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【Fate】魔女の献身 愛に十字架【腐向け】/Novel by 戚

【Fate】魔女の献身 愛に十字架【腐向け】

5,043 character(s)10 mins

これから書き始めるので内容について書けることなど何もない! まとまってたら自画自賛、散らかって収集つかなければ自滅、そういう博打型修行です。いいから原稿やんなさいって? ごもっとも。(書き終わった)えーっと某ボカロ曲を下敷きにパロっております。雰囲気話になりました。アーチャーらしき人がいますが、守護者かもしれないし、反英霊かもしれない。ご想像にお任せします。

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 特に目立った産業もない、小さな国だった。
 軍事力も経済力も成長目覚しい諸国に囲まれ、いつ併合されるともしれない小国でありながら、それでも残っていたのはいつでも征服できるだろうという小国であるが故の諸国からの侮りと、併合した先に待ち受ける他国からの反侵略への警戒だった。
 だからこそ、魔女はそこを訪れた。
 ごく短い滞在のつもりで、人いきれに困らない療養地を求めて、ここへ来た。
 見た目も歳相応の娘らしい服をこしらえて、もういつの頃だったかもわからなくなった胸のざわめきに心躍らせながら。
 魔女は、来てしまった。
 年頃の娘のように軽やかな足取りで、無力な乙女のように風に頭飾りを奪われて、子供のようにそれを追いかけた。
 走ることなんて久しぶりで、風など魔術で簡単に防げるものを、使い魔に命じて取り返すこともせず。
 頭飾りを拾い上げたのは、小国が故に人を疑う術を身につけずに済んだ、権力者の雛。
 それと知らずに魔女は紅潮した頬を更に熱くし、彼は愛らしい姿の娘に青年らしい気取った礼儀と歳相応の下心を持って微笑んだ。
 そして魔女は無垢なる王子へ辿り着く。
 触れ合った指先は遥か彼方に感じたはずの胸の高鳴りを呼び返し、子供遊びのように繰り返された会話は己を苦しめる永遠さえ愛しく思わせた。
 人の心の穢れを知らぬ王子の全てが、人間の澱みに浸かりきった魔女には心地よく。
 稚い男の言葉と手管は、己を監視するものの目にも気づかぬほど、魔女を酔わせた。
 包囲網を狭めようと集まり始めた、敵対する神の使徒にも気づかぬほど、彼女は王子に夢中になった。
 幸せそうな彼女がただの娘にしか見えず、神の使徒は迷った。
 もしかして、自分はとんでもないことをすることになるのではないか。
 彼女は魔女かもしれないが、だが魔女であることを辞められる恋に、今包まれているのではなかろうか。
 使徒の娘は己の中の迷いをもてあまし、信ずる神の御許へと侍った。
「神よ、彼女は果たして悪なのでしょうか」
 彼女は幸せなのだから、もう他人を不幸にするような魔女ではなくなるのではないか。
 後ろめたさと他者の幸せを踏みにじる恐怖をなくせるかもしれない一縷の望みを、しかし彼女の神はあっさりと踏み潰した。
「あの魔女が罪もない民を巻き添えにしないと言える根拠があるかね?」
 意味深に問いかけた司祭は、目深に被った儀式比礼の奥から、面を上げて青ざめた彼女に穏やかな声を投げかける。
「今はいいかもしれない。しかし、王子を失えば? 王子の心が離れていけば? 王子の傍に居ることが叶わなくなるだけで、彼女は不幸を撒き散らすかもしれない」
 それが、魔女という生き物だ。
 鉄色の瞳がじっと彼女の中の恐怖を貫く。ああ、司祭には彼女の中の後ろめたさなど当にお見通しだったのだ。
「さあ、行ってお前の役目を果たすがいい」
 褐色の指先が教会の扉を指差せば、彼女に抗える理由もなく。
 そして使徒は心を決めた。胸元に魔女の手配書を忍ばせて、恋人との逢瀬を終えた一人の青年へと歩み寄る。
 いつだって楽しい時間は無遠慮な他人の手により、一瞬で終わるものだからと、誰かに言い訳をしながら。
 人の穢れを知らぬ王子は、あっさりと神の名に従った。
 傷ついたような顔で魔女の手配書を見つめ、だが彼は魔女を捕まえることに同意した。
 貴方は誑かされたのだ、悪いのは魔女なのだと、繰り返し王子の周囲から声が囁く。
 誰ともつかぬ声に巻き取られ、彼は一生に一度の恋だと思った一瞬の輝きを、自分の手で鈍らへと変えていく。
 或いは彼が人を疑うことを知っていたら。人間は己が属する群体を守り、そこから弾き飛ばされないためにどんな恥知らずな行為も厭わない生き物なのだという一面を知っていたならば。
 魔女は少なくとも、その命を奪われるには至らず、小国を追放されるだけで全ては終わったのかもしれなかった。
 だが王子は人を知らず、魔女を知らず、使徒を知らず、知っているのは自分のことだけだった。
 守られ、次代を継ぐものとして最低限の教育と、優秀な側近が全てを補ってくれる環境が、彼の世界の全てだった。
 魔女が世界中から迫害され、使徒の教義によって無残なほど罪もなく罰をなすりつけられていることも、そもそも魔女がなんなのかも、彼は知らなかった。
「そんな…………彼女が魔女だなんて」
 ただ、人と神に仇成す生き物なのだという薄っぺらい枠組みを与えられて、素直に世界へ当てはめた。
 魔女は愛した人間にあっさりと切り捨てられ、神を名乗る人間達へと組み敷かれる。
 呆然と王子を見上げた彼女の美しい赤毛を、青年の手にした剣が無造作に切り落とす。
 魔女にとって、髪は己の力の源にも等しいものだ。
 ざんばらに散らばる己の髪だった残骸を見る彼女の瞳は、受け入れがたい現実に濁っていった。
 王子は傷つけられた表情で、彼女を詰った。
 使徒は追い詰められた顔で、魔女を責めた。
 魔女は――――魔女は、全てが嘘だと思いたくて、泣き続けた。
 ありえない速度で決まっていく彼女の処刑の段取りを聞かされながら、子供のように顔を歪めて泣いた。
 どうしてこんな、酷い。
 嗚咽に混じった彼女の言葉を聞き取った司祭は、長身を折り曲げて彼女の耳元に囁いた。
「君が悪いわけではない。全ては降りかかる死の影に怯えた、人間の弱さの問題だ」
 可哀想にと言う眼差しは、およそ言葉とは似ても似つかぬ冷ややかさに満ちていた。
「王子が誑かされたのは君の魔術のせい。この国が貧しいのも君の魔術のせい。教団の人間が粗暴なのも君のせい。使徒たちが罪の重さに苦しむのも君のせい。この世の全てを君に押し付けて、さて、一体何が楽になるのだろうね」
 魔女を追い立てる一端を担っている当事者の癖に、司祭は魔女に呟き続けた。
「王子は現実の恐ろしさに君を捨て、使徒は正義の恐ろしさに君を差し出し、さて私は何のために君を屠るのか」
「うそ……」
 髪を切り落とされ、薄暗い穴倉と暴力の坩堝に叩き落されてもなお、彼女には王子の変節が信じ難かった。
 だって彼は、あんなにも無垢で。誰よりも穢れなき。
「己の身が可愛さに誰もが皆他人を犠牲にする。魔女となった君も、そうやって長い時間を耐えてきたはずだ。順番は等しく誰にでも巡ってくる」
 節くれだち硬い手のひらが、魔女の顔を持ち上げる。
 比礼の向こうに透けて見える、黒い肌と白い髪、鉄色の双眸は異形の色。
 この司祭の男と魔女の女に、一体どれほどの差があってこの格差が生まれたというのか。
「君の火刑は、明日だ」
 耳に心地いいだろう司祭の声が、魔女の鼓膜を犯していく。
 血の涙を流しながら、彼女はその日を孤独に迎えた。
 引きずりだされた火刑台には、無骨で粗末な十字架が用意されている。
 これが彼女の墓標であり、死の瞬間まで彼女を縛り付ける友だ。
 抵抗する気力もなく、泣きじゃくりながら括りつけられる。足元には油が掛けられた薪の山があり、目の前には処刑を見ようと集まった群集たちが口々に魔女を貶めている。
 ああ、と彼女は呻いた。
 彼女はこの国を通り過ぎるだけの存在だったはずなのに。
 一体どうして、この国の人間は彼女を殺そうとするのだろう。
 魔女はこの国に何もしていない。誰も殺していないし、危害を加えたこともない。
 彼女がしたたった一つの恋が、それでも罪だというのなら。
 使徒の女と並び立って、王子が魔女の処刑を見ている。
 自分が火にくべられているかのような悲痛そうな顔をして、男が彼女を見下していた。
 魔女が王子に何をしただろう。ただ触れて、語らって、笑顔で包み込んだだけ。
 魔女が使徒に何をしただろう。視界にさえ入らなかった女になど、彼女は何もしなかった。
 だが王子と使徒の女は並び立って彼女を責め、殺そうとしている。
 彼女の胸に宿った愛すら、魔術であると貶めて。
「さあ、この聖なる炎を放つがいい!」
 王子と使徒が声をそろえて言い放った。
 魔女は濁った目を虚空にむけ、いもしない神を睨む。
 ああ、今や全てが道を外れて狂っている。
 皮膚を炙る熱に身を捩り、魔女は考える。
 何故こうなった。どうして殺されてしまうのか。
 時を止める以外の魔術を持たない魔女に、血の涙を流す以外の術もなく。
 憎しみの炎が身を焦がす。その熱量に抗える術もなく。
「力が欲しいか?」
 ごうごうと燃え盛る炎の彷徨の中でも彼女の耳に届いた声に、一も二もなく頷いて。
「では君の死後を対価に、報酬を授けよう」
 人より少し時間を感じにくい女は、今度こそ本物の魔女になった。
 燃え落ちる薪の上、肉と骨を壊すような音と共に彼女の背から黒い翼が生え、焦げて脆くなった縄を振り切った魔女が飛び上がる。
 顔を上げていられないほどの突風が火刑台をこしらえた広場を暴れ回り、ようやく目を開けられるようになったころには、薪についた火さえ掻き消されていた。
 遥か彼方に大きな鳥の羽が見える。
 およそ人間が見たこともないような大きな大きな翼の色は、魔女が残した羽根と同じ黒。
 己の手からすり抜けていった女の残骸に、王子は手を伸ばす。
「生贄に差し出した女に、何を今更すがろうとしているのかね」
 さして大きくもないはずなのに静まり返った広場に響いた声に、王子はびくりと体を震わせた。
 ゆっくりと火刑台へと歩み寄る司祭は、比礼をするりと地面へ落としながら王子へ微笑んだ。
「一度捨てたら、二度と拾うことなど許されない。君たちが踏みにじった人の愛は、そういうものだ」
 白い髪、黒い肌、鉄色の双眸。全て異形であり、魔女の証明として、教会が虐殺してきたものたちの欠片と同じ色。
「だがありがとう。そしてご苦労だった。君たちのおかげで天秤は調和を取り戻す」
 地面へ落ちた比礼を靴の底で踏みにじり、司祭だった男は火刑台を背に民衆へと振り返った。
「全ての咎を押し付けられた彼女は晴れて先ほど本物の魔女になり、この国と君たちを永劫呪う守護者となった。喜べ、君たちの願いは叶ったのだ」
 厳かな口調で慈悲深く語りかける男の、その内容が全てを裏切っている。
「この国の貧しさを厭ったものたちに朗報だ。これよりこの国は他国から狙われる戦場となり、多くの金銀と膨大な血の河がこの国に注ぎ込むだろう。教団の粗暴さを嘆いたものたちに幸いあれ。最早彼らもただの兵となり嬲られる定めより逃れられぬ。罪の重さに苦しむ使徒たちに救いあらん。死と言う罰が君たちの目前に供された。この世の全てを彼女に押し付けたのだから、君たちに残るものはあの世くらいだ」
 祝福するかのように両腕を広げた男に、激昂した王子が剣を突き立てる。
 穢れを知らぬ王子が犯した凶行に、群集と側近達から悲鳴が上がった。
 貫かれた男はしかし、平然とした顔をして王子を見ていた。
 突き刺さった場所から血の一滴も零れることなく、それまでの慈悲深い様子すらなくした顔で、激怒と恐慌にまみれた王子を見下ろしている。
「怒る権利など、どうしてお前にあるというのだ」
 冷たい声を吐き、男は無造作に突き立てられた剣の刃を素手で掴み、ずるずると力任せに引き抜いていく。
 およそ人間とは思えない光景に、群集も、使徒も、間近で見ている王子ですら、声を失う。
「最後までお前を信じた彼女を殺したのは、お前たちだ」
 そして、と剣を投げ捨てた男の傷口から見えるのは、捨てられたものと同じ鋼たち。
「呪わしき魔女を産んだのも、お前だ」
 再び突風が吹いた。今度は先ほどよりもなお強く、人間達を吹き飛ばすほどの勢いで全てを地に這い蹲らせていく。
 誰も起きることなど許さない風は、いくつかの建物も平らげて去っていった。
 そして塵芥のように転がされた人間達の視界には、既に男の影も形もなく。
 どこかで、がしゃん、と剣がぶつかる音がした。


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