悔恨の目撃者
縁側でアーチャーが切嗣に向かって独り言言ってるのをランサーが目撃する話。もとは漫画にしようと思ってたけどプロット書いてたらつい勢いづいて小説になっていた。
アーチャーはきっとそうそう衛宮邸の縁側には近づかないだろうしみんな寝てるとはいえ人が近くにいるところでこんなことは言わないだろうし泣かないだろうとは思うんだけど勢いで…
本当は槍弓にしたかったんですけどこれじゃホモじゃないのでとりあえず槍弓タグはなし。このあと後日平然とランサーに皮肉やら言うアーチャーとあの日のアーチャーが忘れられず悶々としつつ、本人にはなにも言えないランサー。みたいな展開を誰か書いてください…
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先程まで、衛宮邸の居間では盛大な酒盛りが行われていた。酒飲みのサーヴァントが集うとその酒量は恐ろしいものとなる。ワクのライダーやランサーはさておいて、すっかり皆酔い潰れ、各々自室に引っ込みぐっすりと眠っていた。さて酒で火照った体を冷まそうと、静寂に包まれた誰もいない廊下をランサーは歩いていた。
「――……。……」
――?微かに話し声が聞こえてきた。普通の人間では聞き取れない音をサーヴァントであるランサーは拾うことができる。ライダーは酔い潰れてしまった桜を連れて、あてがわれた自室で休んでいるはずである。酔い潰れた者達も、すぐに動けるような状態ではないはずである。ランサーは声の方向を探る。声はどうやら、縁側の方からするようであった。一体、この声の主は誰なのか――好奇心と警戒心を持ってランサーは気配を消し、縁側へと向かうことにした。
果たして、声の主は無防備にもたった一人で庭に向かい縁側に腰掛けていた。腰掛けたその左側は、ぽつんと一人分の空間があいている。ランサーが近づいてきていることにも気付かず、声の主は一人静かに話し続ける。独り言とも思えたが、その話しぶりは明らかに相手がいるようであり、左隣の空間へ向けているようであった。
「こうして話していると懐かしく思うよ、じいさん。おかしいよな、とっくに摩耗したはずなのに、懐かしいなんて思うんだ」
その声の主はランサーもよく知る、アーチャーであった。そういえば酒盛りの場でアーチャーは執事のサーヴァントよろしく給仕に徹し、酒は苦手だからとほんの少ししか飲んでいなかったように思う。
あんな少量の酒でおかしくなるほど酔ってしまったのか……?あまりにも己の知るアーチャーとは違う様子に、思わずそんな考えがランサーの頭を過ぎる。
ランサーのよく知る普段のアーチャーは、しょっちゅうランサーに皮肉を言っては嘲笑を向けてくる。それにランサーが乗っかりくだらない喧嘩に発展することもしばしばだ。ランサーはアーチャーのそんな皮肉屋なところも、見下すような笑みも、弓兵のすべてが気に入らないのであった。
しかし、今のアーチャーは普段の気取ったような口調も皮肉も嘲笑も形を潜め、まるで親と語り合う子のように、ただただ親しげで穏やかであった。
「あの時も、こんな風に月のよく見える夜だったな」
あの時とは一体いつのことだろうか。いや、あまりにも普段と異なる様子のアーチャーについ意識が飛んでいたが、そもそも懐かしいとはどういうことなのか。この弓兵の言うじいさんとは誰のことなのか。お前はこの家に縁のある英霊なのか。
ランサーはアーチャーの真名を知らない。この一時休戦中の聖杯戦争において、真名を知られていないのはただ一人この弓兵のみであった。アーチャーの独り言を聞いたランサーの中で、疑問が大きく膨らんでゆく。これはこのいけ好かない弓兵の真名を知るチャンスではと、暫しそれらの疑問について考えていたが、ふとアーチャーの声が止んでいることに気付いた。
しまった、俺がここにいることがバレたか……?アーチャーから「おやおや英雄が盗み聞きとは、光の御子の名が泣くな」とかいう台詞があの子憎たらしい嘲笑とともに飛び出す様が容易に想像できる。そんな言葉が飛んでくることを予想し身を固くしていたが、しかし待ち構えていたその台詞はアーチャーの口から零れることはなかった。それどころかどうやらまだ光の御子が聞き耳を立てていることには気付いていないようである。しかし、先程まで穏やかであったアーチャーの様子がおかしい。そわそわとして落ち着かない。まるで、その言葉を言うか言うまいか悩んでいる様子である。
……しばらくの逡巡のうち、しかしようやく決心がついたようだ。静寂を打ち破るように、しかし空気に溶け込むようにアーチャーは何もいない空間へ話しかけた。
「……しょうがないから俺が代わりになってやるよ。任せろって、じいさんの夢は」
一息置いて、続きをアーチャーが紡ぐ。その間は一息であったにも関わらず、何十年にも、何百年にも、永久にも及ぶようで――
「俺が、ちゃんと形にしてやるから」
その言葉を待っていたかのように、サァッと風が吹き抜けた。風が弓兵と槍兵の髪を揺らしていく。
「……あの時は最後まで言えなかったよな。俺の言葉を信じて、満足そうな顔してさ。安心したなんて言ってさ。なあ、じいさん。おれは、ちゃんと形にできたかな。正義の味方に……なれたかな」
穏やかであったアーチャーの横顔が、少しずつ苦々しいものに変わってゆく。
「……馬鹿馬鹿しいよな。なにが代わりにやってやるだ。なにが任せろだ。なにが形にしてやるだ……!」
少年のように穏やかであったその口調が、次第に怒りを帯び、激しいものへと変化してゆく。アーチャーが頭を抱えて
「正義の味方になるだなんて……!その成れの果てが、この醜悪な守護者という姿だ!こんな、こんな……ただの殺人者に成り下がった俺など……!」
「――」
アーチャーの怒りに任せた叫びは、ランサーには怒っているようにも、悲しんでいるようにも、自責しているようにも聞こえた。その叫びに、普段は冷静で皮肉屋でいけ好かない弓兵という英雄の、真の姿を見たような気がした。自分がいけ好かないと思っていた、しかし好敵手だとも思っていたこいつが、内に秘めていたものは、こんな――
「……じいさん、ごめんな」
やがて、落ち着いたのかアーチャーがぽつりと呟いた。
「俺は、じいさんの夢を叶えてやれなかった」
「俺が、じいさんの夢を台無しにしたんだ」
「ごめんな……ごめん……ごめんなさい……」
ひたすらに謝罪を口にするアーチャーから視線を逸らし背を向け、ランサーは気配を気取られないよう静かに縁側を去ってゆく。
青い槍兵の気配の消えた縁側には、ただ肩を震わせるアーチャーがいるのみであった。
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- マフメト2世March 21, 2017