衛宮さん家の弓兵くんと士郎くん 少年期編 魔術回路を開こう
衛宮さん家シリーズ7作目。弓兵くんによる士郎の魔術回路を開くお話。士郎くんは本当の七歳児です。何もわかってません。(笑)アーチャーと士郎は見たは目色違いの双子です。
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士郎に魔術を教える事になったものの、直ぐにそれを始めることは出来なかった。
理由は二つ。
一つは、あの大災害で身体に負った怪我がまだ完治していない事。
もう一つは、士郎の中に眠っている魔術回路の特殊性が上げられた。
あの日、切嗣が士郎とアーチャーを見付けた時、アーチャーはサーヴァントとしての魔力を放出する事でギリギリ身を保っていたが、士郎はアーチャーが身を挺して守ってなお、身体の三分の一が重度の火傷を追っていた為、切嗣はすかさず『全て遠き理想郷(アヴァロン)』を埋め込み、その命を救っていたのだ。
結果として、短時間のうちに幾つもの『奇跡』や『力』、『呪い』などを重ねて身に受けたのが良かったのか、悪かったのか。
気が付けば、士郎の体の中の魔術回路は、神経と同化してしまっていた。
アーチャーにしてみれば、自分の生前の魔術回路も同じ状態なので特に驚くような事ではないのだが、魔術師としての常識から考えればとても普通ではありえない事であり、通常の常識で対応して良いものなのか直ぐに判断がつかなかったのである。
まぁ、魔術回路への負担がそのまま本物の神経に掛かると言うのでは、切嗣が慎重な対応をするのは当たり前であるのだが。
以上の理由もあって、士郎の体調が完全に回復するまでは、魔術回路を開く事を含めて、士郎への魔術教育に待ったが掛かったのである。
その代わり、その間に切嗣が色々と基礎を学ぶに必要な資料を纏める事になった。
アーチャーはアーチャーで、士郎の体調を出来るだけ正確に把握するように気を配りつつ、自身の魔術回路のデータを様々な点で作り上げ、士郎の為の参考資料としようと考えていたのである。
二人が持つ魔術回路は、基本的には魔術師としてありえない魔術回路であり、士郎以外にはアーチャーしか前例がないのだから、それはある意味では当然の行動だと言えた。
そんな風に準備を進めること数週間。
漸く元通りだと言う切嗣とアーチャーの太鼓判を受け、士郎は正式に魔術を習うべく魔術回路を開く事になった。
最初の予定では、やり方を丁寧に判りやすく教えた後、士郎自身に回路を開かせるつもりだったのだが、様々な点での士郎の魔術回路の特殊性から、最初のうちはアーチャーが補助に入って誘導し、それを数度繰り返すうちに士郎の回路にスイッチの開閉の仕方を叩き込むと言う方向に変更された。
まぁ、士郎と同じ回路を持ち、平行世界の未来の可能性の一つだったアーチャーが、地震のおぼろげな記憶と記録(意識を集中して思い出そうとしたら、何故か一冊の本としてアーチャーの子供時代の記録が出現したらしい)を元にシミュレートした結果、何故か単独での士郎の回路の解放は、スイッチをそのまま形成する確率が一割以下だと判明してしまったからである。
やはり、この辺りが通常の魔術回路と異なり、自身の神経をどうかさせていると言う特異な回路ゆえのデメリットだとでも言うべきなのだろうか?
とにかく、現時点ではアーチャーが繰り返したマイナス面を士郎も負う事になる為、先程の通りスイッチの形成の為のサポートをすることのなったのだった。
本来ならば、このような手取り足取りの指導は殆どありえないのだろうが、士郎の場合、この辺りで手間取っている時間は正直言ってない。
その為、手を貸しても大丈夫な部分に関しては、アーチャーがフォローを入れる事になったのだった。
なぜ切嗣ではなくアーチャーがフォローとサポートをする事になったのかと言えば、士郎との親和性の高さが最大の理由である。
まぁ、根本などのベースが同じの、平行世界の『エミヤシロウ』同士の魔術回路の親和性が悪いはずがないのだ。
むしろ、その高い親和性を利用して双方の魔術回路を共鳴させ、既に能力が固定化していたアーチャー側の回路にも干渉し、更なる能力を付加できないかと言う事も、切嗣は考えていたりする。
そう考える切っ掛けとなったのが、先程上げていたアーチャーの過去の記録が本として出現した事だった。
『記録』を本にした直後辺りから、アーチャーは『夢』と言う形態で、今まで『本体』が『座』で『分体』から受け取っていた『記録』を中心に、様々な『エミヤシロウ』の『記憶』を見るようになったのである。
その殆どが、英霊になった後に『守護者』として行動する凄惨な『記録』であり、それを『夢』として受け取る度にアーチャーは酷く魘され、同時に精神的に少しずつ消耗していくのが、切嗣には手に取るようにはっきりと判っていた。
元々、英霊時代に磨耗していた部分が大きいアーチャーだ。
これ以上の負担が精神的に掛かれば、本人の意思とは全く関係ないまま、否応なくその魂は磨耗していくだろう。
一応、今の所は士郎の事に意識が向いている為なのか、『夢』での消耗も士郎とのスキンシップと日常生活と言うリハビリによって、それなりに回復できているようなのだが。
回復が出来ている今は良いが、そのうちそれでは追い付かない状況になる可能性がない訳ではない。
そうなった時に手を打つのではなく、今まだ余裕がある段階で手を打っておく必要があると、切嗣が考えるのは極当たり前の事だった。
少し話がずれてしまったが、士郎の回路を開くのにアーチャーをサポートに当てたもう一つの理由は、今挙げたような考えを前提にしたからである。
アーチャーは、士郎へのサポートに関しては一も二もなく了承したのだが、自分が士郎の負担になるかもしれないと言う回路共鳴に関してはかなり消極的で、どちらかと言えば拒否に近いものを示していた。
しかし、アーチャーの『夢』に関して知っていた士郎が半泣きで泣き落とす形で、半ば強引に押し切ったのである。
そんな二人のやり取りを温かい目で見守る立場に居た切嗣は、アーチャーが士郎に対してこれでもかと言う位、甘い事に気が付いていた。
自分自身には、それこそ『そこまでしなくても良いのでは?』と言いたくなるほどに厳しいのに、平行世界であるここの士郎には極端なまでに甘い。
普通なら同一体とも言うべき士郎に対して、アーチャーが厳しく導く立場に当たると言うのが一番簡単に予想できる状況なだけに、最初はこの状況の理由がイマイチよく判らなかったのだが。
だが、暫く一緒に過ごす内に、アーチャーが士郎にあそこまで甘い理由に、切嗣はある推測を立てていた。
士郎本人も交えた、アーチャーの己の存在に対する考察と過去の行動の告白の際に、磨耗の末にアーチャーが己の過去の存在である『衛宮士郎』を殺そうとした事を告げている。
英霊となった自身を悔い『衛宮士郎』の存在に、激しく憎しみを抱いたから。
『過去』が『未来』を殺す事による、タイムパラドックスを引き起こし、英霊の座から解放される可能性に僅かな希望を抱くしかないほどまでに磨耗したアーチャー。
そんなアーチャーを救ったのは、その殺そうとした『衛宮士郎』だった。
戦う者としても魔術使いとしても技量、力でもアーチャーの方がはるかに勝っていたが、唯一つ真っ直ぐな心の強さだけは『衛宮士郎』の方が上だったことが、二人の勝敗を分けたのだ。
本来ならば勝てるはずがないアーチャーを『衛宮士郎』が下すことが出来たのは、その意思が、心の中に抱いた夢がまだ折れていなかったから。
それが、アーチャーの中で磨耗したものを呼び起こし、かつて失ってしまった『大切な誓い』を取り戻す事が出来たからこそ、こうして今、アーチャーがこの場に居る奇跡へと道を繋いだのだろう。
あれほどまでに願った『座』からの開放と言うことまで引き起こした『衛宮士郎』との一騎打ちから始まる一連の出来事に対する様々な思いが、アーチャーの心の中を色々と変化させたのはまず間違いない。
人の心とは、本当に不思議なもので、憎悪と愛情は表裏一体とも言える感情なのだ。
ぶっちゃけてしまえば、アーチャーは今まで向けていた憎悪の分も、今ここに居る『士郎』に対して愛情を向けているのである。
ま、人としての感情に少し乏しい節が見え隠れするアーチャーにとって、現状はある意味丁度いいリハビリだと切嗣は考えていた。
これは、今までの磨耗と『衛宮士郎』となる前に全てを焼く尽くされた体験が、あるべき彼の中の自我の大半を喪失させ、『がらんどう』にしてしまった為だと、ちゃんと判っている。
それと同じ事がアーチャーだけでなく士郎にも言えるのだが、まだアーチャーよりも軽い。
そうなった理由には、アーチャーの存在が大きいだろう。
あの大火災の中、士郎はアーチャーと助け合って逃げ延びる事が出来た。
例え一人でも、自分以外にもあの大災害の中心部で生き延びられたと言う事実が、皆を見捨てて逃げ出したのだと言う心の中の呵責を減らし、同時にお互いの心を救う結果となったのである。
その結果、士郎はアーチャーへの依存度が高くなってしまうと言うデメリットも抱える事になったのだが。
だが、アーチャーのような「がらんどう」な心を抱えるよりははるかにマシだと言えたし、はっきり言ってしまえば自覚がない相思相愛のような状況なのだ。
心の底からお互いに惹かれあっているものを、無理に引き離す必要はない。
このまま、二人でお互いの心の欠けた部分を埋めあえるのならば、むしろそれは望ましい事だと切嗣は思っているからこそ、二人の魔術回路の共鳴による変化を望んでいた。
その最初の一歩こそ、今回の士郎の魔術回路の解放なのである。
様々な準備と済ませ、士郎の回路を開く事になった当日の夜。
時間帯は、子供には少々厳しい深夜とも言うべき11時を選択していた。
本来ならば、もっと遅い時間の方が、魔力が高まりきる最高潮の時間帯となるのだが、流石に七歳の子供にはそれをさせる事が出来なかった為、士郎が起きていられるギリギリの時間帯を選択したのである。
変更した予定通り、サポートとしてアーチャーが士郎の事を抱きこむようにして膝の間に抱え込むと、まずゆっくりとアーチャーが自分の回路を開いた上で士郎を誘導しはじめた。
「良いか、士郎。
まずゆっくりと息を吸って、それを同じ様にゆっくりと全て吐き出したら、目を閉じるんだ。
それが出来たら、今度は頭の中を空っぽにするように心を落ち着かせる。
さぁ、やってごらん?」
柔らかい口調で、不安を感じさせないようにアーチャーが告げてやれば、アーチャーを全面的に信頼している士郎は素直にそれに従う。
大きく深呼吸した後に目を閉じ、全身を程よく緊張を解く事に成功した士郎を見て、アーチャーは更に言葉を続けた。
「ふむ、無事に出来たみたいだな。
それが出来たら、次は頭の中に西部劇に出てくる様な銃をイメージするんだ。
自分の身体は銃で、体の中に眠っている魔力と言う弾丸を打ち出すために、ゆっくりと魔力を生み出す回路と言う撃鉄を起こす。
なに、士郎にとっては全てが初めてのことだから、どういうものか勝手がわからないかもしれないな。
どんなに時間が掛かっても構わないから、焦らず自分の感じるままにやってごらん。」
本来ならば、魔術属性である『剣』をイメージすべきなのだろうが、回路の起動にはアーチャー自身がイメージとして使っている銃を使う事にしたらしい。
【 いっそ、固有結界内の歯車をイメージすべきでは? 】
と、切嗣辺りからは言われそうだが、それはアーチャーがあえて避けたのだ。
確かに、士郎の属性は『剣』であり、固有結界の中の錬鉄場を動かしている歯車をイメージするもの悪くはないのだが、今の『衛宮士郎』までがそれと必ずしも全く同じものでなければいけない訳ではない。
むしろ、アーチャー的には全く別物の方がよかった。
自分との差異が大きければ大きいほど、士郎が自分と同じ轍を踏まない事を証明しているような気がするからだ。
アーチャーの言葉を素直な士郎は、どんどん自分の中に眠っていた魔術回路を開くべく言われた銃の撃鉄をイメージしていく。
それに合わせ、アーチャーが士郎の中でゆっくりとだが集中し始めた魔力を誘導してやれば、本人はもちろん周囲すら驚くほどあっさりと眠っていた魔術回路を開き、そのままそれがスイッチとして形成されていた。
【 やはり、『エミヤシロウ』の魔術回路のスイッチは、銃の撃鉄の方がスイッチとして形成しやすいらしい。】
士郎を誘導して開いた回路の状態を、外から大体把握しつつ漠然とアーチャーはそんな事を考える。
ある程度は予想していたからこその選択だが、こうあからさまだとちょっとだけ凹むような気がしなくもない。
だが、アーチャーには凹んでいる暇などなかった。
開いたばかりの魔術回路が暴走しないように、このまま速攻で簡易パスを繋いでしまう必要があったからである。
「一先ず、今ので無事に回路は開けたし、スイッチも形成する事ができた。
だが、まだ士郎の場合は暴走する可能性があるからな。
今から、俺との間に簡易パスを形成する。
なに、パスを繋ぐ際の難しい事は全部俺がやるから、士郎は俺に全部任せて目を閉じていてくれれば良い。
だから……パスを繋いでも良いな?」
驚かせないように気を配りつつ、士郎をあやすように耳元で囁いてやれば、くすぐったそうに笑いながら士郎は頷いた。
「うん、それが俺に必要だって言うなら、アーチャーに任せる。」
まだ回路を開いた余韻で声は小さいものの、はっきりと自分の意思で同意を口にした士郎の頬に労わるようなキスを降らせると、アーチャーはそのまま自分の膝の上に向き合うように士郎を抱えなおす。
そして、士郎が目を閉じているのを確認して自分もゆっくりと目を閉じると、小さく口の中で何かを唱え。
全てを唱え終えると、目の前に士郎の唇に自分のそれを押し付けていた。
士郎の唇をゆっくりと割り、そのまま口の中を丁寧になぞると片手を頬に添えて、もう片方の手で背中を支える。
舌先で歯列をなぞりながら背中をゆっくりと撫でると、ピクピクと士郎の身体が腕の中で震えたので、アーチャーは背中を撫でる手を優しく宥めるような動きに変えた。
同時に、自身の魔術回路から士郎の開いたばかりの魔術回路へと干渉を始める。
元は『同一人物』と言う事がこういう時には有利に働く場合が多く、今回もその例から漏れなかった。
魔術回路も魔力の質も寸分違わず同じと言う事が、二人の間に綺麗な共鳴を作り出していく。
二人の間に湧き上がる、柔らかい魔力の光。
アーチャーはそれを確認しつつ、ゆっくりと丁寧に士郎の魔術回路と自分の魔術回路の間にパスを繋いでいく。
一つ一つが繋がる度に、更に柔らかい光が零れ出ていくと言う、アーチャー自身が予想外の状況だったが、それでも予定していた数だけのパスを形成する事が出来た。
全てのパスが問題なく無事に繋がっている事を確認すると、アーチャーはそれまで続けていたキスから士郎を解放する。
すると、パスを繋ぐ為に施していたキスにすっかり思考を蕩かされた士郎は、そのままアーチャーに甘えるようにその胸の中に顔を埋めてきたのだ。
士郎の様子を確認する為に、顔を自分の胸の中に埋めてくる前にその顔を見ていたアーチャーは、思わず心の中でこう思ってしまっていた。
【 ……よ、良かった、士郎がまだ子供で。
もう少し年齢が上の士郎があんな顔してたら、間違いなく俺に理性が吹き飛んでたぞ……
ってか、何『元自分』に欲情してるんだ、俺! 】
周囲の状況や、腕の中の士郎の事をすっかり忘れたかのように、軽い混乱を引き起こしたかのような思考が巡っているアーチャー。
その腕の中に納まっている士郎は全く気が付いた様子がないのだが、側で何かあった時の為に控えていた切嗣には筒抜けで。
視線が合った瞬間、ニヤリと口の端に笑みを浮べたかと思うと、切嗣はサラリと爆弾発言を落とした。
「残念だったね、アーチャー。
二人ともお互いにその外見じゃなきゃ、そのまま正式にラインを繋いじゃっても良かっただろうに。
やー、流石にアーチャー側までその外見じゃ、それも出来ないもんね。」
ニヤニヤと言った笑みを浮かべて言う切嗣に、アーチャーは速攻で愛用の双剣を投影して投げつける。
そんなアーチャーの行動など、既に読んでいた切嗣がサラリとそれを交わしてくれた為、更に複数の双剣を投げ付けてやった。
流石に複数の宝具の多重攻撃に、次第に避け切れなくなりかけている切嗣を余所に、それまで半ば呆けていた士郎がアーチャーに対して首を傾げて尋ねてくる。
「……ね、アーチャー。
正式なラインの繋ぎ方って、何?」
先程の表情も合わせて、自分の年齢と士郎の年齢次第では理性をぶった切りそうな状況に追い込まれかけたアーチャーは、慌てて士郎に対して言い聞かせる。
「なに、魔術回路を開いたばかりの士郎には、その事についての勉強はまだまだ先の事だ。
少なくても、今の士郎にはまだ早い。
そういう事が必要になったら、ちゃんと俺が教えてやるから。
だから、切嗣が先程言った事など忘れてしまえ。」
キッパリとした口調で言い切ってやれば、士郎は少しだけ考えた後、素直に頷く。
「うん、判った。
アーチャーが教えてくれるまで待つ。」
素直に応じてくれた士郎に対して感謝しつつ、背後で聞えてくる切嗣の謝罪の言葉は報復も含めて黙殺してやる。
こうして、士郎の魔術回路はきちんとした形で開かれ、魔術を学び始める事になったのだった。・
かなり誤字脱字が目立ちます。 きつい言い方かもしれませんが、今一度全作品の見直しをしてみては?