「帰ってきてくれてありがとう」、14年7か月ぶりに抱いた6歳の娘…震災行方不明者なお2500人
朋紀さんはなぜか、捺星ちゃんが誘拐される夢を何度も見た。夢は決まって再会の場面で終わり、目覚めると、頬がぬれていた。
昨年1月に開かれた町の成人式。千弓さんは朋紀さんと会場の公民館まで車で行き、晴れ着姿の同級生たちを車の窓越しに見た。「捺星にも着せてあげたかった」。2人で泣きながら帰宅した。
朋紀さんに警察から電話があったのは、気持ちの整理をつけられない日々を送っている中だった。
遺骨の受け渡しの日、宮城県警南三陸署で布に包まれた骨つぼを受け取ると、千弓さんは抱き寄せ、そっと頬を近づけた。「帰ってきてくれてありがとう」。朋紀さんは隣で、目を潤ませながら天井を見上げていた。大弥さんはその後の記者会見で、何度もハンカチで目元を拭った。
自宅では、朋紀さんの友人が「おかえり捺星」の文字をあしらったケーキを用意して待っていた。家族4人で囲み、「本当に捺星が帰ってきた」と実感した。
捺星ちゃんが見つかった後、警察には行方不明者家族からの相談も増えているという。千弓さんは「14年以上たって見つかるなんて想像していなかった。可能性を信じて希望を持ってほしい」と語る。
震災15年となる今年の「3・11」は、捺星ちゃんが見つかった宮城県の海岸を4人で訪れるつもりだ。
わずかな手がかり、鑑定技術組み合わせ特定
山根捺星ちゃんの身元特定は、宮城県警の「身元不明・行方不明者捜査班」が進めた。これまでに9537人の遺体を家族らの元に返してきた。2023年2月、岩手県山田町の自宅から約100キロ離れた宮城県の海岸で見つかった遺骨は、数本の歯が付いた下あごの一部のみ。わずかな手がかりから、複数の鑑定方法を組み合わせて特定につなげた。
捜査班はまず、東北大大学院歯学研究科の鈴木敏彦准教授に「歯牙鑑定」を依頼。歯や骨の発育状態から推定年齢は7歳前後との結果が出た。行方不明者2520人のうち、宮城・岩手両県で該当する年齢の25人に候補を絞った。
そこから先は困難を極めた。虫歯がなく歯並びも整っていたため、治療痕を手がかりにできない。時間がたっていたことで、DNA型鑑定で必要な細胞核のDNAも検出できなかった。