視点・解説

武器輸出拡大、高市首相の狙いはどこに 佐藤丙午・拓殖大教授に聞く

小野太郎

 武器輸出を規制する防衛装備移転三原則の運用指針をめぐり、自民党と日本維新の会は6日、高市早苗首相に対し、提言を提出した。政府はこれを受け、4月にも運用指針を改定する方針だ。指針改定の狙いや、今後の課題について拓殖大の佐藤丙午教授(安全保障論)に話を聞いた。

 ――政府・与党は運用指針の見直しで、殺傷能力のある武器の輸出を全面的に解禁する方向です。政府が武器輸出の促進を狙うのはなぜでしょうか。

 外交政策と防衛産業政策という二つのメリットが考えられます。

 外交政策の観点から言えば、一度武器を輸出するとメンテナンスなどが必要となり、数十年にわたって相手国との関係が強化されます。武器輸出を通じ、日本の戦略思想を輸出することもできます。

 日本は東南アジア諸国に中古護衛艦の輸出を検討していますが、同志国の能力を向上させることで、中国の海洋進出を一緒に抑えるという戦略思想があるといえます。ミサイルを輸出し、同志国の遠距離からの攻撃能力を充実させる狙いもあるでしょう。

 防衛産業政策の観点では、過去の防衛装備移転三原則をめぐる緩和が、防衛産業の活性化に全くつながらなかった側面があります。防衛産業が利益を拡大するために一番重要なのは、新たな販路を見つけてくることです。成長戦略の柱の一つとして防衛産業を位置付けるという思惑もあります。

防衛産業上のメリット重視、首相の本気度は…

 ――高市政権は、集中的に投資する17の「戦略分野」の一つに防衛産業を挙げています。

 経済成長につなげるためにも、他国への武器輸出を選択肢としておく必要があったのでしょう。今回の判断は安全保障政策に加え、防衛産業上のメリットをより重視しているように見えます。

 今、防衛産業は世界的に活性化しており、マーケットに食い込んでいくことが重要なのは間違いありません。ただ、高市首相の本気度はまだわかりません。政府による武器輸出の支援策が見えてこないからです。

 ――高市政権の思惑通りに進むのでしょうか。

 政府がどれだけ産業振興策に手を入れるかが極めて重要なポイントになります。

 防衛産業の世界的なトレンドは変化してきました。2000年代は特定の企業を「ナショナルチャンピオン」として強くすることが政策の柱でしたが、今は新興企業のイノベーションを取り込もうとする流れが強まっています。

 日本も本来なら防衛技術の面で先行投資する必要がありましたが、怠ってきました。人工知能(AI)などの分野で完全に後れをとっているのが実情です。性能が低く、使い勝手の悪い武器は選択されません。この点で日本が取り組む課題は多いと思います。

 ――高市政権は年内に安全保障関連3文書を改定し、国内総生産(GDP)比2%以上への防衛費増額に踏み出す見通しです。

 高市首相には、防衛産業が経済成長を牽引(けんいん)することで、防衛費増額について国民の理解を得たいという思惑があるのでしょう。ただ、現状では成功の道筋は明るいとは言えません。防衛産業は裾野が広いですが、このままでは一部の大企業が潤うだけです。

 ――与党提言をどうみますか。

 輸出の意義として、同盟国・同志国との防衛協力や継戦能力の確保が掲げられています。輸出の相手国からは、日本が中国に対抗するための武器輸出とも捉えられ、見せ方としてよくないのではないでしょうか。

厳格審査への国会関与 カギは「事後検証」

 ――政府・与党は「歯止め策」について、輸出先は日本と防衛装備移転協定を結ぶ国(現在は17カ国が対象)に限る一方、一部の武器の輸出手続きを国家安全保障会議(NSC)から閣議決定に「格上げ」することは見送る方向です。「歯止め策」の必要性をどう考えますか。

 与党提言では具体案があまり言及されていませんが、歯止め策は必要です。武器をとにかく輸出していくと、非人道的な使われ方をしたり、個別的自衛権に反する使い方をされたりすることも考えられ、こうした事態を防がなければなりません。ロシアがウクライナ侵攻を「自衛」を理由に正当化するなど、自衛権の解釈には幅があります。日本として譲れない一線を明確にし、歯止め策を検討する際のポイントにすべきでしょう。

 ――国会は武器輸出の厳格審査にどう関与すべきだと考えますか。

 公開の場である国会で事前審査するのは安全保障上、望ましくありません。ただし、事前審査を担当する国家安全保障会議の段階ではすでに精査されており、基本的には「NO」と言わず追認することになるでしょう。そこで大事になるのが事後検証で、国会はこれに関与すべきだと思います。

 米国やドイツが参考になると思いますが、国会から委託を受けた調査機関が検証するのが理想的です。

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この記事を書いた人
小野太郎
政治部|防衛省担当
専門・関心分野
国内政治、沖縄、安全保障

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