アベンジャーズと過労死未遂のエミヤ
アベンジャーズ(ジャンヌオルタとエドモン)とエミヤが仲良い話、過労で倒れたエミヤのお願い聞くためにアベンジャーズが頑張る話です。
我が家のアベンジャーズとエミヤは仲が良いんです!(※自分カルデアの話なので設定に対する苦情やツッコミは一切受け付けませんのであしからず)/黄金律持ちがスキル発動した時、お金とかドサドサ落ちてくるイメージ設定好きです
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エミヤが倒れた。
戦闘では支援から主力までこなす器用者、カルデアに戻っては様々な雑用を快く引き受けるお人好しの危篤は、瞬く間にカルデア中へ広まった。
それぞれに心配そうな言葉を交わしていた職員やサーヴァントは、隣を駆け抜けた黒い風に目を丸くさせる。
作り物の肺が悲鳴をあげる声が聞こえる、偽物の疲労がたまり足が重くなっていく、それでもただひた走る黒い影は職員から聞き出した病室のドアを勢いよく開けた。
「ちょっと!倒れたって本当ですか!」
「今度は君か、ジャンヌオルタ…」
バンっと開いたドアに一瞬瞳を見開いたエミヤは額を押さえた。
『今度は』という言葉が気になるが、今のジャンヌオルタはそれどころではない。息を整える間も惜しく、鎮座した白いベッドにラフな黒いパジャマ姿で横になっているエミヤにつかつかと近づいた。
礼装を解除した姿は珍しくとも顔色はそこまで悪くない。大人しくベッドにいるエミヤの頭の先からシーツに埋まった体まで忙しくキョロキョロと見渡していたジャンヌオルタに、苦笑したマスターが立ち上がる。
「エミヤなら大丈夫だよ。ドクターにも見てもらったし、疲れが溜まったんだって」
ベッド脇の椅子に座っていた見舞いのマスターも視界に入らないほど必死だったことを今更に自覚し、ジャンヌオルタの白い陶器のような肌に朱色が散る。
大袈裟な咳を何度もして誤魔化すと、普段の調子で腕を組んだジャンヌオルタはツンとそっぽを向いた。
「あら、案外平気そうじゃない。もっと苦しみに喘いでる姿を期待したのですが、残念です。それにしても自分の体調管理もできないなんて情けない、まったくしょうがない馬鹿ですね!」
「君の言う通りだ。外ではすっかり噂になっているようだな、倒れたことで話が大げさになっているだけさ。すぐに良くなる」
明らかに照れ隠しの罵倒を真面目な顔で受け止めたエミヤは自らの醜態に首を振る。
バランスを崩して倒れて辺りを騒然とさせた事もそうだが、マスターを差し置いてサーヴァントの己が安穏とベッドに収まっているのも拍車をかけた。
サーヴァントが体調不良などと…と、小さく呟いたエミヤの声には自嘲がこれでもかと含まれている。
普段の働きぶりを知っているマスターがフォローを入れようとした時、体調のモニターを終えたドクターとダヴィンチが端末を手に、入口とは別の職員用の扉から姿を現した。
たまたま話が聞こえていたロマニはエミヤの発言に眉を寄せ、鋭く目を細めると医療部門の主任として厳しい声を出す。
「いや、確かに今回は霊基の酷使による疲労が原因だけど、これは風邪の症状とほぼ同じだ。たっぷり休養をとって体を休ませないとこじらせるよ。ドクターとしてこれから1週間、家事やレイシフトは禁止する」
「しかし、人間のマスターが働いているのにサーヴァントの私が休むわけには…」
「君はサーヴァントの体を過信しすぎている。算出した疲労値は常人なら二三度過労死しているレベルだ。…サーヴァントは痛みを感じれば疲れだってある。君の主張はそんな相手を戦闘機械扱いしろと言っているのと同義だよ、それを容認できるようなマスターは今この場にはいない」
これ以上反論を見つけられないエミヤは大人しく口を閉ざす。孤島のカルデアを背負う医療責任者と優しいマスターへ自分のわがままを押し付けられるほど厚顔ではない。
病室に入ってから青い顔をしていたマスターの少年はモニターの結果を聞いて、自然と頭を深く下げていた。
「俺が気付けなかったから、本当にごめん…」
「マスターは悪くない。ジャンヌオルタの言う通り、私が自分の身の丈に合わないことをしたからだ」
ベッドから上体を起こし、黒髪を撫でる褐色の大きな手のひらはどこまでも暖かい。
エミヤの優しさにマスターがじんと痺れたのはつかの間、背後に感じるイライラとしたオーラに背中を焼かれて冷や汗を流す。
恐る恐る振り向くと、そこには今にも舌打ちせんばかりのジャンヌオルタがヤンキーのようにメンチを切っている。絶対めでたしめでたしで終わらせないという強い意志に、マスターは長いお説教を覚悟した。
「にしても!倒れたことは事実でしょう。あんたみたいなステータスの低いサーヴァントを酷使したことに変わりありません!それはマスターとして自覚が足りないんじゃないですか、この馬鹿な男は言われるまで自分では休まないと知っていたでしょうに!」
息付く間もなくまくし立てられる勢いは、まさに竜の息吹のようだ。
気難しいアベンジャー『達』にここまで気に入られるコツが聞いてみたい…と、やや現実逃避していたマスターは横から伸びてきた女性の細腕に助けられた。
「あーもうその事は既に説教されてるよ!マスターくんには私からもしっかり言っておくからとっとと出ていった!」
説教を遮ったダヴィンチは、問答無用でジャンヌオルタの首根っこを掴むと容赦なく医療職員の通用口扉から外へ放り投げた。
まるで迷惑な猫のように叩き出されたジャンヌオルタが体制を立て直し、苦情を言おうとしたその時。
「…巌窟王」
「…竜の魔女」
そこにはつい先程うるさいと叩き出された巌窟王ことエドモン・ダンテスが体育座りでへこんでいたのだった。
エミヤが強制休暇を取らされた翌日、普段と変わりなく運営されるカルデアでやけに騒がしい一角があった。
「ジル!今すぐ薬を作りなさい!念の為言っておきますが、それは万が一私が病にかかった時の保険だからくれぐれも勘違いはしないように」
「おぉ…ジャンヌ、私の道具作成のスキルは回復や薬品の方面には疎く。力及ばず申し訳ありません」
医療とは無縁そうなキャスターのジルドレェに無茶振りをするジャンヌオルタ。
「待て!メルセデス!メスを持ったまま病室へ行くことは許さんぞ!」
「いいですか、疲労及び風邪というものは甘く見ていいものではありません。菌が脳に到達し重度の後遺症を残る場合も、最悪亡くなるケースもあるのです!そこを退きなさい!速やかに殺菌処理をします!」
風邪と聞きつけて人型特攻を付与したナイチンゲールを、必死に抑えるエドモン。
病室に来るまで目撃した二人の復讐者を思い、マスターとマシュは優しい笑顔を浮かべていた。
「…エミヤって愛されてるよね」
「ええ、本当に」
「どうした?二人とも。変にニヤニヤして気味が悪いのだが」
見舞いに来たマスターとマシュに首を傾げたエミヤは、長時間横になっていたせいで凝った首をゴキゴキと鳴らす。
ドクターの言う事を聞き、許しが与えられるまでベッド生活をエミヤは受け入れた。仕事とは無縁の日々に、最初は溜まった疲労を解消するため睡眠を多く取っていたが、元々規則正しい生活が骨の髄まで染み付いている為寝ぼすけはしょうに合わない。
「調子はどう?結構良くなってきたんじゃないかな?」
「お陰様で、まる1日ゆっくりしたのは久しぶりだからな」
休息から生まれた余裕で、柔らかい雰囲気のエミヤにマスターはほっと胸をなで下ろした。
快調を喜ぶのもそこそこに、マスターの少年はすっかり退屈を持て余している様子に目を止める。
そこで、外で見かけたちょうどいい話し相手を早速勧めてみる事に決めた。
ジャンヌオルタとエドモンはカルデアに馴染めるようにと、エミヤの世話を受けた二人組だ。互いに無用のお節介だったという体を崩さないが、今でも気難しい彼らが興味を失っていないあたり好感度はお察しである。
「じゃあここにエドモンとジャンヌオルタを呼んでもいいかな?そろそろダヴィンチちゃんストップも解除される頃だろうし」
「巌窟王とジャンヌオルタ…?二人が私に何か用なんて珍しいな」
「うーーん、そこら辺はあまりつっこまないで会ってあげて」
思わぬ名前に怪訝そうな顔をするエミヤに苦笑する。普段隙の無いエミヤの役に立てるのは、きっと二人も喜ぶことだろう。
それからしばらく、見舞い客がマスターらとアベンジャーズに交代した病室でエミヤは複雑な顔をしていた。
「暇ですから汗でも拭いてあげましょう、汗臭い男なんて吐き気がしますからね」
「着替えは先ほど自分でやったから間に合っている」
「時間を持て余し、退屈で狂いそうだと聞いたぞ。では俺が厳選した笑い話をしてやろう、あれはかつて俺を陥れた男を絶望の淵に叩き落とした時の事…」
「絶対気が滅入る話だろう、遠慮しておく」
一人が口を開けばまた一人、永遠と続きそうなループにエミヤは収まった頭痛がぶり返すのを感じた。
病室に入れられた復讐者の二人はおおよそ看病とは無縁のサーヴァント、役に立ちたくとも自分で何でもかんでもやってしまうエミヤという相手の悪さも手伝って空回りが止まらない。
さらにマスターというストッパーがない以上、慕われていると想像すらしていないエミヤにとってジャンヌオルタとエドモンは不可解の塊だった。
「では何か欲しいものなどありませんか?こんな姿のあんたは珍しいから、見物料として少しだけ考えてやらないこともないわ」
「欲しい物か…」
ガラ悪く首を傾けて聞いてくるジャンヌオルタから、親切のカツアゲに会っているエミヤは宙を眺めて考える。
堂々巡りのループを通じて何か頼まなければこの二人は満足しないと感じ取ったエミヤは、何かしらお題を出すことに決めた。つくづくお人好しの男である。
「何でもいいぞ、今の俺は機嫌がいい」
エドモンに促され、首をひねっていたエミヤはパチリと閉じていた瞼を開けた。
「そうだな…だし巻き玉子と味噌汁、かな」
「だしまき…たまご…」
「みそしる……」
予想の斜め上をいく頼み事に、ジャンヌオルタとエドモンの瞳が丸くなる。かろうじて食べ物であるのはわかっても、フランス人の二人には聞いたことも見たこともない品の名前だ。
「おっと、私としたことが。聞かなかった事にしてくれ、気持ちだけで有り難いよ」
しん…と静まり返る病室に、うっかり素直な要望を言ってしまったエミヤが頭をかく。
困ったような笑顔にしばらく黙った二人は、おもむろに立ち上がるとエミヤの病室を後にした。
同日、カルデアの食堂にて。
近づいただけで嗅ぐものを狂わせる魔性の香りが漂う一角、戯れにふぅ…と酒気を孕んだ息を吐き出した酒呑童子は自分に声をかけてきた黒衣のサーヴァントをとろりと蕩けた瞳の中へ収めた。
「だし巻き玉子…まぁ、あの坊もかわええもの欲しがるやないの」
「それで何なの?だしまきたまごって」
エミヤの病室からより多くのサーヴァントが集まる場所を渡り歩いたジャンヌオルタは、見つけた酒呑童子を見下ろした。エミヤの要望を諦める気はない、フランス人がわからなければ出身のサーヴァントに聞くまで。
見つけた日本出身サーヴァントの酒呑童子と坂田金時に声をかけたジャンヌオルタは、ころころと笑っては盃を傾けてばかりの酒呑童子に早速舌打ちをする。
やはりもう少し人を選ぶべきだったか、気まぐれな鬼に焦らされるジャンヌオルタへ坂田金時が助け舟を出した。
「そうカッカするんじゃねぇよ!だし巻き玉子っつうのは、卵にダシっつう海のスピリッツが詰まったもんを入れて焼いたゴールデンな食いもんだぜ!」
「だ、だし…?オムレツとは違うのですね」
さらにわからないワードが増えて首を傾げるジャンヌオルタの隣から、控えていたエドモンが続いてもう一つの品を聞いた。
「みそしるはどのような品だ?」
「そいつは…」
「まぁまぁしゃしゃり出んて来んと、小僧は黙っとき」
また金時が答えようとしたその時、ちょうど盃を空にした酒呑童子が待ったをかけた。
やはり自分の頭の上で会話を交わされて大人しくはしていないか、自分一人の時なら快く答えていたのに何とも運が悪い。
渋い顔をする金時の心の中まですべて見透かしたようにくすくす笑った酒呑童子は、エドモンの深い赤色の瞳を見上げて小首を傾げた。
「兄はんも聞いとるばかりはズルいやないの。人に物聞くん時は土産の一つでも包んでもらわな、かないまへんわ」
「土産…酒の類か?欲しがるならくれてやる。しかし俺の酒は貴様の臓腑には些か棘が鋭かろう」
友好的な皮を被って差し出したエドモンの手から黒い炎が燃え上がった。黄金律のスキルで美酒を出そうというのか、それとも威嚇なのか。
和やかな食堂の空気を一瞬で氷点下まで下げる睨み合いは酒呑童子が先に退る事で終結した。
「ま、うちもあの坊には世話になっとるさかい。ここは一つ協力したるわ」
盃を宙に消して腰を上げた酒呑童子が蠱惑的な指先で台所へ誘う。物わかりのいい相手に少し迷ったが、ジャンヌオルタとエドモンは大人しく後へと続いた。
そして一人残された金時はというと、突然素直になった酒呑童子の思惑が透けて見え、机に突っ伏す。
鬼が今回狙ったものは酒の肴、それも血に汚れた復讐者が台所に立って卵や乾物と格闘するという上物だ。
「言わぬが花じゃん…」
趣味の悪い鬼に舌打ちをした金時の頭に、今も心の中で大いに楽しんでるだろう酒呑童子のニタついた顔が過ぎった。
その夜、ベッドで一人本のページをめくっていたエミヤが、ノックの音に顔を上げた。
「…邪魔するわよ」
「おや、二人とも。今度はどうしたんだ?」
揃って出てきたのは見慣れた白い肌の二人、昼の出来事はすっかり忘れているエミヤが本を閉じて向き直るのを横目で見ながら、ジャンヌオルタは手にした盆をずいっと前に出した。
「遅くなりましたが、いい暇つぶしになりました」
「まさか…これは……」
突然目の前に出された盆に目を白黒させたエミヤは、皿に乗った物を見て目を瞬かせる。
食堂の白い無機質な皿に飾られた黄色の層をなす卵、切り口から少し崩れて傾いていても懐かしい見た目が眩しいばかり。
そして隣には椀に装われた味噌汁、湯気とともに鼻をくすぐるだしの香りに思わず瞳を閉じて嗅覚を集中させたエミヤはゆっくりと微笑む。
「少々形が悪くとも味は変わらんはずだ。お前の口に合うといいが」
黙ってしまったジャンヌオルタの代わりにエドモンから箸を渡される。
そっとつまんだだし巻き玉子を口に運び、また目を閉じたエミヤは懐かしい故郷の香りを目で、鼻で、口で堪能した。
鼻に抜ける優しいだしの旨味と、ほのかに甘い卵の優しい風味が疲労の溜まった体へ広がっていく。喉を潤す為に取った椀の熱は指先から全身を温めていき、ひと口啜ればまた何とも繊細な大豆の甘みが染み渡るのだった。
「…とても美味しいよ、2人とも」
皿を空にして手を合わせたエミヤは、食べる様子をじっと見ていた二人に向き直り笑顔を見せた。
「これしきで満たされるとは案外安い奴だ。俺も愚楽な時間に退屈を感じている。もっと俺を興じさせるがいい、エミヤ」
「そうね、簡単に出来すぎて物足りないくらいです。他に何かないんですか?もっと何でも言いなさいな!」
「何でも…」
ただただ柔和な微笑みに用意していた憎まれ口は動けず、代わりに回りくどいオブラートに包まれた『他にやる事ありますか?』が続く。
ほっと暖かい息をついたエミヤが小さく繰り返す。今度こそ無いと答えようとしたその時、千載一遇のチャンスにカルデアのママの名が目を光らせた。
「では、エドモン、君は喫煙量を控えたまえ。いくら英霊とはいえ常識的な量を心得るべきだ」
「クッ…!」
「そしてジャンヌ、君はキャスターのジル・ド・レェ以外とも交流を持った方がいい。手始めに仲の良いセイバーオルタと出かけてみればどうだ?」
「あの女と仲良くないから!」
何でもと聞いて、意外と強かなエミヤは有数の不良サーヴァント達へ容赦ない生活改善の命を下す。
自分で言い出した以上ぐぅの子も出ないアベンジャーズを前に、暖かい緑茶を口に含んだエミヤは悪くない休暇に笑みを浮かべるのだった。
何この話好き過ぎる!好き!ありがとうございます。ご馳走様でした。