コタタママ
1.クランハウス-居間
スズキとポチョが喧嘩をした。
原因はプリンだ。
「ポチョが私のプリン食べた〜!」
だから何だよ。新メンバーのモグラさんと一緒に経験値稼ぎをしていた俺は、プリンの所有権を主張する元無口キャラにしがみつかれて本日の自由時間は終了したのだと悟った。
なあ、スズキよ。私のって言ったって別に名前を書いて保管してた訳じゃないんだろ? ポチョだって悪気があってお前のプリンを食べた訳じゃないさ。な、ポチョ。
俺が同意を求めて目を向けると、騎士キャラはそわそわとしている。
「食料はクランの共有財産だ。れ、冷蔵庫は課金アイテムだが、先生がみんなで仲良く使うようにと。つまり冷蔵庫の中に入っている時点で私の物でもあるという理屈が成り立つ訳であって……」
……コイツ、スズキのプリンだと分かっていた上で食ったな。
目は口ほどに物を言う。視線を斜め上に向けつつ、いつになくぺらぺらと口を回すプリン泥棒に被害者のスズキが食って掛かる。
「でも私のプリンじゃん!」
ところがポチョも負けていない。
「ああ食ったとも! 私が食った! しかしな、元はと言えばスズキが悪いんだ!」
開き直りやがった。しかしどうやらポチョにも何か言い分があるらしい。
「私は知ってるんだ! つい先日のことだ。三個パックのプリンを一つコタタマに持って行くと言って食べた!」
いや、それは俺が要らないから好きにしろと言ったんだが……一人で勝手に食べちゃったの?
食べたらしい。スズキが自供した。
「だってコタタマが好きにしろって言ったもん!」
「そこは私と半分こするべきだろ! スズキはいつもそうだ! 食いしんぼ!」
やめろやめろ。収拾がつかねえよ。俺は割って入った。
幼稚園児かよ。落ち着け。お前ら普段は仲良しじゃねえか。なぁスズキよ、俺はお前のこと別に食い意地が張ってるとは思わねえぞ。例えばの話な、ポチョにプリンを食べたいと言われたら譲ったんじゃねえか? だったら別にいいじゃねえか。プリンなんざ、また買ってくればいいだろ。何をそんなに目くじら立ててんだ。
しかしスズキとポチョは口を揃えて俺を怒鳴りつけたのだ。
「そういう問題じゃない!」
じゃあどういう問題なんだよ!
俺も怒鳴り返した。
今、完全に答え出ただろ! なんならプリンの一つや二つくらいお駄賃やるからさっさと買ってきて二人で仲良く食べなさい! なんなの、この子たちは! コタタママ怒るよ!
「ママはプリンなんてどうでもいいとか思ってるんでしょ!」
「プリンを見下してるママに説教されたくない!」
いきなり結託したスズキ子とポチョ子にママはぽかぽかと叩かれた。
くそがっ、なんなんだよ! 家庭内暴力か! 俺だって別にプリンが嫌いって訳じゃねえんだぞ! 物欲しそうな顔して甘い物あんまり好きじゃないよね?とか言われたら、まぁそんなにって答えるもんなんだよ! ばーか、ばーか!
俺は捨て台詞を吐いて実家を飛び出した。
2.居酒屋-火の車
いや、誰がママだよ。
冷静になった俺はひとまず虚空に突っ込んだ。
プリンで喧嘩したなんて知れたら俺に留守を預けてくれた先生に申し訳が立たねえ。
しばらく外で時間を潰してから頃合いを見て帰ろう。
ぶらぶらとポポロンの森を散歩した俺は、物のついでにと【火の車】に立ち寄った。
おっと店内にアホの子発見。カウンター席を避けてそそくさとテーブル席に移動しようとする俺だが、アホの子に見つかった。
「あ! コタタマじゃん! ナニこそこそしてんの? こっち来なよ。そう緊張すんなよー。そりゃあ私ちょっぴり美少女かもしれねーけどさー。ヤメロって照れんだろー。ひひひっ」
たったかと駆け寄ってきてばんばんと俺の背中を叩くアホの子ことマゴット。
うぜえ……。
あぁもう、何で? 何でお前普通にココに居んの? ついにネフィリアからクビを宣告されたか? あと、お前は別に美少女じゃないと思う。お前程度の造形はその辺にごろごろしてるだろ。
諦めてカウンター席に座って身の上話を聞いてやると、隣に座ったマゴットは「はぁ?」と俺を小馬鹿にしたように見た。
「あのねー。言っとくけど私、その辺に居るパチモンとは違うから。私、デフォルトキャラなんでー。リアルな訳よ。分かるー?」
お前、本当にアホなんだなぁ……。俺はしみじみと言った。あのな、お前がデフォルトキャラだろうが何だろうが知ったこっちゃないが、そういうことを平然と公言するのはやめろ。ネフィリアのやつはお前に一体何を教えてるんだよ……。あと、デフォルトキャラってのは嘘だな。俺には分かる。最低でもプチ整形してるだろ。しない訳がない。
「うっ……。まぁ……ちょっとね。ちょっとだけ。うん、まぁ」
お前、そういえば最初はリアルネーム使ったとか言ってたな。どこまでアホなんだ。悪いことは言わないから課金アイテムでキャラクリし直せ。将来、ふとした瞬間に思い出して部屋の中でジタバタする羽目になるぞ。
「ふ、ふん。しないもん。私たちはねー。ニューウェーブのゲーマーなんだよ。あんたとは違うの」
ほう、面白え。小娘が。受けて立ってやるよ。数々のクソゲーに揉まれた俺たちをロートル呼ばわりとはな。一体何が違うってんだ? 言ってみな。
「言ってやんよー。あんね、このゲームがヤバいってのはジョーシキなの。ジョーシキ。ガッコじゃ、もう逆にやってないほうがヤバいの。ゲーマーが日陰モノっつーあんたらとは違うんだよ。残念でした〜」
ふん、分かってねえな。隠れてやるからゲームは面白えんだよ。常識だと? アホめ。お前らのプレイにはスリルがねえ。出会いを求めてさり気なくリアルの性別を探ってくるアホに、ネカマに騙されて発狂するアホ。それらを煽りつつも面白おかしく眺める俺ら。そのギリギリのラインを見極める駆け引きがネトゲーの醍醐味だ。分かるか、スリルだよ。ハズレのないクジ引きに一体何の面白みがあるってんだ? お前らは損してるんだよ。
「……なんかそう言われっとそんな気がしてきたわ。あんた、詐欺師に向いてるとか言われない? いやっ、でも整形すんのはなー。つーか、あんたA級戦犯なんだってね。ガッコで私のライバルだっつったらリスペクトされたし。ピノキオる」
ピノキオんな。俺のライバルがアホすぎてヤバい。
ちなみに整形ってのは課金アイテムを使ってキャラクターのデザインを変更することだ。そう派手にいじらなくても、少し手を加えるだけで大分印象は変わると思うのだが……。
やい、妹弟子。ネフィリアはなんて言ってるんだ? お前はあいつのクランメンバーなんだから、本来なら俺がどうこう言う問題じゃねえんだ。
「ネフィリアさんはねー。あ、そーだ。ネフィリアさん、あんたと真逆のこと言ってたわ。危ねー危ねー。悪い男に騙されっとこだったわ。これ事案な。奢ってくれたらチャラにしてやんよー」
言われんでもガキンチョに割り勘させる気は更々ねーよ。いいから話の続きだ。ネフィリアが何だって?
「こいつマジ詐欺師だわ。さらっと口説いてくる。あ、さーせん。分ーったよ。分ーった。ネフィリアさんねー。えーっと、ゲーマーの変容? 質? が必要? 重要……みたいなこと言ってたわ。あんた、意味分かる?」
分っっっかんねーよ!
俺はキレた。
つーか俺の最初の質問に答えろ! あっちへころころ、こっちへころころと話題変えんな! お前、何で俺の行きつけの店の常連みたいな顔してんだ!
「へ? あ、そーだ。思い出したわ。私さー。ここでハリコミしてたんだよ。ポチョ姉、おっかねーし。ここで待ってればあんたに会えるかなーって。チョー健気じゃね? ガッコの連中が私の言うこと疑うからさー。チョット写メらせてよ。あと、コレ聞いてきてって言われてっから答えて。あんだけ頑張ったのにイベント後半参加できなくて今どんな気分?」
そうですね……。
正直、やられたなって印象が強いですかね。
語るも涙、聞くも涙のコタタマ戦記だぜ。事の起こりはサトゥ氏だ。知ってるか? サトゥ氏。最強のプレイヤーって言われてる野郎だよ。俺はヤツとちょっとした因縁があってな……。
あ、マスター。プリンってある? 三個パックのやつ。ああ、悪いね。包んどいてよ。持ち帰るからさ。
これは、とあるVRMMOの物語。
プリンに罪はない。
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