時間。
コロニー後方の連邦部隊には、八つ当たり気味の悪夢を見てもらうことにしよう。
読んでいただきありがとうございます。
コウ復帰、エゥーゴ設立の仕込み完了、デラーズ紛争(空気的に)強制参加という流れになりました。
実際、目上の人間と周囲の人間が真摯に頭を下げてきて、それを断れる組織人というのは中々いないという話。(同調圧力とかと違って嘆願なので、余計難しい)
エルンストの場合、「ドズルに迷惑かかるかも」という思考が働くのでさらに難しい。
若干ですが元祖『白銀』インスパイア。
「どうしてこうなった」
「命令ではないよ。頼んでいるのだ。平和を望む同志として」とかどこかの特佐も言っていましたが、あっちの方がはるかにマシ。
あの特佐、覚醒後は別人レベルで立派だもんね。
そんな感じで、ユーリー・ハスラー少将が中々の狸親父になってしまいました。
まあ原則でほとんど描写がない人物でしたので、これぐらいの味付けは許容範囲ではないかと。
ちなみに彼は本気で、『エルンストに大きな借りを作った。いずれ返さねば』と考えており、主人公を利用してやろうとかそういう気持ちは欠片もありません。(悪意があればニュータイプ能力で気付けるので)
「真摯に頼んだらきっと彼は無碍にはしない。ただ、それはそれとして断り辛い状況は整えておく」という狸。
あくまで「お願い」なので、ドズルも唸りながら認めるしかない。
さすがデラーズと旧知の間柄。
そして、ガーベラ・テトラはエリック・マンスフィールド大佐に渡りました。
最初はガンダム2号機の後の彼の乗機は、ガルバルディαを考えていたのですが、コウがデンドロ乗るのにガルバルディはなぁ……と思って変更しました。(その場合だと、ガーベラ・テトラはアクシズにお持ち帰りコースでした)
というわけで主人公がノイエ・ジールで参戦です。
アルビオンのいる戦線が難易度クソゲーになりました。
コウとは早い再会になりそうですね(白目)
ああ、あとシーマがいないのでバニング大尉は死んでいません。
少なくとも今はまだ。
下手にノイエ・ジールに手を出すとお星さまになりそう。
62話、63話、書き直してエルンストがノイエ・ジールに乗らない、デラーズ紛争で一切戦わない展開に直そうと思えばできますが、どっちの方が良いですか? 参戦させた理由の一つが、読者の皆さんがアサクラを処したいかなと思ったからですので、物語の大筋においては大差ないです。 アサクラが多分最後まで生き残って、62話の時点で、やることがなくなって0083編が終わるぐらい。
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書き直して。
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そのままで。