弓兵と看病
イベントの熱病ネタにやられました。赤い弓兵ならどう動くのかと考えしんどくなった結果です。ネタバレ&捏造注意。
腐要素はないつもりですが、同じ製造所のためご注意下さい。
17.12.17 2頁目追加。
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※イベントネタバレ、設定捏造注意。
「これで……二十七人目………」
顔を真っ赤にし滝のような汗を流しながら呻る彼女に、氷水で冷したタオルを乗せながら呟く。ともすれば目の前の布団に懐きそうになるが、そんなことでどうする、と己を叱咤する。
原因不明の熱病が蔓延していると気付いてから、既に三時間は経っていた。
「なんだ……どういうことだ!?」
空調が壊れたか、それとも古代王がテレビ番組で特集されると知りテンションが振り切れたのか。クリスマスのための準備として用意していた品々を確認し自室を出ると、異様なほどの熱気が噎せ返っていた。ぐったり倒れる人々に声を掛けるが、これは風邪ーーいや、熱病か?
すまない、と言い置き慌ててマスターを探す。倒れているのは職員だけではない、英霊達もだ!間違いなく異常事態。ひとりひとり処置をしたい所だが、何よりマスターの安否を確認せねば……!
「マスター!……くっ、……サンタオルタに、サンタリリィ、マシュまで…!!」
マスターの部屋で倒れ込む彼女らを投影した毛布で包み、濡れタオルを乗せ急ぎ部屋を後にする。
「……む、」
投影する際、嫌なノイズが走ったが、今は気にする必要はない。あのマスターが自室にマシュを残しいない、ということは恐らく。廊下を急ぎ探す中、左方で大きな魔力が弾けるのを感じた。
「あちらか!!」
駆け付けるも、そこには過労死するーー失礼、熱病と、恐らく先程の魔力消費で力尽きる賢王の姿があった。
「キャスター!」
!!……これは、人一倍症状が重いな。普段の生活習慣だけでなく、余程魔力を使ったと見える。そして姿の見えないマスター。賢王から事情を聞けないのは痛いが、恐らく問題解決に向かったと考えるのが正しいだろう。
ならば、己のすべきことは。
「キャスターギルガメッシュ、不敬だなぞと言ってくれるなよ」
ぐったりと四肢を投げ出す王を横抱きにしすぐ近くの空き室に入る。各部屋の設備こそシンプルかつ無機質であるものの、その部屋数は膨大だ。空き部屋も十二分にある。が、いつ必要になるかわからないため、定期的に整備が求められる。故に、どこが居住空間でどこが空き部屋かの把握は完璧だ。
「ぐ……ゲホッゴホッゴホッ」
「トレースオン……非常に高い熱、咳、節々の痛み、……く、まさか英霊にまで病気などの影響が出るとは想像していなかったな。物資が足りんぞ」
くらりと痛む頭を押さえながら考える。薬は、恐らく効果がないだろう。高熱が続くことが英霊にどんな影響を与えるかは不明だが、何もしないわけにもいくまい。ベッドに寝かせ布団を被せ、部屋に備え付けられているタオルを水で濡らしそっと乗せる。くっ……気温自体が高温であるためか、すぐに熱くなる。
「飲めるか、」
「ゴホゴホッ」
意識がないわけではないが、水分補給も自力では難しいか。賢王の上体を軽く持ち上げ、膝を差し込む。口元に水差しを近づけ、ゆっくり傾ける。こくりと上下する喉仏にほっと息を吐き、元のように寝かせた。完全に意識が無くなったのだろう、既に瞼は閉じている。ベッドの横のテーブルに水差しを置き、静かに部屋を出た。
「時間との勝負だな」
目につく職員を抱え空き部屋に移動させる。今日がクリスマスだったからだろう、管制室ではなく廊下にいる職員が多いのは。廊下が終われば管制室、職員が終われば幼い姿のサーヴァントだ。
「………ぐ」
熱い。くらりと回りそうになる視界を、ぎゅっと目を瞑り振り払う。
熱い?違う、暑いだけだ。この程度の気温、日本の夏なら幾らでもあっただろう。湿気がないだけマシだ。問題ない。動きに差し障りがあってたまるか。そんな軟弱な鍛え方はしていないぞ。未熟者でもあるまいし。
深く息を吐き、速くなっている鼓動を意識して落ち着かせる。
そうだ、何の問題もないさ。
「こんな場所ですまないな」
寝かせた職員の胸元を緩め、途中医務室で手に入れた解熱剤を飲ませる。濡れタオルを乗せ布団を被せ、雀の涙かもしれないがエアコンの送風機能をオンにする。少しでも、良くなりますように。
「さぁ、次だ」
帰ってきたマスターを、きちんとむかえねばな。
「九十………、………む……?」
なんにんだったか。いや、数える必要はないか。幼い姿の英霊達はまとめて運んだ気がする。ダ・ヴィンチちゃんはどうも過労のみのようだったから、数に含むのもおかしな話だ。
歩いて見ている限り、もう廊下に倒れる者もいない。管制室筆頭に、図書室、厨房、ボイラー室などもチェックは済んでいる。自室で倒れる者もきちんと処置は済ませた。
「………あとは、」
あとはどうすればいいんだったか…………最初に様子を見た人々の容態を、確認したほうがいいかもしれない。……ああ、いや、それも大事だが、……そうだ、おかゆをつくったほうがいいのでは?
「かぜのときは、おかゆだな」
やけに重い体を動かし厨房へ向かう。食べられる人がどれだけいるかわからないが、食べねば元気が出ない。薬だけを摂取し続けるのもよくない。……む。
「おかゆでいいのか?」
うどんのほうがいいだろうか。オートミールのほうがいい可能性もあるか。
……いや、おかゆはうまい。おかゆでいいだろう。
「おかゆは鮭か。梅干しか。……ちりめん山椒……お漬物。昆布もいいな」
冷蔵庫の中を見ながら、いくつか用意しようと考える。
「マスターは、まだだろうか」
どうか、どうか無事に帰ってきますように。
ふ、と目覚めた。目覚めたということは寝ていたということだ。ここはどこだ。ずきずきと痛む目の奥なんて知らない。知らないものは感じない。問題ない。頭を上げると、マスターの部屋だった。マシュやサンタオルタ、サンタリリィが魘されているのが見える。
マシュ、と声を出そうとして貼りついた喉が鈍い音をたてた。口元を押さえ、ゆっくり息を吐く。緊張した筋肉を緩め、そっと手を外した。
「………、……」
額に乗せたタオルを取り替え、様子を見る。苦しんでいるのに何も出来ない歯痒さに、己の無力さを痛感する。水を入れ直し乱れた布団を整え静かに立ち去る。
ふと目を向けた先の時計で、既に半日が経過していると知れた。
マスターが帰ってくるまで、誰一人欠けることなく過ごせるだろうか。ーーいいや、欠けさせはしないさ。たとえ回復の傾向が見られなくても。誰も意識が戻らなくとも。決して取り零しはしない。
「……、……まだだ」
さあ、次の部屋へ行こう。
「ただいま……っ」
平常時に戻る気温。徐々に熱が下がり増えていく声。涙ぐむマスターと赤らむ顔で迎える少女。寝台の中で傲岸不遜に迎える王。新たに増えたサンタと、漸く始められるクリスマスパーティ。
「メリークリスマス」
「先輩として!私がお教えします!心して聞いてくださいね!」
「お願いします。メェー」
「……ッゼー……ヒュッ……ッ」
「……?ねぇ、誰かいるの?」
「ーーーっおかあさん!」
賑やかなパーティ。そこに、かの弓兵はいない。
彼はきっと本当にこれをやりそうな気がする