無限の剣とたったひとつの刀
リミゼロとエミヤが出会う話。そして守護者の最期を衛宮士郎が看取る話。もう何番煎じさって感じですがよければお付き合いください。
このカルデアでの概念礼装はカードです。多分イベストとか読んでたら概念礼装ってカードじゃなくてものとか人のまんまなんだろうなと思うけどそこはまあ二次創作ということで…。
リミゼロはUBWに近いルートから派生した衛宮士郎という捏造設定でお送りします。
士弓のつもりで書いてましたがこれ士弓要素全然ない…とは書き終えてから気付きました。これでも士弓のつもりです…士弓なんです…。
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少年は、その男の背中に憧れた。
その少年が目指すものは、荒野ではなく自分自身であった。
カルデアにて
「エミヤ、今日からはこの概念礼装を使ってもらっていい?」
そう言ってマスターから差し出された概念礼装には、見覚えのあるようで、見たことのない男が写っていた。
「マスター、これは?」
一体これはなんだ――その概念礼装の中の男の姿を見て、エミヤは今すぐにも、その概念礼装を叩き落し、跡形もなく燃やし尽くしてしまいたい衝動に駆られた。その感情を、取り繕うことに慣れた表情筋の下に押しやって、やっとの気持ちでエミヤは己の今のマスター、藤丸立香へと返事をした。
「エミヤの宝具を強化してくれる概念礼装なんだって!なんだかこの概念礼装の人、エミヤに似てる気がするし、エミヤにぴったりだなと思って」
妙に勘のいいところのあるマスターに、咄嗟のポーカーフェイスは有効かと危惧したか、どうやらなんとか取り繕えていたらしい。エミヤに使って欲しいんだ。そう嬉しそうに話すマスターに、エミヤは曖昧な笑みを返すことしかできなかった。
レイシフトを終え、食堂での給仕や翌朝の仕込み、故障したものの修繕などちょっとした手伝いを済ませ、エミヤはカルデアの自室へと戻った。カルデアのサーヴァントたちは全員自室を支給されている。キッチンカルデアのメンバーであるエミヤに与えられたのは、食堂に最も近い部屋だった。
静かな自室にいると、ふと今日のレイシフトでの戦闘を思い出す。本日のレイシフトの目的は、サーヴァントを強化するための種火と素材集めだった。敵を多く屠る必要のある素材集めでは、敵全体を標的とするエミヤの宝具は効率が良く重宝されるため、エミヤは何度も固有結界を展開した。そのため今回のレイシフトでは、マスターに支給された概念礼装は早速役に立った。マスターの言う通り、エミヤの宝具は普段よりも更に威力を増し、群がる敵を一掃した。その威力にマスターも大はしゃぎだったのは、マスターに仕えるサーヴァントとしてとても光栄であり喜ばしかった。喜ばしかったが――
マスターから渡された概念礼装を取り出し、じっと見つめた。
そこには己のよく知る男がいた。よく知っているのは当たり前だ、なにせ自分自身なのだから。この概念礼装と自分が似ていると言った我がマスターはやはり勘が良い。
しかし、こんな男をエミヤは知らなかった。肌の色も髪の色も変質させることなく成長した己の姿。それだけならまだ恐慌に陥ることはない。それよりも、問題は見たこともない一振りの日本刀だ――その刀から、この概念礼装に写る男は間違いなく己とは全く違う人生を歩んだであろうことが察せられた。
カードには“収斂こそ理想の証。”と刻んであった。おそらくこの男もまた、理想を求めたのだ。エミヤとは異なる理想を。そうして鉄を鍛え続け、その人生の果てに、理想を見つけたのだ。どのような人生を送ったのだろう。何故このような姿になったのだろう。どうしてこの男はこの刀を選んだのだろう。己が究極の一を目指すのならばそれは日本刀ではなく、かの騎士王が振るう、黄金の輝きを持つ洋剣だと――そうでなくとも、それに近しいものになるはずで、少なくともこの鋭く白銀の輝きを返す日本刀にはならないだろうとエミヤは思う。だからこそ、エミヤにはこの男が分からないのだった。自分と同一人物であるはずなのに、一体この男は何を思ってここまでに至ったのか。自分には全く見覚えのない姿と自分には考えもつかない思想に恐れにも似た疑念と、少しの羨望が混じった興味とを抱く。
複雑な気持ちでじっと日本刀を見つめる。ただのカードでしかない概念礼装だが、それでも男の持つ刀からは、生半可な刀には持ち得ない強い力を感じる。しかし、カード越しではその刀の基本骨子や創造理念などを鑑定することはできなかった。
概念礼装をもはや殺気の篭った瞳で睨みつけながら、しばしの間考えを巡らしていたが、エミヤにはその刀がどのようなものか、その男がどんな人生を辿ってきたのか皆目検討もつかない。なにせ己には、究極の一を目指すという発想すらなかったのだから。贋作者として贋作の武器でも真に迫ることはできようと、炎を燃やし鉄を打ち鍛え続けてきた。時には自分なりの改良を加えることもあったが、それは既存品の改造でしかなく、創造とは程遠い。究極の一に憧れたこともある。数多の武器を見続け記録し続けるうちに、自分にも自分の、自分だけの武器があればと思ったこともある。しかし、自分は剣を作る者だが創る者ではないと、エミヤシロウは贋作者であるとそう弁えていた。自身に唯一許されているのは、武器を記録し複製することだと理解していた、そのつもりだった。しかしこれでは、この刀があるということはつまり、その前提が間違っていたということではないか。
考えれば考えるほどに分からなくなる。頭が痛くなってきた気すらする。己とは異なる人生を歩み、異なる理想に至ったこれはもはや、己とは別人である。別人を気にして頭を痛くしても詮無いことだと気持ちを切り替え、頭痛の種である概念礼装をサイドテーブルにぞんざいに放ると、サイドテーブルに背を向けてベッドに横たわり、目を瞑って無理矢理に思考を止めた。所詮ただの概念礼装である。この姿がエミヤシロウが至る可能性の一つであるとはいえ、理想を違えた時点でもはや自分とは一線を画す者である。交わることのない存在に頭を痛めても仕方あるまい。そう結論を出してしまえばいくらか頭痛が落ち着いてきた。そうだ、その調子だ。レイシフトや手伝いで疲れているし明日も早いのだから、このことは忘れてさっさと寝てしまうに限る。明日のメニューはどうしようか、レイシフトのメンバーの好む食べ物を提供するのがいいだろう。アルトリア・オルタが参加するはずだから彼女の大好物であるジャンクフードを大量に用意せねばなるまい。そういえば試してみたいレシピがあったっけ。まだ修繕しなければならないものもあるし、スタッフから相談事も受けていた。エジソンと発明品について話し合いもしなければ。ランサーのクー・フーリンから鍛錬の誘いも受けていたし、メディアから料理の作り方を指南して欲しいと言われていた。ちびっ子サーヴァントのおやつも作らねば……。そうしてやらなければいけないことを考えているうちに、少しずつ意識が沈んでいった。