執筆者:現役消防職員(消防隊長・人事マネージャー歴任)|非常時の経験を日常に活かす防災知識を発信中
私たちの生活を支えるリチウムイオン電池は、一歩間違えれば激しい火の手を上げる「エネルギーの塊」です。発火のメカニズムと、社会問題化している廃棄リスクの正体を現場の視点から紐解きます。
リチウムイオン電池と火災①~出火のきっかけ~
【消防の現場視点で、まず結論をお伝えします】
リチウムイオン電池の火災は、これまでの火災とは少し異なります。薄いセパレーターで隔てられた高密度エネルギーは、わずかな衝撃や劣化による膨張で容易にショートし、爆発的な勢いで燃え上がります。特に恐ろしいのは、ゴミとして捨てられた後の「見えない場所」での発火です。自治体の施設に数十億円規模の被害を与えるだけでなく、収集車の火災として皆さんの身近でも多発しています。「膨らんだら即使用中止」「正しく捨てる」という当たり前の行動が、巨大な損害を防ぐ唯一の手段です。
1. 普及の裏側に潜むリスク:10年で10倍に増えた火災
現代の生活に欠かせないリチウムイオン電池。
高密度のエネルギーを含有する利便性の反面、発火に至る危険は社会問題になっています。
今回はリチウムイオン電池と火災の現状についてまとめました。
携帯電話、電動自転車、ワイヤレスイヤホン―
今ではこれらのエネルギー源としてリチウムイオン電池を用いることが一般的です。
軽量で高い電圧を発することができるので急激に普及し続け、電源そのものとして利用されるモバイルバッテリーも含めて国内では数億台もの製品が流通していると考えられています。
そして、流通量の増加と比例するように、リチウムイオン電池を原因とする火災はここ10年で10倍程度増加しています。
2. 発火のメカニズム:薄い絶縁体と高密度エネルギー
ここまでの被害をもたらす裏にはいくつかの特性が関係しています。
一つは構造上の問題。
小さく軽く高密度のエネルギーを含むという至上命題のもとで生まれた製品なので、電極(セル)が薄く折りたたまれて何層にも重ねられています。
これらは両極が互いに触れ合わないように絶縁体(セパレーター)で区画されていますが、物理的な距離が近いので落下などの衝撃で変形した場合には容易にショートを起こして発煙・発火します。
3. 危険のサイン:劣化による膨張と自己修理の罠
また、繰り返し使用することで徐々に劣化が起こり、外部からの衝撃を受けなくても膨張などの現象が見られることがあります。
膨張・変形した場合にはすぐに不具合が見られずにそのまま使用できるように思えても、ちょっとした拍子に火災に至る恐れがあるのですぐに使用を止めてください。
よくある例として、ノートパソコンやスマートフォンのバッテリーが膨らんでいることに気付き、工具を使って取り外そうとしていたところ、バッテリーから煙が出てくるといった事例、電池持ちが悪くなったバッテリーを自分で交換しようとして発火する例などがあります。
こうした火災は、家庭や会社などのほか、商業施設、列車、航空機などあらゆるところで発生しています。
4. 社会問題「不適切な廃棄」:数十億円の被害を招くゴミ出し
また、近年社会問題化しているのが不適切な廃棄の問題です。
使用済み電池の回収方法が一律に示されていないこともあり、不燃ごみなどとして廃棄してしまうケースがしばしば見られます。
これらはごみ収集車やごみ処理施設で圧縮され、当然ショートして出火します。
茨城県守谷市のごみ処理施設では火災被害により半年以上稼働できなくなり、復旧工事に2年余り、修繕費用は数十億円に上ると報じられています。
同様のケースは全国で相次しており、ごみ収集車の火災は全国で年間500件以上起こっていると推計されます。
増え続ける火災を防ぐためには日常の心掛けが重要です。次回は予防のポイントをお伝えします。
raisethestandard.hatenablog.jp
- リチウムイオン電池火災は過去10年で約10倍に激増している。
- 「高密度・軽量化」の構造上、衝撃によるショートが発火に直結しやすい。
- バッテリーの「膨張」は深刻な危険サイン。自己判断での交換や解体は厳禁。
- 不適切なゴミ出しが原因で、自治体施設に数十億円の損害を与える火災が多発している。
- ゴミ収集車の火災は全国で年間500件以上。正しい廃棄方法の徹底が不可欠。
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