第281話 結果を知る立花
―立花視点―
また、面会の時間だ。どうしてこうもあの弁護士は私をイライラさせるのだろう。
裁判の手続きは長くてなかなか進まない。このままでは、私の大事な時間がただ過ぎ去るだけだ。こんなことをしている余裕はないのに。
そう思うと、本当に頭に血が上りそうになる。
私がイライラして待っていると、あの無能な弁護士がやってきた。
「なによ、やっと裁判の日程がわかったの?」
かなりきつい口調で出迎える。優男風の弁護士は少しだけこちらの態度に驚いたように目を丸くしていたが、それはほんのわずかな時間だけだった。すぐに、苦笑に切り替える。その態度がまた、私の血圧を上げていく。
「そちらについては、もう少し時間が必要だよ。頼まれていたものを親御さんが用意したから差し入れることになったんだ。キミの手元に届くのには時間が必要だから、先に口頭でもと思ってね」
差し入れは、不正がないか刑務官による調査が必要になる。いくつか小説を差し入れてもらった時も、調査が終わるまで私には本が届かなかった。貸本もここにはあるけど、マンガが多いしそれも男くさいものが多くて趣味が合わない。
「それで何を差し入れてくれたの」
読みたい本はいくつかメモして弁護士経由で両親にお願いしている。今手元にある本はすべて読み終えてしまったので、ちょっとだけ楽しみになった。私にとっては少し朗報だったから、機嫌も上を向く。
「君が知りたがっていた青野英治君の文学賞の結果が出たんだよ。だから、指定された文芸誌を差し入れておいた。結果はどうする。手元に届くのを待つかい」
その言葉を聞いて、血の気が引いていくように感じた。寒い。どうしてだろう。さっきまで、イライラで熱いくらいだったのに……今はどうしようもなく怖くて冷たい。
どうしよう。今聞くのが怖い。でも、それでは負けたような気にもなる。
そんな弱気な気持ちになりながらも、私はそれを隠して強気の姿勢を崩さないように、弁護士をにらみつけた。
でも、彼は動じなかった。
「教えなさい」
それできる限りの虚勢だった。
なんとか命令口調にしつつも、声は震えているかもしれない。
でも、目の前の男はここで笑ったのだ。私の必死な顔を見て、少しだけあざ笑うように。
先に口を開いたのは私だった。
「ばかにしているの⁉」
そう非難の声を向けたけど、嘲笑は増すばかりだった。
「すまない。キミの表情を見たら、不思議に思ってしまってさ」
自分の表情が弱気に崩れていくことを自覚しながらも、「なにが」とかろうじて問うことはできた。
彼は少しだけ悩ましそうな表情をしながら、言葉を紡ぐ。
「いや、だってさ。今の立花さん……何かを確信しているような感じだったから。質問をこちらにする必要があるのかなと思うくらいには、自分の心の中に答えがあるようなそんな感じがするんだ」
そう指摘されて、すべてを悟る。そうか、私はすでに負けを悟っている。そして、彼に追いつけないとわからされている。
「……っ」
それがわかればわかるほど、どんどん絶望に落とされていく。
「結果だったね」
絶望している私をよそに弁護士は、その死刑宣告をはじめていた。
だめだ。今、その結果を聴いたら全部、失ってしまう。今の絶望的な状況よりも、心理的なそれは彼の結果を知ることのほうが深い。
やめて。
教えないで。
そんな残酷なことをしないで。
そう言いたかった。でも、あまりにも絶望の深さに言葉を発することもできなかった。そして、そう促したのは自分だということにも絶望する。自ら
「彼は受賞したよ。史上最年少記録だ。キミが確信していたようにね」
血も涙もない宣告だった。そのあとで面会室に声にならない絶叫が響き渡った。
目の前の机に落ちる雫を見て、自分が泣いていることに気づいた。
「そこまでの信頼があってどうして、貶めようとしたんだ」
弁護士からはあきらめのような哀れみが向けられた。
もうどうしようもない自分が一人だけ取り残されたように思ってしまう。
言い訳もできないほどの完敗だ。
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