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僕の姿が見える君 <1>/Novel by 水原佐喜

僕の姿が見える君 <1>

6,225 character(s)12 mins

人を愛する、だからこそ、
人では在れぬこの身をどうか。
(そんな私を、きっと誰も愛してはくれないのだろうけれど)

エドエミ馴れ初め編。そのはじまり。
書きたいことある程度は突っ込んだんですが、なにぶん私的エドエミ観を詰め込んでおりますので話が小難しい。文章が汚い。読みにくかったらすいません。でもエドエミ布教のためあげます。
本文でエドモンのことを巌窟王と言ったりエドモンと言ったりと表現をバラバラにしていますが、これはわざとです。ご了承くださいませ。

隠れたビターチョコレートへと繋がっていく物語。続きは初夜編のつもりで書きますのでしばらくお時間をいただけると有り難く。またこっそり書けたら投げてます(笑)よろしければ感想一言でもいただけますと泣いて喜びます…!

タイトルは私的イメージソングより。
それでは、少しでもエドエミに興味を持っていただけますようささやかながら祈りを込めて。

1
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潮騒の音色が、優しく鼓膜を撫ぜていく。空に浮かぶ満月が、穏やかなオケアノスの水面に揺れていた。
歪められた人理は既に修復されて久しく、オケアノスの海域は夢を求める海賊や生命の神秘を描く自然を見る観光船といった数多の船が行き交っている。そんな観光船の一つに、エミヤ達一行は現在乗船していた。
彼の主人ともいえるマスターの少女と、今やロマ二・アーキマンと共にカルデアの基地全般の運営を担うレオナルド・ダヴィンチ女史。そして先日カルデアの地に降り立った復讐鬼、巌窟王エドモン・ダンテス。ここにエミヤを含めた一行は、この地に素材を集めに訪れていた。
一通り素材を収集し終えた後で、マスターの気分転換も兼ねて船で一泊しようとダヴィンチが提案したのである。その提案にカルデアの管理を担うロマ二も是を唱えれば、マスターに仕える英霊としてエミヤには否定をする気は起きない。巌窟王もどうやらエミヤと同じ考えらしく、ならばと流れるように話は決まりこうして一夜を一行は観光船で過ごしている。
マスターの身辺警護は自分に任せてくれて良いと、言い出した責任を取るようにダヴィンチが護衛を買って出たため、エミヤとエドモンの二人は思わぬ自由の夜を過ごすことになった。

手持ち無沙汰の時間を持て余すように、エミヤは夜の甲板を静かに歩く。足音を立てぬようにしているのは、既に休んでいるマスターを始めた一般人に配慮してのことだ。
オケアノスの夜、穏やかな水面を眺めていれば、前方に気配を感じてエミヤは顔を其方に向けた。弓兵としての能力の一種でもあり、エミヤは比較的夜目が効く部類である。そのため物質的な障害物さえなければ、百メートル程度の距離を細部まで見渡すことなど容易い。
だからこそ船首の傍らに凭れ、漆黒の外套に身を包むまま一人静かに煙草を吸う巌窟王の姿が、真夜中でもはっきりと確認できた。
不思議と違和感のない、むしろ馴染んでいるような気さえさせる光景に見えるその姿はただ純粋に美しい。復讐、恩讐の醸し出す苛烈なまでの姿とは真逆、ごく普通の青年のように佇む彼に、見惚れるようにエミヤはその場に立ち尽くす。
「何をしている?」
エミヤが彼の気配を察していたのなら、その逆もまた然り。先程から動かぬ気配に業を煮やしてか、巌窟王が投げる言葉でエミヤは我に返った。そうして相手のいる船首へと歩みを進めながら、適当な理由と話題を見繕う。
「何も。ただ夜風に当たっていた。そういう君は何を?」
「似たようなものだ」
「良い夜だからな、その気持ちは分からなくもない」
くすりと微笑んで言えば、エミヤは巌窟王の隣へと立ち得意の複製魔術で煙草を生成する。そうして慣れた手つきで咥えれば窺うように鈍色の瞳が巌窟王を見つめた。
「火、貰っても?」
「勝手にしろ」
火の灯る煙草の先端を向けられ、エミヤもまた自身の咥える煙草の先端を巌窟王の煙草の先端に押し当てる。灯る煙草から紫煙を燻らせ、ほうと大きく吐息した。
「お前はさぞ優等生と思っていたが」
「場をわきまえるし、嗜む程度には吸うさ。そう褒められるほど優等生という訳ではないよ。失望したかな?」
「っハ!まさか。その方が幾らかは人間らしいというものだ」
「英霊として在る現在だが、もとは人間だろう。君も私も」
努めて穏やかに声を紡ぐエミヤに、巌窟王は僅かに眉を寄せる。予想通りの相手の反応に、エミヤは密やかに破顔した。
「少なくとも今、私の隣にいる君はモンテ・クリストと言うよりはエドモン・ダンテスという気がするということだ」
燻る紫煙が、ゆっくりと夜空へ融けていく。何気なく、率直に投げられるその言葉に彼は僅かばかり目を見張った。
「俺は復讐者。寵姫を得たエドモン・ダンテスとは違う、世界に名だたる復讐の化身としての偶像に過ぎん」
「此処に君のエデはいない、最初からそのエドモン・ダンテスと違うことは理解している。……それでも、君の中に巌窟王ではない別のエドモン・ダンテスがいるように私には見えたというだけの話だ」
上手く言葉に出来なくてすまないな、忘れてくれと。苦笑を呈しながら投げられる言葉に巌窟王は応えない。言葉が出ない、という表現の方が正しいだろうか。それでも反論を呈するように、彼は絞り出した言葉を滔々と紡ぐ。
「我が名は復讐者、巌窟王。憎悪と復讐の怨念の毒を持つ黒焔として全て灰燼に帰すこの身は、永劫の復讐鬼で在り続けるまで」
まるで言い聞かせるようなその言葉に、エミヤはただ静かに耳を傾ける。それを聞いてもなお、エミヤには先程みた彼の姿が脳裏にちらついた。その姿は確かに、巌窟王の名を冠しながら『エドモン・ダンテス』という個人を描いているように見えたのだ。だからこそ、その個人を大切にしたいとエミヤは思う。
「……お前はなんだ?俺を巌窟王と言いながらエドモン・ダンテスを肯定する」
「なに、ただのサーヴァントだ。半端者の、ね」
投げられた言葉に答えた、吐き棄てるように零すエミヤを、巌窟王は静かに見つめる。エミヤはその眼差しに気付かぬまま、咥える煙草の火を消してゆっくりと踵を返す。巌窟王の見つめるその背中は、どこか儚く見えた。


マスターの気分転換と銘打った素材集めからの宿泊が終わり、エドモン・ダンテスはカルデア内にて自由気ままな時間を過ごしていた。実力はあるがカルデアに降り立って間もないため、カルデアの生活に馴染むまでは最前線に出ずにゆっくりするようにというマスターである少女の指示に従ってのことである。
手持ち無沙汰を誤魔化すように煙草を吸うべく、喫煙所へと足を運ぶ。別段カルデアの敷地内での禁煙は言われていないが、喫煙者たる英霊は暗黙の了解でこうして喫煙所へと足を運んでいた。
エドモンが喫煙所の扉を開ければ、そこにある人影に僅かに目を凝らす。喫煙所ではエドモンより先に蒼の痩躯が、気怠げに壁に凭れながら紫煙を燻らせていた。しなやかな身体をぴたりと覆うボディスーツを身に纏う、蒼の痩躯……ランサーのクーフーリンは、エドモンの来訪にひらりと片手を上げて出迎える。
「よう、此処で会うのは初めてだな?」
「お前は…アルスターの槍兵か」
「ランサーのクーフーリン。若い頃のとキャスターとバーサーカーのオレもいるが、まァ全員顔合わせはしてるから心配ねェな」
軽やか、快活な声に返答する気にもなれず伏し目がちに蒼の痩躯を見つめる。アイルランドの光の御子、クーフーリンはそんなエドモンの様子にけらけらと喉を震わせた。そうして、エドモンにとって思いがけない名前を紡ぐ。
「お前、思ってたより静かなヤツじゃねぇか。エミヤから聞いてた通りだな」
「エミヤ……あの紅の弓兵のことか」
「そ、この前一緒に出たんだろ?アイツから聞いたぜ」
「あれは何故、この俺を気にかけるのか理解に苦しむ」
独白のように零したエドモンの言葉に、クーフーリンは緩く瞳を瞬かせる。とん、と。慣れた手つきで灰皿へ灰を落としながら続けた。
「放っておけないっつーのかね?アイツはお前が自分と似てるって思ってるトコだろうし。まァもともとのお節介な性分あるが」
男の言葉に、エドモンは僅かに目を細める。ほんの僅かに含みを持つ言葉を見逃せるほど、愚かではない。
「……お前は、あの弓兵と親しいのか?」
「運命的な腐れ縁だからなァ、それなりには?だからアイツがお前と似てるって思うのもわかるし、あの弓兵がお前を構う理由も察しがつく」
くつり、と。槍兵が笑う気がした。それが何故か妙に忌々しく思えて、エドモンは目に見えて不機嫌の表層を呈する。思いがけぬ反応に密やかに槍兵が感嘆したところで、唐突に喫煙所の扉が開く。二人がそれぞれに扉へ顔を向ければ、噂の渦中の男がそこにはいた。
「ランサー、巌窟王、此処にいたか。探したぞ」
「そりゃ悪かったな、ンで?わざわざテメェがオレとコイツを探す用事は?」
「明日のレイシフトのメンバーに君たち二人も入っているのでな、マスターから伝言を頼まれた。明日の朝は遅れないようにしてくれ」
「他のメンツは?」
「バーサーカー・クーフーリン、それとセイバー・ランスロット卿、そして私だ。そこに君と巌窟王を含めたメンバーでの移動となる」
青い槍兵と赤い弓兵の会話に出た名前は、エドモンにも覚えがあった。このカルデアにおいて最前線に出て戦ういわば最高戦力の布陣の名前である。つまり、明日のレイシフトは最前線に近い場所に出るということだ。
「……巌窟王?どうかしたかな?何か質問でもあるかね?」
赤い弓兵、エミヤに顔を覗き込まれながら投げられた言葉で、エドモンは我に帰った。鈍色の双眸を金色の瞳で見つめて口を開く。
「明日の件は承知した。質問も特にない」
「そうか、ならよろしく頼む。ではまた」
エドモンの承知の言葉に僅かに、エミヤは頰緩めて頷くと用件は終わりと言わんばかりに早々に喫煙所を後にする。以前と変わらない、どこか儚げにも見える背中をエドモンは無意識と視線で追い掛けていた。
……そんなエドモンの様子を、クーフーリンが興味深そうに見つめていることに気付かないまま。

その翌日。
マスターに指名されたカルデアの最高戦力たちは、コフィンへと集まっていた。最後にマスターとコフィンの管理者たるドクターロマン、レオナルド・ダウィンチ女史がコフィンへ訪れて恒例のブリーフィングが始まる。
「マスターには簡単に説明しているが、今回のレイシフトの目的は新たに観測された魔力の歪みの調査になる。放っておけば特異点になりかねないっていうだけだから、そこまで大規模な異変ではないだろう。けど向こうの状況が読めないからという理由で、君たちを同行者としてマスターが選出した。状況は理解してくれたかな?」
「状況は把握した。それで今回の行き先は?」
今回も当然のように最前線に立つエミヤが、そう行ってダウィンチ女史を見つめる。女史はその視線を受けるや、何故かエドモンの顔をみてまたどこか楽しげに笑みを描く。
「場所は18世紀フランス、パリ。ちょうど君が生きていた頃になるのかな?巌窟王」
「クハハハ!ならば俺には土地勘があるな。向こうに行けば案内ぐらいはしよう」
「よし、それじゃあ準備してくれ。いつものように、マスターを頼むよみんな」
レイシフトの準備に取り掛かる周囲を見つめながら、エミヤは密やかに巌窟王の横顔を盗み見る。先の高らかな笑いと、金色の瞳の表情の差異は、エミヤにどこか違和感を与えていた。




「……もう少し手こずると思ったのだが」
武器の投影を終えながら、エミヤはそう淡々と零した。
観測された異変の調査そのものは、至極単調なものだった。パリ市街地にたむろする魔術師の残党を相手に苦戦もなく勝利し、特異点としての歪みは呆気なく改善された旨とレイシフトで戻るようにとドクターより連絡を受ける。
その連絡に基づいて一行はカルデアへ帰還すべくレイシフト地点へと足を向けて歩き出そうとした。が、そこに一人の姿が欠けていることにエミヤが気付く。
「マスター、巌窟王の姿が見えないようだ」
「魔力反応は離れてないからそんなに遠くじゃないと思うけど…街でも見てるのかな?帰って来いって言われちゃったし探してこないと」
「私が探して来よう。ランサー、君たちはマスターと共にレイシフト地点へ先に向かってくれ」
エミヤの言葉にクーフーリンが頷くと、その後を引き継ぐようにマスターの少女が口を開いた。
「一晩私たちはレイシフト地点で待機してるから、朝には一度戻ってきてね。それで良い?エミヤ」
「了解した。マスター、君の信頼に応えよう」
少女の微笑みに背中を押されるように、エミヤが軽やかな跳躍に基づいて探索へと繰り出す。両者の間にある確かな信頼を、槍兵は微笑ましい気持ちで見つめていた。


18世紀のパリは社交界の盛んな世紀である。貴族はそれぞれの邸宅でパーティを開き、華やいだ世界の裏側では貴族たちの権謀を廻る陰謀が渦巻く。
そんな貴族のある邸宅の様子を、巌窟王エドモン・ダンテスは向かいの屋敷の屋根から窓越しに見つめていた。
弓兵たるエミヤは千里眼を持つため、夜目は普通の英霊よりも遥かに効く。そのため闇に紛れるように佇む彼の姿も、いとも容易く見つける事が出来た。傍らに音もなく佇んでは、彼の言葉を待つ。エドモン・ダンテスはそんなエミヤの気配に気付きながら、言葉を発することなく手持ちの煙草に火をつける。
「……終わったようだな」
「滞りなく終了した。マスターと他は既にレイシフト地点に向かっている」
「それでお前が迎えに来た、というわけか」
淡々と、抑揚のない声でエドモンは言葉を紡ぐ。エミヤはそれに応えることをしないで、彼同様にただ窓越しに見える社交界を覗いた。
ちらり、と。エミヤは暫く言葉を発しない巌窟王の表層を盗み見る。金色の瞳はただ無機質に、社交界の明かりを見つめていた。
「弓兵、お前は何故俺などに構う」
唐突、だが呟くような声は確かにエミヤの鼓膜を撫ぜた。そうして彼の鈍色の双眸を真っ直ぐに見つめる。
「俺は復讐者・巌窟王、人々にそう在れと望まれた復讐の化身。愛を知らず、この身は永劫の復讐鬼として在るためのもの。その俺に、お前は言ったな。俺の中にも『エドモン・ダンテス』がいると。お前は…我が姿に何をみる?」
声はどこまでも、酷く淡々としていた。だが鈍色を見つめるその瞳は、どこか所在無さげに儚く揺れている。淡々としたその声の言葉は、まるで彼が自身へと言い聞かせるようだった。
きっと、彼は高らかに吼える毎に内側の自分自身を殺しているのだろう。愛を得たかつての自身と決別するために、巌窟王モンテクリスト伯として在るために。
それが、たまらなくエミヤには辛かった。だからこそ、エミヤは言葉を紡ぐ。
「……エドモン・ダンテス。君が、誰かの隣にいることに特別な理由は必要ない。復讐鬼でなければ顕在を許されない、そんな謂れはどこにもない」
諭すような、慰めるような、酷く優しく穏やかな声だった。予想外に投げられたその言葉に、エドモンは目に見えた動揺をその表層に描く。それは涙を堪える幼子のようだった。エミヤにそんな表情を見られたのが気恥ずかしかったのか、エドモンはふいと彼から顔を背ける。
「俺はこの在り方しか知らん……お前が、俺をエドモン・ダンテスと言うのなら」
隠れた表層がエミヤの前に現れる。先の表情とは違う、また平生に見せる巌窟王としての表情ともどこか違う、好青年の見せる挑戦めいた微笑み。布越しに彼の爪先がゆっくりとエミヤの輪郭を撫ぜた。端麗なエドモンの顔と近い距離にエミヤがたじろく暇もなく、エドモンは言葉を紡ぐ。

「お前が俺を、エドモン・ダンテスにさせてくれ。エミヤ」

囁く声は睦言のように優しく、エミヤが言葉の意味を理解するより早く触れ重なる唇は、まるで宣誓のようだった。

Comments

  • 鴉八丸
    November 29, 2022
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