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少年は遥か彼方に/Novel by るいこ

少年は遥か彼方に

6,750 character(s)13 mins

衛宮家が大好きです。アーチャーが好き過ぎて生きるのがつらい。

切嗣は安心したーとか言ったものの、なんだかんだで過去の行いの影響とか
色々複雑な想いが実はあったりとかで、大人しく成仏なんかしてないんじゃないかなと思うのです。イメージ的に。
英霊エミヤさんの存在する空間とは別物なんだろうけど、何か間違って道が開けて再開!とかまあそんなのがあったらいいなーという……

衛宮家に包まれるアーチャーが書きたかっただけです(´・ω・`)
最期は切嗣の不思議なパワー!で掃除屋のお仕事が退職できたというこじつけハッピーエンドと思ってください……orz

※7/14 一瞬でもランク入りしたようなのでこっそり挿絵を……描けるようになりたいよね!

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「大丈夫だよ、遠坂。俺も――」


今にも泣き出しそうな少女の顔を最期に、目の前は光にのまれていった。


(文句……言いそびれちゃったじゃない……)


はにかんでいるような、泣いているような、そんな彼女の声が聞こえる。
けれどそれが悲しみ故でないことは意識越しに伝わってきた。
そう、これで安心して――仕事が再開できると思っていたのだけれど。

サーヴァントは聖杯戦争の記憶を引き継ぐ事はできない。
つまるところ、また次に召喚される時、あの日の戦いはこの記憶から抹消されている事になる。
それを、これほど寂しく思った事はない。


私はまた暫くこの不快闇に押し込められる。
この記憶が融解していくのも時間の問題だろう。

そして泳ぐように、流れるように、前へ進みかけて、ふと――。


(…………)



寄り道はできないものか、と。思ってしまった。


何処へ進もうが行き着く所は同じである。
しかしこの深い闇の何処かに、きっとまだ囚われたままのあいつがいる。それは確信していた。

思い出しはしても、それに感情を宿す事はなかった。
摩耗しきった自分の中で、拭えないあの顔がこびりつく。
けれど、そう。今思えば自分はずっと憎みさえしていたのだ。


私に理想を押し付けたと
私に酷い夢を背負わせたと

私が今此処で彷徨い続けているのは
全て何もかもあいつのせいなんだと――。



「……私は、いつまでも幼稚なままだったな」



ふと気がつくと、漏れる筈のない自分の声が耳に届いていた。

暗闇には光が射し、そう、そこはまさしく海中なのだけれど
不思議な事に自分の周りに海水は存在しない。
幼い頃に行った水族館のようだった。


足音はなく、自分がそこに在るという感覚すらも存在しない
けれどわかった、未だ此処へ縛られている男の姿が。



「衛宮……切嗣……」





既に彼は死んでいる。
彼は自分の頭上で、それこそ水槽の中にいる魚のように
黒いコートをなびかせながらゆらゆらと揺れていた

沈みもしない
浮きもしない


果たしてどれだけの間、彼はそこにいたのだろうか。



「おい……」



呼びかけてはみたものの、返事はない。
まじまじと見つめてみれば、それは自分が出会った切嗣よりも少しばかり若く見えた。

身に纏っていたコートは、どことなくかつての自分も彷彿させた
そうではないかと思ってはいたけれど。
やはりこの男も自分と同じ道を歩んだのだろう。
悲しい程に実感して、目を伏せた。


「珍しいね、こんなところにお客さんとは」

「!?」


驚いて、頭上の彼を見やる。
その口が開く訳はないのに、けれどやはり、自分には彼の声が聞こえるのだった。


「……私の声が、聞こえるのか?」

「ああ。もっとも、長いことこうしているから少しばかり聞こえは悪いよ。勘弁してくれ」


トン……

静かに鼓動の音が聞こえる。
それはあの日、彼の元で生きた時間のような暖かさを覚えるものだった。



「さて、困ったね。僕には君の顔を見る事ができない。君は迷い人かな?」

「……まぁ、そんなところだ」



思わず語尾が詰まった。
そう、自分が期待していたという事実から目を背けたくて。

もう既に私は私でなく、衛宮士郎とは別の人間である。
それはつまり、彼の息子でなくなった事と同義だった。


「ならば、早く戻った方がいい。既に君も死んでいるのだろう?こんなところよりも、上に行った方がよほど快適だ」


ぶく……と、彼の口元から気泡が漏れた。
それは見えもしない海面に向かって、ゆるりゆるりとのぼっていく。



「帰り方がわからないのならば、道を作ろう」

「いや、それは結構だ。私は屍人であって屍人でない存在だからな。」


ふ、と苦笑する。
頭上の彼は少し驚いたように言葉を続ける。


「ますます珍しいな。それは、例えば英霊さんの類かい?」

「想像に任せるさ。少なくとも私は私の意思で此処へ来ている。なに、ちょっとした気まぐれでね」


彼は笑った、かのように見えた。


「好き好んでこの場所に?まぁ、一見して綺麗な場所だからね。ここは」

「……お前は、独りなのか?」

「独りと言えば独りだし、そうでないとも言えるだろうね。」


不思議なことを言う。
思えば、この人はいつもそんな風だった。
茶化したいのか、誤魔化したいのか。その意図はいつまでたっても掴めなくて
幼い自分は時に、本気で怒りをぶつけていた。



「また、変な言い方をするな」

「ふふ。そうだな、君は自分の意思で此処に来たというのなら、帰り道は知っているんだろう。

    どうだい、少し話をしていかないか?」



その申し出には少しばかり驚いたが、ある意味願ってもない事だったのかもしれない。

答えを見つけた自分に、今唯一許された過去の精算だと感じていたからだ。

思えば、死後になってこうして彼と言葉を交わせる事自体、幸せな事なのだろうと思う。



「僕はね、正義の味方になりたかったんだ」

――知っている

「誰一人泣かない、そんな世界を夢見て」

――知っている、

「生きてきた時間の殆どを、そんな理想に費やしたよ」

――知って、いるとも

「最期の最期に、その全てが間違いだって気づいてしまった」


――だって、あんたは

――俺と同じだから



「笑うだろう?」

「いや、笑わないとも。俺も似たようなものだからな」

「へぇ。それはまた……。君は死んでしまったんだろう?それは、やっぱり」


珍しく彼は言葉を濁した。
恐らくはその結果が良いものである筈はないと、直感的に理解したのだろう。
――彼自身がそうであったように。


「もちろん、全てに、己の理想にすら裏切られて散ったよ。どうだ、それこそ笑えるだろう?」

「はぁ。笑う訳がないじゃないか。そういないよ、同類ってものは」


彼は心底悲しそうに言った。
風貌は若く見えるが、やはりその内面はあの頃の彼と全く変わらない。
全てに穏やかに。悟りきった口調だった。


「でもね、きっと僕は君に比べたらマシな方だろう」

「ほう。さして絶望のまま朽ちたという訳もなかったのか」

「あぁ。先ほど最期までと言ってしまったが、その先に、僕はようやく一人の子どもを救う事ができた」


それが、目の前にいる自分のことであると、彼は気づく筈もないだろう。
彼の中の自分は永遠に少年のまま。
見えてはいないだろうこの面立ちも、声も、何もかも彼の中の自分とは異なる。

寂しくないとは言わない。
けれどまたこうして彼と話せて良かった
彼を憎まずにいられて、良かった。


「いいや、違うな。救ったのは僕じゃない。僕は救われた側の人間だな」

「正義の味方なのにな」

「本当だよ。笑ってしまう。――しかしね、こうしてこの場所に縛られて長い。
流石にいくつかの記憶は擦り切れてきた。けれど、息子と過ごせたあの時間だけはまだ鮮明に覚えている」


一層、彼の口調は穏やかになる。
この海全体に響くような優しく、柔らかな声で、意識に潜り込んできた。


「良い話じゃないか。」

「今となっては僕に持てる唯一の宝だよ。こんな事を言っては、奥さんに叱られてしまうかも知れないけどね」

「ほう」


そういえば、彼はあまり自分の事について語らなかった。
正直、伴侶がいた事なんて今初めて知った。
今更になって、彼の生に興味が沸いたが――それこそ、どうしようもない事だ。



「もしも僕が生きていたら――そうだね、息子は君くらいに成長していたのかな」

「まさか。お前が死んでどれだけ経つかは知らないが、もっと若いだろう」

「不思議な言い方をするんだね。うん、なんだかそんな気がしてきたよ」


男はやはり笑っている。
浮いている死体は目を閉じたまま
けれど自分には、笑っているとしか思えなかった。


「困ったものでね。意識はこうしてここに在るものだから、ついね。
もう一度会ってみたい、話してみたい。そう考えてしまうんだよ。
だからずっと考えているんだ。背はどのくらいになったか、声は、顔立ちは――もう、一端の男なんだろうかって」

「…………」

「酒が飲めるようになるのは、もう少し後のような気がするんだけど」


やっぱり、男は楽しそうに笑っている。
その姿が胸に痛く。全てをぶちまけてしまいたい欲求に駆られるのだが
こんなにも穏やかな彼の口調が、ただただ心地よくて――それも躊躇われた。



「すまないね。オヤジの戯言に付き合わせて」

「いいや。たまにはそんな話を聞くのも良いさ」


ふっと、笑みを零してみせた。
彼は私が見えていない。


「そういえば、君の名前はなんていうんだい?」

「――残念ながら、私も死後暫く世界に囚われている。自分の素性等、とっくに忘れたよ」

「そうか、それは残念だ」


ざあ、と。波のような音が聞こえる。
男の身体が少しだけ揺らいで、また元の位置へと戻っていった。



「そういうわけで、私はそろそろ元の場所へ戻るとしようかな」

「そうか。帰るのか」

「ああ。もう二度と、此処へ来る事はあるまい。なに、楽しい時間を過ごさせてもらったよ」


片手をあげて――そっと、届かない彼の身体にかざした。
彼は、自分が、見えていない。



「……。君が帰る場所は、君にとって居心地のよいものではなさそうだね」

「これはまた、おかしな事言う。残念ながら的外れだ。それなりに楽しくやっているよ」


かざした手に、少し焦りを宿して。
元の位置でそれを強く握り締めた。
間違いなく自分は今、僅かな幸福を感じていたのだから。



「もう此処へ来ないんだね」

「あぁ、そこまで暇じゃないのでね。奇跡でも起きない限りは難しい話だろうよ」

「君は――」


男の身体が、自発的に動いたような気がした。
この空間のせいだろうか。
少しづつ、自分の内側に水がおちていくような
麻痺していくような
不思議な感覚で満たされていく。


「奇跡を、望むかい?」


反響。しばしの沈黙。何よりも、心地よく。


「――生憎、奇跡の裏側を知ってしまっているのでね。そんなものに興味はないさ」

「そうか。それは正しいだろうな」


また、男の口元から気泡が漏れた。
ゆらり、ゆらりと。



「さぁ、ここでお別れだ。そろそろ時間がなくなってしまう」

「そうか、引き止めてしまって悪かったね」

「なに、息抜きには丁度いいさ」


暫く彼の顔を見据えた後、もう一度、今度は両手を伸ばしてみた。
その腕を、その身体を包み込むように重ね合わせた後、何かを振り切るように目を閉じる。


私は自らの幸福を求めようとはしなかった。
それで良いと思っていた。
自己犠牲の果てに得られたものは何もなかったけれど、今また守護者の存在へと戻るこの直前に
確かな幸福を身に刻みつける事ができた。

この存在を、理解して貰おうとは思わない。
俺はただ、もう一度彼と話がしたかっただけなのだろう。



「ではな」


足音もなく、消えていくように、俺は来た道を戻っていく。
感覚がない。実体がない。
そう、今ここに自分の身体はあるのだろうかとか
そんな不思議。


視覚が消える。
聴覚が消える。
五感の全てが、一歩進む毎に薄れ溶けていく。

分解された自分がまた再び限界する時には
恐らくこの記憶も消えているのだろう。
それでも――あの日の自分に向けられた真っ直ぐな意思と共に
この魂に刻み込まれてはくれないだろうか。

今、それを願っても
非難される事はないだろうさ。


苦笑して、後寸前で落ちようという時に
はっきりと、聞いた。


それは声だ。




「アイリスフィール、君の息子だ。行ってあげてくれ。」




刹那。消えていた視界の中に光が灯る。
雪のように白く長い髪。赤い瞳。
なのに暖かな、その腕は。
明らかに原型のない自分の頬に触れている。


おれはこのひとをしらない。
しらないけれど、なぜだろう、とてもあたたかくて
やさしい



視界に現れた彼女は、ただ柔らかく微笑んで
俺を強く抱きしめた。

けれど何故だろう、その顔がよく見えない。
もう既に、魂は融解しかけていたからなのか
それとも――泣いていたのか。



「そう、頑張ったのね。私のかわいい――」



熱く、熱く、熱く。
胸を焦がすような痛い程の感情が、ないはずの身体を駆け抜ける。

白い髪。赤い瞳。
それは遠い昔の妹を思い出す姿。


私のだなんて言われて、しかし俺はこの人を知らない
知らないけれど、感情はとめどなく溢れて溢れて溢れかえってどうしようもなかった。
それは長く飢えていた何かが、ようやく満たされたかのような


人々を救済する事だけを己のものとして駆けた自分に
ずっと、望む事は許されなかったこと
あたたかく包まれるこの懐かしい感覚、痛い

痛くて


やはり涙が溢れてしまうのだ。



「シロウ」



穏やかな声が聞こえる。
自分を呼ぶ声が聞こえる。
遠く、火の海から救ってくれた彼の顔が見える
優しく微笑みかける彼の顔が見える


恐らくは母の温もりと
不思議な程に大きな彼の手のひらが、頭部を包み込む感覚

それにまた、おかしいくらい
引きちぎられるくらい
幸せで


「じ……さん……」



漏らす声は、子どものそれと何らかわりないだろう。




程なくして、俺は消える。
魔法のような時間。
そういえば彼は、自分の事を魔法使いだと名乗っていたっけ。

錆びた鉄の匂いと
凍えるほど冷たい世界を走り抜けた
決して手に入らないものを望み続け、全てを奪われ朽ちた自分に


ああ、それは。

きっと自分の知らない奇跡――。





  ああようやく私は眠れるらしい。 


大丈夫だよ、遠坂。   

        俺はもう、本当に――大丈夫だよ。


私を頼む。          
      

    見ての通り、頼りない奴だからな。


           ああ


        これで、ようやく



                              終われる






海はとじる。
静かに、うるさく、穏やかに、激しく。

眠る。
眠る。

子守唄のように、ゆりかごのように


少年の魂を抱きながら――。

Comments

  • orangeshade
    October 8, 2023
  • ARU
    September 6, 2023
  • 鴉八丸
    November 4, 2022
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