第283話 少年院送致寸前

―近藤視点―


 俺は弁護士との面会で不満を爆発させた。

「どうして、家に帰れないんだよ」

 俺の大きな声に、弁護士の爺は冷ややかな視線を送ってくる。


「だから、言っているだろう。もうすぐ、少年院に送致されるから帰れないよ。在宅起訴の時でも、少年院送致が決まったら身柄が拘束されるんだから当たり前だろう。あと、数日でキミはここから少年院に送られる。不処分や保護観察だったらすぐに帰れたんだけどね」

 俺はくらくらとしながら椅子に崩れ落ちた。


「どうして、どうして……そんな風にしてくれなかったんだ」


「だから、そうするためにもしっかり罪を認めて反省すればいいって言ったよね? 君の場合は反省すれば、少年院送致になる可能性は低かったのに、自分が勝手に徹底抗戦して、心証を悪くしちゃったんじゃん」

 そう言って俺の神経を逆なでする。くそ、くそ、くそ。だが、絶望が深すぎて言葉にできない。


「被害者は小説家として認められて文学賞を受賞して賞賛を集めている。逆に、キミは行かなくてもよかった少年院に送致されて矯正を受ける。皮肉だね。でもね、アドバイスをしたくて今日は面会したんだ」

 いつもこいつはそうだ。


「うるせぇ」

 俺の暴言に弁護士はあきれながらも、粛々と続けていく。


「だから、そういう態度は駄目なんだよね。反抗的な人はなかなか出ることができなくなるし、かなり厳しく指導されるよ」

 

「知ったことじゃねぇよ。俺はな、特別なんだ。まだ、プロのサッカー選手になる道だって閉ざされたわけじゃねぇ」


「そうだけどさ。それって天文学的な数字だよね。ゼロじゃないけどほぼありえないよ。今の一番大事なアンダー世代にサッカーから離れるのって致命的じゃん。そういうこともあったから、僕はアドバイスしたんだけどね。聞き入れられなかった。結局、サッカーを捨てざるを得ないことだってキミが選んだことじゃん」

 くそ、正論ばっかり。こいつは何がしたいんだ。


「好き放題言いやがって、少年院を出たら覚えてろよ」


「ああ、怖い、怖い。でも、粋がっているときに悪いんだけどさ。少年院ではそういうのやめておいた方がいいよ。サイコパス気取ってかっこつけていると思うんだけどさ。キミみたいな反抗的な人は目立ちやすいし……それに本物じゃないからさ」


「はぁ⁉」

 バカにされているのはわかっていたが、これはもう挑発だろう。


「キミは悪質ないじめで逮捕された。それは優しい被害者を狙ったからいじめることができたわけだ。でもね、少年院ではそういう風にはならないよ。どちらかといえば、キミは狙われる側になってしまう。だから、いくつか対処法も教えておくよ。これだけは聞き逃さないようにしておいたほうがいいよ」

 それは世の中の酸いも甘いもすべてを知っているかのようなすごみがあった。

 くそ、どうして俺は……天才で女からもモテているし、こんなことになっているんだ。情けなくてみじめで消えたくなる。


 でも、知らなかったのだ。まだ、地獄は続いていくことに。俺の人生はどこまでも落ちていくことに。

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