幼子のいる情景
■相も変わらず捏造万歳俺得設定。多分ほろーとかカニファンあたりの皆仲良し祭り時空。■さいごのやり取りを書きたいがためだけにできた誰得SS。前振り長いなー。■結構扱いアレな方もいらっしゃいますが、何でもいいよーといってくださる方はどぞ。■ちなみにこれの没ルート落書きがこちらになります。→illust/40178257
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「あら。アンタたち、いつの間に子供なんて作ったの?」
半年前まで何の変哲も無い一般家庭が、なんとなく人外魔境と化した今日この頃。
非一般人の溜まり場となって久しい衛宮邸に、勝手知ったるとばかりに遠慮なく居間の襖を開けた赤い少女は、そこにある光景に可愛らしくきょとりと瞬いた。
ランサーが覗き込んだアーチャーの腕の中。
未だ言葉も話せぬ赤ん坊が、無邪気にきゃあきゃあ笑っていた。
「……凛」
げんなりした表情を隠そうともせずに、アーチャーは軽く腕をゆすって赤子をあやしながら溜め息する。
「まさかとは思うが、アンタたち、というのは私とコレのことかね?」
コレ、と顎で傍らの男を示され、凛は遠慮なく頷いた。
「他に誰がいるってのよ。へー、英霊って子供生めるのね。初めて知ったわ」
少女の言い草にランサーはぶはっと噴き出し、アーチャーはますます渋面をする。
「凛。英霊云々以前に、私とコレはどちらも性別:男なのだが。もしや男は子供を産めないという一般常識をどこかに置き忘れてきた訳ではあるまいな?」
「やーね、冗談よ、ジョーダン。……やろうと思えば、出来ないことも無いけれど」
「後半部分は聞かなかったことにしておこう」
「そうね、アンタガラスのハートだし」
日常会話となっているほとんど漫才のようなやりとりをそこで切り上げ、凛は赤ん坊を覗き込んだ。アーチャーが少しかがんで見やすいようにしてやると、赤ん坊は凛を見つめて楽しげに笑う。つられるようにふふ、と笑いを零して、少女がやさしげに柔らかな頬をつつけば、きゃあと歓声をあげて小さな両手を振り回した。
「かわいいわね。男の子? 女の子?」
「女の子だそうだ。名前はサツキ」
囁くような問いかけに同じく囁きで返してやって、少女の弓兵は小さく目を細めた。この気障で皮肉屋で仏頂面がデフォルト装備の男は、女子供老人動物への態度はやわらかい。
「……で、本当にどうしたのよ、この子。子守のバイトでも始めたの?」
ぷにぷにほっぺの手触りを堪能しつつ凛が聞くと、途端なんとも言えない遠い眼差しをする男が二人。
「…………似たようなものかもしれん」
「預かったっつーか、押し付けられたっつーか。まあタダ働きは確実だよな」
「……はぁ?」
※
「贋作者はいるか!!」
学生組が戻るにはまだ日の高い、穏やかな昼下がり。家事を済ませてのんびりしていたアーチャーの憩いの時間は、ド派手が身上の闖入者によって破られた。
「……何事かね。騒々しい」
よっぽど居留守を使ってやろうかと思ったアーチャーだが、返事をしなかったところでどうせ勝手に住居侵入してくるだろうし、下手をすると玄関先を壊されかねない。渋々引き戸を開けてやると、想像違わぬ偉そうな男が立っていた。
「遅いぞ贋作者。王の訪問である、さっさと迎えんか」
「…………それは失礼した。で、御用の趣は?」
鳴り物入りで登場してくれやがった金ぴか英雄王様(大)は、後ろに子供たちを従えていた。どことなく見覚えがあるような彼らにアーチャーは小首を傾げ、程なくして領解する。セイバーや金ぴかこどもと、よくサッカーをしている子供たちだった。
「うむ。実はだな、これから公園の覇権をかけて、大事な勝負があるのだ」
「ふむ」
何やら大層なことを宣わっているが、とりあえず相槌を打っておく。一見国籍不明で実際に海外経験も多いアーチャーだが、ここら辺日本人気質が抜けきっていない。
「あのね、サッカーの試合があんだよ!」
「グラウンドがブッキングしたらしく、練習場所が足りないとかで」
「なんで向こうの都合でオレらが追い出されなくちゃなんねーんだよなー」
「真剣勝負でグランド使う方決めんだ! 負けらんねーの!」
「ちゅーがくせーなんてヨユーだよなー!」
「後からギルも来るもんな!」
「ぜってーわたさねー!」
「……ああ、成程」
口々に言い募る子供たちの台詞を総合して、アーチャーは苦笑した。つまり、これからいつも彼らが使っている公園の使用権をかけての勝負があるということだ。成程、それは一大事だろう。
―――ただわからないのは、それで何故衛宮邸に、というかアーチャーを名指しでやってくるかということだ。
「それで、一体何の用だ。まさか私にメンバーに入れということでもあるまい」
見たところ人数は足りているようであるし、ひょっとしてドリンクやカロリー補給の軽食などを用意しろとでも言うつもりだろうか。今の所手は空いているので、それくらい別に構わないが。
「うむ、それなのだがな」
しかしギルガメッシュは尊大に頷くと、子供たちを振り返った。促されるように、一人の子供が前に出る。
否、子供はふたりだった。小学校高学年くらいに見える少年が、まだ1歳にもなっていないであろう赤ん坊を背負っている。
「貴様どうせヒマであろう。試合の間、しばしサツキを預かっていろ」
「なんでさ」
ついうっかり在りし日の口癖で突っ込んでしまったアーチャーに、もう一人のアーチャーは呵呵と笑う。
「何、セイバーのメシ使いたる貴様ならば赤子の世話くらい出来よう? 安心するがいい、入り用なものは今狗に買いに行かせている。間もなく来るだろうよ」
「……いや、まあ特別用事がある訳ではないが。流石に乳児の世話などしたことがないぞ? そもそも何故私が預からねばならんのかね。保護者はどうした」
その疑問に答えたのは少年だった。
「お母さん、今日トーエンの親戚のお葬式行っちゃったんだ。お父さん仕事で夜までいないし、面倒見てくれるはずだったおばちゃん、おじいちゃんの具合悪くなったとかで来れなくなっちゃったんだよ」
「……成程。ちなみに、その子も一緒に試合に連れて行くわけには」
「ムリだよ、寝かせるとこもないし、屋根もないし、試合始まっちゃったら誰も面倒見るヒマないもん」
「……だろうな」
心底困ったような、必死な様子の子供たち。正義の味方がこれを見捨てられるはずもない。
「お願い兄ちゃん、タケシがいないと試合できないんだよ。ゴールキーパーできんのタケシだけなんだ」
「ご迷惑おかけしますけど、お願いします、他に誰もいなくって」
「これで勝てなきゃしばらくグランド使えないんだよ、お願い」
「お願いします!」
「おねがいしまーす!」
「……ああ、了解した。君たちの試合が終わるくらいまでならば、私が責任持って預かろう」
追い討ちをかけられて、アーチャーは抗いようもなく陥落した。彼の病的なお人好しを見越していたのだろう、にやにやしている金ぴかを意識して視界から追い出す。なんか腹立つからあとでおやつ抜きにしてやろうか。
「ただし」
わっと沸き立つ子供たちに、アーチャーは条件がある、と人差し指を立てる。不安げな子供たちの視線を受けて、お人好しなほうの弓兵は、気障ったらしく片目を瞑って見せた。
「―――やるからには、必ず勝つことだ。いいな?」
口々の応を受け止め、その元気いっぱいな様に口許を緩めたアーチャーは、ふと思いついて金ぴかを見る。
「一度引き受けた以上はそれを違える気はないが。ランサーがいるのなら、そのまま教会で預かってもよかったのではないのかね?」
別にわざわざここまで来なくても、という弓兵の問いを、ギルガメッシュは鼻で笑い飛ばした。
「ハ。あの狗も人あしらいくらいはできようが、赤子の世話など細かい気配りのいることができるはずもあるまい。アレはまさしく『大雑把』の一言に尽きるからな」
意外に手先が器用で人の機微にも敏くはあるが、普段が普段なだけに否定はできない。かの英雄は、まさに『海闊天空』『豪放磊落』と形容するに相応しい。
この家ならば大体誰か人もいるだろうから、と納得したアーチャーに、それに、とどこか青っぽい顔をしてギルガメッシュが言葉を継ぐ。
「………………流石にあの外道シスターには預けられん……」
「…………ああ、うむ」
うっかりシンパシってしまった弓兵たちだった。
※
「……あー、成程ねー……」
笑うべきか呆れるべきか決めかねたような表情をして、凛はぼやいた。しかし一転、猫のようににんまり笑い、弓の英霊(暫定保母)を見上げる。
「まあ、心配しなくっていいわアーチャー。あの金ぴかからは、私がきっちり預かり料ぶんどってやるから」
「では任せた。遠慮なく搾り取ってやりたまえ」
「ええ、任されたわ」
「お前らコワイ」
くくくくく、とえっらい悪い顔で笑い合う赤い主従に、青いのはちょっぴり引いた。このあかいあくまならば、金ぴかが相手でも一歩も引かず、しっかりとぼったくるだろう。でもオレにはくれないんだろうなあ。
ランサーはコワイふたりからそっと視線を逸らして、赤ん坊と戯れることにする。やわらかな熱と無邪気な笑顔にしみじみ癒されていると、ただいま帰りました、と折り目正しい声がした
。
「お、セイバーも帰ってきたな」
この光景に目を丸くするだろう剣の英霊に、さてなんと吹き込んでやろうかとワクテカするランサーの頭へ、ズビシと弓兵の手刀が入る。
「やめろ」
「……へーい」
瞳がマジだった。
一時の愉悦のために、この先の美味しいご飯を棒に振るのも躊躇われ、ランサーはイタズラを諦めた。万葉の昔よりの理として、ご家庭では台所を預かるものが最強なのである。
「アーチャー、おつかいを完遂して参りました。リンとランサーも、……っ!?」
すらりと襖を開けて入ってきたセイバーは、予想通り目をまんまるくして、アーチャーと赤ん坊を見比べた。はくはくと口を開閉してはいるが、言葉もない。
おかえり、助かったと労いを口にしながら、アーチャーは苦笑する。贔屓目に見ても堅気には見えない、国籍不明の大男と、未だ言葉も話せぬ赤ん坊の組み合わせなど、不自然極まりないだろう。正直、自分でもどうしてこうなったって思ってる。
「あー、セイバー。この子は実はな、」
おかしみを殺せない、中途半端に笑んだ顔のまま説明しようと口を開いた、それに被せるように、
「アーチャーとランサーの子供よ」
あかいあくまがにこにこと大嘘ぶっこいた。
―――その後数十分に渡って繰り広げられた、騎士王と光の御子による命懸けの追いかけっこの詳細については割愛させて頂きます。
くだらないし。
*
で、その数十分後。
いい加減これ以上騒がれて、下手に赤ん坊に泣かれると困る弓兵にたしなめられ、セイバーはランサーを追いかけ回すことを切り上げた。疲れきった様子でへたり込む槍兵をさくっと無視して、もむもむとアーチャー謹製のおやつを楽しみながら、コトのいきさつを聞いて眉を寄せる。
「なるほど。まったくあの男は、いつも人の事情など考えないのだから……」
心底呆れたふうに溜め息を吐くセイバーだが、笑う赤子に勝てるはずもなく、すぐにアーチャーの隣を陣取って熱心に赤ん坊を見詰め始めた。ぐぱぐぱと動く小さなてのひらに、そろっと差し出した指を握られて、おお、と嘆息している。思いがけず強い力に感動しているらしい。人差し指を握られたまま、ぶんぶん振り回されるセイバーに向けるアーチャーの眼差しは、どこまでも優しい。
それをくすくす笑いながら、凛はねえねえ、とランサーに小声で話しかける。
「あの辺の一角、なんかしあわせ親子空間が展開してない?」
にやにや眺めていたランサーも、笑い含みにささやき返す。
「おう。母親とお姉ちゃんと末っ子だろ?」
「ぶっ!」
思わず噴き出した凛は、そのまましばらくふるえていたが、やがて口許をひくひくさせながらランサーを睨む。瞳は多分に笑ってはいたが。
「……せめて夫婦って言ってあげなさいよ。かわいそうじゃない」
どちらが旦那でどちらが嫁かは推して知るべし。
「で、本音は?」
「アンタ私の腹筋破壊する気?」
「悪い、的確過ぎたか?」
「あははははっ!」
我慢できずに大声で笑ってしまった凛に、とりあえず不愉快なことを言われたと察したらしい。アーチャーとセイバーはむっと眉根を寄せて少女と男を睨む。
「……随分と楽しそうだな。何の話か私にも教えて頂けるかね?」
「ええ、私にも是非に」
喧嘩販売なら受けてたつ、と言わんばかりのふたりの視線をさらりといなして、凛はくすくす笑いながらランサーに共犯者の顔を向ける。
「なんかアンタたち、そうしてると親子みたいだなあって。ね?」
「おう、なんか固有結界的なほのぼの空間が出来上がってたぞ」
「え……」
セイバーはきょとんとして、それからほんのりと白い頬を赤らめた。ちらちらと恥じらうように弓兵と凛たちを見比べながら、彼女にしては歯切れ悪く問いかける。
「それは、その、私たちが、ふ、夫婦に見えると……?」
「いや、オカーチャンと子供と末っ子」
「誰が子供ですか!」
「誰が母親か」
間髪入れずランサーの揶揄へ言い返した二人に、あかいあくまと青い猛犬はからから笑う。まったく仲のよろしいことだ。あと二人とも、結構自分のことをわかっているようである。
睨みをきかせる二人と、笑い続ける二人、ついでに何もわかってなさそうな一人の間に、ただいまーと帰宅者3号の声がした。
とすとすと軽い足音を立てて居間までやって来た家主は、帰宅の挨拶もそこそこに、違和感ばりばりな黒いのを発見してぱかりと口を開ける。
「……あれ? どうしたんだよその子」
士郎はきょとりとまたたいて、アーチャーの腕の中で笑っている赤ん坊に小首を傾げる。
「あー、それがね、」
「リン」
説明しかけた凛を、セイバーが制した。彼女は何かを企んだかのようににんまり笑って、するりと弓兵の腕を取る。
「私とアーチャーの子、と言ったらどうします?」
「む」
どうやら先にからかわれた鬱憤を士郎で晴らそうということらしい。器用に片眉を上げたアーチャーは、彼女の意図を汲み取ってか余計なことは言わなかった。凛もランサーも笑いを噛み殺して士郎のリアクションを待っている。
「は…………」
まあるく目を見開いた少年は、ぽけっと口を開けて呆けた一拍後、大きく頬を引きつらせた。
「あ、アーチャー、セイバー、え、なん、こどもって、ええええ!?」
思いっきり動揺してくれている素直な少年がおかしくて、セイバーが笑って冗談だと告げようとしたその寸前、
「アーチャーお前いつの間に子供なんて産んだんだ!?」
―――輝かんばかりの顔で士郎をpgrしていたアーチャーは、その笑顔のまま剣の雨を振りまいた。
おわれ。
士郎、もしそうなら未来でお前もそうなるんだぞ