スシローの非正規労働者が「順法闘争」へ マニュアルと客対応で「板挟み」の実態
本日3月1日、スシロー宮崎恒久店で「回転寿司ユニオン」の非正規労働者たちが「順法闘争」に入った。同ユニオンは、はま寿司、はなまる(根室花まる)など全国の回転ずしチェーンを組織しており、今回の闘争はこれらと統一した春闘の一環だという。
「順法闘争」とは、法令や規程、マニュアル等を徹底的に順守することで、実質的に仕事のスピードを落とし、企業に圧力をかける交渉戦術である。ストライキなどと同様に、憲法や労働組合法で認められた争議行為であり、法的に保護される。
例えば、「お客が入ってきたら一人一人案内する」といった、混みあう時間帯は守られていないマニュアルを、すべて原則通りに従うようにする。すると、提供速度や客の回転が遅くなり、企業側は大きな困難を抱えることになる。
もちろん、この戦術を実行すれば、待ち時間が増えるなど顧客への影響も避けられないだろう。組合側もこの点を非常に懸念しているという。それでも、なぜあえて労働者たちは「順法闘争」を実施することになったのだろうか。
賃上げ「ゼロ回答」ありき?
「回転寿司ユニオン」とスシローとは、今月に入り春闘の交渉を行っていた。記録的な物価高が続く中、各社が賃上げを実施している。業務の多くを非正規雇用に依存するスシローに対しても、労働組合として賃上げを求めていた。
1月28日には第1回春闘交渉が行われ、「回転寿司ユニオン」とスシローの経営陣が話し合ったが、会社側は今の賃金で人員も集まっているとして、賃上げに否定的な考えを示した。続く2月19日第2回春闘交渉でも、周辺店舗の時給表を出し、周辺店舗遜色ない賃金であると説明したという。
ところが、この周辺店舗の時給表には最低賃金未満の数字が混ざっていたり、重複や誤りがあるなど、ずさんさがめだっており、労使交渉は難航した。さらに、会社側は一部店舗について「切付けグラム数・盛り付けグラム数を管理し、グラム数管理を徹底」できていないからロスが多く、利益が落ちて賃上げができないなどと、「労働者が悪い」と言わんばかりの主張を展開したという。これでは、事実上の「ゼロ回答」ありきだったのではないか、と労働者側に受け止められても仕方がないだろう。
これに対し労働組合側は、「人集め」だけが賃金の理屈ではないうえ、人を集めても、現場では人件費を抑制するためにシフトに入れる人数が抑えられており、そのためマニュアルを守る時間もなく、グラム数のずれやロスが出てしまうのだと反発を強めていた。
そして決行されたのが、今回の「順法闘争」だった。つまり、賃上げを拒否し、人員不足にも目をつぶり、その上マニュアルを守れていないから賃上げをできないという会社に対し、組合側としては「この人数でマニュアルを守ったらどうなるのか」を示すことで、人員増や賃上げを認めてもらうための行動に出たのだ。
「順法闘争」のスローガンは「#マニュアル400ページ守ってみた」である。
スシローの順法闘争の内容とは?
実際に、スシローは400ページにも及ぶ業務マニュアルを作成しており、これをすべて守っていては、お客の混雑は避けられないように見受けられる。
まず、労働者側のロスが会社から指摘されていた項目については、次のようなマニュアルがある。
・ネタ定規で規定の長さを順守。疑義あるときはレシピ確認
・重量もレシピを順守
・朝、15時、18時にしゃりg数チェックを行う
・天つゆの釜玉だしと湯の配合は電子はかりで計測する
確かに、どんなに混雑していてもこの規定を守っていれば、グラム数のずれを防ぎ、ロスも減らせるだろう。だが、スシローを訪れたことのある読者ならすぐにわかるだろうが、どこの店舗も混雑時には注文がなかなか来ず、来店客も長蛇の列を作っている。混雑時のキッチンにはテーブルのタブレットからのオーダーがどんどん積みあがっていく。
各握りとか、軍艦と各ポジションのタブレットモニターに表示される、でそれがもうどんどんやっぱ溜まっていくわけですね。 やっぱり早く出さないと。 うん。 経過時間によって0から黄色になって黄色から赤になっていって、焦らされるんですね(「回転寿司ユニオン」担当者)
そのため、グラム計測をしっかりやるのか、お客の注文への対応を急ぐのか、労働者は常に板挟みの状態にある。そこで苦渋の決断として、スピードを優先せざるを得ないというのだ。
同じことは他の場面でもいえる。例えば、空いたテーブルをセットしなおし、次の客を迎え入れるまでの時間だ。お客を待たせないためには最大限のスピードが求められる業務であり、会社側も顧客の入れ替えにかかる時間を計測している。
退席してから次のお客さん案内するまで何分かっていうそれを例えば毎日の平均を職場に張り出されて、しかも近隣店舗とかとの比較を貼り出されて、早くやれ早くやれって急かされるんですね(同)
だが、客の案内やテーブルの片付け・セットについてのマニュアルには次のようにある(一部要約)。
・案内係はお客さまが来たらドアを開けにいく
・発券機の操作もご案内する
・お子さまをお連れの場合、茶わんセットをお席までお運びする
・お席にご案内し、商品おすすめやキッズスタンプカードを確認する
・サービスコールやお客さま対応優先
これらも、完全に実行しようとすれば、どうしてもテーブルの回転が遅くなる。 案内を一人一人丁寧に行うことは、顧客のためになる行為だが、一方で顧客の待ち時間を延ばしてしまうことにもつながるのだ(私自身、このマニュアル通りの接客をされなかったことがあるが、混雑状況を見れば特に不満はなかった)。
このようにマニュアルの実行と、実際の顧客対応の間で労働者は常に人員不足を感じながら、最大限の努力をしてきたという。会社はそんな労働者の事情にまったく耳を貸そうとしていないと彼らは感じている。それが「順法闘争」へとつながったと考えられるのだ。
マニュアル無視は、日本独特の文化?
それにしても、「順法闘争」というのは日本に独自の争い方のように思える。そもそも、欧米の労働者は正社員であっても「マニュアル以外のこと」はしてくれない。マニュアルに書いてあればその通りそれだけを行うし、マニュアルに書いていないことはやらない。ある意味で、マニュアルがそのまま機能している状態だ。
もし気を利かせて、Aの仕事をする人が遅れているBの仕事をしようものなら、Bの担当者に激怒されることになる。「私の仕事を盗らないでくれ」と。読者の方も、そういうシーンを海外ドラマなどで見たことがあるのではないだろうか。
これに対して、日本ではマニュアル以上の仕事を気を利かせて臨機応変に行うことが、正規雇用だけではなく、非正規雇用にまで求められるという特殊な世界だ。だから、ものすごく少人数の非正規雇用で、非常に効率的に職場を回すことができる。
今回のように、分厚いマニュアルを作成していながらも、実際の現場では労働者がマニュアルをできるところだけやり、できないところはお客を待たせないために割愛する。こういうことが臨機応変に行われている。そういう「主体的」な態度によって、日本の職場はどこもかろうじて回っているということに、改めて気づかされる。
彼らがそうした努力の対価として賃上げを求めることや、それでも無理のある状態を人員補充で対応してほしい(そのためにも賃上げが必要だ)と主張することは、日本の非正規労働者たちの高い生産性を考えれば、高い妥当性を持つように思う。
順法闘争や春闘の重要性
非正規雇用への依存率は、飲食店でもっとも高く、8割にも及ぶ。だが、その賃金はあまりにも低く、生活していくことが非常に難しいのが実情だ。
「回転寿司ユニオン」では、これまでにも都内の店舗で大学生のアルバイトが立ち上がり、店舗の時給を1200円から1400円に引き上げるなど、労使交渉で状況を改善してきた。
参考:スシローで時給が200円UP!? インフレ下で声を上げる学生アルバイトたち
また、現在、全国のユニオンが連携し「非正規春闘」も行われている。今年はすでに約160社で賃上げ交渉を行う予定となっており、ヤマト運輸、はま寿司、かつや、GABA、インタラック、サンキョウ・ロジ・アソシエート、全音楽譜出版など、大企業から中小企業まで幅広い企業で、非正規労働者が勤務先との交渉に乗り出している。
非正規雇用が日本の産業を支える中で、その存在感はますます増している。非正規雇用で働く人たちには、ぜひ「ユニオンで交渉する」ということを選択肢に入れてほしいと思う。筆者も、生活できる賃金や、仕事の努力が報われるだけの賃金を目指す交渉に今後も注目していきたい。
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