「1人だけ悪いとなるのはおかしい」

 A医師は先立って行なわれた尋問の際、神経に近くない切削の際にスチールドリルを使用するよう提案したとは証言していたが、出血して視野が確保できない状況においては「とりあえず血止めようか」と止血を優先するよう促したと語っていた。両者の言い分は食い違う。

 弁護人の質問に対し松井医師は、こうして起きた事故の後「患者本人には説明できていないが、家族には(手術が)終わってからすぐ」に事故を説明したと述べた。

松井被告「『大変な事故が起きてしまった。ドリルで巻き込んだ可能性がある』と伝えました」
弁護人「『可能性』と言ったのは?」
松井被告「断定は避けました。神経がちぎれるという言葉が伝わると、リハビリを諦めてしまう可能性があった」
弁護人「どうしてリハビリに悪い影響が?」
松井被告「まあ、催眠と同じで、切れた、と聞けば動く気がしない。患者も頑張れない。繋がってると思うからやれる」

 質問の終盤には「動画で分かると思いますが、助手がいないと手術は成り立たない。チームでやっている。1人だけ悪いとなるのはおかしいと思う」と、今回の事故が松井被告のみの責任とされたことにも言及した。

 しかし、この日続けて行なわれた検察官からの質問、そして被害者代理人弁護士からの質問によって、こうした証言が事実と異なる可能性が浮かび上がった。

 まず検察官は、被告執刀時、事故の起きる直前に、大量の生理食塩水を滴下し、太い管で吸引を行なったのは誰かと尋ね、被告は「私です」と答えた。「『吸引お願いします』とA医師に頼んでいた」と証言していたはずだが、事故直前は状況が違っていたのだろうか。

検察官「事故直前、大量の生理食塩水を入れ、吸引し、一旦表面が見える状態にした。それはあなた自身がやったんですね」
松井被告「はい」
検察官「その後は生理食塩水を入れている様子ないですよね。視野がよくなった後は、赤い液体が増え、見えづらくなっている」
松井被告「おっしゃるとおりです」
検察官「なぜ生理食塩水のかけすぎが原因だと?」
松井被告「確かに直前の状況でいうと、生理食塩水のかけすぎではなくスチールドリルを使ったことになります」

 生理食塩水の滴下と吸引ののち、止血が十分でなかったことから視野の確保が困難になり、そのうえでスチールドリルを用いたことで硬膜を損傷し神経を巻き込むという事故に至っている。生理食塩水の滴下と吸引を誰が行なおうと、視野の確保が十分でない状態でスチールドリルを使ったのは松井被告であることは手術動画が示している。

後編へつづく

◆取材・文/高橋ユキ(ノンフィクションライター)

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