マジカルキュートな生物が攻めてきた!?2
前回の続き、今度は槍弓成分が多めになってます/エミヤは絶対ミニクーちゃんに甘いと思います/ブクマや評価ありがとうございます!!次回こそ狂王弓になったりならなかったり…
- 412
- 278
- 11,775
ミニクーが同行することに決まり、同時に世話係兼監視役に任命されたエミヤは頭痛に顔をしかめる。
半分脅しにも近いことを言われ放っておくことも出来なくなってしまった一行、そうでなくてもようやく得られた魔力の供給源を腹ペコな暴君は離してくれようとはしないのだ。
ミニクーの衝撃も時が経つと慣れて、ほとんど世話係のエミヤにくっついている使い魔から、形がわかってきたこの奇妙な固有結界の黒幕との決戦の作戦会議へ時間が割かれるようになっていた。
宝石によって結界が破れたといっても他にもファースト・レディは保険の防御結界を貼っていたようで、礎となっているそれぞれの国のエネミーを一定数討伐しなければならないこともあり、国を転々としてミッションの達成を目指している。
その日もまた雪華とハチミツの国に戻り、エネミーが徘徊している広大な雪原からマスター達は森の中へ身を隠しひとときの休息をとっている。
そして一行をエネミーから守るため見張りをかって出たエミヤは、同じく連日の戦闘、さらに男性のサーヴァントはより力が伝わりづらく他の仲間よりも疲労度は高いはずであるのに、休む間もなく気を鋭く張り周囲へ目を配っていた。
周りのめぼしいエネミーは消滅させ、あたりをぐるりとアーチャー特有の優秀な視力で確認したエミヤは、とりあえず当分の危機はないだろうと気を緩め、体の力を抜いた。
適当な倒木に腰を下ろし、腕をぐるぐると回して体をほごしていると腰あたりの重みが外れて視線を下げる。
隣には戦闘中も体と尻尾を駆使して器用に腰にくっついていたミニクーが、表情の見えない瞳で彼方を見ていた。
何がどうしてここまでなつかれてしまったのか、ずっと近くにいるミニクーにエミヤは額を抑える。
うまくくっつかれているので感覚的にはウエストポーチに近く、重さも鍛えられたエミヤにとっては無いに等しいため邪魔ではない、むしろ使い魔の体は不思議とほのかにぽかぽかしていて、見た目通り寒々しいこの国ではかなりありがたい。
もしやそれが目的か?とありもしない狂王の慈悲を考えてしまう自分に呆れ、首を振った。
しんしんと降り積もる雪を見ていると、ざくざく雪を踏みしめる音が耳に届き、主がわかっているエミヤはそのままそこで待つ。そうしていると、予想通りエミヤと同じく周囲の警備に当たっていたクーフーリンが愛用の槍を肩に担ぎ、お疲れと肩を叩いた。
エミヤが軽く手を挙げて応えると、クーフーリンは立ったままで近くの木に背を預け、次の見回りに行くべき時まで体を休めている。
どうかこの静けさが続きますようにと、らしくない願いをかけていることにエミヤは気づきそして肩を落とした。
この頃エミヤを苦しめる頭痛の種はミニクーだけではないのだ。マスターから任命された役に関して、そもそもこれを連れてきてしまったものとして責任を感じている以上、煩わしく感じるものではない。まずミニクーは魔力を渡しさえすれば基本的に大人しいのだ。
その中で最もエミヤを疲れさせる要因は、願いもむなしく早速始まった隣で繰り広げられる攻防だった。
「あーあーまた変なやつが加わったもんだな、しゃべる礼装に魔法少女、今度はちいせぇ俺とはね!かぁー長生きするもんだねぇ、こぉんなキュートな姿の自分が見れるんだからよッおぉと」
ニヤニヤと小馬鹿にする笑みを浮かべたランサーのクーフーリンは、挑発に乗ってこちらを穿とうとするミニクーの槍を難なく避けると、ミニクーの手が自身の頭に届かないデフォルメだと知ってミニクーの頭を鷲掴みにし、なんともむかつく調子でぐりぐりと撫でる。
「はっ!全然届かないじゃねぇか、二頭身は大変そうだな!」
「貴様…」
バシバシ叩く度ぱこんぱこんと軽い音を立てるミニクーの頭にゲラゲラ笑っているこの男、クーフーリンにエミヤはあたりの雪原が暖かく感じるほどの冷ややかな目を向けた。
ミニクーが同行してから隙あらば始まる、英雄が行うにしてはあまりに馬鹿馬鹿しいこの諍い。いい加減放っておけとエミヤが声を荒らげても、クーフーリンは変わらずミニクーにちょっかいをかけている。
オルタに堕ちた自分のさらにミニ版なので放っておけというのも難しいのかもしれない、同一人物が同じ場所にいるというのは複雑なものなのだ。
以前自らも違う世界の自分を殺そうと殺意の波動に目覚めたエミヤは、わからんでもないような気がして放置することにしている。…本当の意味で足元にも及ばないミニサイズの生き物に絡んでいる情けない姿はまた別の問題だが。
おちょくられて牙をむき出しにしていたミニクーは、乱暴に頭に乗せられた手を振り払い腰掛けていたエミヤの隣からスタンと降りると、いまだ見下ろしてくるクーフーリンを睨みあげた。
見るに耐えない低レベルな男から視線を外していたエミヤは、ぴりぴりと皮膚を指すようなかすかな魔力の予兆にはっと顔を上げ、そういえばクーフーリンはメイヴ討伐の別行動をとっていたことを思い出した。
「大人げない……そうだ、ランサー。言い忘れていたがそいつはなかなかに手強い…」
「爆ぜ喰らう甘牙の幼獣(アマガミ・コインへン)!!」
「ギャーーーー!!!!」
忠告した時には遅かったようでミニクーのプチ宝具、爆発的な威力で空を切った槍により、局地的に暴風が起こる。
余波から手で顔を庇いばさばさとはためく服を抑えるエミヤの膝の上に、たまったイライラを少なからず発散させることが出来たミニクーがふんっと鼻をならして戻ってきた。
次の瞬間雪原に伏したクーフーリンがガバッと起き上がり、ミニクーの攻撃で服からところどころ煙を上げながら槍を構える。
ほぼ直撃に近い当たりをしたのに、クーフーリンの安定安心の生きる底力へエミヤは感心した。
「っんのクソチビ!殺してやる!」
「落ち着け、ランサー。先程のことは君も悪い」
「かばうっていうのか!アーチャー!」
「そもそも君はこんな生き物へ本気で憤ることに恥を感じないのか?」
「力は俺らに劣らないってついさっきお前が言ったよな?!」
冷たい瞳を向けるエミヤとその膝の上に乗せられて、ちゃったり撫でられているミニクーにクーフーリンは地団駄を踏まんばかりに苛立ちを発揮させる。
甘い、甘すぎる。やはりというべきかエミヤはミニクーに甘い。
ミニクーにつっかかる動機の内訳、あらゆる方向にねじ曲げられた自分への興味をはるかに上回る、ミニクーへの燃えるような対抗心が再度クーフーリンの中で頭をもたげた。
元来の世話焼きとミニクーのニホンのアニメーションさながらのキュートなフォルムに、本人は認めようとしないが完全にデレデレになっている。
世話係に任命されたからなとしれっとしているが、元敵を四六時中抱っこして運んでやる義理はないはずだ。
まずそもそも定位置がエミヤの腰なことも気に入らない、あの筋肉質なくせに妙に細くてエロい腰をさわれるのは近しい仲の者の特権であったはずなのに…話がそれた。
いまやミニクーもなついてしまったため、ただ腰にしがみついた厄介者が当たり前のように愛しいエミヤの膝の上に収まり愛でられている姿なんて、とても看過出来ないのだ。
自らも滅多にされたことがないデレを存分に享受しているもう1人の自分を睨みつけ、ムスッたれた顔をしたクーフーリンは、ハァーと深い息をつくとエミヤの隣に腰掛け、膝に頬杖をついた。
「あーあ、世の父親はこんな気分なのかね」
「誰が父親だ」
「おら、ママと話があるからお前は向こうにでも行ってろ」
「誰がママだ!」
ちらっと横を見たクーフーリンは、視線が少しでも絡まった瞬間カァーと牙を出し尻尾をぶんぶん降って威嚇する自分にしっしっと手を振った。
ミニクーにどこか行けと暗に示して横目で様子を見ていたランサーは、あまり喜ばしくない言われようにムッとした雰囲気の増してしまったエミヤと、全く退く気の無さそうなミニクーに対して何故かニッと笑った顔を向けてきた。
その悪ガキが何か企んでいるような笑顔に、エミヤが身構えるよりも早く、クーフーリンは自身の素早さを生かして勢いよく抱きつきそのまま押し倒す。
ランサーの速さで抱きつかれ、受身も取れずに後頭部を少し打ってしまった痛みに顔をしかめるエミヤが気づいた時には、ランサーにベッタリとくっつかれていた。
抵抗しようにも腕は掴まれ、体全体でのしかかられては身動きも危うい。
もぞもぞと腹のあたりで動くものは、おそらく結果的に2人にサンドされてしまったミニクーだろう。腕の長さが足りず、クーフーリンを押しのけることも出来ないでもがいている動きがかすかに伝わってくる。
行いを咎めようとした瞬間、エミヤは唇へ落ちてきた軽いキスに虚をつかれて固まる。普段険しい顔ばかりしているエミヤのきょとんとした表情へ、ついぷっと吹き出してしまったクーフーリンは再度口づけると、そうっとエミヤの褐色の頬を撫でた。
「なぁ俺にもご褒美くれたっていいんじゃねぇか?」
「ご褒美?褒美とは働いたものに与えられるものだろう。戦闘は基本的にお嬢さん達が行い、私たちができるのは後方支援のようなものだ。それで褒めろと?寝言は寝て言え」
「へぇ、じゃあ働いたらご褒美くれるってことでいいんだな」
「まぁ考えてやらないことも…待て、おいランサー!」
マウントを取られ続けた意趣返しにすげなくあしらったつもりのエミヤが、自分がつい失言をしてしまったと気づいたのは、明らかに種類を変えた笑みの形を静かに描いたクーフーリンの顔を見た時。悪ガキから獲物を狙う肉食獣への変貌、恋人として短くない期間を過ごしてきたエミヤの背筋がその荒々しい色気をまとったクーフーリン特有の笑みに、ゾクリと無意識に震える。
クーフーリンの口が前払いだと言わんばかりに離れ際エミヤの唇をぺろりと舐め、マズイと感じて止めようとした時には腕は空を切りクーフーリンは遥か彼方の地平へ凄まじい速さで移動していた。
「その言葉忘れんなよ!確かマスターが菓子のエネミーに手こずってたから軽く50体狩ればいいだろ?土産も持ってくるからな!待ってろよ!あぁっと俺!俺がいない間にアーチャーに手を出すんじゃねェぞ!おさわりは腰限定だからな!そこから上も下も許さねぇぞ!」
「デカイ声で喚くなたわけ!!」
マスターたちのいるところに聞こえかねん大声に足元の雪をつかんで投げたが、雪玉はクーフーリンの元に届くはずもなく雪原に戻り、混じって消えてしまった。
そしてもう影も形も見えないクーフーリンに肩を落とし、筋肉まみれの男2人に潰されて咳込んでいるミニクーの背中をさする。
軽く50体と言ったが、ほとんど力が無効化されるこの世界でどう戦うというのだあの男は。
…いや、やる、クーフーリンならばきっとやり遂げる。無理難題を達成するのが得意な彼ならば、これしきのハンデは障害にならない。
まさにご褒美を目の前にした犬、あの速度ならもうお菓子の国にたどり着いてしまっているだろう。
空を見上げて遠い目で、1人エネミー狩りをしているクーフーリンを想う残されたエミヤは、心の準備をするしかなかったのだった。