フレイザーは、かつて共演した英国のシェークスピア俳優イアン・マッケランを思い出した、と柄本の印象を明かしている。

「何しろサー(ナイトを叙勲)が付く人ですから。ちょっと荷が重いなあ」

メガホンは大阪出身のHIKARI監督。デビュー作「37セカンズ」(19年)がベルリン映画祭2冠となった注目株だ。

「バイタリティーにあふれた、にぎやかな大阪のお姉ちゃんですよ。何度も何度もテイクを重ねて、なかなかOKを出しません。もういいかな、と思うときもありましたけど、僕らは監督がOKを出さなきゃ成り立たない仕事ですから。あの熱さ、監督として本当に素晴らしいと思いますよ」

77歳になってもHIKARI監督の熱すぎる演出をしっかり受け止められるのは、28年前の「カンゾー先生」で、今村昌平演出の洗礼を受けたからかもしれない。当初、主演は名優、三国連太郎さんだった。

「三国さんで撮影が始まって、僕は他の役で出ていたんだけど、とにかく三国さんで100テイク。OKが出なかった。(晩年の)イマヘイさんは車椅子にお座りになっていて、『よーい、スタート』のたびに準備が繰り返され、そして、また撮影が止まる。監督はまったく動かない。といっても美声でただ『よーい、スタート』(テノールの声まねで)を繰り返す。いたたまれない。地獄です。スタッフみんな逃げ出したかったんじゃないかな」

三国さんは降板。急きょ主演を担うことになった。

「イマヘイさんはカリスマ。特別なんですよ。最初に『よーい、スタート』を聞いたときは体が動かなくなった。小細工とか全部バレちゃう。あーっ全部この人に裸にされちゃう。恐怖です。実際、動けなくなったのはコンマ何秒だと思うんですけど。だって、カメラは回っているし、頭の中がどうしようとグルグル回っていても、やらなきゃいけないわけですから」

この演技で、日本アカデミー賞など4つの映画賞で主演男優賞を獲得した。