ライター / フォトグラファー
1986年新潟県生まれ。横浜市立大学卒。三井住友VISAカード、講談社勤務を経てWaseiに入社。どうしても書き仕事がしたくて、1本500円の兼業ライターからキャリアを開始。現在は世界各国、日本全国を旅しながら暮らしています。とにかく旅と写真と文章が好き。
D&DEPARTMENT PROJECT (以下、D&D)。
それは、中心に「ロングライフデザイン」という言葉を据える活動体です。ロングライフデザインとは、「最新モデルを買って消費するだけではなく、修理しながら使い続けるデザイン意識」のことを指します。
けれど、このロングライフデザインというテーマへの向き合い方を、考え直すべき時に来たとナガオカさんは言います。そして実際に、20年近く掲げて来た「ロングライフデザインの10か条」を、4か条に変更しました。
新しい4カ条が載っている「LONG LIFE DESIGN 1『47都道府県の健やかなデザイン』公式書籍」
さらに2018年10月、D&D はもうひとつ大きな挑戦をすることを決めました。それは、「〈長く続くいいもの〉を繋ぐ。2019 年”d news”製作サポート募集!」というタイトルの初のクラウドファンディングプロジェクトの立ち上げです。
(画像引用元:クラウドファンディングReadyforページより)
支援者は「ロングライフデザイン研究員」と呼ばれ、今後D&Dと活動を共にする「仲間」になるそう。
でも、長らくクラウドファンディングをしてこなかったD&Dが、どうしてこのタイミングで初めての実施を? また、「ロングライフデザイン研究員」とは一体なのでしょう?
「イケウチな人たち。」と形は違うけれど、これもひとつの「顔と名前がわかる関係性」、つまりコミュニティ作りのひとつに当たるのかもしれないぞと、編集部は考えました。
新しいことに踏み切るまでは、色々な試行錯誤があるもの。この記事では、D&Dのそんなクラウドファンディング挑戦にまつわるエピソードを教えてもらいます。
「あぁ、本当にこの人たちなんだ」
――単刀直入に伺ってしまいますが、クラウドファンディングを終えた今の気持ちはいかがですか?
ナガオカ:本当にやってよかった、という気持ちです。2019年1月にクラウドファンディングを支援してくださった方々……つまり「ロングライフデザイン研究員」の方々をお招きして、キックオフ懇親会を実施しました。
「ロングライフデザイン研究員の方が目の前にいる」それは感動的でしたね。「この人たちなんだ」って、みんなと握手したいくらいだった。
ナガオカ:実際に今は、その人たち一人ひとりと、カジュアルにお酒を飲んだりして会っています。そしたらこの前は、その人がアロマテラピーの資格を持っている人だったんだけど、なんで支援してくれたんですかって聞いたら「健やかだから」って言ってくれた。
プロダクト作りに関係ない、全然違う業種の人が僕らをそうやって見てくれている。そういう話を直に聞けて、「あぁなんか、もっと頑張ったら、もっとおもしろくD&Dを続けられるかも」と思って。
――うんうん。
ナガオカ:そういう人たちに会えたっていうのが、とにかくすごく嬉しかった。
(画像引用元:D&D公式サイト、イベントレポートhttps://www.d-department.com/category/TEXT/DD_TEXT_REPORT_6497.htmlより)
色々な縁がつながって「今」だった
――2018年秋の段階でクラウドファンディングにこのタイミングで踏み切ったというのは、何か理由があるのでしょうか?
ナガオカ:うーん。もともとね、クラウドファンディングには少し抵抗があった。でも、D&Dは2012年から日本フィルハーモニー交響楽団の演奏活動を応援するための『パトロネージュ・システム』の法人会員として応援させてもらっていて。その関係性から学んできたことが沢山あります。
オーケストラって、チケット収入だけで活動を賄うのは本当に難しくて、誰かのサポートがないと、文化事業として成り立たない。でも、音楽がなくなってもいいのかって話になると、多くの人があった方がいいと答える。そんな、「なくなったことがないからわからないけれど、なくなったら悲しいよね」というものを扱っているという点において、D&Dも同じなのではないかと思っていて。
ナガオカ:2017年と2018年に、D&Dの大阪・福岡店を閉めたんだけど。それは新しい路面店のあり方を探したいと思ったから。ロングライフデザインのマーケットは、オーケストラに似ていて、仲間や応援がないと、運営を続けるのがあっという間に難しくなってしまう。じゃあ、僕らの仲間は一体どんな人なのか、誰なのかを考えながら発信してきたけれど、これまで明確にコミュニケーションを取ることができなかった。
そんな中でクラウドファンディングのプラットフォーム「Readyfor」さんとご縁ができて、僕の中でも気持ちが整理できたタイミングで、クラウドファンディング実施の意思が段々と固まっていきました。
「d news」を一緒に作ってくれる人に出逢いたい
ナガオカ:今回クラウドファンディングのメインテーマである「d news」は、47都道府県それぞれにある「その土地に長く続く個性」や「らしさ」をデザイン的視点から選び出し、編集している雑誌『d design travel』から派生したものです。
『d design travel』は、およそ2カ月かけて濃密な取材をし、何人も現地の人に出会って一冊を作りますが、終わるとまた次号の土地に行かなければなりません。せっかく築いた関係性が、完成とともにリセットされるのはあまりに悲しい……。そこで、別冊のような位置づけで、昨年(2017年)始めたのがフリーペーパー『d news』です。こちらは、かつて本誌で取り上げたさまざまな県の方々が登場し、その人の「その後」を追いかける記事を掲載しています。(テキスト・画像引用元:D&Dクラウドファンディングページ)
ナガオカ:そして、フリーペーパーとして作った「d news」を、今度は定期刊行の雑誌にまでレベルアップさせたいと考えました。その理由は、「d news」が取材する・される側の関係性を超えた、大切な「場」として育ってきたと感じたから。
私たちの活動に「参加」してくださるメンバー(ロングライフデザイン研究員)を募集する。そして生産者、販売店、生活者の垣根を超えた「コミュニティ」をつくり、その中で「d news」の取材や執筆、編集をともにしながらロングライフデザインの未来について一緒に考えていきたい、というのが一番の願いです。(テキスト・画像引用元:D&Dクラウドファンディングページ)
黒江:D&Dに通ってくださるお客様の中には、クラウドファンディング自体に抵抗がある方もいらっしゃいます。どうしてD&D がクラウドファンディングを、というご意見もいただいたこともありました。
でも、私たちとしては本当にやってよかったと思っていて。キックオフ懇親会は感動しすぎて、本当にもう一度も二度もやりたいくらい。今までも、常連さんはもちろん、勉強会やイベントの機会はたくさんあって、それもひとつの仲間としてはあるけれど、「お金をいただいた」ってすごいことなので。本当に「顔と名前がわかるクラウドファンディングの仕組み」は素晴らしいのだなぁと学びました。
ナガオカ:たくさんの愛をいただいたので、愛をお返ししないと。
黒江:はい。なるべくその愛が、長続きしてくれるように頑張りたい。
ナガオカ:でも反省していることもあって。そのキックオフ懇親会に、わざわざ九州から来てくださって、質問をくれた男性がいたんですよ。でも僕、彼の質問にきちんと答えられなくて。
質問内容は「ロングライフデザイン研究員として、次に何をしたらいいですか」。
お金って、やっぱり何かをはっきりさせるものじゃないですか。だから、はっきりしたものがないとそれを出す意味がない。何か指示がもらえることを期待して九州から来てくれたのに、僕らのアンサーがそれにそぐわなかった。それに対してすごく申し訳ない気持ちが今でもあります。
それをいろんな人に相談したら、具体的に今困っていることを頼めばいいんだよって。
でも、それを聞いて「そんなことしていいの?」って思ったから、「僕らはまだお金っていう概念に縛られていて、それを超えられないんだなぁ」と。クラウドファンディングって、お金のやり取りは発生するけど、結局お金だけの関係性じゃないので。そこを本気で提示できるようにならないとダメだなぁと、今考えています。
――具体的に、ロングライフデザイン研究員になった方々は、どんなことができるのでしょうか?
ナガオカ:一緒に取材に行ったり、書いてもらったり、はたまた販売してもらったり。色々考えられると思う。
でも、僕らはあくまでも「あっちの方向に行ったらいい」というのを示すので、途中に何があるかっていうのは正直今はまだわからない。「d news」がどんな内容で、どこで売られて、その先何につながっていくかっていうのは、社内の人もそこまでわかっていない
(笑)。
逆にいうと、僕に100%の答えがあったら、「もう違う! 黙ってろ!」……みたいな話にもなっちゃう。そこを、一緒に考えてもらうのがいいんだろうなと思っています。
――その「わからなさ」にコミットしたいという方々は、きっと多いのだろうなと思います。「余白がある」というか。
ナガオカ:うん。今回のクラウドファンディングで集まったお金は「d news」を1号分発行するための資金に当てると思うんだけど、2号目以降どうするかとか、閉めた大阪店と福岡店の復活はどうするかとか。もしかしたら、またクラウドファンディングに挑戦するのかもしれない。それも今年のみなさんとの活動ありきなのかな、と思っています。
「顔と名前のわかる関係性」が紡ぐ未来へ
そういえば、ひるがえって「イケウチな人たち。」を考えてみたら、サイトオープン前は編集部の誰も、未来のことはまったくわかっていませんでした。
でも、サイトオープンから3ヶ月。私たちが当初想像していなかったところで、化学反応が起こることもあるようです。たとえばそれは、レストラン「sio」オーナーシェフ 鳥羽さんのところへ、たくさんのお客様が訪れてくださったこと。また鳥羽さんが、美容室「らふる」店長の中村さんとつながって、次は髪を切りに行くぞと言ってくれたことなど。
D&Dとロングライフデザイン研究員も、きっとこれから新しい化学変化を起こしながら、ゆっくりと、けれど着実に進んでいくのだと思います。
もしかしたら、いつかD&Dのコミュニティであるロングライフデザイン研究員の皆さんと、イケウチな人たちみんなが、一緒に手を繋ぐ未来もあるのかも……。何しろ、令和の時代は始まったばかりです。これから何が起こるでしょう。
D&DEPARTMENT
執筆:伊佐 知美/撮影:木村 雄司/編集:藤村 能光
WRITER
PHOTOGRAPHER
1979年東京出身。
ファッション、ポートレート、商品撮影など、広告を中心に撮影。
テニスとフライフィッシングが好き。
「ロングライフデザイン」とは、形状や意匠のことだけではありません。物の作られ方、売られ方など、デザインを取り巻く環境が揃ってこそ、長く作られ、使われ続ける物が生まれると考えています。
(引用元:D&D公式サイト)